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FINAL DEAD LANCER with ARCHER /Novel by あんごら

FINAL DEAD LANCER with ARCHER 

16,212 character(s)32 mins

こちらはカーニバルファンタズムの『FINAL DEAD LANCER』と『はじめてのおつかい』と泥水を混ぜたような世界で、ランサーとアーチャーがどったんばったん大騒ぎするお話です。

タグつけといて何言ってんだって感じですが、CP要素はないギャグです。
どちらでもお好きなようにお読みください。

設定とか大分ふわふわしてますが、頭からっぽにしてどうぞー。

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FINAL DEAD LANCER with ARCHER ~はじめてのおつかい編~


「なんだ、その、未知の宝具はあぁぁぁあああ!!!」

――――――――――――――――――――

 激しい衝撃に体を持っていかれ一瞬意識を失った後、アーチャーは鋭い痛みに目を覚ました。気付けば己の身体は地面に横たわっていた。周りには破壊された棚や家電が積み上がり、天井の照明は全て割れて消えている。デパートのフロアは一瞬にして廃墟と化していた。
 自らの状況を確認する。霊基はほとんど破壊され、じわじわと消滅が始まっているのが分かる。マスターである少女が魔力をどんなにつぎ込んだとしても、回復はもう見込めないだろう。五分もてば良い方だ。あっけない最後にぎりりと歯が鳴る。
 またとないチャンスだった。この冬木に召喚されるなどという僥倖が、二度もあるとは思えない。聖杯を手に入れ、自分の目的を達成する。そのつもりだったのに。
 
こんな無様な終わりは許せない。できることならもう一度、聖杯戦争をやり直したい。
叶うはずもないのにそんなことを思った。

「ぼくを呼んだかい」

 突然、この場に似つかわしくない子供のような声が響いた。声がする方を見やれば、黒い何かが、禍々しい光を放ちながら宙に浮かんでいる。その物体からサーヴァント以上の強い魔力を感じ、どうせ何もできないというのに警戒から体に力が入った。今にも尽きそうな魔力を振り絞って目を凝らす。あれは―――電気ポット……?そんなはずはないともう一度目を凝らす。電気ポットのように見えたそれは、電気ポット以外の何物でもなかった。

「なんだ、きさまは」
「つれないなぁ、ぼくこそが君たちの求める聖杯だというのに」

 そう発した電気ポットのふたがパカリと開く。そこから粘りを帯びたヘドロのような液体が大量にあふれ出した。驚きに目を見開く。聖杯と、そう言ったのか。馬鹿げたことをと口にするには、確かにその何かは力を帯び過ぎていた。そう思う間にも、次々とヘドロは零れ落ちていく。
やがて中身が無くなったのか、ポットはからりと音を立てて床に転がった。液体のほうは、何かを形作るようにぐにゃりと蠢き、数度姿を変えたと思うと、一つの形に収まった。
それはなんとも奇妙な姿だった。フォークのような頭部をもち、その上には紫色の光る球体が浮かんでいる。口から常によだれもしくは吐瀉物を垂らし、それもまた紫色だ。幼児向けアニメのキャラクターのように素朴な表情なのに、どこか禍々しさを拭えない。ちぐはぐで、見る者の心に不気味さを呼び起こす、そんな造形をしていた。

「まあ色々あって片割れみたいなものなんだけど」

 もう一方は、バーサーカーが持っていったみたいだ。そう言うとそいつはこちらを向いてにやりと笑った。

「君は運がいい。猫の方よりもぼくのが力がある。その分混ざりものも多いけどね」

 何を言っているのかさっぱり理解ができない。ただ、それが、自らの思い描いていた聖杯とは似ても似つかぬものだということだけは確かに分かった。

「君の願いを叶えてあげる」
「わたしは、なにも、ねがってなど…」
「いいや、君は既に願った。『できることならもう一度』そう思っただろ?」

 つい先ほど考えていたことを言い当てられて目を剥く。得意げにそいつが笑った。

「ぼくは万能の願望器だ。口に出さずともそれくらい聞き取れる」

 間抜けな外見と反して、相当な力を持っていることは確かなようだった。そうしている間にもどんどんと霊基から魔力が漏れていき、体の端から溶けていくのが分かる。後一分ももつまい。こいつが何かも分からずに消えるのを少し不満に思った。

「さあ、こっちをよく見ろ」

 失いかけた意識を、鋭い声に呼び戻される。考える余裕もなく、その声に従ってしまう。

「エミヤ■■■、きみの願いはエントロピーを凌駕し…あ、違うわ」

 他作品のネタをこんなところに持ち込むな。そう突っ込む力も残っていなかった。不気味な魔力の塊は咳ばらいをひとつすると、何もなかったかのように、神妙な顔で口を開いた。

