又吉直樹の新作小説『生きとるわ』を語る会/第5回「何が真実で真実でないか、いったりきたりするジェットコースターみたいな感覚が、すごく不思議」(戸塚祥太×黒川隆介×又吉直樹 鼎談)

文芸・カルチャー

公開日:2026/3/28

阪神戦をテレビでビール飲みながら一人で観ている、そんな日が訪れるなら、岡田の人生はそれでもう十分幸せちゃうかな(又吉)

又吉:岡田は40歳を目前にして、職も家庭も信用も何もかも失うけれど、じゃあ岡田の人生はもう詰んでしまったかということについてお話ししたいんです。

戸塚:岡田とは同世代なんで、ここからもう一回踏ん張ってほしいんですけど……。岡田は再婚だってできそうな人でもあるなとは思うし、また何か新しい環境を自分の力で作れるんじゃないかなって気もします。

黒川:教員免許はたしか、特例もあって38歳の岡田でも取得することは不可能ではないですよね? であれば、日本映画研究部顧問の廣野先生みたいになれたら、それは現実的に目指すことのできる一つのゴールかなって思いますね。

又吉:岡田って思春期の頃に、教師をはじめとする大人たちに理想を崩されたみたいなところから、すべて狂い始めた感じしますもんね。

黒川:責任を取って辞めたわけではないと廣野先生本人は言ってるけれど、岡田がその責任をずっと感じてきたみたいな描写がある。そこに入れ替わる形で、岡田が先生になったらいいなと思います。

又吉:そのセリフ覚えてなかったわ(笑)。僕は、阪神タイガースが最後に日本一になった1985年に大阪で生まれたにもかかわらず、岡田がその夜、阪神がセ・リーグを制したことを知らんかったっていうのは、中村のことがあったからじゃないかと思うんです。だから、意識的に野球に関する情報を遠ざけていた。公認会計士の岡田がまた社会的な信用を取り戻せるかはなかなか厳しい気もするんですが、でも60代になったときに、阪神戦をテレビでビール飲みながら一人で観ている、そんな日が訪れるなら、岡田の人生はそれでもう十分幸せちゃうかなって思ったりもするんです。

撮影=新妻誠一 取材・文=栗山春香

 

書名:生きとるわ
著者:又吉直樹
定価:2200円(10%税込)
発売:2026年1月28日(水)
発売・発行:株式会社文藝春秋
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163920603

<第6回に続く>

あわせて読みたい

生きとるわ (文春e-book)

生きとるわ (文春e-book)

試し読み *電子書籍ストアBOOK☆WALKERへ移動します