夫婦を超えていけ
現パロのようなものでキャス影弓、自由な世界観です!結婚した2人だがキャスターとの結婚氷河期にアーチャーがぐだぐだ悩む話、少しキャスターがひどく見えるかもなのとオル影弓でほんの少しの濡場があります、オル影弓最高です/アニメ合わせでどうしても書きたかった!影弓はかわいい!
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キャスターは私のことが嫌いだ。
どうにかこうにかこじつけた同居は、寝室は別、顔を合わせるのはせいぜい朝食と夕食のみというお寒い出来上がりだった。
息苦しさを感じない分別居の方が楽だと感じることはある。しかしそれでも焦がれて、想いを捧げ、好きで好きで大好きなキャスターと曲がりなりにも一つ屋根の下生活出来るという喜びがいつも勝つのだ。
自分のシングルベッドから身を起こし、三つ目のアラームを止めたアーチャーは寝ぼけ眼を擦ると布団を跳ね除け、身支度を始めた。
キャスターが起きる頃には朝食と弁当、朝のコーヒー全てを揃えつつ自分の身なりは完璧にしなければならない。それがあの老若男女問わず人の心を集める美しい男との共同生活において最低条件なのだ。
朝が弱いアーチャーにはなかなか堪えるがそれも自分が勝ち取った幸せがため、枕元に置いた眼帯を付けて全身の映る姿見の前に立つと最後の確認をする。
靴下、よし。
ジーンズ、よし。
シャツ、よし。
髪型、よし。
眼帯、よし。
顔…
眼帯の下、隠しきれないひび割れのような黒いアザに指先を這わしたアーチャーは苦々しく顔を歪める。生まれつきの傷は何をしても消えることがなく、隠すことも出来ない。
これさえ無ければもしかしたらキャスターは…少しでもよりアイツに近づけることが出来たのなら、きっとキャスターも…
早朝から鬱々と沈みそうになった思考を戻し、自分の頬を両手で張ると、迫る愛しい人の起床時間に間に合うよう、今日も忙しい朝が始まる。
それは少しでも愛する人の好きな人に近づくため、毎日精一杯の努力をして自分は他者の模倣をするのだ。
「…はよ」
「おはよう、キャスター」
決まった時間に起きてきたキャスターは、最後のシャツのボタンをとめてから寝起きに乱れた髪をかく。いつも通り寝室から出てくる時には服装は既に整っており、隙は一分もない。
ちょうどゴミ出しから戻ってきたアーチャーは普段よりも遅い帰りになってしまった自分へ舌打ちし、夫の起床をリビングで迎えられないなんてアイツはしないだろうと叱咤しながら急いでリビングへと戻る。
テーブルに用意された新聞を広げ、もう1度あくびをして滲んだ涙を拭うキャスターに、ダイニング式のキッチンへ素早くエプロンの紐を締めながら入ったアーチャーが身を乗り出す。
「今日はどこの豆にする?」
「インスタントでいい」
「…了解した」
素っ気ない答えに沈んでしまう声のトーンをなんとか上げながらアーチャーは、ずらりと並べられたコーヒー豆の瓶から顆粒の入ったものを取り出す。
ここまで本格的に揃えておいて、一番減りが早いのがインスタントなんてお笑い草だ。
きっと以前の、キャスターが好きなものだからとこだわろうとして豆を揃えたはいいが、豆を挽くのもコーヒーを入れるのももたつく手際の悪さを見かねての結果なのだろう。
生まれ持った気性として大雑把な自分を嫌悪するのもこれで何回目か、コーヒーと用意した朝食をキャスターの前に並べたアーチャーは、たったそれだけでぐちゃぐちゃと散らかるキッチンをせっせと片付ける。
聞こえるのは、テレビから流れる人気のアイドルグループが新曲を紹介するハツラツとした声のみ。そして女子アナウンサーが今日の天気を紹介するのを見て、キャスターは綺麗に平らげた朝食の皿をカウンターへ置くと洗面台へ向かった。
その間に仕事用の鞄を手に、見送りのため玄関へ行ったアーチャーは今日もろくな会話一つない朝の一コマにへこんでしまう気分を懸命に押し上げ、これから仕事に向かう夫を笑顔で待つ。
「あの、キャスター。今日は何時頃帰ってくるのかな?」
「…22時過ぎるな、先に寝てていいぞ。鍵もかけて構わん」
「そう…か。いってらっしゃい、キャスター」
鞄を受け取りアーチャーの笑顔にキャスターの表情がにわかに歪む。
咄嗟に他者にとって見るも気持ちの悪い顔のヒビを隠したくなるがぐっと堪え、爽やかな朝の気分を害してしまった事と、今日も帰宅は深夜になるキャスターの冷たい言葉に気分はどんどん澱んでいく。
バタンっと閉まった玄関の向こう側、同棲を初めてから一緒にいれる時間は合計しても1日の五分の一もない最愛の人へ、いつも言えない気持ちがこぼれる。
「…好き、だぞ」