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 愛と正義だけが友だちの社畜弓と、カジュアルスタート国民的バンドマン槍の絶対ハッピーエンドにならない槍弓/Novel by スピットファイア憲三郎

愛と正義だけが友だちの社畜弓と、カジュアルスタート国民的バンドマン槍の絶対ハッピーエンドにならない槍弓

12,909 character(s)25 mins

タイトル通り。全然ハッピーエンドにならない。
1頁槍、2項弓。
友人に漫画にしてもらうためのプロットです。

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愛と正義だけが友だちの社畜弓と、カジュアルスタート国民的バンドマン槍の絶対ハッピーエンドにならないパロ



カラオケで歌うのも飽きてきたからとりあえず駅前で歌ってるやつの真似してみよ!くらいのカジュアルな気持ちでギター一本持ってストリートをはじめた。
なまじ顔が綺麗な方だし普通に歌が上手いから一週間もすれば一躍有名人になった。
気ままに歌いたかったのに、客が増えてきたせいで気ままでなくなって、顔だけを褒めそやされるのも虚しかった。
もう飽きてきたなあってなってきた頃に、やたらに目立つ風貌の男が群衆の後ろの方に居るのに気付く。頭一つ抜きん出てる長身に一見強面だというのに、ほろほろ泣いてたもんだから尚更。
気付いたその日から毎日そいつが居るものだから、すごい疲れた顔してたのに、死んでた目がどんどんきらきらしていくから嬉しくなって、もっと元気になってほしくて、そいつに聞いてほしくて、何だかんだ毎日歌い続けた。

一ヶ月経った頃にはチップでちょっとした飯が食えるようになってきて、群衆もそこそこ増えてきて周りに迷惑になってきたし、ライブハウスの人間が声掛けてきたからそっちに移す気でいたが、あの疲れた男が聞いてくれないのなら意味がない。
いつも話し掛けようとしていたのにタイミングを逃してしまう。他の誰かと話しているときを見計らっているのか、チップだけ入れて帰ってしまうもんだから名前さえわからなくて困る。
いっそ辞めても良いけど、ここ一ヶ月だけでみるみる顔色が変わっていったから、自惚れでいいから自分が理由だったら嬉しいし。
てなわけでその日は他の人とは話そぞろに切り上げて、ちょっと強引に腕を引いて連絡先を書いたメモを渡した。変に思われたくなくて、また聞きに来てほしいから、とだけ伝える。男が困ったような顔をしていたから、いらなかったら忘れて、と付け足す。

ライブハウスで歌いはじめたら、当初の気ままに歌いたい欲から、もっと聞いてもらいたい欲に変わっていった。
客数はある程度コンスタントに保てている。それどころかまたたく間に増えていく。バンドをやらないかと声を掛けられて、二つ返事で了承したあたりからいよいよ、趣味の範囲を超えていった。
どんどん人気が高まるし、どんどん有名になってくのに、男がライブハウスに現れることも、連絡が来ることもなかった。

立ち聞き客からファンになっていった者たちから、元気が貰える、とか、生き甲斐だとか言われて、素直に嬉しかった。嬉しいけど、どこか自分の容姿だけを見た上面だけの言葉ばかりのようで、何だか虚しく思う。
それに、あの男のことが気になって仕方ない。
また死にそうな顔をしていたら。なんで連絡をくれないのか。また聞きに来てほしい。いらなかったら忘れて、なんて言ったのは自分なのに、自分の歌で泣いたり笑ったりしていたのはあの男だけだったから。

SNSだのメールだの、ひっきりなしに通知が来るからうるさくて気付いていなかっただけだった。
男からショートメッセージが届いていたのに気付いたのは、トントン拍子に事がうまく行き過ぎなほど進んでいて。
CDが出て、マネージャーが付いて、自分のスマホが仕事から離れた頃だった。デカいホールでのコンサートも決まっている。町中でもCMでも自分の歌声が聞こえる。あれから半年以上が経っていた。

メッセージは二件。
一件目は連絡先を渡した日から三ヶ月経っていた。「連絡が遅くなってすまない。仕事が忙しくて聞きにいくことが難しい。きっと成功することだろうから、陰ながら応援している」ということ。
二件目は比較的最近。アルバムが好評価を得て、コンサート開催が発表されたあたり。
「活躍を大いに喜んでいる。いつも聞いているから、とても元気に過ごせている。感謝している」ということ。
男の名は未だわからなかった。

