日本の本当の石油備蓄量は「半分以下」…専門家が断言「備蓄が254日分もあっても安心とは言えない」事情
■LNGの在庫量はもっと少ない 問題は石油に留まらない。 実は原油以上に、LNG(液化天然ガス)の安定供給の方が深刻だ。なぜならLNGは、物理的性状から「備蓄」ができないからだ。 ちなみに「BP統計集」および「EI統計集」によると、わが国のガス消費量は次の様な推移となっている。 ---------- 2005年 60.8百万トン(LNG換算、以下同) 2010年 73.4 2015年 86.9 2020年 76.5 2024年 66.8 ---------- 添付グラフ(図表2)のようにLNG在庫は、この10年間、年間消費量の常時2〜4週間分程度しか確保できていないのが実態だ。 若干解説を加えておくと、LNGとは常温常圧では気体の天然ガスを、マイナス162度以下で冷却して体積を700分の1にしたもので、魔法瓶のような構造のタンクやタンカーで貯蔵、輸送している。 だが、いくら優秀な魔法瓶に閉じ込めても、外気の影響で時間の経過と共に少しずつ気化してしまうのだ。これは物理的制約でありどうしようもない。 そのためLNGは、備蓄はもちろん、長期の在庫にも適していない。 これは、わが国のみならず、世界中のすべての国に当てはまる科学的事実だ。 なお、常温常圧で気体である天然ガスは、LNG(液化天然ガス)と区別するために、業界の一部では「生ガス」と呼ぶことがある。 欧米のガス在庫とは、増加する冬場の需要対応のために「生ガス」を夏場に積み上げておくもので、枯渇した油ガス田(石油と天然ガスが混在する地域)や、それに類似した地質のところ、あるいは米国の岩塩ドームが「在庫施設」として利用されている。 残念ながら産油国ではないわが国には、このような「在庫施設」適地はほとんどない。だからガス在庫というと、LNGの運転在庫しかないのである。 このように「ガスは石油と似て非なるエネルギー」であるため、安全保障の問題を考えるときまったく別のものとして取り組む必要があることはぜひ銘記されたい。 ■国民を心配させないため「小さな安心」を喧伝 鑑(かんが)みるに、なぜエネルギーに関して国民が知らないことがかくも多いのだろうか。 筆者は、最大の原因は行政の「心配させないために」不必要と判断する情報は極力知らしめない姿勢にあると見ている。 一言で言えば、「小さな安心」を優先し「大きな安全」を犠牲にする行政の姿勢である。 これは、エネルギーに限った話ではない。 わが国の行政全般に宿痾(しゅくあ)のように蔓延している通奏低音である。 たとえば、2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年経った2021年2月、鈴木一人東京大学公共政策大学院教授を座長とする「福島原発事故10年検証委員会」は「民間事故調最終報告書」(*5)を公表した。 その中で事故発生の主因として ---------- 〈「小さな安心」と「大きな安全」を等値し、それを一体化する日本の社会心理学的かつ政治心理学的な特質と本質にあるのではないか〉 〈「小さな安心を優先して、大きな安全を犠牲にしている」〉 ---------- と指摘している。 *5 一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)