いつだったか、皿洗いをしている時だった。
(あ、穿って欲しい。)
肩を揉んで欲しい、掃除して欲しいそれと同じ言い回しの様で違う言葉。
穿つ
それは私には縁がありすぎる言葉で、だけれど私の中で1人にしか当てはまらない言葉で。
何故急にこんな物騒な言葉が出て来たのか自分でも分からなかった。何か自分の中で嫌な事があったのか、だとしても私は我慢できる質で。何か腑に落ちない事があったのか、いや私ならハッキリと物を言うだろう。色々な憶測が飛ぶが何一つ当てはまるものは無い。
色々と思案している内に、皿洗いが終わってしまう。自分の中でまだ回答は無い。寧ろ余計に霧がかかった。だが有難いことに私の仕事はこれで終わりではない。次は洗濯だ。もう洗濯機は回してあるし時間通りなら終わっているはず、さっさと乾燥ルームで干してしまおう。そう考えながら洗濯物を持って乾燥ルームへと足を運んだ。
「おや?」
そこには可愛い絵本がいた。
「おじ様!ここに来る途中誰にも会っていないかしら?」
「む?誰にも会っていないが…隠れんぼかね?」
「そうなの!今ジャックが鬼なのだけれど。」
「ふむ、見掛けていないな。ここは大丈夫だと思うよ。」
「そう!なら良かったのだわ!」
彼女は鬼のジャックに逃げているのだろう、もう1人逃げのバニヤンが居る状態で。きっとバニヤンは食堂だろう、何故か鬼ごっこでバニヤンは一目散に食堂に来るのだ。「おじさん!シーっだよ!!」バニヤンを隠した状態で彼女達のおやつを用意するのにももう慣れたものだ。ほんの少しのつまみ食いの分も忘れずに。
ふと、ふふふと笑い声が聞こえた。可愛い絵本に視線を移すと可愛いお人形がそこに居た。
「何かいい事があったのかしら、おじ様。」
ナーサリー・ライムは少し特殊で、初めの姿は童話の絵本、再臨をすると童話の主人公のようなお人形さんになるのだ。何とも可愛らしい。
「なに、少し思い出に浸って居ただけさ。」
思い出、その言葉で童話の彼女に少し質問をしたくなった。
「急な質問なんだが。良いだろうか、ナーサリー・ライム」
彼女は少し驚いた様だったが私の顔色を見てわかったのだろう、すぐに体制を治してくれた。
「何かしら、素敵なおじ様。」
「その、説明が難しいのだが…昔感じた痛みをまた味わいたいと思うのは変だろうか。」
「…そうね、痛いのを味わいたいと思うのは変だわ。」
だろうな、この質問で彼女の中の私は変態に成り下がっただろうか。そう思っていたら
「でも、」
するりと頬を撫でられた。それはまるで姉の様に、それはまるで母の様に。
「でも、愛した人から貰った大切な痛みなら変なんかじゃないと私は思うわ、おじ様。」
「なっ?!」
彼女がそんな回答をするとはと驚くよりも否定が出た。
「わ、私に愛した人は!」
「分かるわよ、おじ様。青い彼でしょ?」
何も言えなかった。
何か分かったのか、乾燥ルームの出口に向かいながら童話の彼女は楽しそうにスカートをヒラヒラさせこう言ったのだ。
「今度ゆっくり教えてちょうだい、貴方と彼のラブストーリー!」
・・
次の日はとんだ災難だった。
前日ナーサリー・ライムに言われた言葉の恥ずかしさ、それとは全く関係ないがカルデアの女性職員が食器を落としてしまう、予定に無い男性職員からの触ったことの無い精密機械を出来るだけ治してくれとの無茶ぶり(まぁ楽しかった)、ダ・ヴィンチ女史に試薬を試してくれと迫られる等、色々と疲れた。
なぜ今日はこうなるのか…、とぼとぼと元々の予定がある食堂に戻ると金髪と黒髪の海賊が何かを企んでいた。
「おい、それは流石にまずいんじゃ…」
「いいんでつよ!バレなきゃいいんでつ、バレなきゃ!」
「何がバレるって?」
「それはほら、エミヤ氏が厳重に保管してる酒でつよ〜!!」
「ほう?」
「ギャーーーー!!!!!」
イアソンには一発、黒髭には私の私情込みで五発いった。流石にやり過ぎたかと反省はしている。
「なぜ私に言わない。私に限らず、我々キッチンスタッフに言えば少しは提供すると言っただろう。」
反省はしているが、しかし。これは絶対なのだ。新しく誰か召喚されたとして私の第一声は必ずコレだ。なのに古参の彼はそれを破る。たまに破る。まぁ確かに彼は海賊だ、盗みをしたくなるのもわかる。と、言いたい所だが生憎私は海賊でも山賊でもない。なのでいつも盗む酒の代わりにゲンコツをくれてやっている。
「まったく、エドワード・ティーチ。君は本当に懲りないな。」
「デュフフ…そんな褒めなくても。」
「いやお前多分それ違うと思うぞ、そらみろ!こいつまた拳握ってるから!!」
「すみません、やめて下さい。」
