フローレンス/渋谷区/東日本銀行の根抵当権問題のポイント整理
2025年11月18日
(11/19 補足を追加。あと1「悪意」の部分の銀行の書きぶりを変えました)
以下の初回記事で問題を網羅的に紹介して、ついでに根抵当権が付いている不思議な状況についても問題を提起したところ、区議さんたちの間で話題となり、大きく採り上げられるようになったという経緯はご承知の通りです。
その結果、Xにはフローレンスさんと駒崎さんに対する罵詈雑言が溢れかえったので、「いや、ちゃうんやで。三者三様に責任がある複雑な問題なんやで」ということを解説しようと思って書いたのが以下。
記事はそれなりにご注目いただいたようですが、無用のヘイトスピーチを止める助けにはならなかったようです。
それどころかフローレンスさんによる要領の得ないお気持ちだけの謝罪によって「うおおお!フローレンスが謝ってる!悪事を認めたということだああ!」という感じでさらに燃え広がってしまいました。
リリース出すならもうちょいうまくやりなさいよ君たち。
さらに、基本的に左派の不祥事はスルーする地上波TVが何を思ったのか突然本件を扱いだして、「違法状態」というワードが使われたことも相まってさらに炎がバーニングな結果になっています。
いや、マスコミに扱われるのは良いことなんだけど、うん。
改めて責任の所在や、誰がどのようなリスクを負っていたかを可視化することで、渋谷区の関係者の方々がどのように本件を調査していくべきか等を考える助けになればと思い、本稿を書きました。
ポイントは「悪意」の有無と、テレビ朝日の言葉を借りると「違法状態」時の具体的なリスクの把握だと思います。
また、「補助金で建てた建物」という要素も当然重要なのですが、上記ポイントを押さえるためにはどちらかというと「官有地上の建物」という要素が重要になります。
11/19 補足
今回、前回記事ではぼかしていた「東日本銀行」という金融機関名をあえて書きました。
というのも、正確さに欠けることで定評のあるXのAIまとめが案の定、担保権者を「三菱UFJ銀行」と誤って記載しているため、それを信じた情報が拡散されている様子が見受けられるからです。
登記情報は公知の情報ですから、誤情報の拡散を防ぐ意味でも東日本銀行さんは我慢してください。
UFJってどこから出てきたんだろう?
1、 「悪意」の有無
① 「悪意」の動機
今回の誤った担保の設定はフローレンスさん、東日本銀行さんどちらかがまともであれば防げた話です。
両者に責任があることは間違いありませんが、ミスなのか悪意なのかによって評価は変わります。
行政が処分を決める際、実務レベルでは「単なるミス・理解不足」による行為と、「わかっててやってる」行為では後者の方が悪質性が高いと評価されます。
本件でも「悪意」の有無をどのように判断するかが重要なポイントです。
フローレンスさんが「抵当権」の許可を取ってから「根抵当権」を設定する手続きを行ったことは、朝日テレビさんの取材内容を見ても間違いないようです。
担保設定に行政の許可が必要ということをフローレンスさんも、東日本銀行さんも認識していたのでしょう。
その上で許可と異なる「根抵当権」を設定している点をどう評価するかが難しそうです。
前回記事でも解説していますが、抵当権は一回だけの借入にしか使えませんので、もう一度おやこ基地シブヤの建物を担保として活用したい場合は行政から許可をもらう必要があります。
対して、根抵当権が設定できれば、いちいち行政の判断を仰ぐ手間が省けます。そもそも毎回許可が得られるとは限りませんので、その不確実性も排除できます。
担保を付けた側の東日本銀行さんにとっては後述する担保の効力の問題があるので悪意はなく、支店が無知だったため起こった出来事だとは思います。
しかしフローレンスさんにとっては担保に効力があろうがなかろうが知ったことではないですから、「銀行(支店職員)が良いって言ってるしまあええやろ」くらいの気持ちで、 繰り返し使い回せる根抵当権を渋谷区との約束に反して設定した可能性はありそうです。
抵当権設定の許可を取った上で、根抵当権を設定したことについては、もちろん渋谷区が担保設定が申請通りになされているかを確認すれば、終わってしまう話ではあります。