「喜べ青年。君の願いはようやく叶う」

 それも今は違う気がする…そんなことを思いながら、アーチャーは意識を手放し、まどろみの中に沈んでいった。


 はっ、とアーチャーが顔を上げれば目の前に広がるのは、明け白む冬木の町であった。動揺を抑え、なるべく冷静さを保ちながら状況の把握に努める。体のどこも消滅しておらず、霊基に異常はない。怪我はなくマスターとのパスも繋がっており、言うなれば万全の状態だ。ひとまず自らの無事に胸を撫で下ろす。
 ここは遠坂邸の屋根の上。おそらく、日課である夜の見張りの最中のはずだ。確信が持てないのは、頭にこびりついた記憶のせいだ。体の消えていく、あのぞっとする感覚が今も指先に残っている。けれども今のアーチャーの身体には何の異常もない。だとすればあれは夢だったのだろう。サーヴァントは夢を見ない。しかし、それ以外にこの状況に説明が付かなかった。

「もしかしたら、凛の夢が流れ込んできたのかもしれないな」

 そうひとりごちて、わざわざ笑みをこぼす。だとすれば、一体どこからが夢だったのだろう。背筋にのぼる寒気を無視し、凛の朝食を用意するため、部屋の中へと降りていった。


 凛が起きてきたのはいつもより大分遅い時間だった。

「おはよう、アーチャー」
「おはよう凛」
「もう九時なのね。実は…」
「目覚まし時計の電池が切れていたんだろう?」

 そう言うと、あらなんで知ってるの?と凛が目を瞬かせる。まさか当たるとは思っていなかったためにアーチャーの顔が強張った。

『実は目覚まし時計の電池が切れてたみたいで鳴らなかったのよ。私が怠惰なわけじゃないからね!』

 夢であるはずの一日の朝、今日と同じように寝坊してきた凛はそう言った。

「…いや、完璧な君が寝坊する理由などそれ以外に思いつかないからな」

 そうごまかすと、マスターである少女はふぅんと満更でもないような返事をした。

「あ、そういえば電池の換え切れてたんだった。アーチャー買ってきてくれない?」
「全く君は…サーヴァントは小間使いじゃないんだぞ」
「いいじゃない。どうせ夕飯の買い出しに出るんでしょ?」
「…仕方ないな、今回だけだぞ」

 そう、こんなやり取りが確かにあった。口から転げ出る言葉はあまりにも身に馴染みすぎていた。まるで既に交わされた会話をなぞるように。
私はこの後、凛の言いつけ通りに電池を買いに出かけ、そして。
思い返して、アーチャーは思わず身震いした。まさかとは思うが警戒した方がいいかもしれない。凛に断りを入れようとしたその時だった。

『怖いのかい』

 そんな声が耳元で聞こえた気がして、慌てて後ろを振り返る。そこには当然何もおらず、見慣れた家具があるだけだった。幻聴だと自分に言い聞かせ、振り払うように頭を揺らした。


――――――――――――――――――――


「貴様、何をやっている!?」
「しらねぇよお!!!」


――――――――――――――――――――


 あれから一体何日が過ぎたのか。昼間の人気のない公園のベンチに座りながら考える。非常に受け入れがたいことではあるが、きっと、一日も過ぎていない、というのが答えなのだろう。

「おい、出てこい。いるんだろう」

 誰もいないように見える空間に向かって呟く。僅かの沈黙ののち、それはぬるりと姿を現した。

「そんな呼び出し方をされるのは不満だなあ。ぼくには『せいはいくん』っていう立派な名前があるんだ」

 久しぶりに見たような気がする、おぞましい魔力の塊。

「お前の名前などどうでもいい」

 名乗ったそれをきつく睨み付ける。だが己の疑問に答えられる相手はおそらくこいつ以外にはいない。
 聖杯を名乗る化け物に出会ったあの日から、アーチャーは同じ一日を繰り返し続けていた。明け方に遠坂邸の屋根の上で目を覚まし、寝坊した凛に電池の購入を指示され、その先でバーサーカーに遭遇し、ランサーと衝突して消滅する。そして気付けばまた遠坂邸の屋根で夜明けを迎えていた。

「私はずっと夢を見ているのか、それとも」

 あり得ない可能性に唇がわななく。

「まさか、時間を遡っているのか」

時間遡行。膨大な魔力を必要とし、いかに優れた魔術師でもたどり着けないと言われるその境地。それでもこいつが本当に聖杯だというのなら、可能性はゼロではない。

「さあ、どうだろうね。どちらにせよ、君の置かれている状況に変わりはないだろう?」

 はぐらかすように濃紫色の体を揺らし、それはふふふと気味の悪い笑い声を上げた。

「夢っていう設定だと話が薄くなるけど、タイムリープにすると色々ややこしくなるからその辺はふわっとしたまま進めるらしいよ」
「突然のメタ発言」

 動揺しているアーチャーを置き去りに、せいはいくんは話を進めていく。

「君は無様な敗退を悔やみ、聖杯戦争のやり直しを望んだ。同じ結末が繰り返される限り、この世界は続いていく。だから、君はその運命を回避しなければならない」

 おかしくて堪らないといった様子で体を捩じらせる。

「果たしてそれが、君にできるかなあ?うーふーふーふー」

 一際大きな笑い声を上げると、せいはいくんは背景と同化するように消えていった。


 ふらふらとした足取りで、ある人物がアーチャーの座るベンチへと近づいてくる。それは蒼い礼装に身を包み、背の丈を超す長さの槍を携えた、ランサークラスの英霊であった。本来ならば聖杯を奪い合う敵同士であるが、今は身構える気にすらならない。
宝具化したこの男に、アーチャーは幾度となく倒されてきた。サーヴァントの宝具化という概念が本当にあるとは思えないが、そうとしか言いようのない状況だった。しかしその全ては明らかにこの男の意思ではなかった。
万が一ランサーに敵意があり今ここで殺されたとして、どうせまた明け方に戻るだけだ。投げやりな気分で座っていると、幸いにもランサーが襲い掛かってくることはなく、それどころか倒れ込むように、同じベンチに腰掛けてきた。

