遥か彼方の貴方へ
バレンタインイベントのお返しにまつわる新殺ぐだちゃんです。
すぐさらっと読めます。
!注意!
新宿のアサシンの真名バレあり!バレンタインイベントのお返しネタバレあり!まだの方はご注意ください。
ぐだは女の子です。
表紙はこちらからいただきました。
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以下私事。
弱小カルデアに来てくれた初めての星4アサシンが新アサくんでした。
かわいいなあと思いつつ育てていたら新宿と本人wikiでどぎつい一撃をくらいドボン。
今回のバレンタインイベで妄想が止まらなくなったのでついに書いてしまった次第です。
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振り下ろされる刃物のような鋭さを持った鉤爪。ぴしりと扇を当てて力をいなす。伝わる衝撃は生半可なものではない。肌に触れていればその奥の骨まで届いただろう、と冷や汗が額を伝う。考える間も動きは止めない。扇で爪をパシリと払い、空いた竜の喉へと流れるように突く。痛みに奇声を上げる伝説の生き物。ダメージは与えたけれどまだ決定打ではない。相手が体勢を立て直す前に、もう一度。
「よし、いいぞ、そのまま前っ!」
「え、ええい!!!」
『ギィシャァアアアアアア!!!』
うめき声を上げながら、目の前のワイバーンは白い粒となって消えていった。
「やったなマスター!さすが俺の見込んだ通り、筋がいいや!」
「こ、こわかったぁー…」
へなへなとその場にへたりこみ、隕鉄扇を地面に立てて腕を凭せかける。ずっしりとした重みから解放された腕には未だ痺れが残っていた。
「何言ってんだ、立派な戦いっぷりだったぜ」
そう言って私の肩を叩く燕青は上機嫌だ。一方の私は酸素を取り込もうと口を半開きにして間抜けな顔をしている。ワイバーンを倒せて嬉しい気持ちもあるのだけれど、恐怖と扇の重さの余韻に体中が震えていて力が入らない。
二か月ほど前のバレンタインのお返しにもらった隕鉄扇。あれからレイシフトの合間を縫っては燕青からの指導を受けていた。ときに厳しく、ときに優しく。普段マスターである私に対しては甘い顔しか見せない燕青が、ほとんど初めて見せた硬い表情は新鮮だった。
初めは持ち上げるので精いっぱいだった隕鉄扇をようやく振れるようになり、今日はついに実践ということで、シミュレーションルームで大分弱体化させたワイバーンと戦うことになった。いつもサーヴァントたちの後ろで見ているのと間近で見るのとは全然違う。鋭い爪も牙も、私を捕食してやろうという意図でいっぱいで、シミュレーションだというのに心臓がばくばくして足が震えた。なんとか倒せたけれど、燕青が後ろにいるという安心感があってこそだ。
「みんないつもこんなのと戦ってるのか…すごいなあ」
「まあ俺たちはサーヴァントだからな」
マスターに代わって戦うのが俺らの役目さ、と白い歯をのぞかせる燕青は、綺麗についた筋肉のせいもあってか頼もしい。
「とりあえず免許皆伝、ってとこかな。後は日々の鍛錬あるのみさ」
「まだこの重いの持ち歩くのー!?」
不満を上げるわたしの声はへいへいと笑って流される。本気に取り合わないのはわたしがなんだかんだ言いながら隕鉄扇を手放さないのを知っているからだろう。
地面に座り込んでいる私に合わせて燕青も膝を抱くようにしてしゃがむ。なんだか運動会にいる子供みたいで可愛らしい。
同じ高さに翠が揺蕩う。いつかのレイシフト先で見た、太陽に輝く海の色。
「俺がそばにいなくても、これさえありゃあ少しは身を守れるだろうよ」
声の明るさはそのままで、高いところを飛ぶ鳥が光を遮るように、さあぁと暗い影が瞳の中を走ったような気がした。さっきとは違った理由で心臓が大きく跳ねる。へらりと笑って本心を見せないこの男を逃すまいと言葉尻を捕らえた。
「燕青は、私のそばから、いなくなるつもりなの」
「いやぁ?」
問いかけの深刻さとは裏腹に、燕青はにかりと満面の笑みを浮かべた。それでも私の憂いは取り除かれない。むしろ増大していく一方だ。
燕青の笑い方は、ときどき私のこころをざわつかせる。彼はいつも、切れ長の目をさらに細めて笑う。長い睫毛に翡翠の輝きは全て覆われ、ほとんど糸のようになる。まるで目の奥のこころを隠そうとしているように見えて、暗い雲が空を覆っていくような、ざわざわとした不安に駆られるのだ。
「俺はたとえマスターがどこかへ消えてくれと頼んだって、マスターから離れてやれないようなやつさ」
燕青はわたしの目を真っ直ぐに見つめている。それなのに、視線がかみ合っている気がしないのはなぜなのか。
燕青はきっと今、わたしのことを見ているようで見ていない。目の前のわたしを通り越して、遠くて暗いどこかを見ている。
「ただ、マスターが本気で俺を拒んだら、俺はそばで守ってやることができない。所詮ただの使い魔。魔力を断たれたらそれでおしまいさ」
コメディ映画の俳優みたいに肩をすくめて燕青は言う。自分にとって重要なことであればあるほど、冗談めかしてしまおうとする目の前の男に騙されまいと、ぐぐ、と目の奥に力をいれて睨み付ける。
「でもな、マスターがどんなに俺を嫌おうとも、この技術は残る。俺がそばにいなくとも、この技がマスターを守る」
俺にはそれで十分なのさ。
大事な宝物を手にしたように、満足そうに吐き出されたその声に、鼻の奥がつんとした。
それで、それだけでいいのか。燕青の望みがあまりにちっぽけで、あんまりにもさみしくて、わたしは必死になって唇を震わせた。
「私は燕青を拒んだりなんかしないよ」
「おう、分かってるさ」
何も信じていないような顔で、燕青は虚ろに笑った。