【槍弓】『逃がさねえよ』
FGO時空槍弓。今更ですがバレンタインデーの次の日の話。
式部ちゃんの台詞がすごい好き~!
式部ちゃんは人の恋路を眺めてはピンポンピンポン解説入れまくってほしい。
ぐだ♂マシュ要素も若干あります。
解説部分は全部『』です。
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青い小さな箱、白いリボン、枕元に置かれた小さなプレゼント。
サンタが登場するには早いような遅いような二月半ば。バレンタインデーという一大イベントが終わった後に突如自分の枕元に召喚されていたその箱に、マスターである藤丸は廊下で頭を悩ませていた。
「……ダメだ、誰から貰ったか思い出せない!」
「よう相棒、朝から元気だな」
おはようさん、今日のレイシフトよろしくな!
景気づけのように後ろから背中を思いっきり叩いた青い髪のサーヴァント。クーフーリン、クラスはランサーである。快活に笑う顔に叩かれた背中を擦りながらマスターは困り眉で笑う。アニキ痛いよ、おはよう。今日はよろしくという意味を込めてぽん、ランサーほどの強さは出せないが背中に触れる。
「あ、そうだアニキ!これ知ってる?」
「あんだ?」
実はね、そう言ってマスターはランサーに例のプレゼントを見せた。
図書館で起こった事件を解決させるために奮闘した昨日。気が狂ったようにチョコレートを作り、郵送会社のように素早く渡し歩いた。そしてそのお礼として貰った大量のプレゼント。その海に溺れながらいつの間にか眠りに落ちた、筈だ。そのあとの記憶などまるでないのだが何故か枕元に見覚えのないこのプレゼントが置いてあったという。
「アニキから貰ったのと少し似ているんだけど、違うよね?」
「んな回りくどいことするくらいなら今ここで渡している。つか昨日渡したろ」
「だよね……」
「名前も書いてねえのか?ここにいる奴らは結構自己主張激しいだろ?」
「それがどこにも……朝から他のサーヴァントやスタッフのみんなに聞いて回っているんだけど、みんな違うって」
困ったなぁ……。ため息を吐くマスターにランサーはあっけらかんと解答を述べる。
「んな気になるなら開けりゃあいいだろ」
「でも、俺宛てじゃなかったら悪いし……」
「マスターの部屋にあったんだ。そりゃお前さんのもんさね」
その言葉に押されるようにマスターは頷いた。
「そ、そうだよね。ようし、開けちゃおう!箱の中身はなんじゃろな、えい!」
下手な掛け声と共にほどかれたリボン。ゆっくりと開けられた青い箱の中から出てきたのは予想通り、チョコレート三粒。どれも型は同じで何も装飾がされていないシンプルなもの。しかし、漂う高級感にマスターは喉をゴクリ、ランサーはヒュウと口笛を鳴らした。
「……すげえな、本命じゃねえか」
「えっ!?アニキ分かるの?!」
「ああ。気合いの入れ方が違うぜこりゃ。マスターも隅に置けねえな」
「余計誰か気になる!ええ、本当にどうしよ……」
「そうだな。本当に困ったことになったなぁマスター、だが安心しろ。盾の嬢ちゃんへの言い訳は一緒に考えてやるよ」
な!なんて肩を組んでウインクしてくるアニキサーヴァント。お節介の押し売りをはね除けるようにマスターは肘で押し返した。
「いーりーまーせーんー!てかなん、なんなのそのニヤケた顔は!別に俺とマシュは先輩後輩でありそんな関係じゃ……将来的にはそうなりたいけどでもまだそんなんじゃなくて」
「へえ~ほぉ~将来的にはねえ~?」
「あーもう!俺とマシュのことはいいから!」
一緒に送り主探してよぉ!悲痛な声が廊下に響いた時だ。
「そんなところで何をしているのかね」