どこかで聞いてくれていて、元気にしているのなら構わない。けれどもうひと目、会いたかった。
無機質な文字列だけでは満足できない。上面だけの言葉だけでは満足できない。
単純に我儘なのはわかっていた。
でも書く歌詞の殆どが、どうにも報われない話ばかりになってしまう。そこが良いらしいから、好評価なのだけど。

メッセージから番号が知れている。すぐに電話を掛けた。随分と衝動的だった。三コール、いや五コールしても出ないなら諦めよう、そう思って。

「はい、エミヤです」

やたらにザワザワ聞こえるのは駅にでも居るのか。めちゃくちゃ良い声してるな。
そうか、エミヤというのか。
名を名乗って、今すぐ歌を聞いてほしいから、会いに行く。そう言うと電話の向こうからは「は?」とか「え?」とか聞こえてきて、ついでに駅のアナウンスが聞こえたから、ギターケースを引っ掴んで走った。
きっとろくに確かめもせずに電話に出たのだ。それだけで、普段どれほど忙しくしているのかがわかった。

エミヤはスマホを耳元に当てたまま、改札口の側で立ち呆けていた。でけえし、普通に邪魔なんだが。
連絡先を手渡したときと同じように強引に腕を掴んで駅を出る。繁華街とは逆側の静かな通りを真っ直ぐ。
エミヤは終始あたふたしていて、相変わらず「は?」と「え?」しか言わない。
人気の少ない公園のベンチにエミヤを座らせて、ギターケースを開ける。
改めて顔を見たら、酷く疲弊しているように見えた。全然元気じゃねえじゃん。嘘吐き。
息を吸って、お前に聞いてほしいと告げて、返事を待たずに勝手に歌う。最近の悲しい歌詞のでなくて、はじめの頃に歌っていたやつを。

大男がぼたぼた涙流して泣いてるのは別に、こいつに限ったもんでもない。今やそういうファンはたくさん居る。
なのにこいつに、エミヤに固執してしまう理由はわからない。
ただ何か、泣くことも許されていないようなこいつをとにかく泣かせてやって、解きほぐしてやろうとか、そういうのを、してやりたくて。

今の俺があるのはお前のおかげなんだよ、と言うと信じられないような顔をしてから「とても嬉しい。充分だから、大丈夫だから」と言う。本当に大丈夫な奴は大丈夫を何回も言わない。そう言っても話半分にして帰ろうとしやがる。こんなに会いたかったのに、俺だけなのかとまた、我儘な気持ちがせり上がってきて、つい責めるような言い方をしてしまった。
「そもそも住む世界が違うだろう」と言われて、真っ白になった。悲しくなった。でも何故かこいつを諦められない。
コンサートのチケットを半ば無理矢理渡して、絶対に来てほしい、お前に聞いてほしいから。それと、無理矢理連れて来てごめん、会えて良かった。絶対来いよ、待ってるから。と言うと、やけに素直に「必ず行こう。私も会えて嬉しい」なんてぼろぼろの顔で言う。
どうしてか諦められない。壊れた挙句に死んでしまいそうで、放っておけない。
コンサートが成功したら、歌う仕事をするのは終わりにしようと決めた。

コンサートは満員御礼。
エミヤが来たら、皆の前で歌うのは終わりにする。エミヤが来なかったら。来るまで歌う。届くまで歌う。
このあたりはボカしているけど、バンドのメンバーや周りのスタッフ達も、ある程度把握していたようで多少の反対はあれど概ね了承してくれた。
新曲も用意した。大丈夫じゃないエミヤのために書いた。
客席は圧倒的。目視できる範囲なんかたかが知れている。
なのにエミヤが居ないことはわかる。本人は平凡なつもりのようだけど、残念ながら相当目立つから。
来ないつもりなのか。迷惑だったのか。それとも、単に忙しいのか。
いつもより声を張ってしまう。どこに居るんだ。
待ってる。待ってるのに。

