light
The Works "衛宮古書店の事件録④" includes tags such as "Fate", "槍弓" and more.
衛宮古書店の事件録④/Novel by ち

衛宮古書店の事件録④

5,749 character(s)11 mins

大変大変遅れてしまいました。
第4弾。

多分まだまだ続きます

さていつになったら槍弓ちゃんはくっついてくれるのか……

今回はエルキドゥさんが友情出演です!(`・ω・´)ふんすっ!

1
white
horizontal

衛宮古書店の事件録④


仕事もやっとひと段落がつき、そろそろ終電がなくなってしまうと気づいた頃には社内に自分以外誰もいない。それになんの感情からかため息をひとつこぼすと帰る準備を済ませ、デスクパソコンの電源を落とす。


「おい、駄犬」


いきなり後から声をかけられれば誰でも驚くであろう。かくいうランサーも驚いた様子で声の主を振り返った。
「びっ……くりさせんじゃねぇよ!」
「なんだ、我が来たことに気が付かなかったのは貴様だろう。なに、今日の我は気分がいい、家に来ることを許可してやろうと思ってな」
誰も聞いてないのに説明ご苦労様です。という言葉をゴックンと飲み込んでどうせ断れない上司、ギルガメッシュの家へと向かうことが確定した。
「そう嫌そうな顔をするな、お前の気に入りのモノも家にいる」
「は?お前が何言ってるのか全くわかんねーよ…」
上司と言っても大学時代からの同年代の友人だ、プライベートとなれば敬語はすぐに外れた。
ギルガメッシュの豪邸に着くとふわりといい香りが腹の虫を鳴らす。
「…もしかして」
「気に入りだろう?」
したり顔で笑うギルガメッシュにランサーは困ったように笑った。




「戻ったぞ」
「ああ、随分遅かったな」
ぱたぱたと中から出て来たのはよく知った顔。
「ギルガメッシュから誘いが来たのでな、遊びに来たんだ」
ふわりと笑う衛宮にランサーの体の疲れはどこかへ飛んでいったらしい。ギルガメッシュはそれを見て少しため息をついたあと、衛宮が作っていた晩飯を食べることにした。




成人男性三人が家ですることといえばたいてい決まっていた。
大理石で出来た机の上には高そうなウイスキーやらワインやらと中ハイの空き缶が数缶並んでいる。
「そういやぁ、坊主はどうしたよ1人じゃねえのか?」
「ああ、友人の家に泊まるんだそうだ」
「なんだ、あの小僧にも女ができたか」
ケラケラと笑う金髪にあからさまに不服そうな顔をする衛宮。
ランサーがなんとかこの話題をそらそうとふと見つけた写真たてを指さした。
「へぇ、ギルガメッシュ姉ちゃんいるんだな」
「ん?…ああ、残念だがそれは従兄弟の男だ」
「男!?これが!?」
写真に食らいつくように見るが、どう見たって女にしか見えないぱっちりとした二重の目に長いまつげ、細い体に綺麗な黄緑の長い髪。どう見たって女性にしか見えないそれにランサーはあんぐりと開いた口が塞がらないでいる。
「我のオカルト好きもそれから始まった」
「ほう、ということはその従兄弟のお兄さんもオカルトが好きということか」
「心霊スポットとか連れていかれなかったのか?」
「当たり前のように連れていかれた」
「なんか話してくれよ」
ランサーの言葉に衛宮は「あ、こいつもギルガメッシュのあとを追いつつあるな…」と中ハイをまた一口のんだ。
「そうだな…我のいた地元では夏に一度やまびこ祭りというものがあった」




その日は毎年親戚がギルガメッシュの家に集まり酒盛りをするという子供には幾分つまらない宴会が繰り広げられていた。
当時小学5年生くらいのギルガメッシュと、中学3年生の従兄弟のお兄さんエルキドゥは酒盛りもできず大人の会話の内容もあまり面白いものではなかったので二人でやまびこ祭りへと行くことにした。
幸い放任主義なうちの家庭は二人で行くことになんの反対もせず、遅くなるなという注意だけして家を出させてもらえた。
「やまびこってね、神様の返事だって言われてるらしいよ。だからいつものあの岩に登って願い事を叫ぶんだって。知ってた?ギル」
「エルキドゥは神様がいるって信じてるの?」
質問に質問で返すのはいつもの事。エルキドゥはふふっと笑って何も答えなかった。
祭り会場へと到着すると、家を出てくる時に持たされた小遣いで腹をみたす。
その後ギルガメッシュが金魚すくいをやりたいと言い出したのでその屋台へと向かった。
「僕さ、昔、金魚すくいの【すくい】って救うことだと思ってたんだ」
「…学校は大丈夫?」
「ははは、それで、前の年に破れたポイをひとつ貰って破れない紙に張り替えたんだよ。あの時のおじさんの顔は面白かったなぁ」
その会話を聞いていた店主がこちらを睨みつけていることを無視して、二人で合わせて二十匹はとった。そのうちエルキドゥは二匹もらってその屋台をあとにした。ギルガメッシュは生き物の世話は面倒臭いからとすべて返してしまっていた。

