「被害者」も救われない。広陵高校・暴力問題で露呈した“SNS告発”“ネットリンチ”の大問題

西山守
桜美林大学准教授/コンサルタント
写真:岡沢克郎/アフロ

広島・広陵高校野球部の暴力問題で、加害者とされた生徒側が、被害生徒の親権者を名誉毀損容疑で刑事告訴した報道された。これを受け、SNSやYahoo!ニュースのコメント欄には、加害者とされた生徒や、広陵高校へのバッシングが再燃している。

ネット上の声の大半は最新の状況が正しく踏まえられておらず、ピント外れな意見も多い。昨年8月に問題が顕在化して以降、情報は随時アップデートされ、状況は変わっているのだが、それを追えていない人も多いようだ。

人目に付く場でコメントするなら、せめて事実確認くらいはして欲しいと思う。

本事案が、学校でのいじめや暴力問題に関して【SNSでの告発→ネットリンチ】という流れを作ったと言えるのだが、経緯を見ていると、SNSは問題を解決するどころか、余計に問題を悪化させているようにしか思えない。

現時点の状況を整理した上で、本件をどう理解すべきかを展望してみたい。

真偽が問われる2つのSNSでの暴行告発

広陵高校野球部に関するSNSでの告発は2件ある。細かく説明すると冗長になるので、要点を表にまとめてみたので、参照いただきたい。

最初に、2025年に起きた事案がSNSで拡散して問題化し、続いて2023年に起きたとされる事案がSNSで告発され、さらに大きな炎上となった。

前者については、広陵高校側も暴行問題があったことは認めており、加害生徒への指導・処罰や、高野連の報告も行われていた。しかしながら、告発者と高校側との間の認識に大きなズレがあった。

2023年の事案についても、高校側は調査を行ったが、暴行の事実は確認できなかったとしている。

両事案ともに、第三者委員会が立ち上がって調査が行われている。また、告発者側が警察に被害届を提出しており、警察での捜査が進められた。しかしながら、現時点に至ってもSNSでの告発内容の正当性を裏付けるような情報は得られていない――というのが現状である。

なお、批判を浴びている加害者とされる生徒の刑事告訴は、2025年に起きた方の事案に関するものだ。この件は新たに告訴がなされたものではなく、2025年9月に告訴状を提出していた(9月時点でも報道はなされている)ものが、正式に受理された――ということのようだ。

第三者委員会や警察は「被害者」に寄り添わないのか?

では、現状はどうなっているのだろうか?

2023年の事案に関しては、すでに第三者委員会の調査結果は出ており、88件の被害申告の「事実を認めることは困難」と結論づけている。

一方、警察の捜査については、不送致処分、つまり「検察に送致しない」という対応となっている。専門用語で分かりづらいが、要するに「嫌疑が不十分」というところだろう。

なお、被害申告者がこの結果に不満であれば、再調査を求めることも可能だ。実際、第三者委員会の調査がやり直されることで、結果が覆った事例も複数ある。ただし、現時点ではその動きはないようだ。

2025年の事案については、第三者委員会の調査結果はまだ出ていない(学校側は3月中を目途に出したいと言っていたので、近日中に出てくる可能性はある)。

一方、告発者側から出された被害届については、「審判不開始」となっている。こちらも専門用語で分かりづらいが、要するに「少年審判(裁判)を開かない」という決定が下されたということだ。

理由はわからないが、一般的には、非行の事実が認められない、事案が軽微である、加害者が十分に更生している――といった場合に審判不開始の判断が下されるようだ。

本事案が発覚した際に、「これはいじめではなく少年犯罪だ」、「警察が捜査すべきだ」と騒いでいたが、警察が介入した結果はすでに出てしまっている。

SNSでは、上記の結果に納得する声はほぼなく、「(第三者委員会や警察は)信用できない)」「ネットリンチするしかない」「日本は加害者に優しい社会だな」など、憤りの声に溢れている。

しかし、ちょっと立ち止まって考えてみて欲しい。SNSで告発されたような暴力沙汰があったかどうかは最初からわからないし、その可能性は日を追うごとに下がってきているのだ。

「集団暴行があったのは紛れもない事実だ」、「被害者が多少話を盛るのはしょうがない」といった声も少なからず見られる。 

「被害者」を告発した生徒によると、当該生徒が行った行為は、あくまでも学校側が把握し、高野連に報告しているレベルのこと(生徒自身がメディアの取材にそう答えている)で、すでに処分も受けている。

どちらの言い分が正しいかは現段階では不明ではあるが、真偽不明な現状で「加害者とされた」生徒を叩く根拠はどこにあるのだろう?

広陵高校は「隠ぺい」などしてない(?)

「学校の対応が悪かったからこんなことになった」、「問題がないならどうして甲子園を出場辞退したのか?」と広陵高校を批判する声も多い。

いまとなっては、この批判の妥当性にも疑問符が付く。

警察が調べても、刑事事件になるような暴力行為は確認されなかった。2023年に起きたとされる暴力行為の告発は第三者委員会の調査でも認められなかった。弁護士や警察が数カ月間にわたって調べても事実が確認できないことを、広陵高校が確認できなかったとしても無理はない。

広陵高校の「隠ぺい体質」が批判されたが、「隠ぺい」というのは、不都合な事実を意図的に隠そうとする行為を意味する。広陵高校は「事実関係が確認できなかった」と発表しているが、本当に確認できなかったのであれば、それは隠ぺいとは言わない。

甲子園を辞退したのは、「生徒の安全を守るため」であり、(SNSで拡散しているような)暴力行為を認めて自粛したわけではない。

もちろん、広陵高校側の情報発信や説明の仕方が世論を納得させるようなかったことは事実だ。その点は筆者も批判してきたが、あくまでも暴力行為については「真偽不明」という前提に立ってのことだ。

「SNSでの告発」は誰を幸せにしたのか?

SNSでの告発と、その後に起きた誹謗中傷の嵐は、広陵高校や「加害者とされた」生徒がダメージを受けたのみならず、無関係の部員や生徒も被害を被った。

それだけでなく、被害者(あるいは被害者とされている)生徒やその保護者さえも、幸せになるどころか、より泥沼に陥っている。

2023年に起きたとされる事案については、実名を挙げた告発がなされたが、暴行の事実は確認できなかった。暴行がなかったとまでは言えないが、事実認定されなかった以上、被害の証明はできないだろう。もし、実名を挙げられた生徒とその保護者、あるいは指導者から民事訴訟を起こされたり、被害届を出されたりしたらどんな結果になるだろう?

2025年の事案については、第三者委員会の調査結果次第ではあるが、すでに「加害者とされる」生徒から刑事告訴されている。成り行き次第では、別の生徒からも民事訴訟を起こされたり、刑事告訴されたりする可能性もある。

やむにやまれぬ状況があったのかもしれないが、SNSでの告発以外の解決策はあったのではないかと思う。

本件でおいしい思いをしたのは、この件をネタにしてアクセス稼いだインフルエンサーや、学校や加害者とされた生徒や保護者をバッシングしてストレス解消をしたネットユーザーである。肝心の当事者は誰も幸せになっていない。

広陵高校、加害者とされた生徒を叩いたところで、はたして「被害者」は救われるのだろうか?

余計に状況は悪くなるだけのように思えてならない。

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桜美林大学准教授/コンサルタント

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大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授。 企業や有名人の不祥事、炎上、広告・マーケティング、メディア、エンターテインメントなど、幅広い領域をカバー。 「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。東洋経済オンラインアワード2025」MVP賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。 日本広告学会評議員、クリエイティブ委員会副委員長。 著書は『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社:共著)など。

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