渋谷区さんの日頃の仕事ぶりを見た上で、フローレンスさんは「バレへんやろし、バレて怒られたら直せばええやろ。ワンチャン通るか試してみるか」と考えたのかもしれませんね。まあ普通に無知だったかもしれませんが。
② 「悪意」を判定するための調査方法
本件について、悪意の有無をはっきりさせる方法はおそらくないでしょう。しかし渋谷区としては可能な範囲で調査を行って、それを判定しなくてはなりません。
取り得る手段としてまず思いつくのは、フローレンスさん、渋谷区の当時の担当者に対する聞き取りです。
ですが、当然ながら「悪意」はなかったという風に当時の関係者は誘導しようとするでしょう。証拠もどうせないでしょうし。
そのため、東日本銀行さんを相手にした側面調査が重要になると私は思います。
銀行は職員と顧客とのやり取りを業務日誌として残しています。この根抵当権設定前後でどのようなやり取りがあったのかを確認できれば、何らかの客観的な手掛かりを得られる可能性があります。
収穫があるかないかはわかりませんが、区として是非対応して欲しいところです。
ちなみに、前提としてご認識いただきたいのですが、銀行の支店レベルでは法務知識やコンプライアンス意識不足が見られることも珍しくはないです。しかし本来は本部がそれをストップする役割を果たします。
しかし東日本銀行さんは2018年(平成30年)に、顧客の利益を害してまで収益確保に走っていたことや、本部の牽制機能の欠如等を理由に財務局から処分を受けています。
2017年(平成29年)の当時の稟議の審査や、担保書類が適法に具備されているかの事後チェックが正常に機能しなかったことが不思議でしたが、ある意味では納得の状況ですね。
③ 本来の「悪意」やリスクの方向性
悪意があったかどうかは別にしてフローレンスさんが違法な担保提供をしたことに間違いはありませんが、その結果として誰がどのようなリスクを負うことになったかということも重要です。
ここで確認しておきたいのが、登記という行為の意味です。
難しく言うと登記には「公示力」はあっても「公信力」はありません。
今回のケースだと「根抵当権」という権利が登記されたとしても、その権利が有効かどうかまでは保証されないと理解してもらえればいいと思います。
後段でもう少し詳しく触れますが、端的に言うと本件の「根抵当権」登記は『本来であれば』効力を発揮しません。
そのため、『本来であれば』、この根抵当権設定によって区の財産が害されるような事象は起こり得ません。
仮にフローレンスさんが債務不履行に陥った際、被害を受けるのは『本来であれば』東日本銀行さんになります。
つまり、仮にフローレンスさんに「悪意」があったとしても、その矛先は渋谷区ではなく東日本銀行さんに向いていることになります。
あえてフローレンスさんを批判するなら、「本来は無効な担保を使って銀行から融資金を引っ張った」という融資詐欺的、、、は言い過ぎにしても、適正な審査を経ずに融資を受けたのでけしからんという方向性が正しかろうと思います。
銀行側がザルでチェックが働かなかったにしても、またフローレンさんにそこまでの悪意はなかった(渋谷区との約束を破った自覚があっても、担保が無効とまでは考えていなかった)にしても、結果的に無価値なものを東日本銀行さんに差し出して融資金を得ている事実は変わりません。
渋谷区の立場からすると、「融資を得るためのツールとして区の財産を不法に活用された」みたいな言い方になるでしょうか。あくまで渋谷区は脇役です。
この関係性を理解することが、次に述べる渋谷区のアホさ加減を理解することに繋がります。
ちなみに、本来は渋谷区に害が及ばないという理屈を簡単にまとめたのが以下。
仮に東日本銀行さんが融資金を回収するため、フローレンスさんにおやこ基地シブヤの建物を売却させるというストーリーを考えてみましょう。
(わかりやすさ優先でちょっと正確性を欠いた流れにしてますが大まかには問題ないです)
フローレンス ➡ 買主への建物の売買契約は一応は有効になります。建物の所有権自体は買主に移りますし、登記もされるでしょう。
しかし問題になるのが買主 ➡ 渋谷区(地主)との関係です。借地契約には「無断担保・無断譲渡があれば効力排斥/解除可能」という条項があります。