『時間になったので、子供たちは広場へ集合してください。繰り返しますーー』

やまびこ祭りの醍醐味。収集がかかる。
「行くの?」
「そりゃあね」
エルキドゥに手を引かれギルガメッシュは広場へと足を進める。
係員に番号のついたカードを渡され、そのまま先頭の大人について行く。
子供たちは思ったよりも人数がいて、向かっている最中、それはそれはうるさかった。
列の所々にいるエルキドゥと同い年くらいの男子が提灯を持っていてさほど暗くはなかったものの、祭りの明かりから遠ざかっていくたび山の不気味さは増していった。その頃ギルガメッシュはあまりそういうものが得意ではなかったため、エルキドゥの服の裾をつかみそろそろと後ろを歩いていた。
黙々と歩き、随分と高いところに来ただろうというところで、一気に広い場所へと出た。
一枚の大きな岩が山肌から突き出ていて、子供たちの集団はその上に立っているようだった。周りは落下防止用のフェンスで囲まれている。
今更だが、二人はやまびこ祭りに来たことはあるが、この行事に参加することは初めてだった。
一人の男子が「今からあそこで叫ぶんだよ」と丁寧に説明を施すがギルガメッシュは聞いちゃいなかった。
カードに書かれた番号順。二人は最後の方だった。
暗くてよく分からなかったが、フェンスの向こうは崖か谷のようだった。
一人目の男の子がそこに立ちありったけの声で何かを叫んでいた。
その声は若干のタイムラグのあとちゃんとやまびこで帰ってきた。

「…誰の声だろう」

エルキドゥの言葉にギルガメッシュはぶるっと身震いをひとつした。
この時のエルキドゥの真顔での一言は今思い出しても背筋がこおりそうになる。
エルキドゥはあたりをキョロキョロと見回していた。
その間に二人目、三人目とどんどん順番が進んでいく。
やまびこが帰ってくるたびエルキドゥの顔つきは真剣なものになって言った。
「え、エルキドゥ…?」
「…ギル、心配しないで、ここにいてね」
そう言うとギルガメッシュの裾を掴んでいた手をそっと離し、カードの番号を無視してエルキドゥは突き出ているそこへと向かった。周りが順番を守れだのどうしただの言っていたが、それはもうエルキドゥの耳には届いていないらしかった。

突き出た岩の先、落下防止用のフェンスをつかみ、大声で叫ぶ。
「誰!答えて!」
エルキドゥの声は帰ってこなかった。


代わりに崖のしたから突風が吹く。
周りの子供たちは全員固まっていた。もちろん引率していた大人でさえも。
「はははははっ!」
ただ1人、エルキドゥだけが笑っていた。
呆気に取られる周りをよそに、エルキドゥは崖のしたをのぞき込む。

「すっごい!やまびこなんかじゃない!人だ!人だよ!あはっ!ほら!来て!みんなに見せてあげてよ!」

その瞬間、別の叫び声が響いた。隣にいた小さな男の子だった。
叫びたくもなる、無数の人だ。ありえないくらいの長い細い手が無数に崖のしたから伸びてフェンスを掴んでいるのだから。
何かが這い上がってきている。
気がつけばあたりはパニック状態。叫び声は叫び声を誘発し、場の混乱は個人の思考の自由を奪う。
殆どのものがその場から逃げ出し、岩の上に残っているのはエルキドゥとギルガメッシュ、二人だけとなった。なんとか動く足を前に進めて従兄弟の名を呼ぶ。
「エルキドゥ」
聞こえていない。もう1度、今度は腕を掴んで。
「エルキドゥ!」
ふっと白い腕は崖下へと消えるように戻っていき、エルキドゥはふとこちらを見るといつものように微笑んだ。
「みんないなくなっちゃったんだね」
「ぼ、僕がいるでしょ」


