【槍弓+士】今日も隣人が、クダ巻く兄貴に猛烈アピールをしてくる【現代兄弟パロ】(完結)
現パロ槍弓。フラれてクダ巻く弓を槍がぺろっと食おうとしている小話。弓と士郎が兄弟設定です。
弓→→→←槍ではなく、弓→→←←←←槍。
Twitterにてリハビリがてら書いた習作。士郎視点→槍視点→士郎視点と3作まとめました。
しばらくTwitter(ぷらいべったー)にて小話書いてリハビリしています。
現在カルデア時空食料調達広義槍弓書いてます。よろしくお願いします。
Twitter→twitter/ryakushiki_K
- 348
- 415
- 6,749
今日も隣人が、クダ巻く兄貴に猛烈アピールをしてくる
そのあまりに見慣れた光景に、衛宮士郎はまたかと半眼になる。
「…………、」
今日も今日とて長身褐色ガチムチ白髪男が、ごっつい肩をしょぼつかせて樫のテーブルにべったり懐いている。
夕飯時はとっくに過ぎた22時、デジャヴさえ感じる光景が、まっとうに青春している男子高校生の眼前に広がっている。
またか。まただな? と、見慣れた状況すぎて、もはやため息すら溢れなかった。
「体はつまみでできている…」
ぼそり、と聞こえてくるつぶやきにも力がない。士郎は手慣れた手付きで、空になった皿を下げて、代わりにオクラを添えた湯豆腐を並べておいた。いくら明日休みとはいえ、胃や肝臓への負担を鑑みた結果だ。
ガスコンロには、すでにしじみの味噌汁も用意してあるし、明日の朝食(本来の朝当番は机でくたばってるデカブツだ)の下ごしらえだってしている。自分で言うのもなんだが、できた弟だと思う。ほんとに。
「血潮は酒で、心は硝子……」
「言うほど強くないだろアンタ。水置いとくぞー」
「チッ…。小僧のクセに生意気な……。貴様に女難の相A+を付与してやる」
「堂々舌打ちすんな! ていうか実の弟呪うのやめろ!」
こちらを一瞥もせず、幾たびの合コンを越えてフハハと自嘲を始めたので、もうほっとくことにした。
繰り返すが、22時である。穂群原学園のブラウニー二代目と(不本意ながら)呼ばれている士郎の朝はとても早い。
鍛錬もしたいし、夕飯の仕込みも済ませておきたいし、部活にも顔を出したいし、備品の修理だっていくつか終わらせておきたい。そこでぐだぐだクダ巻いている社会人と違って、一日一日が貴重な学生は忙しいのだ。
ちなみに、穂群原学園のブラウニー初代は、このダメ社会人であり士郎の実兄である。彼の人の名をアーチャーと言った。
「不本意ながら貴様と私は血縁者…。喜べ、お前も立派な女難の相持ちだフハハ」
知っているぞ、貴様、凛と桜くんとで二股かけているそうじゃないかとんだタラシではないか女の敵めと据わった目で痛いところを容赦なくブッ刺してくるのから「あーあー聞こえなーい、キコエテナーイ!」と足早に逃げていると、アーチャーの斜向いから、快活で底抜けに明るい笑い声が聞こえてきた。
「坊主もすみにおけねえなぁ。なんだァ? 両方食っちまおうってハラかい? なかなかやるじゃねーか」
「ンなわけないだろ恐ろしいこと言うな! むしろ食われそうなのはこっちの方だよ!」
「貴様のような優柔不断のクソ野郎がいるから戦争が終わらんのだ。地獄に落ちろ衛宮士郎」
「それ盛大なブーメランだからなお前?!」
状況を忘れて思わず大声で言い返すと、白い頭がもぞりと動いて、また机に突っ伏してしまった。特大のブーメランが脳天にぶっ刺さったらしい。
言わなければいいのに。どうせ刺さるんだから投げなければいいのに! 酔っぱらいとは難儀なもんだなと、士郎は遠い目をする。ついでに、俺は絶対こうはなるまいとも。
目眩がするほど見慣れたこの光景。
アーチャーが酔っぱらいながらクダを巻き、それを横目で見ながらつまみを作る俺。ついでにご相伴に預かる謎の外人。
つまるところ、これはフラれた男の残念自棄酒会なのであった。
「今回は…なんだっけ。その、お付き合いしてた相手に喧嘩別れした男がいて、結局元サヤに収まったとか、そういう」
ブーメランとは言え、傷心相手に悪かったと多少の仏心を出した士郎は、山芋の短冊を出しながらおずおずと問う。
前回は、確かあまりに高すぎる女子力と奉仕体質のせいで、「どうあがいてもあなたには敵わない」とか言われて散ったんだっけな。