赤い外套を纏わせたサーヴァントがやって来た。エミヤ、クラスはアーチャーである。
「ようアーチャー良いところに来たな!聞けよ、今マスターがよぉ」
「エミヤ!ちょうど良かった!」
このチョコに見覚えない?ニヤつくランサーをマジックテープのようにビリビリ引き剥がし言葉を遮って問いかける。
「朝起きたら部屋にあってさ……昨日食堂にいたときサーヴァントやスタッフの中で誰かこの箱を持っていた人いなかった?」
アーチャーは問いに首を振った。
「そういったご婦人は見かけなかったな。しかし、」
言いかけ、チョコを一瞥したアーチャーはふむ、と少し考える素振りを見せて腕を組んだ。
「何を悩む必要があるのだね?お前の部屋にあったのならそういうことなんだろう?」
「お、珍しく意見が合うな弓兵。そういうこったマスター、難しく考えなさんな。食っちまえよ」
じゃないと俺が貰い受けるぞ、その本命。
まるで銀紙に包まれたチョコレートのような男だ。薄い銀色は剥がれやすい。剥がれて剥き出しになった闘争心がマスターの手の中にある獲物を狙う。ギラついた視線から逃すように背中へ隠した。
「隙あり!」
「あー!ランサーが食べたーっ!!この人でなしー!」
「俺ぁ英霊だぞ?人じゃねえっつの。いやしっかしうめえなコレ!甘いもん苦手でも食えるわ、マスターも一個くれ」
「ダメダメ!絶対だめ!まだ誰から貰ったかわかってないし、俺だって食べてないのに!」
「まだんなこと気にしてんのかよ!」
「……あまり廊下ではしゃぐんじゃないぞ」
一連のやり取りを見ていたアーチャーは呆れてその場をあとにしようとする。二人の横を通り過ぎ、食堂方面へと向かう。
「アーチャー!」
「……なんだねランサー」
突然ランサーが大きな声でアーチャーを呼ぶ。あんまりにも大きな声だったのでマスターは思わず目を瞑り、耳を塞いだ。
「今日のレイシフト、よろしくな」
久々に一緒だろ?ランサーの声にアーチャーはなにも答えずその場を立ち去った。
いいえ、しっかり想いを込めましょう。
あなたの想いが届きますように。
深夜、食堂にやって来た図書館の司書であるキャスター、紫式部に言われた言葉。泰山解説祭、なんて厄介な言語系呪術なのだろうとその時は思ったが今思えばその言葉がなければこんな風に渡す手段も考えつかなかっただろうとアーチャーは納得した。
「ふぁい、だあれ?どうしたの、なんかあった?」
「就寝中にすまないマスター、少しいいだろうか」
キャスターと別れ、アーチャーが向かったのはマスターの部屋だった。舌足らずな声、眠たげに目を擦りながらアーチャーの姿を捉えるマスターは普段よりも一層幼く見えた。昨日の疲れがまだ残っているのだろう。それに申し訳なく思ったがアーチャーもアーチャーでここで引き下がるわけにはいかなかった。まだ夢心地のマスターに小さな箱を渡す。薄暗い中、渡されたそれにマスターはきょとんとした顔でアーチャーを見た。
「申し訳ないのだが、これを私からだということは伏せてあの青いランサーに渡してほしい」
寝ぼけていた瞳が一瞬にして星の煌めきと疑問を含んで薄水色に輝く。綺麗だと思う。が、アーチャーはそれを口にはしなかった。それを言ったところで彼の疑問をうやむやに出来るわけではない。家庭教師のお兄さんにも答えたくない質問があるのだ。マスターの口から言葉が飛び出す前にアーチャーは言う。
「そうでもしてもらわないとこれはそのままごみ箱行きだ。まあ、今この場で棄ててしまっても構わないのだがね」
アーチャーは思う。今、酷いことをしている、と。そんなことを言えばこの優しい少年は絶対に断らないだろう。逃げ道である橋を一つずつ壊していく感覚に申し訳なさが募る。
