論説
1. スマルとバゴンの物語
ジャワで流通するスマルの出自に関する神話では、スマルは神であり、同腹の兄弟にトゴとバトロ・グルを持つ。中部ジャワ版の物語では、彼らはひとつの卵から三つに分かれた。卵の黄身はバトロ・グルに、白身がスマルに、そして殻はトゴになった。バタック・トバでは、彼らはウラムブジャティ・ナボロン Hulambujati Nabolon という鳥から生まれた三つの卵から生まれた。東部ジャワのダラン界の伝統ではどうか?その物語は大いに異なる。東部ジャワ(スラバヤ、グルシク、シドアルジョ、モジョケルト、ラモンガン、そしてパスルアン)とマランガンの伝統的物語では、卵の話が大きく違う。下記に簡略化したスマルと兄弟たちの物語を記す。
ジェジェル・カヤンガン・プスポ・インテン
Ⅰ. カヤンガン・プスポ・インテン Puspa Inten の会議の場
サン・ヒャン・トゥンガル Tunggal は息子たちに対峙している。息子たちはサン・ヒャン・プグ Puguh、サン・ヒャン・プングン Punggung 、サン・ヒャン・ソムボ Sambaである。彼らは神々の場としてのカヤンガン・スロロヨの拡大計画を議論している。議論の最中に、神々の王としてスロロヨを支配したい望むジャバルカト国のジンの王、プラブ・ジョマクジュジョJomakjujo が現れる。
サン・ヒャン・トゥンガルは息子たちに、プラブ・ジョマクジュジョを撃退し得た者は誰であろうと神々の王に挙げられる、と告げる。サン・ヒャン・プグとサン・ヒャン・プングンは臆したが、サン・ヒャン・ソムボはプラブ・ジョマクジュジョ撃退を承諾し、出発した。
そこへカヤンガン・ジャガト・スニャ・ルティ Jagay Sunya Ruri からサン・ヒャン・バニジャン Banijan (サン・ヒャン・ジャン・バニジャン Jan Banijan )の二人の息子、サン・ヒャン・ポンガト Pongat とサン・ヒャン・ウマルド Umarda が到来した。サン・ヒャン・ポンガトとサン・ヒャン・ウマルドはサン・ヒャントゥンガルに、彼らが神々の王になる許しを得て、プラブ・ジョマクジュジョ討伐を承知した。サン・ヒャン・トゥンガルは約束し、彼らは出発した。
宮廷の場
Ⅱ. 屋外会議
サン・ヒャン・ポンガトとサン・ヒャン・ウマルドはその時プラブ・ジョマクジュジョの休んでいる所へ向かった。カヤンガン・プスポ・インテンから降りているサン・ヒャン・ソムボは、サン・ヒャン・プグとサン・ヒャン・プングンに、超能力のプラブ・ジョマクジュジョを攻め、投獄するつもりであることを盗み聞きされる。彼ら争論は戦いへと発展し、サン・ヒャン・プグとサン・ヒャン・プングンは敗れた。サン・ヒャン・ソムボはすぐさまプラブ・ジョマクジュジョのいる所へ向かった。アルン・アルン・ルパット・クパネサン Alun-alun Repat Keoanesan (神々の所有する広場)に着くと、サン・ヒャン・ソムボは女のような姿のサン・ヒャン・ウマルドを見た(そして恋に落ちた)。サン・ヒャン・ウマルドはプラブ・ジョマクジュジョに掴まれ、投げられて、サン・ヒャン・ソムボの前にどたんと落ちた。
サン・ヒャン・ウマルドはサン・ヒャン・ソムボに掴まれ、愛撫され、キスされた。彼はサン・ヒャン・ウマルドと結婚したいと考えていたのである。サン・ヒャン・ウマルドは断った。サン・ヒャン・ソムボを恐れて、サン・ヒャン・ウマルドは逃げ去った。サン・ヒャン・ソムボはサン・ヒャン・ウマルドを追い続けた。グヌン・グニまで、それから他の山々まで……。着物の裾がはだけ、ふくらはぎがさらけ出された。サン・ヒャン・ソムボは『精液』を所かまわず垂れ流し、山々の頂きにまで流れた。垂れ流された精液に、宇宙の光 Sinar jagat が降り注ぎ、かくてサン・ヒャン・チャロコ Caraka(サン・ヒャン・ジャン・バヌジャン)の言葉で三十人の神となった……。
サン・ヒャン・ソムボの願いが語られる。それは四つの腕を持つことであった。サン・ヒャン・ウマルドは追いつかれ、その性器は押しつぶされ、雲の尻尾のようになる。性器は押しつぶされ粉々となり、血がほとばしる。サン・ヒャン・ウマルドは泣き叫ぶ。サン・ヒャン・ソムボは血で喉仏を詰まらせ、さらに血は胸が腫れるほど溜まって、乳房となった。さらに薬指で引っ掻かれ、血がまた降り注いだ。そして喉仏にかたまったのである。
話を聞いたサン・ヒャン・トゥンガルがやって来てサン・ヒャン・ソムボを叱りつけ、サン・ヒャン・ウマルドは慈悲を受けた。そしてサン・ヒャン・ウマルドは女になるよう告げられた。サ・ヒャン・トゥンガルはサン・ヒャン・ソムボに怒った。サン・ヒャン・ソムボはただちにプラブ・ジョマクジュジョとの戦いに赴いた。サン・ヒャンン・ソムボは敗れた。かくてサン・ヒャン・トゥンガルは、プラブ・ジョマクジュジョが動けないように、椰子の木の太さの鉄の格子を作った。プラブ・ジョマクジュジョは鉄格子を齧り髪の毛ほどの細さにしてしまった。しかし、雄鶏の無く声が聞こえると、鉄格子はまた椰子の木の太さに戻った。それからプラブ・ジョマジュジョと鉄格子はサン・ヒャン・トゥンガルにはじき飛ばされ、西の地へ放り出された。
