夏葉を庇って怪我をしたシャニPの話
お題箱頂いた夏葉を守って少しだけ怪我したシャニPの話です。
https://odaibako.net/u/tonono0111
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「あれ、これって防犯ブザーか?」
「まあそんなようなものね」
「へえ、なんか久しぶりに見たな。どうしたんだこれ?果穂に渡すのか?」
「いいえ、プロデューサーに渡そうと思って。鞄に付けておくわね」
「えっ」
「ここを引っ張ると私のスマホに通知が来るようになってるわ。何かあったら呼んでちょうだい。すぐに駆けつけるわ」
「えっ」
仕事が終わり、人通りもなく静かな住宅街を二人で帰っている時の事だった。今日は皆既月食が起こるからと夜空を見上げると月が綺麗に見えたので、せっかくなら近くにある公園でゆっくり見ようと夏葉に誘われた。それに賛成すると夏葉は嬉しそうに笑って一緒に早足で公園に向かった。
──公園のすぐ近くにまできて、その時だった。
曲がり角から自転車が飛び出してきたのだ。夏葉にぶつかると思った瞬間、身体が勝手に動いた。
『...っ、夏葉!』
...という事があったのが一週間前。結果から言うと俺は自転車にぶつかり、転んだ時に捻挫をしてしまったのだ。しかも利き手を。
まあ折れてはなさそうだし何より夏葉に怪我が無くて良かったと思ったが夏葉はそうではなかった。湿布でも貼ってれば治るよと言ったが病院に連れていかれお医者さんに見てもらった。そこでレントゲンを撮って痛み止めを貰って、今度こそ一件落着かと思ったがそういう訳にはいかなかった。
ピコンと通知音と共にメッセージが表示されてスマホを手に取る。
『仕事が終わったら迎えに行くから連絡してちょうだい』
大丈夫だと言っても迎えにくるだろう。すれ違いになって夏葉を待たせるより言われた通りにした方がいいことをこの一週間で学んだ。返信をしてスマホをデスクに置く。捻挫とはいえ利き手を怪我してしまったせいでパソコンが打ちずらい。いつもならすぐに終わらせられる仕事にも時間が掛かってしまう。もどかしさを感じながらパソコンと向かい合っていると後ろから明るい声が聞こえてきた。
「プロデューサーさん!お疲れ様です!」
「あ、果穂。お疲れ様」
「手、まだ痛いですか?」
「もうほとんど痛くないよ。包帯も固定のために巻いてるだけなんだ。心配してくれてありがとうな」
「えへへ、よかったです!」
「あたしに出来ることがあったら言って下さい!」とやる気満々な様子で言う果穂の言葉に甘えてコピーをお願いすることにした。良い返事と共にコピー機へ向かう背中を見送って手首に視線を移す。
これくらい大したことないと思っていた。確かに不便だしはやく治したいと思うが俺にとって夏葉に何あった方が嫌だ。しかし、あの時の夏葉の顔を思い出して複雑な気持ちになる。
「プロデューサーさん!出来ました!」
「おっ、ありがとう!助かったよ。これお礼だからもしよかったら食べてくれ」
「チョコ!ありがとうございます!後でちょこ先輩と食べますね!」
にこにこと笑みを浮かべていた果穂が俺の鞄についているものを見つけて不思議そうに首を傾げた。
「これって防犯ブザーですか?」
「...うん」
「プロデューサーさんもつけてるんですね!あたしとお揃いです!」
「......そうだな!」
◇
「夏葉...もう車で迎えに来なくて大丈夫だぞ。というかそろそろ俺も自分の家に帰ろうかなって、」
「だめよ。夜道は危ないの。それにまだ完治してないじゃない」
仕事が終わり事務所まで夏葉が迎えに来てくれて、到着したのは夏葉の自宅。夕食をとってソファに並んで座りテレビを見ている夏葉にそう言うといつもと同じ返答が返ってきた。この一週間、俺は夏葉の家に泊まらせて貰っている。