「どんな手を使ってもいい。ただ彼に渡してくれたら、それで。ああ、もし渡せなかったら君が食べてくれて構わない。味の保証はする。なに、大したものじゃない。所詮、どうでも」
「俺ね、紫式部に言われたんだ」
アーチャーの言葉を遮るようにマスターは穏やかに笑う。受け取った箱をぎゅっと握りしめて。
「想いを込めたものにどうでもいいってことはないって。だからこれもどうでもよくないよ、うん。全然どうでもよくない、大切だ」
『いつも二人は喧嘩しているからお互い嫌いなのかなって思っていたんだけど、これを贈るってことは少なくともエミヤはアニキのこと大事に思ってるってことだよね?そうじゃなきゃおかしいよね?』
ピンポン、マスターの隣に出てきた解説。アーチャーがゆっくりと振り返るとはわわ、なんて声を上げて影が引っ込んだ。紫式部こっちおいで、と呑気に声かけをするマスターにため息が出る。
……まったく、彼女の能力には困ったものだ。なんて思ったのも束の間、アーチャーはマスターに向き直り尋ねた。
「……マスター。もしかして君、彼女がいたの知っていたのか?」
「え?うん。だってエミヤの解説が出たからね?」
「なん、どう、……は?」
「大丈夫だよ、まぁ相手はアニキだから……うまくいくかはわからないけど、俺頑張るね」
任せて!と力こぶを作るマスターにアーチャーは顔から火が出そうになり、座に帰りたくもなった。何よりもなんて書いてあったのか知りたかったのだがそれを鵜呑みにされて朗読なんてされてしまっては本当に座に帰りかねないので精一杯よろしく頼むと頭を下げるだけに留まった。
昨夜は恥ずかしい思いをしたがマスターが考えた作戦とやらは大成功を納めた。形はどうであれランサーにチョコレートを食べさせ、うまいと言わせたのだ。今度、彼と彼女には礼をしてやらんといけないな。
「……込めたさ、しっかりと」
伝わっているかは別として。それでもランサーのあの顔を見ることが出来ればアーチャーはそれで良かったと思った。レイシフトまで時間はある。緩む口元を引き締めるため、食堂からシュミレーションルームへつま先を向けた。
「……わりぃなマスター」
「ほんとだよ!手がかりが一個減っちゃったんだから!」
「あー、……そのことなんだがよ。もういいぞ?」
「へ?……ナ、ナンノ、ハナシ……?」
マスターの明らかな動揺っぷりにランサーはたまらず噴き出し、ヘタクソと、付き合ってくれてありがとうなと、マスターの頭を撫でた。ついでに箱に残っている残り二つのチョコレートもいっぺんに口へ放り込む。
「ほんっとにアイツ、面倒くささ一級品だな」
「ちょ、だからなんの話、てか食べるならもっと味わって、」
マスターは最後までしらを切るつもりらしい。いい相棒を持ったな、なんて思いながらランサーはアーチャーが消えた方を見据える。
「……マスター、今日のレイシフト何時からだっけか?」
「え?ええと、今日は確か、昼の一時からだよ」
「そうか。んじゃあまだ時間あんな。ちょっと今から行くとこあっから、また後で」
その箱、俺の部屋に置いといてくれ。
それってどういう意味?
マスターが聞く前にランサーの姿はどこにもなかった。流石最速の英霊、感心しそうになるマスターだったが取り残された解説は最速ではなかったらしい。マスターの前にでかでかと表示された一言。昨夜のアーチャー同様にマスターが振り返ると扇子で口元を隠したキャスターがいた。
「……紫式部、いつからそこに?」
「はわわ……また、やってしまいましたか?」
困り眉でついうっかり、なんて風を装っているが隣に現れた解説。それにマスターは大きな笑い声を上げた。
『応援しております、頑張りましょう』
Comments
- そーApril 7, 2019