「よぉアーチャー」

 そう呼びかけるランサーは酷く疲弊していた。ベンチに全身を預け、背もたれに支えられない頭部はくたりと後ろに傾いている。

「なんだランサー。敵の横に腰かけ、あまつさえ警戒心のかけらすら持たないとは。サーヴァントとしてはあるまじき行為だな」
「そりゃてめえもだろうがよ。真ッ昼間の公園で陰気な面さらしやがって。てめぇはリストラされたお父さんか」

 古代の英雄が発するやけに現代染みた言葉に違和感を覚えた。召喚された英霊たちには聖杯から知識が付与されることを思い出す。しかも今この世界を司っているのはあのおぞましい聖杯もどきだ。少し偏った情報が与えられてもおかしくない。

「まぁそのほうが今のオレにとっちゃ好都合だ。ちょっくらそのまま話を聞いてくれや」

話したところでどうせ意味はないんだが、このままじゃ気が狂いそうなんでな。そう自嘲気味に呟き、ランサーは低い声音で語りだした。

「最近同じ悪夢を繰り返し見るんだ」

 その言葉にぴくりと反応してしまう。それは身に覚えのある事象であった。いや、まさかと思う。この一言だけで判断するには、尚早が過ぎた。

「奇遇だな、私も最近悪夢をよく見る」
「へぇ、そりゃバーサーカーが投げつけたオレに倒される夢か?」

 嘲笑うようなランサーの言葉に大きく心臓が跳ねる。驚くべきことに、それは自分が見ている夢の内容と完全に一致していた。

「なぜ、知っている」
「は…?」

 今度はランサーが驚く番だった。身を乗り出し、信じられないと言った表情でこちらを見つめてくる。

「ちょっと待てお前もその夢見てんのか」
「ああ、ここ最近ずっとだ。夢というより実際にあったかのように鮮明なものだがな」
「オレも同じだ。せいはいくんには会ったか」
「あぁ、あのふざけた化け物だろう」
「まじかよ…」

 そう言うと、ランサーは額に手を当て、ベンチへと再び倒れ込んだ。アーチャーも驚きを隠すことができずに、ぽかんとした間抜けな表情をしてしまう。まさか、同じような経験をしている者が自分の他にいるとは考えもしなかった。
 しばしの沈黙の後、ランサーが口を開いた。

「オレに考えがあるんだが」
「ほう」
「一旦休戦して、ここから抜け出す方法考えねえか?」
「ああ、私も同じことを考えていた」

 こうして二人は一時的に協力関係を結ぶことになったのだった。


 お互いの経験したことを話し合い、少しだけ状況が分かってきた。
 ランサーは聖杯には何も願っておらず、繰り返しの元凶となっているのはアーチャーの願いであること。ランサーは何をしていようと買い物中のバーサーカーに見つかり、街中を連れまわされること。そしてランサーは最後にはバーサーカーの宝具と化し、アーチャーに衝突して『死亡』することが分かった。

「サーヴァントに死亡なんて概念があるのか」
「分からねえ…ただあれはただの消滅とは明らかにちげえな。最低の気分だ」

 思い出して身震いするランサーを見て、アーチャーは自分がその役割でなくてよかったと心底思った。

「つまり、私が宝具化した君に当たらなければ、この世界は繰り返されないということだな」
「そうだろうな。ついでにオレの生存も条件に加えてくれ。繰り返しを抜けたところでオレが死んでるんじゃたまったもんじゃない」
「ふむ。ということはだ、君がバーサーカーに捕まらないように逃げればいいのでは?」
「何回もやってるわそんなもん。どんなに逃げてもしつこく追いかけてきて捕まっちまうんだよ」
「なるほど、あのサーヴァントは確か犬好きだったな…」
「あ˝?」

 こんな状況であっても耳ざとく反応する槍兵をスル―し、アーチャーは思考を走らせた。

「だとすればバーサーカーのほうを何とかして止める必要があるな」

 最高の敏捷性を誇るランサーが逃げ切れない以上、それは本当に不可能なのだろう。追手のほうに働きかけるしかないとアーチャーは判断した。

「おそらくバーサーカーを止めることができるのはマスターであるイリヤだけだ」
「なら、お嬢ちゃんに帰ってこいって命令させたらいいんじゃねえの?」
「それだ!」

 ランサーが適当に放った言葉に喚起され、あるアイデアがアーチャーの脳に閃いていた。



 その数時間後、アーチャーはアインツベルンの城の中にいた。
 
「イリヤ!」  
「アーチャー?どうしたのそんなに慌てて」

 力任せに扉を開いた部屋の中。城の主は天蓋付きのベッドの上で、おおよそ優雅とは言えないだらけた様子で寝転がっていた。周りには漫画本が散乱し、そのうちの一冊を読んでいる途中のようだ。

