Slay the Spireの子どもたち
文:xcloche
2026年3月6日、デッキ構築型ローグライクゲーム流行のきっかけとなった『Slay the Spire』の続編、『Slay the Spire 2』(Mega Crit Games, EA2026)が発売された。
無印である『Slay the Spire』(Mega Crit Games, EA2017, 正式版2019)から9年の時を経て発売された新作・Slay the Spire 2は、ナーフによるバランス調整や奇生カエルがキモすぎるなどで話題になりながらもSteam評価は圧倒的に好評、Slay the Spire 2のやりすぎで様子がおかしくなっている人を日々生み出し続けている。
リージェント、面白いよね。俺の虚無化セブンスターズを喰らえ。
が、ゲームメカニクス的な観点で見てみると、実は『Slay the Spire 2』は1と比べたときの変化点はあまりない。マルチプレイモードが実装されたこと、カード強化の他にカードへのエンチャントが加わったことくらいだろうか。良くも悪くも、神ゲーに新キャラクターが追加されて良かったね……という感じである。
一方で、無印『Slay the Spire』(以下、StS)が出てから2が出るまでの9年間、「StSライク/StSフォロワー」と呼ばれるStSとメカニック的に類似したフォロワー作品が数多く発表されてきた。こちらではStSを下敷きに、さまざまな尖った独自性をもつゲームが開発されている。
Slay the Spireはどこから来たのか? Slay the Spireは何者か? Slay the Spireはどこへ行くのか?
「Slay the Spire ライクゲーム」とは何か?
どのようなゲームが "StSライク" でどういうメカニックを拡張してきたかを考えるためには、まずStSとはどういうゲームかを整理する必要がある。
まず、『Slay the Spire』はどのようなジャンルか、Steamにつけられたタグを見てみよう。「ローグライクデッキ構築」が最上位のタグとして表示されている。ローグライクデッキ構築って、何?
ローグライク
まず「ローグライク」とは何かというと……これは元々『Rogue』(A.I. Design, 1980)というゲームがあって、それに類似したものをさす言葉として用いられるようになったが、だんだん用法が発散していったのでベルリン解釈によって再定義が試みられて……という話を無限に展開することが可能だが、ジャンル論栄えて国滅びるので深入りはしない。
一般に「ローグライク」の定義として言及されるベルリン解釈は、国際ローグライク開発者会議(IRDC 2008)で提案されたもので、「ローグライク」とされる作品に頻出の要素を列挙したものである。定義というより、該当するものが多ければローグライクと言っていいんじゃない?という方針を提示したガイドラインに近い。
ベルリン解釈は9つの重要要素と6つの補助要素で成り立っている。ここではターン制や2Dグリッドベース、ノンモーダル(画面遷移がない)などが挙げられている。
しかし、現代ではリアルタイムストラテジーである『FTL: Faster Than Light』(Subset Games, 2012)や、グリッドも何もないStSまでもがローグライクと呼ばれるように、ベルリン解釈が重要要素として挙げたうちの半数にも満たない以下の要素があれば「ローグライク」と呼ばれているのでは……?の雰囲気がある。
パーマデス
主人公が死んだらそこでゲームオーバー。レベル1からやり直し。ランダム環境生成
自動生成により環境が生成され、毎ゲームごとに別の展開になる。複雑性
豊富なアイテムやモンスター等の要素のインタラクションが複雑で、さまざまな解法がある。リソース管理
限られたリソースを管理して問題を解決する。
StSの「ローグライク」も、複雑で、0からの繰り返しプレイを前提とした、毎回展開が異なるゲームというかなり弱い意味でのニュアンスのようだ。
ちなみにローグライクのジャンル定義は錯綜した末、Steamでは本当に元祖『Rogue』に似ているタイプのローグライク(風来のシレンとかトルネコみたいな2Dマップのターンベースのやつ)は伝統的ローグライクというタグで扱われている。どないやねん。
デッキ構築型
では、デッキ構築型とはどういうことか?