話を聞いたサン・ヒャン・プグとサン・ヒャン・プングンは喜ばなかった。というのも、サン・ヒャン・ソムボがプラブ・ジョマクジュジョを倒した者として神々の王とされたからである。倒したのはサン・ヒャン・ソムボではなく、サン・ヒャン・トゥンガルであるのに。サン・ヒャン・トゥンガルはサン・ヒャン・プグに霊峰グヌン・ククサン Gunung Kukusan を呑込むよう、命じた。サン・ヒャン・プグは呑込み事が出来ず、口が裂け、歯は一本を残して抜け落ちた。そしてトゴとなったのである。
サン・ヒャン・プングンは霊峰グヌン・ウンカル Gunung Ungkal を呑込むよう命じられたが、呑込み事が出来ず、ついに口が裂け、歯は一本を残して抜け落ちた。そしてスマルとなったのである。
トゴはグラガ・アヤンガン Glagah Ayangan へ送られ、ブラフマ Brahma の子孫たち(アンカラ=強欲の子孫)の導き手となった。トゴはマルチョポド Marcapada (地上)へ降りようとしたが、仲間を欲しがった。サン・ヒャン・トゥンガルは、トゴにグヌン・ククサンのちぎったひと固まりで作るよう命じ、それがビルン Bilung(トゴの仲間)となった。かくて彼らは一緒に降りて行ったのである。
スマルはサン・ヒャン・トゥンガルにクリン Keling へ行き、パングルワタン Pangruwatan の子孫たちを導くよう命じられた。スマルは仲間を与えられるよう乞うた。自分自身の影をとるよう命じられ、かくてスマルの影がバゴンとなった。彼らはひとつの武器を与えられた。しかし、二人はその武器をめぐって争い、引っ張られてそれは人間となり、ソロゴンジョ Sorogonjo と名付けられ、スマルの仲間となった。
兄弟が女にされたと聞いたサン・ヒャン・ポンガットは納得しなかった。かくてサン・ヒャン・ソムボと戦いとなった。サン・ヒャン・ポンガトの身体はサン・ヒャン・ソムボの力で押しつぶされて縮まり、その顔は醜く変わり、彼はナロド Narodo と名付けられた。それからカヤンガン・スロロヨはサン・ヒャン・トゥンガルの命令で、完璧な宮廷にされ、テジョモヨ Tejamaya と呼ばれた。サン・ヒャン・ソムボは神々の王に推挙され、ラトゥニン・ラト・ニョウォ・スカリル・ヨ・サン・ヒャン・プラメスティ・ブトロ・グル Ratuning Rat Nyawa Sekalir ya Sang Hiyang Pramesth Bathara Guru と称した。
続いてサン・ヒャン・ソムボがサン・ヒャン・ウマルドを追いかけた時の三十人の神々、サン・ヒャン・ソムボの息子たちがやって来た。息子たちにはドゥランドロ Durandara の戦士(神の戦士)として住処が与えられた。
ブトロ・ナロドはスロロヨの通訳 juru bicara となり、ブトロ・グルにサン・ヒャン・ウェナンから、卵が与えられた。それらはブトロ・グルの祈りで三人の息子に変わった。(1)ひとりの男の子はバトロ・バスキ Basuki と名付けられた。(2)男の子のひとりは、バトロ・ウィスヌ Wisnu と名付けられた。(3)ひとりの女の子はデウィ・スリ Sri(ブタリ・ウィドワティ)と名付けられた(キ・ダラン・スルウェディによる。Depaikbud Dirjen Kebudayaan, Taman Budaya Jawa Timurから出版。『東部ジャワ・スタイルのダラン用ラコンの書 Penulisan Lakon Pedalangan Gaya Jawa Timur』から)。
キ・スルウェディ版のあらすじから見て取れるのは、東部ジャワの伝統における独自の神、女神たちの創造である。スマルはサン・ヒャン・プングン、トゴはサン・ヒャン・プグ、トゴの仲間のビルンは、トゴの力でグヌン・ククサンの一塊からつくられる。いっぽう、スマルの仲間のバゴンはスマル自身の影からつくられる。
サン・ヒャン・ソムボ神は最後に、クラトン・テジョモヨと名付けられたカヤンガン・スロロヨの王となり、サン・ヒャン・ソムボの名はサン・ヒャン・プラメスティ・バトロ・グルとなる。また、サン・ヒャン・ポンガトはサン・ヒャン・ソムボによって醜い姿に変えられ、バトロ・ナロドになる。バトロ・ナロドは最後にスロロヨの通訳となる。バトロ・グルはサン・ヒャン・ウェナンから与えれた卵でさらに神をつくる。卵から生まれたのは、バトロ・バスキ、バトロ・ウィスヌ、そしてデウィ・スリの三人の神、女神である。
スロロヨに起こった物語で他に重要な出来事は、バトロ・コロという名のラクササの誕生である。バトロ・コロは、サン・バトロ・グルがバタリ・ウマイ(サン・ヒャン・ウマルドの変身)対して欲情した時に漏らした精液から生まれた。この怪物はのちに、バトロ・グルとデウィ・ウマイによって定められた幾つかのカテゴリーの人間を食料とするという、彼自身に関するラコンのもととなる。
以下に先の物語に基づいた人物たちの系図と出生地を示す。
(つづく)