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愛しさ優しさ、すべて投げ出してもいい/Novel by 里雪

愛しさ優しさ、すべて投げ出してもいい

7,465 character(s)14 mins

HA時空の、「後日談」の後の世界。
本編(というか昼間パート)はめっちゃ平和時空だけど、はたしてあれをアラヤが見逃してくれるのかといったら、見逃してくれない気がする。アーチャーはアラヤのお気に入りっぽいし、分霊とはいえずっと一か所に現界させたままにはしないんじゃないかなと。

タイトルは好きな歌の歌詞から。判る人には判る筈。

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 それは突然だった。
 今までの『4日間』のように各々は好きに時間を潰して日々を過ごしていた。以前と比べたらぬるま湯に浸かっているかのような穏やかな時間、誰とも殺し合う必要のない世界。英霊として現界した中で、稀有な物だった。だからこそ、壊れる時はひどく呆気ない。
 始めはほんの小さな違和感から。喉に小骨が刺さった時のようなそれは時が経つにつれて膨張し、やがては誤魔化しの利く代物ではなくなった。英霊であれば誰でも経験したことがあるモノが冬木の街に漂い出した。当然、マスターも勘付き事態の収拾に走る。けれど、それに己がサーヴァントを伴ったことが失策だった。

 冬木にある武家屋敷、その家主である士郎はいつもと同じく起床し、居間に入ったところで気がついた。ここ最近感じていたモノがこれ以上ないくらいに明瞭になっている、と。急いで部屋に戻り、隣室を隔てる襖を開ける。そこではセイバーが正座で士郎を待っていた、──傍らに聖剣を携えて。
「セイ、バー? セイバーどうしたんだ、何で、エクスカリバーが」
「シロウ、お願いです。──逃げてください」
「逃げる? な、何でだよセイバー、何で逃げ」
「身体が、私の言うことを聞かないのです。このままでは、シロウ、あなた/貴殿/君を殺してしまう。シロウ、早く!」
 切羽詰まったセイバー──いつものブラウス姿にも、黒いドレス姿にも、はたまた白銀の甲冑姿にも見えた──の声に背を押される形で、士郎は家を飛び出した。走りながらどこが安全か考える、穂群原学園は──ダメだ、無関係の人を巻き込んでしまう。柳洞寺もダメだ、あそこにはキャスターとアサシンが居る。郊外の森もアインツベルンの領域だ、ならば残るのは冬木教会。聖杯戦争では不可侵だった、それに賭けるしかない。足を教会のある新都に向けようとして、その数センチ先を聖剣の切っ先が掠めた。
 眼前に立つセイバーは何とか身体を制御しようとしているが、それ以上の力が彼女を動かしているように士郎には見えた。セイバーの両腕が聖剣を振りかざし、魔力が聖剣に集まっていく。ここで聖剣が振り下ろされれば最後、冬木の街は跡形もなく吹き飛んでしまう。士郎がセイバーを止めようと動いたのと同時、一本の『矢』が彼女の身体を貫いた。セイバーの手から聖剣が滑り落ち、彼女は吐血しながらその場に膝をついた。『矢』は見事彼女の心臓を貫いており、その傷からは魔力が洩れている。ここに来てセイバーは漸く身体の制御を取り戻したのか、聖剣をしまうと士郎に笑いかけた。
「シロウ、これで良いのです。……ええ、永い夢でした」
「そんな、セイバー! 聖杯戦争の時とは違う、なのに、どうして……! 待ってくれセイバー、俺は何をすればいい」
「話を、アーチャーに。けれど、きっとあなたの知る彼ではないでしょう。十分に気をつけて……ああ、私はここまでのようです。すみませんシロウ、あなたを守れなかった──……」
 セイバーが伸ばした右手、それを士郎が掴まえるより一瞬先に彼女は金色の粒子となり消えていった。宙を掻いた左手を握りしめ、士郎は立ち上がると後方を振り返る。そこに居たのは黒い弓を手にしたアーチャーだが、その姿に士郎は違和感を覚える。果たして自分の知るアーチャーとはこんな男だっただろうか。形のない違和感がもどかしい、それをはっきりさせるべく動こうとして、士郎のすぐ脇を矢が通り過ぎた。
「おいアーチャー、何でセイバーを射ったんだ。セイバーは必死で宝具の発動を押し留めてた、なのに、何で射ったんだよ!」
 士郎の問いに答(いら)えはなく、もう一度問いかけようとた士郎を誰かが上空へと引っ張り上げた。直後士郎が立っていた場所に大量の矢が降り注ぐ、あのままでは間違いなく死んでいた。その事実に士郎は息を吐き出し、自分を掴んだままの者をちらりと見る。視線に気づいたのか、まずはここを離れるのが先だと云って、大きく宙を蹴った。