──責任を取るわ、と。病院から帰る時、夏葉に言われたのだ。
さすが夏葉というか、その日以降夏葉は付きっきりで俺の世話をしてくれるようになった。それこそ俺が申し訳なくなるくらい。仕事を手伝ってくれて、遅くなる時は車で迎えに来て、こうして家に泊まる時は食事だけでなく髪の毛まで乾かしてくれる。
有難い、有難いけど...営業先にまであのポルシェで迎えに来られるとさすがに目立つ。ドアガラスを下げてプロデューサー!と呼ぶ姿も絵になるなと思ったが。
もうお風呂は沸いてるから先に入ってきてと夏葉に言われてお言葉に甘えることにした。お風呂場のドアを開けたと同時にふわりとローズの匂いが広がった。毎日違うバスソルトを入れてくれるからちょっとした楽しみになっている。シャワーで身体を洗ってから薄いピンク色に染まった湯船に浸かり、全身に染み回る心地良さにはぁと息を漏らす。自分の家のお風呂より全然癒される。
気持ちいいが長湯は良くないと言われたので程々の時間で上がることにしてふわふわのバスタオルで身体を拭く。ふと洗面所に目がいって、歯ブラシが二つ並んでいることになんとなく恥ずかしさを覚えた。
パジャマに着替えてリビングへ行くとやけに静かだった。どうやら待っている間に眠ってしまったらしい。起こそうと思いソファへ近づくと夏葉の様子がおかしいことに気が付いた。
「ん...、ぅ、」
気持ちよさそうに、ではない。苦しげに顔を歪ませて呻く夏葉に心臓がどくんと跳ねた。
「夏葉、夏葉!」
「っ、ぁ...プ、プロデューサー...?」
「ああ、そうだよ。魘されてたけど大丈夫か...?」
「......ええ、大丈夫よ」
薄ら目を開けた夏葉はふらふらと立ち上がると俺の頬に手を添えた。触れた手がひどく冷たい。そこから首、肩と撫でるように手が下がっていき、捻挫していない方の俺の手を握ると胸元に頭を擦り寄せるようにもたれかかった。濡れてしまうなと思いながらもどうにか安心して欲しくて夏葉の背中に腕を回してぽんぽんと叩く。ふ、と夏葉の肩の力が抜けたのが分かった。
...最初、夏葉に自分の家に泊まるように言われた時は断った。これは俺が勝手にしたことで夏葉が責任をとることではない。でも夏葉の今にも泣き出してしまいそうな顔を見た時、あの広い家で今の夏葉が一人で過ごす所を想像すると胸が痛くなった。以前泊まりのロケがあったのでカトレアは実家に預けていると聞いていた。そこまで考えて、気が付けば頷いていたのだ。
「...温かいわね」
「お風呂上がりだからな。いい匂いで気持ちよかったよ」
「ふふ、よかったわ。...髪乾かさないと、行きましょう」
「ああ。...あれ、これってこの前買ってた本か?...護身術?」
ふとテーブルの上に置かれていた本のタイトルを読むと意外なジャンルのものだった。てっきり経済学の本かなにかを読んでいるかと思った。俺の問いに夏葉は聞かれるのを待ってましたかのように答えた。
「そうよ!とても勉強になるわ!」
「へえ、確かに知識はあった方がいいしな」
「ええ。私がいくら鍛えてるとはいえ単純に男性の力に勝つのは難しいわ。だからこうして技術や知識を身につけて対抗出来るようにしないと思って。プロデューサーを守るために!」
「そうか!俺のために...え、俺のため?」
本に向けていた視線を夏葉に向けるといつもの自信満々な顔な夏葉と目が合った。
「...逞しいな」
「そうでしょう!私にもっと頼っていいのよ!」
俺としては頼りすぎなくらいなんだけどな。色々言いたいことはあるが夏葉が元気そうだからいいかと思ってしまって、手を引かれながら洗面所に向かった。
◇
ガチャ、と鍵を回してドアを開ける。ふらふらとした足取りで靴を脱ぎ廊下を進む。リビングの扉を開けると久しぶりの間取りになんとなく力が抜けた。着替えとかを取りに来たがこの家に帰るのは怪我をして以来初めてだ。
「...ただいま、」