イアソンを加えて少し賑やかになったこのやり取り、いい加減諦めて欲しいとも思うのだが。まぁ、どの国でも名の通る海賊はそうそう盗みを辞められないのかもしれない。今はオタクになっているが、それはそれ、これはこれ……らしい。
「全く、まだ夕時だから二杯までだ。」
本当は一杯と言いたいがついでに相談事に乗ってもらう相談料として先に酒を注いでおく。
「ワァーイ!感謝しますぞ!!」
「全く…、付き合わされてげんこつ食らって酒二杯。割に合わんな。」
「まぁまぁ、そう言わずに飲むでつよ!!!」
「さて、それじゃあ私の話に付き合ってもらおう。」
「えぇ…、こっからはアンタの話かよ。」
「一杯でもいいのか?」
「話を聞こう!!!」
ここからはナーサリー・ライムと同様にかつ彼女には伝えずらい部分を省略せず話した。
「……と、言う訳なんだが。」
「えぇ〜、拙者は痛み嫌ですなぁ。痛いのヤダ。」
「俺も同意だ。愛する者からの痛みだとしてもあれは限度を超えてる!気持ち悪いし痛いし辛いし良い事ナシだ!絶ッ対に俺はやだね!!!愛していたとしてもあれは無理!!!」
イアソンに関しては私の痛みと相場が違う様なのでなんとも言えないが、少しホッとした。やはり痛みを欲するのはおかしいよな!そうだよな!と、この時私が痛みを欲していることは棚に上げ世間一般的にはもう一度痛みを味わいたいなんて事はおかしいという結論を知れて喜んだ。
「いやー、しかしまさかエミヤ氏から恋バナとは…、青春ですなぁ。。」
「は?!恋バナでは無いだろう!」
「そうするとお前がただの変態話しただけになるが? 」
「くっ…」
そして黒髭は爆弾を投げてきた。
「もし彼と上手くいったらちゃんと拙者に報告するですぞ。」
「なっ!!」
「え?彼、ってお前まさかソッチの…」
私は逃げるように立ち去った。予定や業務なんて気にしない、それよりも訳も分からなくドキドキ鳴る私の心臓が嫌だった。
・・・
その次の日、ぐっすり眠れなかったのは言うまでもない。もしイアソンが変に言いふらしていたら、
部屋から出るのが怖い。しかし今日も業務があるし…。
勇気を出して部屋から出たら、何も変わりなかった。食堂に行く途中私を見てコソコソ話す人もいない、至って普通だった。
特に何事もなく業務を終えた。昨日のことが嘘だったのではないかと思うほどに。しかし予定を終えマイルームに戻る途中、イアソンに会ってしまった。正直イアソンの事なので避けられると思ったのだが「いや〜その、昨日は悪かったな。頑張れよ。」など優しい言葉を投げかれられてしまった。大方、黒髭が変な事を言ったのだろう。否定したかったが、まぁ避けられるよりかはいいし、訂正が面倒くさいと悟ったので良いと思う事にした。マイルームに戻ったら装備の点検をしよう、そう思いながら歩いていると前方から
「ダァ〜リン!今日は何する???」
と、明るい声が聞こえてきた。少し遅れて「やめて下さい…」と聞き覚えのある様でない声が。
「あっ!おい助けてくれ!!!」
しまった、見つかった。
「あら???あー!エミヤくん!」
「やぁ、お二人共。」
彼女達とは古参の弓兵トップ3という括りで良く顔を合わせている、このテンションにも慣れたものだ。
「エミヤくん今日はもうお仕事終わりなの?」
「あぁ、この後はマイルームに戻って装備の点検をするつもりで」
「じゃあ一緒にお茶しましょう!ダーリンも、ね!」
「いや、私は……、良いだろう。先に食堂に行って紅茶を淹れておこう。」
「やった!じゃあ私お部屋からお菓子持ってくる〜!ダーリン行こ!!」
「え、ちょま、アーーーー」
食堂に目的地変更、彼女はいつも楽しそうで見ているこちらも穏やかな気持ちになるのだが急な無茶振りなどは少し控えて欲しい…、言い難いがとても困る。
「さて、彼女の口には何が合うか…」
まぁ、何だかんだ私も紅茶を入れるのが得意だったりするのでウキウキしていた。
「んもう!ダーリンったら少し目を離したらどこかに行っちゃった!」
「いつもの事だろう、アルテミス。さ、特製のハーブティーだ。飲んで少し落ち着きたまえ。」
「わぁ、いい匂い!!いっただっきまーす!」
ふむ、そういえば彼女からお茶に誘われるといつもこの会話している気がする。気のせいだろうか。
考えない様にしよう、そう思いゆっくりと紅茶を飲む彼女をちらりと見る。こうして黙っていると、どこかの赤い悪魔と同じ様に美人なのだが。どうして喋り出すと煩くなるのか構造を知りたいものだ。
「ん!そういえばエミヤくん、黒髭君から聞いたわよ!実らない恋してるの?」
「はぁ?」
思わずこんな声を出しても仕方ないと思う、だって急な話だ。誰が誰と実らない恋をしてる?私か?私なのか?