適切に担保設定許可を取っている場合は、「東日本銀行さんが融資金回収のために行う売買を予め承諾する」という念書があるはずなので、借地契約も有効に引き継がれますが、今回はそれがありません。
その結果、買主は建物の所有者ではあるが、土地使用については渋谷区が継続的な使用を認めないという状態になります。
つまり渋谷区が「お前は出ていけ」と言える(正確にはちょっと違うけど)ので、区の財産は守られるという形です。
実際は買主側も購入前に権原の調査をしますから、売買自体が成立しないということになるでしょう。
つまり銀行側にとって、担保に取っているおやこ基地シブヤの建物は、融資金の回収に寄与しない「絵に描いた餅」ということになります。
11/19補足
当初の記事では銀行の支店職員に悪意(根抵当権が違法という認識)があったかも?という可能性に含みを持たせていました。
もちろん無許可の根抵当権に効力がないことはわかっていなかったと思いますが、深く考えずに抵当権設定の許可に反する根抵当権をつけて、「咎められなかったこっちのもんや!」的な考えがあった可能性はあるかなあと。
しかしながら、5千万円(設定額ですが)は銀行が無理をしてまで欲しいボリュームの融資金額ではないですから、動機としては弱くない?単に支店が知識不足だった&本部の機能もザルだっただけじゃない?という指摘をいただきました。
まあたしかにそれはそうかもということで、書きぶりを「銀行には悪意はなかったと思う」という書き方に改めました。ご容赦ください。
2、区のリスクの判定
① 前置き『民法第94条第2項の類推適用』
上述の通り、本件の場合は特に借地上の建物というところが影響して、『本来ならば』根抵当権設定登記は有効にはなりません。
しかし、民法第94条第2項の類推適用という考え方があります。
結論だけ言うと、フローレンスさんが債務不履行を起こして東日本銀行さんから担保処分を迫られたようなケースで、『A(フローレンス)がB(第三者)に対して不動産を売却した場合、権利者であるC(渋谷区)が虚偽の登記を黙認していた(もしくはそれと同等と判断された)場合には、Cは、善意かつ無過失のBに対して、AB間の売買契約の無効を主張できない』可能性があるという話です。
前記事でも書いた通り、渋谷区は登記直後の「申請通り登記されてるかな?」という確認をしなかったことはもちろん、財産の評価替えや賃料更改等のイベントもあった8年間、一度たりとも登記を確認せず、第三者である私が指摘するまでこの事象は一切表に出てこなかったわけです。
ここがポイントになるでしょう。
② 渋谷区の瑕疵がリスクに変わるまで
繰り返し書きますが、渋谷区の許可を得ていない「根抵当権」は効力を発揮しないのが原理原則です。
しかしながら、この「8年間の放置」という状況には無視できない意味があります。
例えば、ある判決では『Aが所有するA名義の不動産について、BがAの実印等を持ち出して勝手に登記をB名義に移転し、後日それを知ったAが、Bへの移転登記を4年余りにわたって放置した』ことがB名義の本来は虚偽だった登記を有効と裁判所が判断する材料になっています。
また、別の判決では虚偽の外観が作出されたことについて、本来の権利人(今回の渋谷区)が関与していなかったとしても、「余りにも不注意な行為によるもの」で「自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながら敢えて放置した場合と同視しうるほど重い」場合は、その責任を問われています。
本件の場合、「何年もの間、是正されていない登記は渋谷区から有効と判断されているに違いない」と第三者が信じる可能性はあります。
上述の通り、登記には「公示力」はあっても「公信力」はないため、「根抵当権」という登記を信じ、おやこ基地シブヤの建物を購入しようとする買受人は、その根抵当権が正当なものかどうかの権原調査を行います。
具体的には借地契約が適法に引き継げるかどうかを書面で確認します。
その折に、例えば何とか借金を返したい / 回収したい状態であるフローレンスさん / 東日本銀行さんが「抵当権の許可書」を「根抵当権の許可書」に変造して買受人に示した場合はどうでしょう?