「電池を買ってきたんだ」

 肩で息をしながら右手のコンビニ袋を差し出す。
この城に忍び込んだ目的は、イリヤに電池を届けることだった。一見何とも間抜けな行動だが、おそらくこれにアーチャーとランサーの運命が掛かっている。
 バーサーカーはイリヤに電池を買って来いと命令されて街に出ている。イリヤが電池を手に入れさえすれば、バーサーカーが買い物をする必要はなくなるはずだ。そうすればイリヤはバーサーカーを呼び戻し、悲劇は回避できるとアーチャーは考えた。そこで、アーチャーはランサーが宝具になる前に、電池を届けにやってきたというわけだ。
しかし、途中でアインツベルンのメイド二人に見つかり、少し時間を浪費してしまった。サーヴァントではないとはいえアインツベルン製のホムンクルスである彼女らの戦闘能力は高く、思いのほかアーチャーは苦戦した。今は二人とも廊下で伸びており、しばらく目を覚ますことはないだろう。

「わー!やったー!これでゲームができる!!」

 メイドたちの主は能天気にも、敵に送られた電池に大喜びしている。幼い見た目相応のはしゃぎ方は無邪気で可愛らしく、状況を一瞬忘れてアーチャーの頬が緩んだ。

「でもどうして私が電池欲しがってるって知ってるの?」
「いや…風の噂で聞いてな…」

 ふと我に返ったイリヤに、慌てて言い訳をする。即席で出てきた言葉はあまりに拙く、イリヤの怪訝な顔ももっともであった。

「なんだか納得いかないけど、わざわざ届けてくれてありがとう!よーし、続きやろーっと」

 追求されなかったことにほっとしたのもつかの間、いそいそとテレビゲームの電源を付けだすイリヤにアーチャーは動揺し、それがそのまま声に出た。

「ちょ、ちょっと待てイリヤ。もう電池は手に入ったことだし、バーサーカーを呼び戻した方がいいんじゃないか?」
「え、どうして?電池はあるに越したことはないでしょ?」

 何を当たり前のことを、といった表情のイリヤに一瞬納得しかける。確かに、電池はあればあるほど良い。常に替えさえあれば、切れかけの電池を何回も入れ直したり、リモコンごと電池を振ってみたりして延命を計る必要もなくなるのだ。
 が、しかし今は電池の予備の有用性を論じている場合ではない。我々の未来がかかっているのだ、と気を取り直しアーチャーはイリヤに呼びかけた。

「でもバーサーカーが一人で街をうろついているのは心配じゃないか?今は聖杯戦争中だ。他のサーヴァントから攻撃を受けるかもしれないし」

 言いながらもその言葉はそのまま自分へのブーメランとなって返ってきた。単身で敵のマスターの元へ乗り込んでおきながら、やったことが電池の配達とは英霊としてありえない情けなさだ。

「大丈夫。私のバーサーカーは世界で一番強いんだからー」

 イリヤは既にテレビゲームに夢中だ。ゲームをしたいから適当に言っているだけなのではという疑念が払えない。

「しかしだな、イリヤ……」
「あぁもううるさいなあ!!ゲームの邪魔するんなら出てってよ!!!」

 イリヤの高い声が耳に突き刺さる。反抗期の娘に追い出されるお父さんの気分を味わいながら、アーチャーは屋敷を出ていくしかなかった。


 アインツベルンの城を追い出され、アーチャーはとぼとぼと森を歩いていた。目的を達成することはできなかった。日の傾きから考えて、今頃ランサーはバーサーカーに引きずられてデパートへと向かっている頃だろう。このままでは今日もランサーの宝具化は免れないに違いない。そこでふとあることに気付いた。アーチャーがいる場所は、冬木市の郊外に位置している。市の中心部からは大分距離があり、デパートはアーチャーの目をもってしてやっとはっきり見えるくらいの遠さだ。確実に、あの忌まわしき『ブーメランサー』の射程範囲外である。つまり、アーチャーがバーサーカーと遭遇し、未知の宝具を打たれるという状況は発生せず、アーチャーの無残な敗北も起こりえない。ということは。

「ランサーは死亡し、私だけがこの世界から脱出する…のか?」

 それはアーチャーにとってなかなかに都合の良い状況に思えた。本来ならばランサーとは敵同士であり、ランサーが死亡すれば聖杯戦争の強敵が一人労せずして減ったことになる。少し可哀想な気がするが、どちらにせよ今からデパートに向かったところでもう間に合わない。すまないランサー、君の雄姿は忘れまいよ…大して見てはいないが。そうアーチャーが思った時だった。
 ピコン。聞き慣れた嫌な音がし、視界の端にアイコンが表示された。