へたに突っつくと地雷を踏むのがわかっていても、訊ねずにはいられない、損な役回りな衛宮家であった。
「……お付き合いした相手に喧嘩別れした男がいて、その男はその後相手の親友とお付き合いをしていたが、相手のことが忘れられずに、結局私が仲介して親友共々元サヤに収まった」
「修羅場かな?」
「そして、登場人物は全て男だった」
「地獄だな!」
修羅場通り越して、いっそ清々しい程地獄の釜の底だった。
この、不貞腐れたように山芋をつまんでいる男は、いわゆるパンセクシュアルというやつで、「可愛い子はみんな好きだよ」がそのままの意味で全てであるという、人類皆恋愛体質であった。
老若男女関係なく、好きになったひとが好き。そういうある意味おおらかで、マイノリティで、そしてきっと誰にも理解されないそんな男は、遠い目をしてグラスの氷をからんと鳴らした。
「……いいんだ。誰も悲しまないなら」
「アンタはまたそういう……」
お前が悲しんでるだろ! と出かかった言葉を無理やり飲み下したせいで喉が痛んだ。
大方、お付き合いした相手の相談事に乗って、親身になって介入して、結果自分が身を引いてめでたしめでたしと幕引きしたんだろう。
目に見えるような大団円で、笑えないほど喜劇過ぎて、呆れ通り越していっそ哀れに思えてくる。
お人好しにも程があるだろと、唇を尖らせちびちび日本酒を飲んでいる実兄を見下ろしながら、気づかれないようそっとため息をこぼす。
誰も悲しまないならいい。その気持ちが理解できるからこその、無言の吐息であった。
が。
「ほんっとお前、毎度毎度懲りねえよなぁ。いい加減俺にしとけって言ってんのに」
「…犬小屋に帰れわんこ」
「わんこっつーな! あとアレは犬小屋じゃねえ! 離れだ!」
そんなしんみりした空気をもろともせずに、真夏の陽光が如き明るさでウザ絡みしてくるのが、謎の隣人ランサーという男であった。しょぼくれた肩を強引に引き寄せて、やんやと騒ぎながらもぴったり密着している。
いやアンタくっつきすぎだろ。その暑苦しい光景からどうにか目をそらしながら、
「ランサー。あんまり雷画さんに迷惑かけてるんじゃないぞ。そろそろ独り立ちしたらどうだ」
と渋い顔を見せるとランサーは。
「や、どうせアパート借りたって、すぐ引き払うことになるだろ。そんときゃ坊主よろしくな!」
「何がよろしくなんだ何が!」
「えー、義理のお兄ちゃんとも暮らしたいだろー?」
「兄貴はひとりで十分です!」
これである。
黙ってさえいればたいそうなイケメンなのに本当に、ほんっっっとうに(クレシェンド)、どうしようもなくもったいない。
残念すぎてため息も出ない。士郎は胡乱な目をして遠くをみやった。
頭に謎とはついているが、このランサーという男は、どこぞのいいとこの坊っちゃんらしく、粗雑に見える所作にもどこか品がある。たとえ山芋の短冊をつまみながらむさ苦しい大男をあの手この手で口説いていてもだ。
何が気に入られたか、いや大体察しがつくけれど、突如ふらりと冬木の町に現れた職業不詳の怪しい外国人が、お隣の藤村組の大親分に客人と迎えられたのがここ数年の話。
それから毎日のように衛宮家の食卓に勝手に上がり込み、欠かさず夕餉をともにし、さらに言えばフラれて酔ってぐだぐだにクダ巻いている兄を懲りることなく熱烈に口説いている。
なにがどうしてこうなった。
答えは目の前にいるやたら顔のいいお兄さんしか知らない。
「なぁなぁ。ほんとさ、諦めて俺のモンになればいいだろ。ずっとテメェひとり、大事にすっから」
「バカを言うな。キミをそんな目で見たことなんかない」
「今からそーいう目で見りゃいいじゃねーか。俺の顔好きだろ?」
「好きじゃ」ないと言いかけたアーチャーの眼前に、端正な顔立ちが、鼻先がくっつく程迫っていて、紡ぎかけた言葉を飲み込んだ。
紅い双眸が、偽りなど許さないと雄弁に物語っている。
アーチャーは赤らんだ顔で首を横に振り、諦観と感嘆とが入り混じりのため息をこぼした。
「……好きに決まってる」
「じゃあ何も問題ねーだろ。なんでいっつも嫌がんだよ」
低く艷やかなテノールが、アーチャーの耳朶を震わせる。
間近で皿を片付けていた士郎の耳にも否応なくそれは届いて、なんだか妙に背中がゾワゾワした。