コンサート終盤、もうあと三曲しかない。水を飲んで、チューニングして。引き伸ばしたい。時間が無い。
終わってしまう。また次があるかなんて、わからないのに。
さっと光が差し込んだ。二階の扉が開いた。
あたりを見回しておろおろしているふうで、席まで行けなくて通路に立つことにしたらしい。
エミヤが来た。こんなに嬉しいことはない。
待っていた。来てくれた。相変わらずぼろぼろで、崩れてしまいそう。何が大丈夫だよ。何も大丈夫じゃないじゃないか。嘘吐き。
じっと見詰めていることに気付いたようで、キョロキョロと周りを見渡しているから、指を指すと一気に視線はそちら一点集中。慌てたように小さくなって、視線が外れたあたりでようやく軽く会釈をして寄こした。何だそりゃ。

新曲を最後まで取っておいて良かった。またぼたぼた泣いてる。良かった。お前が泣ける歌が歌えて。
コンサートは大成功。
これで終わりにすることを告げると、阿鼻叫喚。申し訳なくも有り難いことではあるが、元々本当にやりたかったことから遠くなっていたことも確かだった。それに今はもっと大事にしたいことが出来た、とだけ。
多くを語る気はない。他の誰も、真意をわからなくていい。ただ一人だけ、わかってくれたなら、それでいい。
お前だよ、エミヤ。エミヤが笑ったり泣いたりするのを、許されている世界を作りたいんだ。

エミヤは、顔を真っ青にして、何故か逃げるように会場を出ていってしまった。
嫌な予感がする。

「辞めてしまうなんて、どうして。特別にチケットをくれたのに遅れてしまったのだが、あれだけの会場でまさかとは思うが、もしかしてそれに気付いていて、怒っているのだろうか。また必ず聞きに行くから、どうか辞めないで」

エミヤからショートメッセージが届いていたのは本当にすぐだった。
打ち上げに行こうとか言っているのが聞こえるが、そんなのやってる場合じゃない。すぐに会わなければ。
大体、合図をしたのに「まさかと思う」とはどういう了見だ。もう少し自覚しろ。
電話を掛けて、何コールしたかわからない。何回も掛けた。出やしねえ。どういうつもりなんだ。
たくさんのファンの一人、じゃない。
特別扱いしたい。たった一人なんだって。思い知らせてやりたい。
もしかしたら、と足を向けたあの公園に、エミヤは居た。あの日みたいにベンチに座って。嘘みたいだ。夢みたいだ。
まるで、これまでに書いた歌詞そのものだった。

エミヤ。
弾かれたように頭を上げた。驚いた顔をしてからすぐに、じっと責めるような視線を向けられる。はじめて見た顔だった。
咄嗟に口を開く。
来てくれたことは本当に嬉しい。会場で言った通り、自分のしたいことからズレていた。それに、ずっとお前ばかり気になって仕方ない。本意はそこで。だから辞める。お前だけ聞いてくれたらそれで良かったんだ。
本心だった。思い返せば元からずっと、そうだったかもしれない。

また、信じられないような顔をしている。この顔ばかり、見ている気がする。
そういうんじゃあ、ないのに。

「…………」

エミヤ。

「困る。もしそれが本当なら、私のせいでたくさんの人を傷付けることになった。寧ろ迷惑でさえある」

なんて。怖い顔をして言う。悲しくなった。
一世一代の大告白を、一度も受け取ることなく弾き捨てられてしまった。
何もはじまってないのに、終わった。

「本当に、本当に辞めてしまうのなら、二度と君の声を聞いたりしない。私はどこかで必ず聞いているから、どうか歌い続けてくれないか」

頼む、と言って下げられた頭をぼうっと見ているつもりだった。
こんなに悲しい思いをしたのは、はじめてかもしれない。
泣いていたのに気付いたのは、エミヤがはじめて名前を呼んでくれたときだった。
つまり単に「住む世界が違う」から。
あの日から変わったのは、自分だけだった。

ほどなくして、活動休止と称して、事実上解散したが、歌うことは辞めなかった。
どこかの違う世界で聞いているのなら、それでいい。
自分を取り巻く世界ががらりと変わった。いや、元に戻った。
スマホがやたらに通知をすることは無いし、電話は、繋がらなくなった。
なのに未だ、諦められないでいる。
またどこかで足を止めてくれるって、耳を傾けてくれるって、信じている。

Comments

  • emikof
    December 22, 2021
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