闇の中で、比鷺の指先が微かに跳ねた。
萬燈の拍子に合わせて舞を踊っているかのような、無意識の反応。
「……感じているか、比鷺」
久しく会っていなかった萬燈の手が、比鷺の体躯を這う。骨格の際立った肩、無駄のない筋肉に覆われた背を、確かめるように、そして慈しむように。
その指先が触れるたび、比鷺の体は、萬燈の意のままに、美しい舞を演じる。
仰け反る首、しなる腰、弾む足先。
「萬燈、先生……っ、あ」
比鷺の口から漏れる、甘く、熱に浮かされたような声。
それこそが、萬燈が今、この瞬間に求めていた、彼だけのための曲だった。
萬燈の調べは、次第に激しく、そして深く、比鷺の奥へと刻まれていく。
二人の体は重なり、溶け合い、境界を失っていた。
「お前のその声も、その熱も、全てが、俺に捧げられている」
低い独白を、萬燈は比鷺の耳奥に流し込んだ。
彼らがかつて舞台の上で神に捧げた、あの完璧な拍子よりも、荒い呼吸でリズムを刻む。
萬燈の言葉に呼応するように、比鷺の体は、ただ狂おしく、舞い続けるしかなかった。
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