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シュバシコウは何を運ぶのか/Novel by じきる

シュバシコウは何を運ぶのか

5,190 character(s)10 mins

性知識に疎いノエがルスヴン卿にちょっかいを出され、ヴァニタスに慰められるお話です。
酔うとキス魔になるノエを抑止する為に、先生が「7秒キスをすると子供が出来るよ」って嘘をついてて、それをずっと信じてたら可愛いよね!っていう妄想。
ヴァニノエは両片思いで、ルスヴン卿は名前のみの登場です。
あとノエの頭が緩くて、完全に幼女です。

性知識がないノエも良いけど、ルイとか先生に仕込まれ済みで、純粋ビッチなのもあり。
いつか幼少期ルイノエR18を書くんだ…そして皆様ルスノエをお恵みください…。

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「ヴァニタス、セックスとは一体何ですか?」

ノエの爆弾発言が投下されたのは、パリ観光の合間に小休憩として訪れた、小さなカフェでのことだった。
陽気のいい穏やかな昼下がりにはそぐわない単語に、ヴァニタスは飲みかけていた紅茶を噴き出し盛大に咽せる。
汚いです、と言ってきたノエを誰のせいだと睨みつけながら、どう言葉を返そうかと思い惑う。
ノエ・アルシヴィストは恋も知らないお子様だ。
性行為が何たるものであるか、この世間知らずが知っているとは到底思えない。
悩んだヴァニタスは、ノエの質問に質問で返すことにした。

「…ノエ、赤ちゃんはどこから来るか知ってるか?」
「!?」
「まさか知らない?」
「知ってます!」
「ほう、なら俺に教えてくれ」

ヴァニタスの質問にノエは少し驚いた素振りを見せ、目線を泳がせる。
何かを想像しているのか、恥ずかしそうに頬を赤らめていて、ヴァニタスは意外だと思った。
なんだ、赤ちゃんがどうやって生まれるかは知っていたのか。
スプーンでティラミスをつつきながら言葉に詰まっているノエに回答を促すと、顔を更に赤く染めて口をもごもごとさせるものだから、ふつふつと嗜虐心が湧いてくる。
男女の性交だとノエが答えたら、どんな風に弄ってやろう。
この際だから、男性経験があるかどうかを聞いてみても今後の参考になるかもしれない。
ノエの反応を想像し、ヴァニタスはにやける口元を手で覆いながら真剣な顔を繕っていたが、返ってきた答えは想定外なものだった。

「…ス…です」
「ん?声が小さくて聞こえないなあ」
「…好きな者同士が、7秒間キスをすると子供ができると、先生が教えてくれました」

恥ずかしそうに言い切った後、照れを隠すようにティラミスをパクパクと口に運ぶノエに、ヴァニタスは思わず冷たい視線を向ける。
ニュアンスは大体合っているが、肝心なところが抜け落ちている。
この吸血鬼は、先生に一体何を教えてもらっていたのだろう。
育った環境もあるだろうが、周りが異様に過保護だったせいで、こんな世間知らずを生み出したに違いない。
ノエの無防備さに、自分がどれだけ苦労しているか。

「はあぁぁ、期待した俺がバカだった…」

盛大な溜め息を吐いたヴァニタスの心中など意にも介さず、呑気なノエはティラミスの美味しさに顔を綻ばせ、キラキラと瞳を輝かせている。
ヴァニタスは再度溜め息を吐き、頬杖をついてノエの幸せそうな顔を眺める。
その無邪気な笑顔を見ていると、つい甘やかしたくなる気持ちは痛いほど分かるが、生きる上で必要なことはきちんと教えるべきだ。
ノエの先生とやらに会う機会があれば、どのような教育をしていたのか問い詰めてやりたい。

「お前の先生とやらは、随分過保護だったようだな」
「同じセリフをルスヴン卿に…」
「なんだ、狐につままれたような顔をしているぞ」

ノエの口から唐突に出てきた人物に、またかとヴァニタスの機嫌は悪くなった。
どうやら最近2人は頻繁に会っているらしく、ルスヴン卿の名前をノエの会話の中で耳にする機会が増えた。
目の前の好奇心旺盛な子供はすっかり懐いてしまっていて、まるで先生がもう1人出来たようだと喜んでいるが、それが気に食わない。
ルスヴン卿は虎視眈々としていて信用ならないし、ノエが自分以外の男と出かけていると思うと漠然とした焦りが込み上げてくる。
ヴァニタスは苛立つ感情を抑えようと、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干した。
ふと、ルスヴン卿と何故ノエの先生が過保護だという話題になったのか気になり、理由を尋ねる。
するとノエが手に持っていたスプーンをテーブルの上に落とし、ドスンと濁った音がした。

「あ、すみません、手が滑ってしまいました」
「別に構わん。もう1度聞くが、何故ノエの先生が過保護だと、ルスヴン卿が言っていたんだ?」
「あ、あの…この前デセールをご一緒したときに、セックスをしたことがあるのかと聞かれたのですが、何のことか分からなくて…」