「大丈夫!私応援してるわ!!だから頑張って!!」
「ちょ、待ってくれアルテミス。黒髭から何を聞いたんだ?」
嫌な予感しかしないが聞かない訳には行かない。なぜならすごい誤解をしている気がするから。
「え?エミヤくんが青い彼?に実らない恋をしているって、その辛さでエミヤくんがその青い彼?に倒されたいって。」
は?私が?青い彼に?実らない恋?その辛さで青い彼に倒されたい?
何を言っているんだ?私はそんな事思ってないし、第一私は倒されたいと思ったこともない。まずその青い彼とは誰だ、奴か?奴の事を言っているのか?だとしたらまずそこの時点で違う。誰があんな奴に倒されたいと思う、逆に倒してやりたいくらいだ。それに実らない恋?何を馬鹿げたことを。私は彼に恋なんてしていない、前はまぁ色々あったらしいが今は違う。今は一緒に人理を修復した仲間だとしか思っていない。幼い彼や少し年のいった彼、それに反転した彼もいてそんな風に見れる訳もない。それに今はやる事がいっぱいでまず奴を見ているかさえ分からないのに、恋をするなんて馬鹿げてる。
「アルテミス、それは誤解だ。青い彼を好いていないし、実らない恋なんてしていない。まぁ君は青い彼が誰なのか分かっていない様だが。」
「あら?違うの?すごく熱弁してたよ、黒髭くん。」
いつかあの髭禁酒にしよう。
「違うぞ、ただ私はその。」
「ん??」
「遠い昔に味わった痛み。私が英霊になるきっかけの様な物をくれた痛みをもう一度味わいたいと思っているだけで…。いや、待て。これだとただ気持ちの悪い話になってしまいそうだ。」
「ワァオ!それって恋じゃない!!」
「だから違うと」
「違くないわ!それは恋!今の貴方を作ってくれた大事な人でしょ?それをまた味わいたいって言うのはまたその人に会いたいってことでしょ?!!」
…はて、そうなのだろうか。大事な人に会いたい?いや、会ってるしな…。なんだったら一緒に人理を修復したし。
「いや、違うと思う。」
「もう!素直に認めればいいのに、そういう所頑固よねエミヤくん!」
「自覚はしている。」
「……ねえ、本当に恋じゃないの?」
「あぁ、違うな。」
「でも、その痛みに執着はしてるのでしょ?まるで恋のように。」
「……」
「素直になったら?ダーリンも私の事いつも酷く言うけど素直になったら可愛いんだよ。だからきっとエミヤくんも素直になって可愛くなったらその人きっと受け入れてくれると思うわ。」
「……」
「さぁて!そろそろダーリンの所に行ってくるね!!紅茶美味しかったわ、次はダーリンと飲むからね!!待っててダァリン!!!」
これは、恋なのか?
ただ心臓を穿って欲しいと思っただけ。あの痛みをもう一度味わいたいと思っただけで。恋なんて綺麗なものじゃない、私の欲を満たして欲しいだけの汚い欲だ。彼はそんなの望んじゃいないだろう。何が嬉しくてこんな奴に槍を向けなければいけないのか、その光景は赤で全部染まるというのに何が楽しいのだろう。彼にとってはただの苦痛でしかない。
そんなものを私は求めている、なんて酷い想いを彼に掲げようとしているのか考えただけでおぞましい。あぁ、なんてものを私は相談していたんだ。これが彼の耳に入れば…、私とは一緒にレイシフトしてくれないだろう。それは避けねばならない、マスターにも他のサーヴァント達にも負担をかけさせてしまうかもしれない。早急に対処せねば。
・・・・
次の日向かったのは花の魔術師の所だ。
「ふむ、ある特定のサーヴァント達に君との記憶を少し消したいと。」
無理難題を言ってしまった。私も彼に説明をしていてとんだ無茶ぶりだとは思ったが、何もせず彼の耳に届くことの方が嫌だった。
「あぁ、無理を承知でお願いしている。」
「その通り、残念だけど私は夢をのぞかせてもらっているだけで記憶の改ざんや消去は出来ないんだ。申し訳ないね。」
「いや、私も無理だとは思っていた。いや、貴方の実力や功績を馬鹿にしている訳では無いんだ。ただ、やはり無理か。と…」
「いや、分かっているとも。きっと何か嫌な問題が生じたのだろう?周りからしたら問題ではないが君からしたらとても大きな問題が、だ。」
「流石…、花の魔術師殿。」
これは皮肉でも世辞でもない。言うとすれば私自身に対する皮肉だ。こんなふうになるとは思いもせず、事の重大さに今まで気づかずペラペラと話してしまっていたこと。気づいた時にはもう逃げ場なんてなくいつか来るであろう処刑宣告に怯えつつ生きている私への皮肉。
「ふむ、この問題は君の中で相当膨れ上がってるとみた。どうかな?この私に話してみるのは。」
「…君は口が軽かった気がするのだが。」