この言葉は、テーブルトップのカードゲームである『Dominion』(Rio Grande Games, 2008)に由来し、一般には「デッキを作ること」と「デッキを使うこと」が同時進行する構造のゲームを指す。
この呼び方はやや紛らわしい。遊戯王やポケモンカード、Magic: the Gatheringのような一般的なTCGもまた、当然ながらデッキを構築するゲームだからである。本稿では整理のために、これらのプレイ前にデッキを作りきってからゲームを始める形式を事前構築型と呼ぶことにしよう。
事前構築型のゲームでは、デッキを組む工程とデッキを実際に使って遊ぶ工程は独立した二部に分かれており、メインゲームが始まった時点でデッキはすでに完成形としてできあがっている。
これに対して、DominionやStSのような「デッキ構築型」と呼ばれるゲームでは、デッキ構築そのものがプレイの進行に組み込まれている形式をとる。こちらをプレイ中構築型と呼ぶことにしよう。プレイヤーは弱い初期デッキでゲームを始め、プレイを進めるなかでカードを獲得したり不要なカードを抜いたり有用なカードを強化したりしながらデッキそのものを変化させていく。つまり、デッキを使うこととデッキを作ることがパラレルに進行するのである。
プレイ中構築型のゲームにおいて、プレイヤーが扱うデッキは最初から最後までつねに途中経過にある。将来的に強い動きをするために現時点では弱いカードを抱え込むこともあれば、目先の難所を越えるためだけに後々は邪魔になるカードを取ることもある。未完成で歪なデッキを「使いながら作る」構造こそが、StSや『Dominion』が、わざわざ「デッキ構築型」という構築過程を前景化した名前で呼ばれている理由である。
ランダムに場に並んだカードの中からドラフトする形式の初期の作品
デッキ構築型ローグライク
ここまでの議論で、「デッキ構築型ローグライク」と呼ばれるゲームの輪郭がある程度見えてきた。すなわち、複雑で、0からの繰り返しプレイを前提とし、プレイごとに展開が変化し、さらに初期デッキから出発して、プレイのなかでデッキを改善しながら強くなっていくゲームである。
もっとも、この条件ではまだ射程が広すぎる。「デッキ構築型ローグライク」と「StSライク」をほぼ同義に使っている人もいるが、この定義では、たとえばトランプのデッキを拡張していくポーカーゲーム『Balatro』(LocalThunk, 2024)や、オートバトラー的な性格の強い『Inscryption』(Daniel Mullins Games, 2021)まで含まれてしまう。これらはいずれもデッキ構築型ローグライクの系譜には置けるとしても、少なくともそのまま「StSライク」と呼ぶには、ゲーム性の手触りがかなり異なるように思う。
本稿の関心は、広い意味でのデッキ構築型ローグライク全般ではなく、とりわけ Slay the Spire のフォロワーと見なせる作品群がどのような方向に展開してきたかを整理することにある。「デッキ構築型ローグライクであること」は主要な条件のひとつとしつつ、StSのメカニックがどのように継承、あるいは拡張・変形されてきたのか、StSライクと目される作品を具体的にあげながら見ていこう。
空間を拡張する
StSの戦闘はかなり抽象化されている。基本的には「自分」と「敵」が向かい合っていて、考えるべきことは手札、エナジー、敵の行動予告、そしてデッキの中身である。そこには位置や距離の概念はない。
StSライクゲームのひとつの大きな流れは、この戦闘に空間の概念を持ち込むことだった。
StSに1次元+αの空間を導入したのが『Cobalt Core』(Rocket Rat Games, 2023)だ。宇宙船同士の戦いを前中後の3レーンの軸に圧縮し、左右移動をカード効果にすることで、移動によって敵の攻撃をかわしたり、敵の弱点を狙撃したり、敵との間に障害物を置くなど、空間的な要素が戦術空間に導入された。位置取りが重要である一方で、一次元なので考えるべき戦術の空間はさほど大きくなく、高度に複雑化しすぎていないのもポイントだ。
左右に動いて敵の弱点を撃ったり攻撃を躱したりする
2次元空間に拡張したヒット作には『Fights in Tight Spaces』(Ground Shatter, 2021)がある。この作品では敵の「前のマスを攻撃する」といった行動予測に対応してカードを使い、攻撃をかわしたり、敵を押し出して射線をずらして同士討ちさせたり、といった処理が戦術の中心になる。
2次元空間のタクティクスはそのままだと考えるべきことが一気に増えるが、本作がうまいのは、タイトルどおり「狭い空間」で戦うことで、位置取りの重要さを残したまま考えるべき戦術空間の発散をうまく抑えている点だ。
ステージクリア後にアニメーションによるリプレイがあるのも魅力
『StarVaders』(Pengonauts, 2025)もまたStSをグリッド戦術の側に押し広げた作品である。こちらでは「すべての敵のHPを1にする」というトリッキーな形でゲームの複雑化を避けている。カードにはダメージの表記すらなく、基本的に敵は一度攻撃すると即座に破壊される。