ノエの返答に、それで俺に単語の意味を聞いてきたのかと妙に納得したヴァニタスは、苦虫を嚙み潰したような表情になった。
ダンテあたりが悪ふざけで女性経験を聞いたのかと思ったが、犯人がまさかルスヴン卿だったとは。
ルスヴン卿がノエに性経験を尋ねた理由はなんとなく想像がつき、貞操の危機だったのではないかと、ヴァニタスの機嫌はさらに下降する。

「それで?」
「言葉の意味が分からないと伝えると、盛大に笑われてしまいました」

その時のやり取りを思い出したのか、俺には知らないことがいっぱいですと、ノエがしょんぼり項垂れる。
散々からかわれて恥ずかしかったのだろうか、またノエの頬が紅潮していることに気が付いたヴァニタスは、嫌な予感がし始めた。
ルスヴン卿の名前を出してから、ノエの様子が少し変だ。
違和感を感じたヴァニタスは鎌をかけてみることにした。

「なあノエ」
「何ですか?」
「まさか、ルスヴン卿に何かされたのか?」
「な、何にも!…いつも通りでした」

今のやり取りで、ヴァニタスの嫌な予感は確信へと変わった。
嘘が下手くそなノエは右へ左へ、目線が泳ぎまくっている。
カップを持つ手は少し震えているし、褐色の肌は耳まで真っ赤に染まっている。
ルスヴン卿に、一体何をされたんだ。
どす黒い感情が腹の底で蠢き始めたヴァニタスは、こうなったら尋問開始だと手を伸ばし、テーブル越しにノエの首元のリボンタイを掴んだ。

「おい、ノエ、俺の目を見て答えろ」
「ヴァニタス苦しいです、手を放してください」
「俺の目を見ろと言っている」
「分かりましたから、周りのお客さんがこっちを見て…」
「ルスヴン卿に何かされたか?」
「だから何も…」
「じゃあ聞かれたか、俺と同じ質問を」
「ヴァニタスと同じ質問…?」
「赤ちゃんはどこから来るか、ルスヴン卿にも聞かれたか?」
「!!」

確信をついたヴァニタスの質問に、見開かれた瞳が揺れる。
思い返せば、ノエの様子は初めからおかしかった。
最初の質問にあれほど動揺していたのは、返答を恥ずかしがっているからでは無く、過去にあった“何か”を思い出していたからだ。
ヴァニタスはリボンタイを握っていた手を放しノエを解放すると、紅茶が半分ほど残っていたノエのティーカップを手に取り、苛立ちと共に一気に飲み干した。

「ノエ、出るぞ」
「ヴァニタス…」

席を立ったヴァニタスの有無を言わさぬ勢いに圧倒されたノエは、ティラミスがまだ少し残っているとは言えず、乱れたリボンタイを直しながら急いでヴァニタスの後を追った。



険悪な雰囲気でカフェを出発したヴァニタスとノエは、パリ市民の憩いの場、リュクサンブール公園を訪れていた。
ノエはカフェを出てから沈黙を続けているヴァニタスを気にかけつつ、宮殿や噴水、そして至る所に置かれている石像に胸を躍らせている。
広大な敷地を歩いている内に、柔らかな日差しに照らされた木々や花々に癒され、ヴァニタスの苛立った心はだいぶ落ち着いた。
少し座ろうと提案すると、やっと話しかけてくれたと安心したノエが二つ返事で了承したので、2人は植栽に囲まれた人目の少ない芝生に腰を下ろす。
芝の柔らかな感触にノエが感動し、急に寝そべって左右にゴロゴロと転がり始める。
まるで大きな猫のような姿に、ヴァニタスは思わず吹き出した。

「ヴァニタス、やっと笑いましたね」
「…不機嫌になったのは誰のせいだと思ってる」
「俺、ですか?」

お前以外に誰がいるんだと、ヴァニタスは寝転がったままのノエの額をコツンと叩く。
さして痛くもないだろうに額を両手で押さえ、口を尖らせる様子が無性におかしくて、ヴァニタスは今度は声を上げて笑った。
何が面白いのかは分からないが、ノエもつられて一緒に笑う。
先ほどまでの重々しいムードが払拭され、いつもの自然な空気感が戻ってきた。
ひとしきり笑って満足したヴァニタスは、まだ横たわっているノエの両頬を片手で掴み、今度は威圧感のある笑みを浮かべる。

「さて、ルスヴン卿に何をされたか吐いてもらうぞ」
「…分かりました、正直に話します」

観念したノエは起き上がり、衣服に付いた芝を軽く払いながら、立てた両膝を抱える格好でヴァニタスの隣に座り直した。
その横顔は赤く染まっており、再び嫉妬心が渦巻き始める。

「ルスヴン卿にも赤ちゃんがどうやって生まれるかと聞かれたので、俺は同じ返答をしました」
「好きな人同士が7秒間キスを、ってやつな」
「はい。そしたら、ええと…ルスヴン卿が…」