「なぁに、今回は急用だ。誰かに言いふらす時間なんてないだろうね。さ、言ってごらん。これは私と君の秘め事だ。」
秘め事という言い回しは彼が言うと別の言い回しのようで少し嫌だったが彼の纏う優しい花の匂いに釣られて話し出してしまった。
「…私が迂闊だったんだ、つい彼に穿って欲しいと思ってしまった。何故そう思ってしまったのか私だけでは分からずつい話してしまったんだ。最初は可愛らしいお人形さんに、次は金髪と黒髪の海賊、その次は月の女神。お人形さんはこの思いに肯定を、海賊は否定、月の女神は肯定してくれた。しかしみんな口を揃えてそれを恋だと言ったんだ。その後が問題だった。お人形さんと海賊に話している時は気付かなかったんだ、もし彼の耳に届いてしまったらどうなるのかなんて。でも月の女神に恋だと言われた時気付いてしまった、彼の耳に届いた後の恐ろしさを。もし届いてしまったら私になんて近付かなくなる、そうなってはマスターも編成がしづらくなる。そしたら他のサーヴァント達にも迷惑がかかってしまう。彼も私のような気味の悪いサーヴァントが必ずこのカルデア内の何処かに居ると思うとここを歩きづらくなってしまう。それを気付いた時にはもう遅い、きっと早い流れでいつか彼の耳に届いてしまう。だって」
「話した人が人だからねぇ。」
気付いたら物凄く話していた、ここまで彼も口を挟まずに聞いてくれた。
「うーんそうだなぁ、言いたい事があるが。まだ話すかい?」
「いや、むしろここまで話し続けていてすまない。」
「いんや、平気さ。では次は私の番だ。まず、君は他人の心配をしすぎている。なんだい、マスターや他のサーヴァントって。君もサーヴァントだろう?それにサーヴァントでさえ風邪を引く事だってあったろう、それと一緒で君もいつか倒れる時が来るかもしれない。そうなったら他のサーヴァント達は君の心配をして余計に編成に入りたがったりするかもしれない、これはねお互い様なんだよ。隣の人が倒れたらしいわよ、あらそうなの?ならこっちでアレコレしましょう。助け合い、お互い様、なんだ。君が気にする事はない。」
その後も私の発言について色々お叱りを受けた。だがどれも愛のある言葉ばかりだった。
「ふぅ…。」
彼の言葉も止まったし礼を言ってお暇しようかと思ったら
「最後に一つ重要な事が聞きたい。」
なんて言われてしまい、思わず背筋を正してしまった。
「なんだろうか。」
「君は、君のその想いを恋だとちゃんと自覚しているのかい?」
恋だと自覚?
「違う、これは恋なんかではない。ただの汚い思いだ。」
「いいや、ハッキリ言わせてもらおう。君のそれはとても儚く強い想いだ、そして美しい恋だ。」
「そ、んな」
否定をしようとした、だがそれをスピーカーから聞こえるマスターの声に遮られてしまった。
『メーデーメーデー!!!皆聞こえてる?!とうとう来たよ!セイバーが来た!!!』
・・・・・
マスターの言うセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。
彼女が来てからは早かった。嫌という程あった種火を全て使い最終再臨までさせ、ある程度スキルも磨いた。
そう、事件があったのはその後。
マスターがセイバーのスキルを強化したいと言った。勿論皆賛成した、何しろマスターが待ち望んだサーヴァントだ。そしてその戦いに着いて行きたいと希望を言うサーヴァントは後を絶たなかった。そんな中厳選され、編成されたサーヴァントは前からセイバー・私・ランサー後衛にフレンドのセイバー・マーリン・ナーサリー・ライムという私にとってはとても痛い編成だった。そしてふと、そういえばランサーと顔を合わせたのは久しぶりだなと思った。
「さぁ!セイバーのスキル強化に行くぞー!!」
私を含め皆、意気揚々と行ったレイシフト先であんな物を見ることになるとは思わなかっただろう。
順調に敵を倒し最後の敵との戦い、皆神経を前方に集中させる。そして現れた敵、それは‘ランサー’だった。
少し驚いたが敵は敵、‘ランサー’といえど容赦はしなかった。しかし流石の彼だ、そう簡単には倒れてくれない。少しづつ体力が削れていく私達、しかし一番危ないのは私で。あと一度いい所に当たったら私は間違いなく倒れる。そう、いい所に当たったら。この思考に落ちたらもう負けだった。後衛の事も考えながら向こうの体力を少しづつ削っていく。向こうの攻撃も見て槍を胸あたりに伸ばしてきたら攻撃を受けようと、私の体は気付かないうちに変に高揚していた。早く穿たれたい、穿って欲しい、だけど自然に、ごく普通に。今じゃない、今でもない、ああ早く、早く!