そう言っても静かな部屋に響くだけで返事はない。皺にならないようにスーツだけはハンガーに掛けベットに寝転ぶ。目だけで時計を見ると針は一時を指していた。
今日の夜ご飯は何かなと思っている時に丁度夏葉からチェインで『今日の夜ご飯は肉じゃがよ!』というメッセージが届いた。仕事もちょうど終わったし帰ろうと鞄を持った時、ふと自分の手首が目に入った。もう包帯もない、痛みもない手首。一応責任をとるという理由で俺は夏葉の家にいた。では治ったのなら帰るべきなのでは...。
それに最近の夏葉はとても元気そうだ。カトレアも実家から帰ってきてシャンプーしたてでふわふわの毛並みを二人でたくさん撫でた。嬉しそうに抱きしめる夏葉の横顔を見て内心ホッとしたのを覚えている。やはりずっと一緒にいた愛犬と離れて寂しかったのだろう。
...よくよく考えると俺が夏葉の家にいる理由が一つもない。そう思って自分の家に帰ろうと決めてその日の夜に伝えると夏葉はぴたりと固まった。程よく蕩けたじゃがいもを箸で掴んだまま。何故か空気まで凍り付いたような気がして恐る恐る夏葉の名前を呼ぶと数秒俯いたあと小さな声で「分かったわ...」と返ってきた。
今日は元々大学の頃の友人に飲み会に行かないかと誘われていた。お店も俺の家の方が近いし飲み会が終わったら自分の家に帰ることにしたのだ。今朝はすっかり馴染んでしまった家を去ることに寂しさを感じつつ仕事へ向かった。
久しぶりの飲み会で飲みすぎてしまったようだ。スマホの電源が切れていることにもさっき気がついたが充電する元気はない。明日は休みなのでこのまま眠ってしまおう。...こんな姿、夏葉に見られたら怒られそうだな。そんなことを思いながら眠気に任せて目をつぶった。
ピンポーン、と。インタホーンがなる音と共にドアを叩く音が聞こえて目が覚めた。宅急便か何かかと思ってカーテン越しに外を見るも外はまだ暗いようだ。のそりと時計を見ると五時前だった。
...こんな時間に誰だろう。
怪しいが誰か分からないのが一番怖い。ドアスコープから確認しようと廊下まで出ると、聞き覚えがある声が耳に届いて外を確認することもせず慌ててドアを開いた。
「...夏葉」
「っ、プロデューサー...」
ひやりと冷たい風が廊下に流れ込んでくる。秋が終わり冬を迎えた夜はとても寒い。夏葉はパジャマの上に薄手のカーディガンを羽織っているだけだった。身体が震えているのが分かってすぐに夏葉を中に入れてドアを閉める。
「どうしたんだ...?何か「何かあったの?」...え?」
「連絡しても返ってこないからアナタに何かあったのかと思って...」
泣き出しそうな声に大袈裟な、と言えなかった。
「...ごめん。充電が切れてて気づかなかったんだ」
「......それだけ?」
「ああ」
「それなら、よかった...」
「......」
「......」
「夏葉、」
「...離れたくないわ」
「うん。離れなくていいから、リビングに行こう。ここだと寒いだろ」
夏葉の手を引いてリビングへ行く。エアコンを付けて電気ケトルでお湯を沸かす。本当はホットミルクとかがいいかと思ったが冷蔵庫には何もない。夏葉をソファに座らせブランケットを羽織らせる。
どうにか安心して欲しくてブラケット越しに背中を擦ると夏葉が顔を上げて俺をじっと見つめた。そして夏葉が責任を取ると言った日のような泣きそうな表情で口を開いた。消えそうな、小さい声で。
「こんな時間に押しかけてごめんなさい。アナタに何かあったのかと思ったら落ち着かなくて...」
「気づかなくてごめん。その、夏葉は...ずっと起きてたのか?」
「...一応何度か寝ようとしたわ。でも、その度に...夢を見てすぐに目を覚ましてしまうの」
「夢...」
繋がれた手を握る力が強くなった。眉を寄せて顔を歪ませながら夏葉は続けた。
