プロジェクト・ヘイル・メアリーの適任者
この記事が無事バズってくれたから、ちょっとだけ補足を書いておく。
「厳密に考えるとこの理屈は怪しいのだが…」と書いたところがある。
この部分。
仮に、適任順に並んだ人材のリストがあるとする。1番目から順に、1/7000のくじを引いてもらって、それに当たれば候補者にできる、と考える。そうすると、だいたい3500番目ぐらいの適任者になる… ということだ。
答えを書くと、平均すると7000番目の適任者しか選べない。
これは、「確率pで起きる事象が起きるまでの試行回数」と定式化できる。
そうすると、その答えは簡単に出る。
zakiiさんという方のサイトから引用する。
(本からの再引用になるが)
まず、期待値をEとおく方法。
期待値をEとおいて
(i) 1回目に出会う場合、確率はpで回数は1
(ii) 1回目に出会わない場合、確率は(1-p)で回数は(E+1)回
したがって期待値Eの方程式が作れて
E=p\cdot1+(1-p)\cdot(E+1) \therefore E=\frac{1}{p}
次に、素朴な方法。
素朴な解法は、最初のn-1回起きずにn回目で初めて起きる確率を使って期待値を計算すればよいから
E=\sum_{n=1}^{\infty}n(1-p)^{n-1}p=-p\cdot\frac{\partial}{\partial p}\sum_{n=1}^{\infty}(1-p)^n\\ =-p\cdot\frac{\partial}{\partial p}\left(\frac{1-p}{1-(1-p)}\right)=\frac{1}{p}
いずれにせよ、答えは1/p。ここで、p=1/7000とすれば答えは7000。1/7000のくじを引いて当たりが出るまでの試行回数の期待値は7000だ。
なんなら、検証スクリプトを書けばすぐに確認できる。
この問題は、「1/7000のくじを引いて当たりが出るまでの試行回数の期待値は?」という形で出されたら、多くの人は答えが出せるだろう。
しかし、SF小説の中で、「平均すると3500番目です」と言われると、なんとなく受け入れてしまう。
人間の直感は当てにならないという例だ。
さて、平均すると7000番目の適任者になるということは、この小説(原文)の体験を悪くしているだろうか?
そうは思わない。
多くの人はそのまま「そうか、平均すると3500番目か」と受け入れられるからだ。
ぼくも、誤訳指摘記事を書くために読んでいるのでなければ気づかなかったところだ。
しかし、作者の意図としては、読者の間違った直感に訴えるつもりはなかった(実際に平均すると3500番目だと思っていた)のではないかという気もする。


コメント
2誤訳が多い小説だなと思ってネット検索していてこの記事にたどりつきました。
“「確率pで起きる事象が起きるまでの試行回数」と定式化できる。”と、とらえていらっしゃいますが、小説では主人公が各試行を独立事象とは考えなかったという話なのだと思います。
問題を「集めた7000人のなかに1人だけ適任者がいるとする。そこから1人づつ適任者かどうか確認していくと何人目で適任者に出会えるか」とすれば期待値は3500.5となり主人公がいう3500とほぼ一致します。
簡単に三人で考えてみます。
(1)一人目で出会う確率: 1/3
(2)二人目で出会う確率: 2/3×1/2
内訳
・一人目で出会えない確率は 2/3
・一人目に出会えなかった前提のときは、残り二人の片方が適任者だから確率は 1/2
(3)三人目で出会う確率: 1-(1/3+2/3×1/2)
となり、どれも1/3。つまり、期待値は2人目となります。
主人公が1/7000の確率の独立事象とは考えていないことが、次に続くセリフ(世界の人口の7000分の1は云々)にもつながっているのだと思います。
この小説とても面白かったのですが、ところどころ、特に「3,500人にひとり」が理解できずにもやもやとしていました。「最悪6,999人をスルーすることになるが、平均すればスルーするのは3,500人だ」ということなのですね。あなたの記事に救われました、ありがとうございます。
また二項分布として考えると、ストラットの「7,000番目になる」という発言が正しかったとも取れるという事実は大変面白いです。
グレースは非復元抽出で考えてしまっていたんですね。母集団がとても多いのに。