「あ」
ここだ!と思った。今このタイミング、セイバーを庇う形でいけば丁度いい所に突かれる。
「セイバー!!」
その時私はセイバーに対して言葉を放ったのか、それとも私が高揚してセイバーの名を放ったのか分からなかった。
「がっ…!」
こうして私は彼に心臓の近くを穿ってもらった。決して私に対してでは無い、私の方に意識があった訳では無い。でも確かに私の中に充実感が満ちた。
こうして私は強制的にカルデアへ戻され
ベッドで横になっていた。
・・・・・・・
目が覚めたのは少し前、どのくらい日が経ったのだろうか。しかし、あの後無事に倒せただろうか。もう少し彼の体力を削っておけば良かったか?
しかし穿たれるのにはあのタイミングがベストで…。
いや待て、私は何をしようとした?いや、何をしてしまった?私は馬鹿だ。セイバーの強化を手伝うよりも、マスターの指示を受けるよりも、私の欲を満たしてしまった。これじゃあサーヴァント失格ではないか。ああ、どうしよう。マスターに合わせる顔がない、いや他のサーヴァントに向ける顔もない。自分の欲を満たそうと動くサーヴァントはカルデアにいる資格なんてない。座に帰りたい。マスターには申し訳ないが座に帰る契約をさせてもらおう。そして彼の元から去ろう。
「アーチャー!!!」
いつの間にか入口が開いていたが音が聞こえなかった、私の思考が深すぎて気付かなかったのか。元気なマスターが顔を出した。
「おはようマスター。と、みんな。」
まさか皆くるとは想定外だった。マスターしか顔を出さないと思ったが、今回の件で心配したのかマーリンとナーサリー・ライムが後ろにいて、前方には事情の知らない心配ものマスターとセイバーそして何故かランサーが居た。
「アーチャー、すまなかった。私の不注意で貴方をあんな目に遭わせてしまった。」
「いや、いいんだよセイバー。これは君の試練だ、君が居なきゃ元も子もない。それに、これはマスターが私を連れて行ったことが原因だろう。」
「うっ、すいません…」
嘘を付いた、私はこの事にとても感謝していた。自分の欲が満たされたと、有難いと思っていた。
「はは、まぁでも良かったじゃないか。此度の私達は死んでも死なないのだからね。」
「マーリン!そうかもしれないが今回の原因は私です!」
「本当に良いんだ、セイバー。それにマスターも。私は怒っていないよ、それに久々に敵側のランサーともやりあえた。満足だ。」
「うぅ…アーチャー優しすぎるよ。でも本当にごめんね、次からは気をつけるから!」
「あぁ、よろしく頼む。」
「じゃあ私とセイバーは行くね!今回の反省してくる!!」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
マスターがそう言い行ってしまった後、私の思考は最低なものだった。座に帰ることの保留、その間ランサーに迂闊に近付けないと。マスターやセイバーの心配を一つもしていなかった。
「…ねぇおじ様、痛くない?」
ふとお人形さんがそう問うた。私は心の傷か体の傷のどちらに対しての質問か分からず
「あぁ、ありがとうナーサリー・ライム。」
そう曖昧に返してしまった。彼女はとても悲しそうな顔をした。
「さて、私と彼女は行くとするよ。積もる話もあるだろう?」
それじゃあと言ってマーリンとナーサリー・ライムはさっさと出ていってしまった。この時なぜランサーは出て行かなかったのか分からなかった。
「おい、」
そう言われて、少し間が空いてしまうのも仕方ないだろう。そっと心の中で人という字を3回書いて3回飲んだ。
「…何かね。」
「お前アレわざとだろ。」
「なんの事だかさっぱり分からん。」
「とぼけるな、セイバーに対しての攻撃をお前わざと当たりに行っただろ。」
ギクリとした。ごく自然に当たりに行ったはずなのに何故分かったのか、そしてなぜ怒っているのか。
「だとしたらなんだ、もうするなと言うのか?それは無理な話だ、またいつどのような環境であんなことが起きるか分からないのだぞ。今回はセイバーだったが次はマスターかもしれない、そんな時でもあのような行動を取るなと言うのかね君は。」
「違う、あれは正しい行為だ。ただ場所が悪いだろ。あと少し違えば霊核が危なかった、お前は此処に戻れなくなっていたかもしれない。しかも、あれはそのまままっすぐ行っていればセイバーはかわす事が出来たかもしれない。お前が出なくても助かった。」
その時何故だかボロが出た。ついポロッと言葉が出てしまった。
「それもいいな…」
なんて。
そこからランサーの手が出るのは早かった。すぐに胸ぐらを捕まれあの紅い目で睨まれた。
「お前、本当に言ってんのか。此処に戻れなくなってもいいと、主の前でも言えんのか!!」
「あぁ、言えるな。」
「…この、クソ野郎がっ!」
殴られた。それはもう思い切り、力任せに。だけど位置は正確。こうして私のベッド生活は伸ばされた。