「プロデューサーが、いなくなる夢。私にとってどんな悪夢よりも恐ろしい夢よ」
「......」
「...今までプロデューサーはずっと私と一緒にいてくれると思っていたわ。でも未来のことなんて分からないって、あの日思ったの。いつか急にプロデューサーがいなくなるかもしれない。もしそうなったら私は...耐えられないわ」
「...夏葉」
「アナタと一緒に暮らした時は毎日が本当に楽しかったわ。すぐ近くにプロデューサーがいてずっと一緒にいられてとても嬉しかった。でも、昨日帰ってからアナタがいないと思ったら寂しくて、自分の家なのに落ち着かなくて...。プロデューサーが何をしているか気になって傍にいないと不安でしょうがないの。...自分でもおかしいって分かってるわ!でも、でも...っ」
夏葉は苦しそうにぐっと口を噤んで、痛いほどの沈黙がリビングに流れる。あ、と思った時には夏葉の両目から涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「...ねえ、プロデューサー。私が守るわ。欲しいものがあったら用意するし...いえ、私に出来ることなら何でもするわ。だから、お願い...私と、ずっと一緒にいて。私から離れないで...っ」
もう、夏葉はしゃくあげていた。
夏葉がこんな風に泣いているのは初めて見たな、と混乱した頭で思った。その原因が俺なのだ。...だから、ちゃんと言わないと。
「...俺だって夏葉を守りたいと思ってるんだ。守られるだけは嫌だ」
「...私はいいわよ」
「よくない。...不安にさせてごめん。でもまた夏葉が危ない目にあったら助けるよ。夏葉が大切だから、守らせてくれ」
「っ、嫌よ...プロデューサーが私のせいで傷付く所はもう見たくないわ!」
こんなの大した事ない、という言葉が喉まででかかったがなんとか飲み込んだ。夏葉にとっては大した事であることは分かったから。
「大丈夫だ。...今回の件でさ、みんなすごい心配してくれたんだ。自分ではこれくらいなんとも思ってなかったけどて...なんか、もっと自分のことも考えないとなって思ったよ。こういう事故にも、あと健康的にも。俺のせいでみんなが悲しむ顔は見たくないしな」
「......」
「これからも夏葉のことを守るよ。でも自分を犠牲にしたりはしない」
「...本当?」
「ああ!それに俺は夏葉とトップを目指してるんだからそう簡単にくたばるつもりはないぞ」
「......簡単じゃなくてもダメよ」
「分かった。夏葉、...だから大丈夫だ。俺はずっと夏葉のそばにいるよ」
俺がそう言うと夏葉は鼻を啜って、大きく息を吐いた。そのまましがみつくように抱きつかれ、ぐりぐりと頭を押し付けてたと思ったら不機嫌そうな声で言った。
「そんなこと言って、またすぐ無茶するんでしょう」
「...しないようにするつもりだけど、でも夏葉が見ててくれるんだろ?」
「...当たり前じゃない。プロデューサーを夜更かししたら無理やりベッドに連れていくし倒れたら担いで病院に連れて行ってあげる」
「ははっ、頼もしいな!」
「プロデューサーは私が守るわ」
「ああ、」
「一生よ。私がアイドルを卒業してもよ!」
「夏葉と一緒だったらずっと楽しそうだな」
「...意味わかってる?」
「分かってるつもりだよ」
「......えっ」
自分で聞いたのに、俺の言葉に夏葉は身体を離して俺の顔を見つめたまま固まった。さっき寒さで赤くなっていた時よりも赤く染まった頬に手を添えると熱いくらいだった。
「...この部屋暑すぎるわ」
その言葉に思わず笑ってしまうとすっかりいつもの負けず嫌いの夏葉が出てきたらしい。仕返しとばかりに唇を奪われて今度は俺が固まってしまって、夏葉は嬉しそうに笑っていた。
夏葉は快活な女性っていうイメージとヤンデレ気質なイメージ両方とも合ってると思いますねー ヤンデレ夏葉はきっと狂気だろうな〜