『ステータス情報が更新されました』

「は?」

 アーチャーの戸惑いとは無関係に、続いてステータス情報が目の前に映る。

ホームランサー場外へかっとぶ蒼い槍兵

 はっとして振り返ればそこには遠くから衝撃波と共に飛来する、蒼い槍兵がいた。それは一直線に自分の方へと向かってきている。

「な、なんでさぁああああああああ!!!!!」
「しらねえよぉぉおおおおおおおお!!!!!」

 絶叫も空しく、アーチャーの意識はまたしても闇へと落ちていった。


――――――――――――――――――――


 いろいろな方法を試した。その結果分かったのは、アーチャーがどこにいようと宝具化したランサーが当たること、イリヤにバーサーカーを止める気がなく、一度送り出されたバーサーカーは引き返さないということだった。
 神性の高い相手に有効な鎖を持つギルガメッシュに、バーサーカーを倒してもらうという案も出た。実行しようとしたのだが、ギルガメッシュにいくら飛んでくる斧に気を付けろと忠告しても『王である我に偶然にそんなものが当たるわけなかろう』の一点張りで、全然話を聞かない。結果として全弾命中し、ギルガメッシュは毎回序盤に敗退している。
 ちなみに『ホームランサー』は電池が単三か単四か分からなくなったバーサーカーが暴れ出し、デパートの柱を手にしたときに発動する。そんなくだらない理由で自分を宝具化しないでほしいとランサーは思った。

「一体どうすりゃいいんだよ…」

 二人は初めに出会った公園のベンチで頭を抱えていた。あれからいつの間にやらここが作戦会議の場と化している。

「ねぇぴちぴちのお洋服きたむきむきのおにいさんが二人もいるよぉ」
「しっ、見ちゃダメ!」

 どうせ一般人に見られたところで同じ一日を繰り返すのかと思うと、霊体化するのも面倒になってしまった。今まで四度ほど警察を呼ばれているが、コスプレの撮影会だと言ってやり過ごしている。アーチャーが「本物のレイヤーさんがこんなしょぼい公園で撮影するはずが」などとぶつぶつ言っていたが、ランサーにはほとんど意味が分かっていない。
 おそらく体感としては既に一か月は過ぎただろう。その間ランサーは毎日バーサーカーに街中を引きずりまわされ、最終的に殺されている。終わらぬ拷問のような日々に、気が狂っていないのが不思議なほどだった。しかも、抜け出すための糸口は一向に見つからない。
 何回か前の繰り返しから一向に新しい解決法が出ず、重たい空気が漂っている中、突然何かが切れたようにアーチャーが笑い出した。
 
「ふっ…は、ははははははははは」

 ついに気が狂ったかとランサーはため息をつく。気の合わない相手ではあるが、この世界においては唯一の味方だ。ここで脱落されては困る。

「おい落ち着け弓兵。投げやりになるにはまだ早ぇぞ」
「いいや、私はいたって正気だ。ただある程度の狂気を持たないと、この状況を打破できないということに気が付いたんだ」

 それは気が狂ったのと同義ではないのかと訝し気な目でアーチャーを見る。目の色を伺えば、その焦点は一応定まっているようだった。

「これは誰かが書いている物語なんだランサー!」
「お前までメタ発言すんな!収拾つかなくなるだろうが!!」

 アーチャーの突飛な発言に対し、なぜか使命感にかられてランサーは突っ込んだ。

「いや、聞いてくれ。この世界を抜け出すためには、メタ的視点が必要なんだ」

 がっしりと肩を掴み語り掛けてくるアーチャーの眼差しは真剣そのもので、ランサーはとりあえず話を聞くことにした。

「おかしいとは思わないかランサー」
「そんなの、どこもかしこもおかしいことだらけだろうが」
「それはそうなんだが……例えばギルガメッシュについてだ」
「あの石頭がどうしたんだ」
「あの男は頑固ではあるが決して愚かではない。我々があれだけ必死に助言すれば、素直に聞き入れずとも何かしらの対応を取るはずだ。それなのに、毎回愚直に同じ行動を繰り返し、同じ結末を招いている」
「あいつが間抜けなだけなんじゃねえの?」
「おかしいのはそれだけではない。バーサーカーの斧にしたってそうだ。偶然すっぽ抜けた斧が、毎回多少違う位置にいる英雄王に寸分違わず直撃する確率は一体どのくらいだ?まるで、」

 あらかじめ決められた事象を繰り返しているかのようだ。

 ぽつりと呟かれる言葉。ランサーの背を冷たいものが走った。

「もしこの世界が物語だとすれば全てのことに辻褄が合う。決められたストーリーラインがあって、我々はそれをなぞらされているのだとすれば」
「待て待て、だとしたらオレたちが自由に動けてるのはなんでだ。こうやって昨日と違う行動もできてるだろうが」
「ある程度の自由度は許されているんだろう。おそらく物語にとって重要であればあるほど、その事象は揺るがしがたいものになるはずだ」

