先ほど剥ぎ取られた比鷺の衣服が、床の端に乱れたまま落ちている。絹の残骸は、まるで脱ぎ捨てられた蝶の翅(はね)のようで、すでに役割を終えていた。
萬燈は目を細め、比鷺の乱れた黒髪を酷く愛おしそうに梳いた。
長い指が、汗で湿った髪を丁寧に掻き分けていく。指の腹が頭皮に触れ、髪の先端から汗の粒が落ちた。
かつての幼い覡――ゲーム機を握りしめ、根暗に目を伏せていた少年――は、今や自身の指先一つでこれほどまでに乱れ、悦びに濡れる男へと成った。その事実が、萬燈夜帳の胸の奥で静かに育った支配欲を、甘く、心地よく満たしていく。
萬燈の口角がわずかに上がり、優しい微笑みの形を保ちつつ、瞳だけが危険な光を帯びる。
顎を掬い上げられ、視線を強制された比鷺は、焦点の合わない瞳で萬燈を見つめ返した。
萬燈の親指が比鷺の顎を軽く押し上げ、首を反らせる。瞳の奥に萬燈の顔が歪んで映り込む。睫毛が震え、涙の膜が薄く張る。
「いい顔だ」
比鷺の瞳が、ようやくわずかに焦点を取り戻し、しかしすぐにまた、萬燈の口吻によって蕩けた。
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