「……キミを、恋愛対象としては見れない」
「…だから、なんで」
「きれいだから」
ぽつり、と呟かれた言葉は、ぽとりと落ちて、こぼれて、テーブルをほとほと転がっていく。
「きれいだから、ふれたくない。キミはそのままでいてほしい。わたしはそれを、遠くで見ていられればそれでいい」
それで十分だ、とうっすら淡く微笑む男を見たランサーの切れ長の目が、大きく見開かれる。
憧憬。
多分、その言葉が一番しっくりくるかもしれない。
酒精で赤みを帯びた目元が柔らかく緩められる。
ああ、それでか。その横で、士郎は得心がいったように目を瞬いた。
何度となく口説かれて、甘い言葉を囁かれて、しつこく俺のものになれとのたまう男に、それでもなお首を横に振り続ける兄の姿を幾度となく見てきた。
普段の二人は皮肉と罵詈雑言の応酬で、口と同じくらい手足が出て殴る蹴るわの酷い有様で、どこをどう見ても仲は険悪なはずなのに、鼻息荒く去るランサーの背中を見る兄の目はどこか穏やかだった。
兄はひとを嫌わない。特別扱いもしない。お付き合いするようなひとができても、きっとその他の誰かと同じように、平等に、別け隔てなく接するだろう。
だから長続きしないんだと、長年傍にいる弟は、きっと本人よりも理解している。
それを教えたところで、特別な誰かになりたいなんて発想も願望も持ち合わせてないコイツは、おそらく何も変わらないだろうとも。
「あー。もう、お前はほんと、」
しばしぽかんと目を丸めていた蒼髪の男は、うつむきがしがしと乱暴にその頭をかき回して、なみなみ入った杯を一息で空にした。
杯を乱暴に置き、唸り、歯ぎしりし、好きだと言われた顔を乱暴に擦る。
一拍の沈黙の後、ゆるゆると視線が持ち上げられた。
「……ひ」
紅。
こちらに向けられた強い光に、中腰になってそろりと様子を伺っていた士郎は慌てて踵を返した。
転がるように台所へ行き、空の皿を水を張った洗い桶に突っ込む。「俺もう寝るから! あとはよろしくなランサー!」と言い捨てて、逃げるように、否、脇目も振らずに部屋へと逃走した。
特別を望まず、誰もを平等に扱う男が、実の弟以外に唯一粗雑に扱う男。
作り笑いも浮かべず、仏頂面で、遠慮呵責なく皮肉交じりの暴言を向けるただ一人の人間。
それが特別でなくてなんだって言うんだ。
多分、アイツはさっぱり自覚がなくて、そしてあの野獣はばっちり自覚していて。
ずっと噛み合わずにガリガリ軋んだ歯車が今、とうとう瓦解して弾け飛んだ。
「……許せ、アーチャー」
なんか向こうでどたんばたんと騒々しく音がするが、きっと気のせいだ。
怒声と悲鳴と、あとなんか色々入り混じりの声も聞こえてくる気がするけど、多分幻聴だそうに違いない。
部屋に飛び込み頭まで布団に潜り込んで、うつ伏せのまま両手を合わせて、デカい羊を哀れんだ。
無自覚とはなんて罪深いことか。
焦らすだけ焦らした挙げ句、眼前に吊るした餌を無造作に無慈悲に池ポチャなんてしたら、お前の言うわんこがどうなるかなんて、わかった話じゃないか。
わんこなんて可愛いもんか。アレは間違いなく人食い狼だ。
「……梅粥でも増やしとこ」
何をやってるかは知らないが(知りたくもない)、きっとふたりとも明朝は起きて来ないだろう。
アーチャーはいつものごとく泥酔していたし、酒豪のランサーだって、明らかに常より酒の量が多かった。
あのお人好しのニブチン野郎を口説き続けてはや幾年。
不撓不屈のガッツ持ちも、もしかしたらそろそろ限界だったのかもしれない。
逆によくぞ今日まで我慢してきた等と他人事のように思う。
そう、親兄弟とて死ぬときゃ他人なのだ。
だから。
「俺にまで敵意向けてくんのやめろよなぁ……」
刺し貫いてきた鮮烈な紅を思い出しながら、そのガタいのいい羊は差し上げますので、どうか俺は殺さないでくださいと、理不尽に牙を向けられた哀れな弟は、必死に懇願するのであった。
そして、明くる日の夕方。
「よっす坊主。今日から俺もここに住むことになったから」
よろしくな! と、きらっきら光弾けんばかりの笑顔で宣言する見目麗しい野犬と、疲労感の抜けない顔で無言を貫く兄が仲良く己の眼前に並ぶのを、どうぞおしあわせに出てけこの野郎どもと、遠い目で眺めるのであった。
おわり