「アラヤが干渉してるって、何でだよ。大体セイバーはアラヤとは無関係じゃ……!」
「事実だ坊主。今、あの弓兵はアーチャーではなく、守護者として在る。ああ、嬢ちゃんのことは諦めろ。真っ先に殺った筈だ」
 着いた先の冬木教会、士郎はそこでランサーから顛末を聞いていた。冬木の街に漂い出したモノの正体、事を起こした者の正体、そして、各マスターの現状を。
 街に漂い出したのは殺気、始めこそサーヴァントに向けられていたが、次第にサーヴァント以外の者──人間にも矛先が向いた。サーヴァント同士が殺し合わないことに業を煮やしたのだろう、とはランサーの見解だ。その殺気の元は『世界の抑止力』たるアラヤ、何故アラヤがそんな真似をするに至ったかといえば理由は実にシンプルだ。この世界に現界したままの守護者を手元に呼び戻すため、これに尽きる。その結果、アーチャーは在り方を守護者に変えられた。彼のマスターは彼を守護者に変える布石として殺された、ライダーとバーサーカーのマスターも同じ理由でだ。
 ならばセイバーは何だったのかとの士郎の問いに、セイバーは一度アラヤと契約を結びかけたことがあるからだとランサーは答える。つまり、アラヤに引っ張られたのだ。
「今生き残っているマスターはお前だけだ、キャスターんとこも殺られてる。で、残るサーヴァントは俺だけって寸法だ」
「何であんたは無事なんだ? それにギルガメッシュは?」
「お前、あいつと戦ったことあるなら判んだろ? あの金ぴかはアーチャーとは相性が悪すぎる、おまけに今はガキの状態と来た。一方的だったさ、魔力のカバーもあったんだろうがな」
 残るマスターもサーヴァントも1人ずつ、仕留められるのは時間の問題だなとランサーは肩を竦める。対する士郎は凛も桜も、イリヤまでもが既に殺されたことに怒りを覚えていた。たった1人のサーヴァントを守護者として手元に戻すためだけに殺された彼女たちを想えば想うほど、怒りが湧いてくるのだ。アーチャーだって好きで彼女たちを手に掛けたのではないとは判るが、彼女たちの不憫さが上回る。今のアーチャーは、守護者となった彼はどうしても赦せなかった。
 そんな士郎を見て、青いもんだとランサーはぽつり呟いた。確かに凛たちの最期は無念な物だったろう、けれど彼女たちは誰一人としてアーチャーを恨んでいなかった。「本心じゃないって判るから」と、「嫌だって、全身が、心が叫んでましたから」と、「止めてあげられなかったの、あんなに嫌がっていたのに」と、誰もがアーチャーを案じていた。それを知るのは最期を看取ったランサーだけだ、そして彼はそのことを士郎に伝えるつもりはなかった。伝えるべき相手は士郎ではないから。
「おい坊主、あの弓兵を倒すんだろ? 手を貸してやってもいいぜ」
「助かる、俺だけじゃどうせ返り討ちだ」
「ただし、条件がある。1つ、契約は結ばねえ。2つ、何があっても手を出すな。これらが守れるか」
「判った、それで手を打つよ。よろしく、ランサー」
 ランサーからの申し出に、目的は一致しているからと士郎は頷いた。マスターとしての契約を結ばずともランサーは十分アーチャーと戦える。実力でいえばランサーの方がアーチャーよりもずっと上だ、士郎の助力など必要としないくらいに。
 戦うのなら昼間ではなく夜が好ましい、その姿を人に見られる可能性が低くなるからだ。教会ならそう手出しも出来ないだろうからと、士郎はそこに身を潜めることにした。士郎の判断にランサーは反対せず、潜伏先にはちょうどいい場所だと笑って云った。