二人で静かになってしまった山道を下る。
「…あれ、何だったの?」
「わからない、けど、口がいっぱいあった。目も、鼻もなくて口だけ。それが僕の言葉を真似してた」
背筋が凍る。
「…どうしてわかったの」
今更震えがぶり返して、最後の方は声が震えてしまっていた。それに気がついていても、エルキドゥは笑わなかった。
「声がしたんだ。崖下から。普通のやまびこっていうのは山からの音の反射でしょう?それが崖の下、近いところから聞こえたんだ」
ギルガメッシュには何も聞こえなかった。そもそも白い腕を見たのだってエルキドゥの言葉がなければ見れなかっただろう。
「お祭りに来る前にした話、あれ父さんから聞いた話なんだけどね。やまびこが神様の返事ならあれが神様になるのかな」
「…みんな同じだった?」
今度はちゃんと震えずに言えた。それを褒めるようにエルキドゥはギルガメッシュの頭を撫でる。
「男の人も女の人も、髪の短い人長い人それぞれいたけど、やっぱり共通は顔中口だらけってこと」
それが神様なんて信じたくないとふるふると無意識に首を降る。そもそも崖下から這ってくる神様なんて聞いたことがない。
エルキドゥはそれに気づいたようでふふっと笑い声を漏らす。
「僕も、あれは神様じゃないと思うよ。ここからは僕の勝手な想像だけど、ここが神様にお願いをする場所だと仮定して、飢饉や長期間雨が降らないことがあったとして、叫ぶだけで神様は願いを叶えてくれると思う?」
エルキドゥが難しい単語を使うのであまりちゃんとは理解していなかったが、やはり何かを願う、頼むのならばそれなりの対価がいるだろう。今度は意識的に首を振るとエルキドゥがうなづいた。
「うん、僕もそう思う。対価なしに希望を叶えてくれる神様がいたら世界の秩序が成り立たないしね。やまびこを神様の返事っていうのも納得がいかないし、自分の声が帰ってきたとして、それは神様の返事ではないと思うんだ。どこの山でもできるしね」
こういう説明を聞いていると、やはりエルキドゥは頭がいいのだと最確認した。なにを言っているのか3割ほど理解できないが、小学五年生の目には中学3年生というのは立派な大人に映るのだ。
「だとしたら、神様にはらうたいかはなんだろう?」


「…生贄…?」


「そう、まぁ、極端な話をすれば、だけどね。でも僕はアレはソレじゃないかと思う」
今の時代の感覚では到底理解できないその風習。
「人を捧げて、願い事を叫ぶ。そうしてそれを神様の返事ということにする。……もし、あそこから落とされた人達がそれを信じていたとして、自分が犠牲になることで人々が幸せになるって信じていたとして、その意志が谷底にまだ残っていたとして、そこにたくさんの願い事が降ってきたとしたら」
喉の奥が何故だかきゅうっとなる。
「たくさんの口が、ずっと何かを言ってた。よく聞き取れなかったんだけど、たぶん『お願いします、お願いします』って…あの人たちは聞こえてくる願いに一生懸命応えようとしているんじゃないかな。……全部仮説なんだけど……ふふ、ギルは優しいね」
なぜだか分からなかったが、視界がぼやけて、たくさんの涙が溢れてきた。
それでも幼いなりに考えていた疑問がひとつあった。
生贄とは、命を犠牲に願い事を叶えようとする行為だ。だとしたらやはり願い事を叶えるためにはそれなりの対価、命が必要なんじゃないだろうかと。それでも、願い事がかなったエルキドゥは健在でここにいるし、ギルガメッシュだってそれにならっている。だとしたら、願いを叶えるためにそいつらが要求するのは命ではないのか。よく分からないままエルキドゥのケータイの明かりを頼りに山道を降っていった。
帰宅して気がついたことだがエルキドゥが持っていた二匹の金魚はいつの間にか死んでしまっていた。
酸素が足りなかったのか、エルキドゥが走った時の衝撃か、はたまたエルキドゥの願いが叶った代償か。
「救ってあげられなかったね」
エルキドゥは悲しそうに呟いていた。

『やまびこ祭り』の真相については調べてみたものの、手がかりは何も出てこない。その昔、あの地域でそういうことがあったかもしれないというエルキドゥの仮説も、もしかしたら当たっていたのかもしれないが、真相がわからないため、やはり仮説は仮説になってしまっていた。
真相を確かめる術はあるのかもしれない。もう1度あの山に登り、アレらに聞けばいい。だがしかし、もしそれを実行したとして、それで何か命の代償がいるのなら。あの時は金魚2匹で済んだのかもしれない。今回まそうとは限らない。そんなリスクを犯すより、やはり中学3年生が立てた仮説を信じておく方が大人になった今では無難に思えた。


「ちなみにそれから数年経った時、またエルキドゥが泊まりに来たのでな、母親に聞いてみた」
「なにを?」
楽しそうに聞いている衛宮とは裏腹にランサーは苦い顔をしながら問うた。
「やまびこ祭りとやらがまだやってるかどうかだ。案の定やってなかったがな」
ふっと鼻で笑い、ワイングラスを傾けるギルガメッシュに衛宮がふふっと笑った。
「君たちのせい?」



「君たちのせい」



ギルガメッシュは笑いながらやまびこのように答えた。




酒に弱い衛宮はその話から数分後に寝落ちてしまった。ざるのランサーとギルガメッシュは馬鹿みたいにカパカパと酒を煽る。
「しっかし、今考えてみると中3でその仮説たてるたァ、そうとう頭キレんなそいつ」
眠ってしまった衛宮の頭を愛おしそうに撫でるランサーにギルガメッシュは何も言わない。
「ああ、あれには我も叶わんさ。IQ200超なんて相手にする方が馬鹿らしいだろう?」
面白おかしく笑うギルガメッシュにランサーは苦笑いをした。

「違ぇねぇ」

Comments

There is no comment yet
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags