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甘え下手な弓が頑張るお話/Novel by U樹

甘え下手な弓が頑張るお話

2,107 character(s)4 mins

n番煎じですが。
甘え下手な弓が不慣れながらに甘えるのが可愛くて仕方がない今日この頃!
何でも許せる人向け

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甘やかすと言う行為は人並みに得意だと自負しているし、それが好意を抱いた相手となれば尚更の事。しかし、それが甘えると言う行為に変われば話は変わってくる。
単刀直入に言おう。私はどうにも甘える事が上手く出来ない。



指でなぞればキュッキュと音を立てそうな程念入りに洗った食器を水で流しながら私はソファーで寛ぐランサーを盗み見た。
詳細は割愛させてもらうが紆余曲折を経て今現在この男とは恋人として一つ屋根の下で暮らしている。こうして共に過ごすようになってから初めて知った事だが、見るからに脳筋タイプそうなこの男は偶に私には分からない言語の小難しそうな分厚い本を読んでいる事がある。まあ、詰まる所今がその時な訳だが。
夕飯に提供した煮込みハンバーグは我ながら中々に上出来だった。たっぷりのキノコと一緒にトマトソースでじっくりと煮込んだハンバーグはナイフを入れると中から肉汁が溢れ出し、肉の旨味とトマトの酸味が程良く絡み合いさっぱりとした口当たりに仕上がっていたと思う。今は本に夢中になっているランサーも何度も美味いと言いながらおかわりまでした位だ。
……話が逸れてしまったが本題はそこでは無い。夕飯の際に一緒に飲もうぜとランサー持ち出して来たワイン。酒屋の店主に飲み口が良いと勧められたらしいそのワインは渋みがあまり無く、甘口で確かに飲み口が良かった。
そう、これだ!あまり酒が得意では無い私が今日は珍しくワインを飲んでいる。別に酔う程の量を飲んだ訳では無いが、アルコールを言い訳にすれば少し位は素直に甘えられるのではないか。
普段はどちらかと言えばランサーの方が甘える事が多いし、それを分かって彼を甘やかすのが私の楽しみでもある。
普段甘やかす立場である私が彼に甘えてみる機会など今日を逃せば次はいつになるかも分からない。慣れない事をしてもしランサーに引かれるような事になっても、酔っていた事にしてしまえば私の受けるダメージも随分軽減されるだろうと言う算段だ。
蛇口を捻って水を止め、大きく深呼吸を一つ。大丈夫、今の私なら何を言われてもアルコールと言う名の免罪符が付いている。
相変わらずソファーで読書に励むランサーの隣に腰掛けると本に向いていたランサーの視線が私に向けられたが、緋色の瞳はまたすぐ手元の活字に視線を落とした。彼の隣に座っては見たもののこの後どうすればいいのかが私には全くと言って良いほど分からない。
普段の私はこんな時どうしていたのだろうか。思い返すとこう言う際にアクションを起こすのは大抵ランサーの方からで、それならばと普段彼がする様にランサーの肩に控えめに凭れ掛かってみる。
自分からやっておいて今更こんな事を言うのも何だがとてつもなく恥ずかしい。私は今どんな顔をしているのか…物凄い顔になっていないだろうか。例えるならそう、未熟な自分を目の前にした時の様な…。

─パタン─

すぐ傍で聞こえた音が本を閉じる音だと気付く迄に数秒の時間を要してしまった所為で、ランサーに何かを言われる前に身体を離そうと思っていた筈が随分と反応が遅れてしまった。私が動くよりも先に肩越しに回されたランサーの腕が私の頭を緩く抱き込み、彼の節くれ立った細く長い指が私の髪を柔く撫ぜる。

「どうした?眠くなっちまったか?」

普段の彼の声よりも幾分穏やかな声音が鼓膜を震わす。それはじわりじわりと鼓膜を犯し、その声に反応した私の心臓が忙しなく鼓動を刻み始める。
このままではまずい。口から心臓が出てきてしまう前にこの心臓に悪い状態を何とか打破しなければならない。

「ああ、どうやらそのようだ。酔いが回ってきたみたいでね。すまないが私は先に休ませて貰うとするよ。」

もう一度問いたい。私は今どんな顔をしているのか誰か教えてくれ。「ああ、おやすみ。」なんて聞き分けの良い返事をしながら名残惜しげに私の手を握るこの男を前にして果たして私は平常心を保てているのか。
ランサーにある筈の無い垂れた耳と尻尾が見える気さえして来た。ハの字に下がった眉がわざとらしいが、ランサーは私がこの顔に弱い事を知っているから余計に質が悪い。
それでも今は一刻も早くこの部屋から逃げ出したい気持ちの方が僅差で勝っている。

「おやすみ、ランサー。」

ランサーには申し訳ないが彼の手をやんわりと解き、彼に背を向け扉を目指す。頑張れ私の表情筋と足。彼に動揺を悟らせる訳にはいかない。
何とか辿り着いた扉を後ろ手に閉めたのを皮切りに扉に背を預けたまま思わずその場に崩れ落ちる。

「嘘だろ…?」

独言るが勿論返答なんてある筈が無い。私が彼を真似た様にあの時彼もまた私がいつもする様に私の頭を抱き、髪を梳き、そしてあの美しい緋色の瞳を愛しげに細めて笑って見せたのだ。私は普段あんな瞳で彼を見つめていると言うのだろうか。
目は口ほどに物を言うとはこの事で、だとすれば私の好意は彼に全て筒抜けという事になるじゃないか。あまりの恥ずかしさに頭を抱え、言葉にならない呻き声を上げ一人百面相する私の耳に扉の向こうでくつくつと笑う声が聞こえた気がした。

Comments

  • 天井
    December 13, 2018
  • 綾人
    December 12, 2018
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