 陽が沈んでから数時間後、そろそろ日が変わろうかという時分に士郎は郊外に建つ城に足を運んでいた。城主だったイリヤは埋葬したというランサーは、あの2体のホムンクルスもイリヤと共に弔ったそうだ。無人となった城内は静まり返り、2人分の足音が響くだけだ。アーチャーはここに居るのかと訊ねる士郎に、ここに来るよう話をつけたとランサーは答える。穂群原学園でも柳洞寺でもなくこの城を選んだのは、一番人目につかないからだ。宝具を展開したとして、冬木の街には何の影響もない。せいぜいこの城が壊れるくらいだろう。
 城の大広間、そこでは『いつか』と同じようにアーチャーが2人の到着を待っていた。その手には黒い弓が握られており、既に戦闘態勢に入っている。剣を投影しようとする士郎をランサーが押し留める、人間ではサーヴァントに勝てないからだ。事の成り行きを見ているよう云って、ランサーは士郎の周りにルーンで結界を張ってしまう。ランサーと手を組むにあたり、彼から出された条件の1つを士郎は思い出した。『何があっても手を出すな』、と。
 士郎が投影をやめたのを見て、ランサーは満足そうに口の端を持ち上げた。そうだ、この戦いに第三者の介入は必要ない。自分か相手、どちらか、或いは双方が力尽きるまで戦うのみだ。現界させた朱槍を握り、ランサーは床を一蹴りして一気に間合いを詰める。同時に放たれた矢は槍で叩き落としていく。元より有する『矢避けの加護』で飛び道具は効かないのだ。アーチャーもそれを十分に知っている、舌打ちを落とすと弓を消し、その手に構えたのは白と黒の夫婦剣だ。斬りかかり薙ぎ払い突き出す、一撃一撃が速く、見守る士郎の目では追うのが精一杯だった。アーチャーの持つ夫婦剣が砕かれ、しかし、次の瞬間には新しいそれが投影されている。
 朱槍が砕き、夫婦剣を新たに投影すること十数度、ランサーが攻撃の手を止めた。
「よう弓兵、お前に伝言が3つばかあるんだわ」
「……伝言だと?」
「おうよ。まず1つ、『本心じゃないって判るから』、遠坂の嬢ちゃんからだ。次、『嫌だって、全身が、心が叫んでましたから』、間桐の嬢ちゃんから。最後、『止めてあげられなかったの、あんなに嫌がってたのに』、アインツベルンの嬢ちゃんから。守護者に戻されたお前を案じる物だ、確かに伝えたぞ」
「オレには、……私には過ぎる物だな」
「その上で、これは俺からだ。英霊エミヤよ、此度のその命、このクー・フーリンが食らってやろう。お前が守護者としてでなく、英霊として座に還れるよう」
 ランサーの言葉に目を瞠ったのはアーチャーだけでなく、士郎も同様だった。けれどランサーは一度も『守護者としてのアーチャー』を倒す、とは口にしていない。始めから『英霊エミヤとしてのアーチャー』を倒すつもりだったのだ、彼は。守護者として在る者が英霊として座に還れるかは判らない、そもそも守護者と英霊とでは在り方が大きく異なっている。それでも死後の安寧と引き換えに『世界の抑止力』と契約を結び、擦り切れるまで殺し続け、己が理想にさえ裏切られた男を少しでも救ってやりたかった。座に居る本体が無理でも、せめて分霊は。
 ランサーは手早く3つのルーンを宙に描き、指で弾き飛ばす。贈り物を表す『ゲーボ』、勝利を表す『テイワズ』、それから空白の『ウィルド』。それらは迷いなくアーチャーの元に飛び、その霊核に入り込むことに成功した。失敗する可能性もあっただけに成功に安堵の息を吐き、ランサーは朱槍を構え直した。時間をかけていてはアラヤの干渉が強くなりかねない、やるのなら早い内だ。