StarVadersでは位置や射線は非常に多い一方で、細かいHPの削り合いは排除されており、攻撃を避けながら敵を撃破する戦略を考えすぎずに爽快に楽しむことができる。ボスなどの強敵にもHPの概念はなく、破壊すべき部位が多いことや特殊な条件をクリアすることで破壊可能にするなどで強さが表現されている。
シールドを貼っている敵はシールド破壊と本体破壊の2度の攻撃が必要
ヘックスタイルでの2次元戦闘である『Alina of the Arena』(PINIX, 2022)や、距離概念はないが敵の並ぶ順序を考えて戦略をたてる必要がある『RogueBook』(Abrakam Entertainment SA, 2021)、『Lethal Dungeon』(Nihohe Soft, 2026)等、StSを空間方向に拡張するコンセプトのゲームは数多い。
タワーディフェンス
StSでは、「攻撃」や「防御」などといったプレイヤーユニットにさせる行動がカード化されているが、StSライクゲームの中には、それに加えてプレイヤーユニットそのものをカード化した作品も存在する。どういうことか。
ユニットをカード化したStSライクゲームとしては、『Monster Train』(Shiny Shoe, 2020)が代表格である。『Monster Train』の戦場は三層に分かれており、プレイヤーはどの階層にどういう順番でユニットを置き、どこで敵を受け止めるかを考える。エナジー制でのコスト管理などのメカニックはStSによく似ているが、カード効果は主に「ユニットを置くカード」と「呪文を唱えるカード」に分かれており、ユニットの配置と呪文の詠唱の共通リソースとしてエナジーが用いられている。
カードを切るだけでなく、盤面上のキャラクターたちの位置やタイミング管理を考える必要があるのがこれらのゲーム群である。ユニットを能動的に配置して持続する盤面を育てるという点では、TCGやオートバトラー、タワーディフェンスとのジャンル的融合と見ることもできる。
乱数を拡張する
インプットランダム/アウトプットランダムという概念がある。これは「乱数の要素がゲームのどのタイミングで介入するか」を分類したものだ(Geoff Engelstein, 2018)。
ドラゴンクエストなどのRPGや、ファイアーエムブレムなどの古典的なタクティクスゲームでは、乱数は行動選択の後に発生する(アウトプットランダム)。攻撃を選択して乱数が良ければ大きなダメージになるが、悪ければ攻撃ダメージが少なかったり攻撃自体が躱されたりする、といった具合である。
どの行動もとることもできるが、その結果(攻撃が当たるか、外れるか)には乱数の要素がある
StSや多くのTCGに特徴的なのは、乱数は基本的に「どのカードをドローするか」の形で行動選択の前に発生するということだ(インプットランダム)。StSでは我々は配られたカードで勝負するしかないが、カードの攻撃は必ず当たるし、カードに書かれたダメージ値は必ず実現する(ただし、追加ドローで何を引くかの部分ではアウトプットランダム性をもつ)。
この性質をまとめてみよう。
古典的なRPGなどのアウトプットランダムベースのゲーム
必ず攻撃や防御等の任意の行動がとれる(行動の固定)
効果値や成否は事後的に確率で変動
StSやTCGなどのインプットランダムベースのゲーム
どういう行動が選択できるかは確率で変動
効果値は行動選択時点で確定(効果値の固定)
効果値をインプットランダムにする
StSにおける行動のインプットランダム性、つまり何が来るかはランダムだが、来たものをどう使うかはかなり論理的に詰められるゲーム性を、カードの効果値にも適用したのが『Die in the Dungeon』(ATICO, 2025EA)だ。
『Die in the Dungeon』では、カードのかわりに「攻撃」や「防御」や「別サイコロ効果のブースト」といった効果をもつサイコロで構成されたデッキをもつ。各ターン、ドローと同時にダイスロールが行われ、「3点の攻撃」や「6点の防御」といった行動が入力として与えられる。
StSではカードごとに値が固定で決まっている「この手札で何をするか」だった問題を、「この出目のこの手札で何をするか」に置き換えたのが『Die in the Dungeon』であると言える。
StSのカードの効果値に乱数要素を持たせてインプットランダムにした他にも、サイコロをボードに配置することのパズル的な相互作用の要素も加えた独自性の高い傑作だ。
『SpellRogue』(Guidelight Games, 2025) もサイコロを使うが、こちらは逆で、StSでいうカードの効果自体はドローせず選択肢として固定し、その効果値のみをインプットランダムとしてダイスロールする。
『SpellRogue』では、相手が攻撃のときは防御呪文に大きい目が出たサイコロを割り振り、隙ができたときに一気に攻撃呪文に割り振る……といった戦略が基本的な動きとなる。
こちらもダイス目を値に直接適用するだけにとどまらず、特定の目に特有の効果をもつ呪文、位置的に隣の呪文の効果や呪文の並びに影響を及ぼす呪文、条件に応じてサイコロが返ってくる呪文、特別な効果を持ったサイコロなど、多様な要素をもつ良作だ。
