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【無料記事】『マンガワン事件について(1)』2026年2月号④

 もはや、本来犯罪行為を行った加害者である漫画家の名前より、彼が連載していたこの漫画アプリの方が事件の代名詞になっている感がある。

 ある漫画家が、10年ほど前に自身が勤めていた高校の女子生徒と交際関係にあり、しかも過激なSMプレイを行っていたという。そのためにその女子生徒はPTSDおよび解離性同一性症の精神症状を呈していたという。
 彼が「マンガワン」にてWeb連載中であった漫画『堕天作戦』はこの事件のために打ち切られていたが、別の作画担当者を立てた新たな作品『常人仮面』の原作者として、同じマンガワンにて連載中であった。このことは読者はもちろん、作画担当者にも伏せられていた。
 それが発覚して騒動となり、連載は中止となった。

 加害者は、本名を栗田和明氏、ペンネームは『堕天作戦』時には「山本章一」、『常人仮面』時には「一路一」となっている。

 ネットでのバッシングは拡大し、加害者はもちろんマンガワン編集部ばかりか、そこで連載している漫画家の一部が連載取り下げを表明するとともに、そうしなかった作家が逆に叩かれるという事態にまでなっている。

 XのAIによる要約(画像)まで、この事件関連をまとめた見出しの唯一の固有名詞が「マンガワン」だ。通りが良さそうなので本稿のタイトルもそうさせていただく。

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 しかし、よくよく考えればコレは異常な事態である。

犯罪者にも仕事は要る

 そもそも犯罪者の社会復帰というのは社会的な課題であり、それには何よりも彼らの安定収入を確保することが必要である。そのために刑務所出所者を雇ってくれる企業に国が奨励金まで出しているのだ。
 見方を変えれば、小学館は自分の職種において、前科のある人に仕事を与えた民間企業である。

 もちろん、それは経済的に彼の作品がもたらす収益が見込めたからではあろう。しかし、なぜそれがいけないのか。他の業種の協力雇用主だって、雇った出所者が利益をもたらすほどその仕事ができないだろうと、最初から思って雇うわけではあるまい。
 また先述のように政府はこうした企業に就労奨励金を出しており、さらに地方自治体は協力雇用主に対し、公共工事の競争入札における優遇制度まで設けている。
 犯罪者の社会復帰に協力する動機に「お金」が入るのは何も不自然でもなければ邪悪なことでもない。

ペンネーム変更=「隠蔽」?

 犯罪事実を公表していなかったことに対するバッシングもあるが、犯罪の経歴というのは高度なプライバシー情報であり、本来、他者に開示するものではないし開示を迫るべきものでもない。
 協力雇用主だって、自社製品の商品の購入者はもちろん、取引先や社内の同僚にも、社内の誰それが元犯罪者であると周知などするべきではない。むしろそれは従業員の個人情報であり、漏洩は不法行為となる。

「こそこそ隠蔽して連載していたのが良くない、公表すべきだった!」という意見がネットにあふれかえっている。
 しかしなぜ、犯罪者が出所後に工場に勤め、そこで働いて作った製品には「××をやらかした犯罪者の◯◯が作りました」と書かなくてもよくて、漫画ならその義務があるのか。

 また、出所者がいることが発覚した場合、それに伴う騒動が同僚らに波及する可能性があるとして、だからといって「予めバラしておいた方がインパクトが薄められるだろう」という算段で、個人情報を暴露して良いことにはならない。

「前科者は漫画家になるななんて言ってない!ペンネームを変えたのが悪いんだ!」と言っているが、それ自体が悪くないのにイメージだけ悪いことを、ネーミングを工夫してイメージを改善したとして、それの何がいけないというのだろうか。

 まったく別の漫画の話をするが、言わずと知れたグルメ漫画の金字塔『美味しんぼ』に、「化学調味料がうま味調味料と言い換えられている」ことを非難する回がある。

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 主人公たちの属する新聞社「東西新聞」のスタッフはこのネーミングに“騙されて”しまい、紙面にうま味調味料を賞賛する文章を掲載してしまった。
 それが批判を浴びて、化学調味料を作っている企業はなんて卑劣なのだ!と憤る回である。ちなみにうま味調味料というネーミングは本当に使われている。

 現在のネット文化では、味の素に代表される化学調味料の無害性と有用性が広く認められ、こうしたオーガニック崇拝的な主張は「意識高い系」に属する愚かなものとして嘲笑の対象となっている。
 つまり、化学調味料は悪くない。
 で、誰か「化学調味料は悪くないが、それをうま味調味料と言い換えることの方は卑劣な行為として非難すべきだ」という者がいるだろうか。
 もともと悪くないがイメージが良くないものに、ネーミングを工夫して悪イメージを脱したことが「そんなことは卑劣だ!悪!」とされるいわれはないのである。
(もちろん「悪くない」こととは、前科者が漫画に携わることであって、その前科者がかつて犯した犯罪ではないことを念押ししておく)。