思い出して恥ずかしくなったのだろうか、言葉に詰まったノエが両膝に顔をうずめる。
ヴァニタスは真っ赤に染まった耳に苛立ちを感じつつ、話が途切れてしまったノエを急かすように、肘でわき腹を小突く。
小突かれたノエは腹をくくり、続きを話し始めたが、その声は弱々しくて消え入りそうだった。

「ルスヴン卿が…7秒間ほど…口づけを、してきまして…」
「は?」
「子供ができたらどうしようねと、笑いながら言われました…」

穴があったら入りたいと顔をさらに深くうずめるノエに、ヴァニタスは頭を抱える。
色々とツッコミどころが多すぎて言いたいことは山のようにあるが、ノエの貞操が奪われていないみたいでひとまずは安心した。
それでも自分より先に、ルスヴン卿にノエの唇を奪われたのが腹立たしく、焦燥感がちりちりと身を焦がす。

「ノエ、顔を上げろ」

ヴァニタスが後頭部をポンと叩くと、ノエがゆっくりと頭を上げる。
その顔は相変わらず真っ赤で、アメジスト色の瞳は潤んでいた。
バカだなと呟き、ヴァニタスは今にも溢れ出しそうな涙を人差し指で優しく拭う。

「まさか本当に子供ができるとでも?」
「分からないです…」
「ノエはルスヴン卿のことが好きなのか?」
「好き…偉大な吸血鬼の御方だと、尊敬はしていますが…それが好きという感情なのかどうかは分からなくて…」
「それは好きとは違う。ただの尊敬だから、安心しろ」

まず男同士だろうとか、そもそもキスだけで子供ができるわけがないだろうとか、言いたいことは本当に沢山あるが、ヴァニタスはそれらを全て飲み込んだ。
ノエは、純粋な子供だ。
好奇心旺盛で、お人好しで、何でも素直に受け止める。
そんな純真無垢な彼に憧憬にも似た想いを抱え、心惹かれているのだと、ヴァニタスは再認識する。

「ノエ」

涙を拭っていた手を頬に添え、ヴァニタスはノエの名前を耳元で囁く。
そして胸の奥から込み上げてきた感情に突き動かされ、優しく口付けた。
それは唇と唇が一瞬触れるだけの、まるで子供を慰めるかのような、穏やかなキスだった。

「…え?」
「ティラミス、唇に付いてたぞ」

何をされたか分からず固まっているノエに、ヴァニタスは咄嗟に嘘をつく。
ついうっかり勢いに任せて口付けてしまった。
今まではノエのどんな無防備な姿にも、誘っているとしか思えないような言動にも、鋼の精神で耐え抜いてきたのに。
表面上で優しい笑みを浮かべながら、やはり嫉妬心は人を狂わすと、内心では自制出来なかった自分に、ヴァニタスは動揺していた。

「…甘い物は苦手なのに、ありがとうございます」

ヴァニタスが口元に付いたティラミスを取ってくれたと信じたノエは、淡々とお礼を述べる。
落ち着いた返事とは裏腹に、ノエの顔が真っ赤なリンゴのように紅潮していて、ヴァニタスの心臓が高鳴った。
この反応はまさか脈ありなのだろうか。
自分の想いを伝えるには、絶好のタイミングかもしれない。
ヴァニタスがノエに告白しようと、口を開きかけたときだった。

「あ、綺麗なちょうちょ!」

ひらひらと近付いてきた蝶を見つけたノエが、瞳を輝かせて追いかけて行く。
良い雰囲気が台無しだと、取り残されたヴァニタスは今日何回目かの溜め息を吐いた。
蝶を見てはしゃぐなんて何歳児だ。
ついさっきまではしおらしく泣いていたくせに、変わり身の早さは子供顔負けだな。
蝶の色が赤色だったので、まさかルスヴン卿の使者かなんかではないだろうなと、ヴァニタスは自分の考えにひきつった笑みを浮かべた。

「はあ…帰るか」

呆れて言葉も出ず1人で帰ろうとしたヴァニタスを、ノエが慌てて追いかけてくる。
帰り道に「そういやセックスの意味は…」と思い出したように言い始めたので、お子様のお前にはあと10年早いと、ヴァニタスの怒号が飛んだ。
後日、ルスヴン卿からノエ宛に『初めての性教育』という教育本が届くことを、パリのレンガ道を並んで歩く2人はまだ知らない。

Comments

  • 黒の花

    ルスヴン卿と、ノエの先生は仲悪いから、ルスヴン卿は「先生にキス7秒間したら子供出来る。って教えてもらいました」って言ったらキレそう

    March 6, 2022
  • @愉悦

    面白かったです

    January 1, 2022
  • らく

    ヴァニノエ大好きです…最近本棚の奥底に眠っていた本たちを引き出して読んだら見事にどっぷりと…😇

    September 23, 2021
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