・・・・・・・・・・・
その間、私が相談した人物が日替わりでやってきた。
ナーサリー・ライムは泣いて「貴方のお話はどうしてそんなに悲しいの?私バッドエンドは嫌いなの。だからお願い、ハッピーエンドのお話をしてちょうだい。」と言った。
私にハッピーエンドなんてものは無かったのでアルテミスの所に行ってもらった。治療室から出るほんの少しの時間、彼女はスカートの端を握り締め俯いていた。まるで彼女自身がバッドエンドになってしまったかの様に。
次は黒髭が現れて「拙者色んな作品を見てきたけどこんなに胸が苦しくなる話は見たことないでつ。早くくっついてくれないですか?」と言った。
くっつくことは一生無いさ。くっつくとしたら遠い昔だ。治療室から出るほんの少しの時間、彼は大きい背中を丸めて「くっつけくっつけ」とブツブツ言いながら去っていった。
そして「やぁ、顔の調子はどうかな?」なんて、次の日少し馬鹿にしながら花の魔術師がやって来た。
「顔はまぁボチボチだ。で、次はなんだね。」
「おや、次という事は先客が居たのかな?」
「あぁ、昨日と一昨日にな。昨日は黒髭、一昨日はナーサリー・ライムがね。」
「おや、先を越されたか。それで?二人の質問に対し君の回答は?」
「どちらも否定的に。」
「なるほど、だから彼女は絵本になっていたのか。」
「絵本に?何故だ。」
「決まってるだろ?探しているのさ。君の物語に似たハッピーエンドを。」
「ハッピーエンド。」
「そ、大方君はハッピーエンドが無いとか言って彼女を追い出したろ。」
「追い出すだなんて、そんな事はしていない。ハッピーエンドが無かったのでアルテミスの所に行けばあるんじゃないかと言っただけで。」
「それが追い出しの言葉だ。ちなみに黒髭くんも一生懸命少女漫画を漁ってるよ。ナーサリーと同じ気持ちだろうね。きっと君の物語に似た少女漫画を探してるぞ。」
「そんな…、私は別に望んでいないが。」
「あぁ、ちなみに。例のアルテミスちゃんはそもそも君に触れていいのかすら悩んでるぞ。全く、君はどこの少女だい?」
そんなつもりは無かった。ナーサリー・ライムはハッピーエンドを望んでいたから凄くハッピーエンドを持ってそうなアルテミスのところを提案した。黒髭にはくっつけと言われたがあの様子じゃくっつくことなんて出来ないから否定をした。アルテミスはなぜそうなっているのか分からない。
「さて、ここで一つ質問だよ。君、恋の自覚はした?」
「は?」
「だってナーサリーの質問のハッピーエンド、それは恋のハッピーエンドだと思ったんじゃないのか?そして黒髭くんのくっつけという言葉も恋愛的な意味として自然に感じ取ったんじゃないのかい?」
「まさか…」
「ナーサリーに対してのハッピーエンド、それをアルテミスちゃんの所へと案内したのはアルテミスちゃんとオリオン君のハッピーエンドを知ってるからじゃないのかい?」
何も言えなかった。私は確かにアルテミスがどれだけオリオンの事を好きなのか聞かされた、そしてオリオンも何だかんだでアルテミスの事が大事なのだと。それを無意識に覚えていて、ナーサリー・ライムのハッピーエンドと結びつけるなんて。
そして黒髭のくっつけと言う単語も、単語自体の否定はせずくっつくことが無いと否定した。いつもの私ならくっつくという単語自体に否定していたかもしれない。つまりこれは、いやでもまさか
「さ、答えがハッキリしたかな?君のそれは恋?」
「……恋かも、しれない?」
「そこまで言えれば上出来だ!君に幸運が訪れるように、ささやかだが私からのお見舞いの品だ。」
そっと渡されたのは真っ赤な薔薇だった。
「薔薇、久々に見たな。」
「いい匂いだろう?残り少ない入院生活かもしれないがその1本の薔薇と共に過ごすといいさ。」
「まるで私が死ぬみたいな言い方やめてくれないか。」
「おや、そういうつもりで言ったんじゃないんだがね。まぁ、お大事に。」
本当にそう思っているのか分からない顔で去っていった。何か花に意図があったのだろうが、花言葉に疎かった私なので心の中で、申し訳ないが君の思うような面白いことはないと思うぞマーリン。と背中に向けて伝えた。
しばらくして夕飯の時間になった。今頃厨房は大忙し。キッチンに立たなくなってからだいぶ日が経ってしまった。ほんの数日じゃないかと思う人も居るのだろうがカルデアのキッチンは戦場だ。常にカルデア職員やサーヴァント達が待っていて、早くに飯を獲得した者からはオカワリ!という声が響く。それを上手くこなしていくのにはチームワークが必要になるのだ。いや本当に、笑って厨房に立つと痛い目見る。いつの間にか座に帰ることなんか忘れて居て日々厨房の雰囲気を思い出し笑っていた。夕時の厨房を思い出し笑っていたら治療室の入口が開いた。そこに立っていたのは私を殴った人、ランサーだった。
会いにくいと思っていたのだが配膳となれば流石に仕方が無い、のだが。何故か左右の手に一つづつお盆が乗っていた。