編集者の示談参加は悪か

 もう一つバッシングの対象になっているのは、被害者が『堕天作戦』の連載中止を求めたのに対し、その話し合いに担当編集が参加していたことである。

 これについて、まるで編集者と加害者(作家)が二人がかりで被疑者に圧力を掛け、示談を強制したようなことを言っている者までいる。

 ちなみにこの人物には「示談の強制があったと明らかになっているのか」と問われたところブロックされた。
 では、マンガワンの言い分を見てみよう。

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 マンガワンの担当編集は(あくまでこのマンガワン編集部の言い分を信じるなら、ではあるが)、「当事者双方からの求めに応じる形で編集者がメッセージアプリのグループに参加した」ということらしい。
 元より、犯罪や不法行為の被害者といえども、加害者に「仕事を辞めろ」「仕事をするな」と要求を通す権利はない。損害賠償請求ができるくらいである。
 また、「双方の要求に応じて」とあるので、編集の参加は被害者の意思でもあったようだ。要求内容が連載中止なのだから、小学館側の人間である編集と話をさせろというのは、むしろ自然な要求でもある。
 そもそも、もし仮に、編集が被害者の求めに応じなかったとしたらどうだろう。他の部分は同じだとして、事後それが明らかになったら、それはそれで「被害者を無視した!話し合いにすら応じなかった!」という炎上になっていただけに違いない。

 もちろん、炎上中の企業が保身に走り、事実でない弁解を行うことはままあることである。しかし少なくとも現在のところ、参加した編集が不当な圧力を掛けたという情報はないようだし、実際にも弁護士ドットコム記事によると、被害者はそのときの示談は不成立であったと認定されている。

なお、男性側が主張した和解についても、原告が最終的な契約書に署名や押印をしていないことなどから、「和解契約は成立していない」と退けた。

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マンガワンという「ターゲット」

 多くの人が「マンガワン」をひとつの基準として炎上させている。冒頭で述べたように、このアプリ名こそが騒動の代名詞になってしまっているし、作品の取り下げを表明してネット民の喝采を受けている作家たちも、「マンガワン」からの撤退を表明しているのである。

 しかし、なぜか。
 本当に関与したメディア側を問題視するなら、マンガワンではなく、母体である小学館を問題視するべきなのだ。
 当時、『常人仮面』の連載開始決定に関与、あるいは支持したかもしれない社員たちは小学館の様々な部署に散っており、いまマンガワンに所属している社員の多くは無関係であろう。
 法的に見ても、責任主体は「小学館」という法人であって、その一部に過ぎないマンガワンではない。

 それは「マンガワン」だけからの撤退なら、自身の傷は浅くて済むからだ。
 実際に取り下げを表明した作家の多くは、他でも連載を持っているような「余力のある」人である。マンガワンでデビューしたばかりでそれが唯一の連載であり収入源であるというような作家には、なかなかそんなことはできない。
 そして私の知る限り、この騒動で小学館そのものと縁を切った漫画家はいない。
 小学館は非常に多くのメディアに関与しており、縁を切ることによって失うものが大きすぎる。
 結局のところ、それによって「善人ぶれる」ことのメリットと、マンガワンとのビジネスを捨てることのデメリットを頭の中でこすっからく計算した上で、怒りの縁切りを演じているのだろう。

 彼らばかりではない。
 ばかりでないどころか、ネットで怒っている人々のほとんどは漫画家ではなく、その読者である。
「もう小学館の漫画は見ない! それが原作のアニメも見ない! 活字本も読まない!」というような人も見かけない。
 なぜか。
 自分自身の娯楽生活に支障が生じるからだ。ドラえもんも名探偵コナンも読めなくなる。
 はっきりいって小学館の作品すべてを無視して、楽しいオタクライフを思うさま楽しむことは、なかなか難しいだろう。小学館はこれからも様々な分野で大ヒット作を出すだろうからだ。

 結局、どこまで自覚的かはともかく、みんな自分の稼ぎや楽しみを大きく犠牲にしない範囲で、楽しくバッシングできる相手に狙いを定めているだけなのだ。

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小池裕敏

フェミニスト気取りの人にとっては、事件そのものが娯楽なんですよ。人の生活を破壊できさえすれば、ネタなんて何を使ってくるかわかりません。

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