 朱槍が纏う魔力が強くなる。それを見て、宝具を使うのだろうとアーチャーは理解して、どこか泣きたい心持ちになった。ランサーのことだ、ここに来て手を抜くなど有り得ない。あの朱槍は過たず己の心臓を貫いて、霊核も壊れるだろう。憧れていた英雄から与えられる死に安心もするのだ。そうだ、自分はこの青い槍兵に憧れていた、かつて『自分』を殺した槍兵に。彼の隣に立てるような実力はつかなかったけれど、少しは追いつけただろうか。そう考えて、アーチャーはそれを否定する。自分が彼に追いつける訳もない、彼は本物の英雄なのだから。そんな彼と最期に戦えるだけで十分だと、アーチャーは場違いな思いを抱く。
 アラヤの干渉が強くなって、大切なマスターをこの手に掛けた。次いで『かつて』救えなかった少女を、そして、姉のような妹のような少女を手に掛けた。大切な者を殺して絶望させた後で手元に戻そうとしたらしいが、そこで誤算が生じた。アーチャーを冬木に繋ぎ止める力が思いの外強かったのだ。だからアラヤはアーチャーに冬木の者を殺させた、生き残っているのはこの場に居る3人のみだ、それももう2人になる。アーチャーにはもう抗う気力も魔力も殆ど残っていない、数回の投影で魔力が底を尽くと知っている。だから、ランサーの宝具を防ぐつもりなど元よりなかったのだ。
「さあ、幕引きだランサー。私に止めを刺すがいい」
「ああそうだな、これで終いだアーチャー。──その心臓、貰い受ける」
 宝具真名解放、『刺し穿つ死棘の槍』。
 朱槍は吸い込まれるようにアーチャーの胸を貫き、寸分の狂いなくその心臓を刺し穿った。朱槍が抜けた穴からは多量の血と魔力が零れ落ちていく、立っていられず倒れかけたアーチャーの身体をランサーが抱きとめた。
 ルーンによる結界が解かれ、士郎が駆け寄ってくるが彼の目から見てもアーチャーには手の施しようがないのが判る。数分もすれば金の粒子となってアーチャーは消えるのだろう。この世界から守護者は居なくなり、座に還るのだ。そうするためにこの城に来たというのに、胸に去来する空しさが士郎には判らない。
「坊主、お前はこの街を出ていきな。この街は死に絶えた、生きてるのはお前だけだ」
「な……、それじゃ、街の人は……!?」
「前にもあったんだろ、『原因不明の火災』ってのが。今回も同じだ」
「……燃やす、のか、全部。燃やして、弔ってくれるのか」
「それくらいしか出来ねえからな。さあ、早く行け」
 ランサーの促しに士郎はランサーとアーチャーを交互に見て、「それじゃあ、頼む」と言い残して大広間を後にする。残されたのは2騎のサーヴァント、その片方は命が風前の灯火だ。ランサーは床に腰を下し、アーチャーを抱え直した。街を一つ丸々と燃やすには相当量の魔力を要する、ランサーの残存する魔力を全て使ってもぎりぎり何とかなる、といったところだ。更に、ある程度で炎が消えるように細工をしなくてはならないが、それに関してはキャスター適性のおかげでどうとでもなりそうだ。 
 腕に抱いたままのアーチャーに名を呼ばれ、ランサーが彼を見れば鋼色の眸が見上げていた。殆ど力の入らないだろう手が持ち上げられ、ランサーの白皙の顔を撫でて、そこに紅い痕を残していく。
「君には、迷惑ばかり……かけて、いた気がする」
「あんなの。その内に入るもんかよ。ありゃ甘えってーんだよ」
「甘え、か……。私には、縁遠い、物だよ、ラン、サー」
「それでいて、お前には必要な物と来た。難儀だなアーチャー」
「……私は、皆に恨まれるの、だろうか。皆は、私が殺し、た」