 こめかみがどくどくと脈打つ。指の先から冷えていくような閉塞感を覚え、ランサーは身震いした。

「古今東西、あらゆる物語に共通する、必要不可欠な要素がある」

 真剣な声音に何が続くのか予想ができずに、ランサーはごくりと唾を飲みこむ。

「それは『オチ』だ」
「…は?」

 ランサーの口から気の抜けた声が出る。そんなランサーの様子を一切意に介さず、アーチャーは滔々と語り始めた。

「物語にとって、オチは最も重要な役目を果たす。大抵の物語はオチがなければ面白くなくなってしまうし、読者もえっ、これで終わりなの?とがっかりして本を閉じることになる。あえてオチをつけずに読み手に結末を委ねる手法もあるが、それにはずば抜けた構成力が必要になってくる。少なくとも急な思いつきで二次創作を始めたばかりの輩が採っていい手法ではない。大惨事になる」
「えっ突然自虐始まってない大丈夫?」

 一瞬アーチャーは自分の口を押さえて不思議そうな顔をした。どうやら何かに憑りつかれていたようだ。

「話を戻そう。つまり、この物語にもオチが存在するはずなんだ」

 未だにアーチャーの言わんとするところが読めず、ランサーはただ聞いていることしかできない。

「私は今までイリヤが電池を手にすることが結末だと思い込んでいた。それも間違ってはいないが、おそらく真の結末の前に、もう一つオチが存在する。起承転結の転から結の間に存在する、終わりに向かう静かな雰囲気を演出するための区切り、中オチだ」
「マグロのあれか?」
なかオチではなくちゅうオチ、だ。となりのト〇ロで姉妹がおかあさんにトウモロコシを届けるのが結末だとしたら、め〇とサ〇キの再会が中オチにあたる」

 聞き慣れぬ単語の羅列にランサーが聖杯に検索をかければ、大きな複数の獣が唸り声を上げながら森の中を駆け抜けていき、大声で泣き叫ぶ少女の姿が見えた。自然の恐怖を表現したジャパニーズホラーなのだとランサーは理解した。

「この世界は、スピード感、効果音、背景から察するに」
「おいメタの度が過ぎてるぞ」
「七分くらいのギャグアニメだ」
「七分くらいのギャグアニメ」
「にもかかわらず、これだけの登場人物が存在する。綺麗なオチのために割く時間はもう残ってはいまい。これが何を意味するか分かるか」

 一度アーチャーは言葉を切ったが、ランサーは答えられずに口を噤んだ。答えを待つつもりはなかったのか、アーチャーはそのまま続ける。

「つまり、爆発オチか生贄オチしかありえないということだ」
「オレにはもうお前が何を言ってるのかわかんねえよ…」

 もはや聖杯に検索をかけても該当するようなものが見つからない。この時代にだけ存在する高度な概念なのかとランサーは頭を抱えた。

「爆発オチは読んで字のごとしだ。最終的に全てが爆風に呑まれる」
「爆風に」
「我々が今まで爆発に巻き込まれたことはない。これは排除していいだろう」

 アーチャーは平行に揃えた手を横に動かした。所謂、「置いといて」といった感じの動作だ。

「もう一つの生贄オチは、キャラクターの一人がひどい目に合うことで、話が締まるという手法だ」

 身に覚えのあるシチュエーションに、流し聞きをしていたランサーがはっと顔を上げる。

「まさか…」
「ああ、おそらくこの物語は生贄オチで、君がそのキャラクターだろう」

 話の序盤にバーサーカーに捕まり、ぬいぐるみさながらに振り回された後、最後には他のサーヴァントたちとは違う『死亡』という形で舞台を去る。誰がどう見ても一番哀れな『キャラクター』だ。

「つまり、この物語において、君が死ぬことは回避できない絶対条件だ」

 先程とは打って変わった重苦しい口調でアーチャーが断言する。ランサーはようやくアーチャーの言葉の意味を理解し始めていた。いくらバーサーカーが強かろうが、自分はああまで好き勝手されるような弱い英霊ではない。毎日殺されながら、ランサーはどこか違和感を覚えていた。しかし、そもそも初めから敗北することが決められていたというなら納得がいく。

「君が死ぬということは私が無様な敗退を喫するのと同義だ。一度あの汚染された聖杯に願ってしまった以上、君が死ねば我々はまた一日の初めに戻ってきてしまうだろう」
「じゃあ…永遠にこの世界を繰り返し続けろっていうのかよ…」

 絶望にきつく拳を握りしめれば、目の前の褐色は自信ありげに笑った。

「いいや、私にいい考えがある」


――――――――――――――――――――


「こちら、ホーク。庭園は想定通りの状況だ。いけるか?」
「…こちらウルフ。準備はできてる、いつでもいいぜ」

 東の空だけが僅かに明るく、薄闇が街を覆う中、二人はアインツベルン城を囲う森にいた。それぞれ南東と南西に分かれて木の陰に潜伏している。手に持つのはアーチャーが投影したトランシーバーだ。事前に作戦を決めてあるのだからこれは要らないのではないかとランサーは言ったのだが、まるっと無視して押し付けられた。コードネームに至っては何のためにあるかすら分からない。自分のそれが犬に関連したものであることも手伝って、ランサーは若干不機嫌であった。
 二人からして昨日、アーチャーが提案した内容は、あまりに単純なものだった。