「よう、飯だぞ。」
余所余所しく話すランサー、そして右頬には湿布が。
「もしかして君、誰かに叩かれたか殴られたのか?」
「……そ。経緯はともかくお前さんを殴った罰だとマスターから張り手一発、セイバーからげんこつ一発。本当はお前さんと俺を二人きりにしたくなかったらしいがマーリンが積もる話もあるだろうから二人にしてあげようと提案、その話にアルテミスも賛成し今に至る。」
「なるほど」
正直見たかったとは思うが言わないでおこう。言ったら今度こそ彼に穿たれる。
「あー、その、殴ってすまなかった。だが、俺はまだあの発言許してねぇからな。これはあくまでマスターの命令だ。」
「あぁ、私こそあんな発言してすまない。正直あの時はおかしかった。」
「あ?まぁ、反省してんならそれで…。つかお前その薔薇どうした?」
「ん?あぁ、これか。これはマーリンにもらった。残り少ない入院生活を共に過ごせと。」
「は?お前死ぬの?」
「死ぬ訳ないだろたわけ。きっと彼なりの励ましだろう。」
「ほーん。」
彼も花言葉に疎いらしい。
それからは彼と普通に話しながら食事をした。ここ数日の献立、セイバーのスキルに必要な物がなかなか揃わずマスターが嘆いているなど。あっという間に食事も終わり、ランサーが食器を戻しに行ってくれた。ランサーも帰ったしあとは寝るだけ。と思ったらランサーが戻ってきた、私用のお茶と自分用の酒を持って。
「君、病人の前で酒飲むのか。」
「別にいいだろ、病人つってももう治ってんだろ?ならいいじゃねえか。それに、積もる話もあるしな。」
積もる話、彼と私に積もる話なんてあっただろうか。そう思いつつ喉を潤した。
「なぁ、あん時本当はわざと当たりに行ったんじゃないのか?」
「またその話か、だから違うと言っている。」
「ならなんで、お前はわざわざ前を向いて槍を受けたんだ。」
「それは、」
あの時、思わず彼の攻撃を前から受けたくなって前を向いた。でもあれはセイバーでも気付かなくて、なのになんでランサーは気付いたんだ。頭がぐるぐる回転した、そしてバレてしまったと思った。この気持ち、この感情に。
「なぁ、お前は俺の槍に受けに行ったのか?それとも、俺に受けに行ったのか?」
「それは…」
もう、隠しておけないんだと悟った。彼は私の気持ちは気付いている、その答えを言えない私の事も。
「いいんだ、言えない事なら言わなくても。ただ俺はあの時色々考えたんだ。もしその攻撃で霊核が傷付いたとしたら、もし別の俺に心臓を明け渡したのだとしたら、俺であって俺で無い他のやつにお前は殺されるのかと。」
「ランサー、それは」
それは、恋じゃないのか?自分のことも棚に上げそう発したくなった。
「そう、これは恋だ。今の俺は今のお前に恋したんだ。その時その瞬間、今のこいつを殺し愛するのは今の俺だって。」
「君、そんな口説き文句を言われて喜ぶ奴なんていないぞ。」
「いんや、一人だけいるね。」
「何言ってるんだ、そんな血生臭い告白私は嫌だが?」
「知ってんぞ、お前俺に穿って欲しかったらしいじゃねえか。」
「は?」
「因みにアルテミスから聞いた。急に顔色変えてこっち見てよ、貴方が青い彼なのね!あぁエミヤくんに痛みをあげて!飛びっきりのよ?彼が英霊になる位の!!って言うもんだからお前てっきりマゾなのかと思ったが、英霊になる位の痛みと言われたら心臓を穿つしかないだろ?」
あぁ、なぜわかってしまったんだアルテミス。しかもこのタイミングとは。策士としか思えないぞアルテミス。この時ばかりはアルテミスを恨んだ。
「色々考えてるみてぇだが、どうすんだ?」
「は?何が?」
「今の俺に穿ってもらうのか、それともこのチャンスを逃すのか。」
そんなの、決まっているとも。私がどれだけ待ったと思っている。いや、傍から見たら短い期間かもしれない。だが私にとっては長かった、きっと彼が召喚される前から好きだったんだ。それはもう穿って欲しいと願うほどに、そう考えると〔どれだけ待ったか〕と言う言葉はピッタリだろう。
「そんなもの答えはひとつだ。」
だが、
「聞こうじゃねぇか」
「断る」
「は?」
「だから、こ・と・わ・る。」
「はぁ?!今の絶対穿つ一択だろ!」
「期待が外れて残念だったな。さ、私はもう寝るから帰れ。」
「〜〜〜!!!!おっまえ」
「あぁ、それと。正解おめでとう、アルテミスに礼を言っておくんだぞ。」
「は??正解?なんの???」
「分からんのか、全く。それが解らないうちは私の答えは変わらんぞ。」
「はぁあ??!てめっなにい」
残念だったなランサー、私が動けない身体で君に心臓を穿ってもらうとでも?そう簡単に穿って貰おうなんぞ考えとらん。