「少なくとも、あの嬢ちゃんたちは恨まねえ。あとはそうさな、運がなかったんだ。縁が集まりすぎたんだよ」
「君が云うと……説得力が、ない、な……」
「幸運Eはお前もだろ。ああ、もう無理に話さんで良い」
 顔を撫でるアーチャーの手を取り、ランサーはその甲に手の平に、指先にキスを落としていく。感覚の遠くなった手で、アーチャーはそれを享受する。あの繰り返された『4日間』でいつしか睦み合い、言葉を交わしてきた。こんな形で失うなんて、思ってもみなかった。いつか現界が終わるとしても、もっと別の形なら良いと思っていた。誰しもが傷を負う終わりなど、誰が望むというのか。
 アーチャーの身体から金色の粒子が立ち昇っていることに気づき、ランサーは彼の手をそっと解放する。その代わりというように顔中にキスの雨を降らせ、魔力を介さないただのキスを血色の悪くなった唇に贈る。いつもなら感じる魔力の味はなく、血の味と臭いしかしないキスだが、それも自分たちらしいとランサーはこそりと笑った。
「もう逝くか、アーチャー」
「ああ……そうらしい。見送りまでさせて、すまない、ランサー」
「良いさ、俺もじきに逝く身だ。愛してるぜ、俺の鷹よ」
「私も、愛しているよ。私、の、英雄……私の、猛犬」
 もう一度唇を重ねるだけのキスを交わし、抱きしめられたアーチャーが抱きしめ返そうとして、ランサーの腕の中から粒子が解けて消えていった。この場に、この街に残るのは最早ランサーのみだ。
 ランサーは城のバルコニーに出て街を見渡す。あそこに士郎の気配は感じられない、冬木の街から完全に離れたのだろう。ランサーは宙にルーンを刻もうとして、指を止める。ルーンだけでは街を燃やすに火力が些か足りないのだ。少し考え、朱槍の代わりに『何か』が現界しないものかと試してみる。それこそ今はランサークラスで固定はされているが、その実アサシンと特殊クラス以外に適性があるのだ。数分粘ってみるが、やはりダメかと諦めかけ、その『何か』を手が掴んだ。
 何某かの木から作られた一本の杖、頭の部分にはいくつかの飾りがついている。杖など使った覚えはないが、これが現界したのも意味があってだろう。
「こりゃイチイの杖……てことはキャスタークラスか。ちょうどいい」
 手にした杖を冬木の街へと向け、脳裡に浮かんだ口上を述べる。そして、宝具真名解放、『灼き尽くす炎の檻』。キャスタークラスでの現界なら宝具の威力は跳ね上がるだろうが、今はランサークラスの身だ。街を呑み込めたのならそれで十分だ。無理な真似をしたからか魔力の消耗が激しく、正直な話、立っているので精一杯だ。
 街が炎に包まれ、役目を終えた巨人が溶けるように消えていく。ランサーは何とか指を動かし、生命の『ベルカナ』、死と再生の『エイワズ』、豊穣の『イング』と刻んで街へと飛ばした。そこまでやって魔力が尽きたのか、ランサーの身体も金色の粒子に包まれ始める。街の行く末を見届けられないのを少し残念に思い、それは他の生ある者の役目だと思い直す。

「一度ならず、二度も死した街か。ルーンが効いてくれりゃ良いんだがな。俺はドルイドじゃねえが……太陽神の加護ぞ在れ」
 そう言祝いで、ランサーの身体も金色の粒子と共に消えていく。後に残ったのは誰も、何もない冬木の街並みだけだ。

Comments

  • ハルタ
    March 29, 2018
  • そー
    March 29, 2018
  • ツキ影
    March 27, 2018
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