京大「吉田寮」寮生が3月末に一時退去、学生と大学の対話は再開する? 築113年「現棟」を歩く
●対話の再開と歴史的価値尊重する補修求め署名提出
今回、寮生が「現棟」から一時退去するのは、和解内容を実行するためだ。 一方、大学は和解で「速やかに耐震工事に着手し、遅くとも5年以内に工事を完了することに努める」ことに合意している。しかし、寮自治会との交渉に応じないままで、工事の計画も示していない。 このため寮自治会は、対話の再開と建築的・歴史的価値を尊重した補修を求める署名活動を展開してきた。退去が迫った3月19日、集まった8858筆の署名を大学に提出した。署名は吉田寮の模型の中に入れ、神輿を担いで学務部まで運び、職員に手渡した。
●大学と学生という非対称な権力関係の中で
この後、現棟の玄関前では、教員有志も参加して吉田寮自治会の会見がおこなわれた。寮自治会の奥山朱凜さんは次のように語った。 「大学と学生という非対称な権力関係の中、互いが納得する問題解決に向かうために、一刻も早く対話を再開すべく、市民の皆さんの力をお借りしたいと思って署名を集め始めました」 一方で、大学が和解内容を実行するのかどうかについての不安も口にした。 「現在明け渡しまで2週間を切っていますが、耐震工事の内容に関する話し合いの要求に対して(大学の学生寮責任者は)沈黙し続けています。 今回の署名も理事に直接受け取ってもらうことを求めたのですが叶わず、理事がどのような意向を持っているのかも伝わってこないという現状です。 私たちは率直に不安を感じています。吉田寮現棟というこの魅力的な建物が、これからどうなっていくのかということを大学に一方的に決められては困ります。 耐震工事に協力するために明け渡しをするのですが、大学側が速やかに耐震工事をおこなうという協力的な姿勢を示してくれないことに対して不公平感を感じています」
●依然として寮生の存在を認めない大学側
耐震工事の実施以外にも、寮生には不安が残っている点がある。それは、大学側が「新棟」を含めた寮生の存在を認めていないことだ。 今回、裁判の被告だった8人が「現棟」から退去する。そのほかに「新棟」には約100人が入居していて、寮自治会による運営を続けている。 しかし、大学側は全寮制の退去を求めた2017年以降、現在まで態度を変えていない。大学のホームページには『「吉田寮自治会」名義の入寮募集について』との記載が毎年春と秋に掲載されていて、今年3月3日にも以下の内容が記載された。 〈吉田寮への無責任な入寮募集を行わないようここに警告するとともに、本学学生その他のものが募集に応じて吉田寮に入寮することは本学施設を不法に占拠するものであって到底容認できないことを、改めてここに周知徹底するものです〉 しかし、「新棟」は裁判の対象外だった。奥山さんは「新規入寮が不法であると表現される根拠は存在しないはず」と指摘した。 こうした大学側の対応には、教員からも異論が出ている。2019年7月には、教員有志が解決を求める要請書を当時の総長宛てに提出した。寮自治会の会見に同席した駒込武教授は、寮生に対する大学側の姿勢を批判した。 「2019年に吉田寮自治会が補修のための出入りを認めることなどを条件として現棟を立ち退くと声明を出しました。驚くべきことに、この時大学当局はこの声明を認めませんでした。『何で認めないのですか』と確認したところ、返ってきた答えは、『入寮選考のあり方などに問題があるから』ということでした。 でもそれは、大学側は公言していません。裁判を起こす時にも、起こしてからも安全確保だと言っている。安全確保ならまず安全を確保して、入寮選考のあり方についてはそれから話せばいいのに、それを認めないで大学当局は裁判に踏み切りました。 これは完全なスラップ訴訟だと思います。大学当局は謝罪すべきだと思いますが、酷かったと思うのであればせめて対話に応じてほしい。それが最低限の責務でしょう」
●和解通りに残されるのか
吉田寮ではこの春も入寮募集をおこなった。 物価の高騰などにより、安く入居できる学生寮を必要とする学生は増えていると寮自治会では感じている。 福利厚生施設としての施設と歴史的価値を併せ持つ「現棟」が裁判の和解通りに改修され、残されるのかどうかは現時点では見通せていない。
弁護士ドットコムニュース編集部