『君の死はこの物語において確定されてしまっている。ならば、物語を始めなければいい』

 物語の起こりにあたる部分はイリヤがコントローラーの電池切れに気付くことである。ならばそれを防げばいいとアーチャーは主張した。そうすれば物語は始まらず、ランサーが宝具化しアーチャーが無残な敗北をすることもない。そのためには、イリヤが起きる前にリモコンの電池を入れ替える必要があった。その目的を果たすため、二人は太陽の上り切らぬうちからアインツベルンの城への侵入を試みていた。

「決めていた通り、一度この城に来たことのある私が城の中に潜入し、リモコンの電池を入れ替える。君はバーサーカーが出てきたときに囮となってくれ」
「ああ、分かった。いつもみたいに捕まったりはしないんだよな?」
「まだ物語は始まっていない。バーサーカーも前ほど執拗に君を追うことはないはずだ」
「了解。今はその言葉を信じるしかねえんだろうな」
「その通りだ。それで、なッ……!!?」

 突然アーチャーの声が途切れ、それと同時に遠くから大きな衝撃音がした。はっとしてそちらに目をやればもうもうと土煙が上がっている。ちょうどアーチャーが潜伏していたあたりだ。ランサーはその方向へと駆けた。

「アーチャー!!!」


 そこには、アーチャーと対峙するバーサーカークラスの英霊の姿があった。闇の中にうっすらと浮かぶ巨大な体躯はまるで森の一部とでも錯覚しかねない大きさだ。

「思ったより早いおでましだな…!!森のほうから来たのか?一体なぜこんな時間に」

 苦々しい口調でアーチャーが言う。その体に外傷はなく、双剣を手にバーサーカーを睨み付けていた。
 
「があああぁあああああああ˝あ˝あ˝!!!!!!!」

アーチャーの疑問に答えるようにバーサーカーが咆哮する。空気のびりびりとした震えが二人の頬に伝わった。

「なるほどねぇ、嬢ちゃんのためにそんなことするなんて、殊勝な心がけじゃねえか。だがオレらはここで殺されるわけにゃあいかねぇんでな!!」

そう言って朱い槍を構え直すランサー。その横のアーチャーは怪訝な目でランサーを見つめていた。

「おい、槍兵」
「なんだ弓兵。今カッコよく戦闘シーンに移行する感じだったろ。間抜けな顔すんな」

 ランサーの軽口にも応じず、心底理解できないという口調でアーチャーが言った。

「貴様、まさか、バーサーカーの言葉が分かるのか?」
「は?何言ってんだ?普通にしゃべってたじゃねえか。片言だけどよ」
「いいや、私にはただの叫びにしか聞こえなかった」

 ランサーははて、と首を傾げた。確かに自分には意味が聞き取れたのだ。

『イリヤ、ハナ、スキ。モリデ、ツンデタ』
 
 気のせいだったのかとはてなマークを飛ばし続けるランサーの横で、アーチャーは一つの可能性にたどり着いていた。

「もしや貴様、バーサーカーと行動を共にする間に、言葉を理解できるようになったのではあるまいな」

 二人の間にしばし沈黙が落ちる。それを破ったのは視線に耐えきれなくなったランサーの方であった。

「…やめろ、そんな憐れむような目でオレを見るな」
「自分に害をなすものに対して意思疎通を図ることで、少しでも生存確率を上げようという涙ぐましいどりょ」
「うるせぇ黙れ」

 アーチャーの言葉を遮り、荒い息をあげる敵へと向き直る。バーサーカーは二人の会話が終わるまで待ってくれていたようだ。根は優しいのかもしれない。

「ちょっとバタついたがやることに変わりはねえ。オレが囮でお前が城の中に行く。多分素直には通しちゃくれねえだろう。隙ができるまで手を貸せ」
「別に、アレを倒してしまってもかま」
「やめろ最後まで言うな多分死ぬぞ」

 むぅと不満気な声を上げるアーチャーを無視し、ランサーはぐっと体の重心を下げた。

「じゃあ手筈通りに、例のベンチで合流な」
「ああ、お互い無事に会えることを祈ろう」

 アーチャーの返事を皮切りに、二人は同時にバーサーカーに飛び掛かった。

「おおぉおおおおおおお˝お˝お˝!!!!」

 大地が震えるような咆哮と共に、二人の攻撃が大斧で薙ぎ払われる。ランサーは衝撃を受け流すためにつま先に重心を移動し、地面を滑るように後退した。顔を上げればバーサーカーはこちらに背を向けている。どうやらアーチャーを標的にしているようだ。これではランサーを囮にするという事前の計画とは逆になってしまう。

「こっちを向きやがれ、バーサーカー!!」

 バーサーカーの大きな背中を狙い、朱い槍を閃かせる。その穂先が肌に触れるか触れないかという瞬間、バーサーカーの剛腕がうなりを上げてそれを払った。素早く手を組み替え槍を持ち直し、再び後ろへと飛び退く。暗闇に光る瞳がゆらりとこちらを向いた。

「そうだ、いい子だ。お前の相手はこのオレだろ?」

 にやりと笑って挑発すれば、バーサーカーの口の端から漏れる息がさらに荒くなる。視界の端にアーチャーが走っていくのが映った。

「ぐぁがぁあああああああぁああ!!!(ワンチャン、アソブ)」
「あぁ!?誰が犬だ!!」

 斧を構えて突進してくるバーサーカー。噛みつくような勢いで反論しながらもランサーは冷静に横へと体を翻らせた。振り向きざまに振り下ろされる斧を跳躍で回避する。先程まで自分がいた地点には土埃が舞い、深々と斧が突き刺さっていた。武器が地面に捕らわれている隙を狙いその肩に向けてランサーは槍を突き入れる。

「ぐぎぎぎぎぎぎぎぃいぎぎぎぎぎ!!!(ドッコイショーーーー!!!)」
「なぁ!?」

 嫌な予感に咄嗟に槍を引き体をしならせて回避の姿勢をとれば、引っこ抜いた勢いのまま斧が眼前を通過した。チリッ、と空気が裂かれる音がする。どんだけ腕力あるんだよ、と心の中で舌打ちした。慌てて体勢を立て直し、振り下ろされる斧を槍で受け止める。
 ゴツンという鈍い音と共に、とんでもなく重い一撃がランサーの腕と肩にのしかかった。力比べになっては長くはもつまいと判断し、斧を思い切り押した反動で後ろへと跳び退く。

「いてて…馬鹿力め」

 肩をバキバキと鳴らしながらも、ランサーの口の端に浮かぶのは紛れもない笑みだ。強大な力を持つ敵と相対して、戦士としての血が騒がないわけがない。

「オレぁ嬉しいんだぜバーサーカー。妙な力の影響もなく貴様と戦えてよ」

 この戦いにおいて、ランサーはいつもバーサーカーに捕らえられてしまうときのような理不尽さは感じていなかった。アーチャーの推測通りまだ物語は始まっておらず、ランサーの行動に制限が掛かっていないのだろう。

「だがな、オレにはひとつ納得がいかねぇことがあるんだ」

確かにこの戦いは楽しい。しかし、吐き出さずにはいられないモヤモヤが、ランサーの胃の底にあった。

「一体、オレは何と戦ってるんだァァアア!!!!」
「ぐわああぁあぁぁぁぁぁああああ˝あ˝!!!!(ワカンナイ!!)」

 世界の理不尽さを嘆いたランサーとバーサーカーは、同時にお互いに向けて駆けだした。


――――――――――――――――――――


 いつもの公園のいつものベンチ。そこではいつもの二人が顔を突き合わせていた。一つだけ違うのは、その手に新聞が握られていることだ。

「ランサー、これ読めるか。新聞のこの欄には発行された日付が」
「馬鹿にしすぎだろさすがに分かるわ」

 あれからアーチャーはアインツベルンの城に忍び込み、無事に電池の交換を済ませていた。目的を達成し、城の外に出てみれば、お互い満身創痍で胡坐をかき、親し気に語り合うランサーとバーサーカーの姿がそこにはあった。お前も色々大変なんだな、ううぅぐおぉ、などアーチャーには理解不能な会話が繰り広げられており、そのままではそこに昼まで居座りかねなかったランサーを引きずって、アーチャーはアインツベルン城からの撤退を果たした。
 そして今日、再びこの公園へと集っている。二人が確認していたのは、新聞の今日の日付の部分だった。そこには飽きるほど繰り返した一日の、次の日付が刻まれている。

「見間違いじゃねえよな」
「あぁ、確かに『明日』の日付だ」

 半信半疑でランサーが問えば、アーチャーもにわかには信じがたいといった様子で返した。数秒の後、ランサーは力強く拳を突き上げた。

「よっしゃー!!オレたちはあの忌まわしい一日を抜け出したんだ!!」
「やめろランサー、目立ってはまずい。もうやり直しは効かないんだからな」

 冷静に窘めるアーチャーだったが、押さえる手の下では唇が弧を描いていた。ランサーは何度も日付を見直しては、その度にアーチャーの背をバシバシと叩いている。普段なら皮肉か鉄拳の一つでも飛ばすところだが、散々ひどい目に合ってきたことを思えば仕方のないことだろうと、アーチャーは甘んじてそれを受けた。
確実に次の日への脱出を果たしたのだと理解できた後、二人はすっくと立ちあがった。

「じゃあな、アーチャー。次会うときは敵同士だ」
「ああ、存分に相手をさせてもらおう、ランサー」

運命から抜け出したアーチャーとランサーは互いに背を向け、反対の方向へと歩いていった。

それからイリヤが生活のほとんどをテレビゲームに費やし、一週間後にリモコンの電池を切らして再びあの惨劇が起こることを、二人はまだ知らない。


Comments

  • そー
    February 3, 2018
  • ツキ影
    February 3, 2018
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