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入院生活はランサーに殴られた事もあり元の期間から十日も伸ばされた。そして今日は追加の十日目、つまり今日でこの入院生活とおさらばになる。随分と長くなってしまった、キッチンスタッフにはどうお返しをするべきか。生憎と食堂は一日も休みを作っては行けない。いや作れない。そうなるとスタッフたちへのお返しが難しくなる。
「参ったな」
「何が参るんだい?」
「マーリン、」
本当に彼はいつでもどこでも一人一人の行動を見てるんじゃないかと思うくらいのタイミングで話しかけて来る。
「やぁ、お邪魔するよ。退院おめでとう!どうだい明日に職場復帰する気持ちは。」
「キッチンスタッフに迷惑をかけたと思っている、そしてスタッフたちへのお返しをどうするか悩んでいる。」
「おや?案外喜んでないね。」
「無論だ、彼らには散々迷惑をかけてしまったし今までの厨房の感覚を直ぐに取り戻せるかも分からない状態だ、そうウキウキできるか。」
「全くお堅いねぇ正義の味方さんは。そんな風に考え込まなくてもいいじゃないか、前も言ったろ?他人の心配をしすぎていると。今の君にピッタリな言葉だよね。」
「む…」
私は真剣に考えているのにこの魔術師は。どうしてこう人を馬鹿にするような話し方をするのか不思議でならない。まぁこれなら女性との問題で逃げ道として自分から幽閉を選ぶというのも納得だ。
「あ、なんか変なこと考えてるだろ。いいかい?私は別に君のその考えを否定しているわけじゃないんだ、ただ君はその考えで自分を追い込みすぎているんだよ。早く気付けと言うのも変だしこの助言もおかしいけど、君は少し他者に目を向けた方がいい。君の考えで、君の中の人を下に捉えては意味が無い。それは良い考えではない、悪い考えだ。その考えは時に人を傷つけ悲しませる。君の良い所と悪い所だ、ちなみに今君が発した言葉はその両方だ。良い所は人に恩返しをしようとしてる、悪い所はその人の善意を素直に受け止めていないところだ。分かるかい?」
勝手に入って来たと思ったら急に授業とも取れるお説教をしてきた。確かに、彼の言っている事は当たっていると思うので何も言い返すことが出来ない。
「分かった、分かったから本題を話せ。」
「え?やだなぁ本題なんてないさ。ただ少し進展したふうに見えたからどうなのかと思ってね、顔を見に来た。」
一体なんだって言うんだこの男、これだからあまり同じパーティに入りたくないんだ!今度からはマスターに抗議しよう。いや先に言っておこう。
「余計なお世話だ。」
「ちぇ、まぁ進展したみたいでよかったよ。彼ね面白いよ、君が何を言ったかわかんないけど正解を探してる。正解を探しながら嘆いてるんだよ、今度こそ殺すって。まぁそれでマスターとアルトリアにまたボコボコにされてたけどね、ほんと面白かった!」
一体何をしてるんだランサー、答えは簡単だというのに。
アルテミスからの言葉を受け私が君に穿って欲しいと願ってることに気付けたこと、それが正解なのに。色々考えすぎだ、馬鹿者。
「まぁあと少しみたいだよ?段々口角上がってきてるからね彼。君の退院、明日の朝と被るんじゃないかな。」
「そうか」
「じゃ、そろそろ帰るね。バイバーイ」
ほんと何しに来たんだろう。
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「はい、エミヤさん退院して良いですよ。」
「あぁ、何かあったらまた頼む。」
「もう当分来ないで下さいね。食堂てんやわんやしてたので。」
「はは、承知した。」
無事に医者から退院許可が降りたので食堂に向かおうと廊下を歩いていたらランサーがただならぬ雰囲気を醸し出しながら立っていた。
「何をしているランサー。もしやマスターに行儀悪いから立ってろと廊下に出されたか?」
「違ぇわアホ、やっと正解が分かったぞ。自分で言うのもなんだが馬鹿だと思う、こんな単純なことが分からんとはな。」
「やっと自分が馬鹿だと自覚したか。それで、何の用だ。」
「とぼけんな。てめぇが言ったろ、正解が解らないうちは私の答えは変わらないと。正解が分かった。答え合わせなんぞは要らん、穿つかの答えを聞かせろ。」
「ふ…、シュミレーションルームに行こうか、ランサー。」
「上等だ。」
正直私の怪我が治らないうちに彼が正解を知ったらどうしようかと思ったが、そのような心配入らなかった。今の私は退院明け、医者には当分来るなと言われている。あぁ、これはキッチンスタッフに余計に迷惑をかけ医者にはこっぴどく叱られてしまうな。
「さぁ、始めようランサー。」
「おう、上手に穿ってやるよ。」
「穿つに上手いも下手もあるか、だが霊核には気を付けるんだぞ。」
「任せろよ、調整は得意だからな。」
「ふふ、それは有難い。…行くぞランサー!!」
「掛かってこいやァ!!!!」
お互いの武器が触れ合う音
武器を避けるように動く体
彼に聞こえるか聞こえないかの声で愛を伝える
「ランサー、穿って」