(オーバーな想定じゃないよ。そういうことは普通にあるよ。買受人も共謀して「偽の書類を信じてだまされてるフリをする」こともある)一般的に「登記を信じただけの者」も、「偽造書類を信じた者」も第三者保護の対象にはなり難いです。
しかし偽造された書類を真正なものと誤信し得る外観(=誤った根抵当権登記の永年の放置)が渋谷区の不注意によって作出された本件ではかなり怪しいと私は思います。
裁判所の判断次第では、官有地の借地契約と共におやこ基地シブヤの建物が適法に第三者に移ることも可能性としてはあり得ます。
そこまで至らなくとも渋谷区が何らかの金銭的譲歩を強いられたり、不要な訴訟コストを負担しなくてはならなくなる可能性は低くはないでしょう。
つまり渋谷区は長期間にわたって誤った登記を放置したことで、無用のリスクを抱えるに至ったわけです。
過去の出来事と現在の状況が時間差で接続され、トリックとして成立するミステリー小説めいた事象ですね。事実は小説より奇なり。『仮面山荘殺人事件』(東野圭吾)っぽい。
普通そうはならんやろ。
本件は、「補助金の適正な使用の監督責任」(建物) 、「行政財産の管理責任」(土地 / 借地権)、「登記・承諾実務の注意義務」 (建物担保は借地権にも及ぶ/第三者が登記を信じれば外観法理の議論も出る)という感じで三つの領域が全部絡むので、渋谷区が雑に扱ったことについては本当に不思議です。怖くないんか?
「悪意」が本件事象に介在しなかった仮定とすると、渋谷区の杜撰な業務 > 東日本銀行の稚拙な審査・担保実務 > フローレンスの無知あるいは不注意の順で、世間様に対する責任があるという印象を個人的には持っています。
3、まとめ等
① まとめ
幸いにしてフローレンスさんは財務的には超優良企業であり、8年間で債務不履行を起こすようなことはありませんでした。
また、報道によるとフローレンスさんは東日本銀行さんに対して借入金を返済して根抵当権を外す手続きしているということで、将来にわたって東日本銀行さんや渋谷区に何らかの損害が発生することも起こり得ません。
良かったねという話なのですが、それはそれ、これはこれです。
本件で無用のリスクを負った東日本銀行さん / 渋谷区は、二度とこんな事件が起こらないように再発防止策を講じないといけません。
また、東日本銀行さん / 渋谷区の「何やってんだお前ら馬鹿じゃないの」感は半端ないものの、当時からNPO界の頂点の一角に君臨していたフローレンスさんの責任も追及されてしかるべきでしょう。
まずは東日本銀行さんへの側面調査や当時の渋谷区 / フローレンスさんの担当者への聞き取り調査を通して、「悪意」の有無を判別しなくてはなりません。
「悪意」があった場合は、厳しい処分が必要になりますし、仮に「悪意」がなかったと判断されたとしても、法の不知は免責事項にならないので、少なくともフローレンスさんの経営体制が確りと整ったと確認できるまで、例えば渋谷区ふるさと納税の寄附先から除外する等の対応は絶対に必要なことだと思います。
渋谷区主導で本件に対する適切な調査や処分が行われることを切に望みます。区議員の方々も頑張ってください。
② 付言
本件について、仮に誰の悪意もなかったとすると、単に登場人物が全員アホだったとか、見たくないものを見ないようにしていたみたいな、より根深い問題になります。
慈善事業が絡むとみんながアホになったり、見たくないものを見ないように目を瞑ったりする現象は、他にも色々と見られます。
以下ご参考。
予算消化に手一杯だったり、「まあ良いことしてるんだからいいじゃん」ということで、見過ごされていることが多いのでしょう。
また、人手不足で審査や監督という、制度インフラの中核を担う機能が弱体化しているということも無関係ではないはずです。
今回の「根抵当権」問題は、本来なら事務的な確認で即座に是正されるはずだった一語の違いが、長年にわたって放置されたことで法的な意味合いを持ち、また放置されていたことそれ自体の重要性も併せて、公益セクター全体を取り巻く行政による監督、銀行の実務能力、そして事業者のガバナンスの弱さを示す象徴的な事態へと変質した点に大きな特徴があります。
こうした意味で、本件は、『機動戦士ガンダムユニコーン』における「ラプラスの箱」を想起させます。
作品中では、歴史の片隅に埋もれていた一条の文言が長い歳月を経て、既存の支配体制が当初の理想からかけ離れてしまっていることを問う文言に醸成されました。
登記簿の中に人知れず眠っていた一語が掘り起こされたことで起こった今回の騒動を、ただの一事業者を取り巻く問題に矮小化せす、公益セクター全体の状況を見つめ直すきっかけにしていただきたいと願うばかりです。
以上


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