乱数が行動選択の前後でどのように振る舞うかはタクティクスのゲーム性に関わる重要な要素である。
アウトプットランダム要素を持つStSライク
StSライクと呼ばれるゲームの中にも、『As We Descend 深淵へ至る道』(Box Dragon, 2025EA)の「敵をよろめかせられるか」のように、カード効果が部分的に事後的なアウトプットランダム性をもつものもある。しかし、ほとんどのカード効果は予測可能であり、基本的には「カードやその効果値がインプットランダムであること」はStSライクの設計思想のコアにあることが多いように思う。
この高いインプットランダム性に基づいて行動計画するStSライクのゲーム性と密接に関わるメカニズムが「行動予告/intent」だ。
行動予告を拡張する
行動予告/intentとは、「このターン敵はどういう行動をとってくるか」を予告の形で明示するスタイルのことである。
敵の行動が不明だと、こちらの行動がどう実現するか不明なので、いま防御に集中すべきか攻撃に集中すべきか、といった戦略の思考が成立しない。
StSの戦闘は、相手が何をしてくるかわからないまま殴り合うゲームではなく、次の一手が見えている状況でその情報にどう応答するかを問うゲームである。インプットランダムのタクティクスを成立させるためには、敵の行動も予測可能でなければならない。
行動予告のないStS
ここで、StSライクではなくStSの祖型としてよく名前が挙がるゲーム、 『Dream Quest』(Peter Whalen, 2014) に触れておきたい。
『Dream Quest』はStSが参考にしたというだけあって、クラス選択、ランダム生成ダンジョン、エナジー制(に近いメカニクス)、選択的報酬によるプレイ中のデッキ改善、実績解除によるカードプール開放のメタ進行など、StSを特徴づける骨格がすでにかなり揃っていて、プレイするとさまざまな示唆が得られる不思議な作品だ。
あと絵が絶望的に雑なので何これ?という感じがある。
実質サイレントと言っても過言ではない(?)
『Dream Quest』のカードは大きく「アタック、アクション、スペル、マナソース、装備品、リアクション」にわけられる。中でもアクションが重要で、これはターン毎に一定量配布される「アクション権」を消費することで使用できる。名称こそ『Dominion』に由来する「アクション」だが、アクション権を複数消費するカードもあることを思えば、これはほぼエナジー制と思っていいだろう。
スペルはアクション権ではなくマナ(アクション権とは異なるリソースで、マナソースで補充できる)で使う、というのも興味深い。これは実は『Slay the Spire 2』の新クラスであるリージェントのメカニックであり、StS2って元ネタ作品に原点回帰していたんだ……という謎の感動がある。
プレイフィールとして『Dream Quest』とStSが大きく異なる点が、Dream Questには行動予告がないことだ。『Dream Quest』では相手もこちら同様にデッキを持っており、お互いにカードを使って戦闘するTCGに近い対戦形式をとる。敵がどういうカードを持っていてどう行動するかは予測不能である。
『Dream Quest』がこの方式であることは自然なことだろう。というのも、『Dominion』や『Ascension』、TCGを源流にもつデッキ構築型ローグライクはもともと多人数プレイにおける対等な対戦の設計思想で作られていたはずで、StSの「行動予測」という非対称対戦の形式とは距離があるからである(考えてみると、『Inscryption』も変な非対称性のあるゲームである)。
『Dream Quest』はデッキ構築型ローグライクとしては面白いが、敵の行動が予測不能なので、「攻撃があるかもしれないからとりあえず防御を貼っておく」といったStSでは考えられない戦略をとることになり、全く異なるプレイ感となっている。
インプットランダムな手札と敵の行動に応じて戦術を立てる行動予告によって決定的な状態を戦略でコントロールすることが、StSのゲーム性に大きな影響を与えていることがわかる。
敵のいないStS
敵の行動が読めないという意味ではなく、対処しなければならない敵がそもそも存在しないという意味で行動予告がないStSライクゲームもある。
『学園アイドルマスター』(QualiArts, 2024)は、StSライクなデッキ構築ローグライクの形式をとっているが、本家の敵にダメージを与えて倒すという目的を、スコアを最大化することに置き替えた作品である。
StSでの「ブロック」はそのターンの敵の攻撃ダメージを軽減するものだが、学園アイドルマスターには攻撃してくる敵は存在しない。ブロックにあたるメカニックはかわりに「ライフをコストとして消費するカードの代替支払い手段」になっている。敵が攻撃で与えてくるものだったダメージを、カードの使用に必要なエナジー以外の追加コストへと転嫁することで、StSのメカニックをスコアリングのゲームに翻訳したのが『学園アイドルマスター』である。
『学園アイドルマスター』で行動予告と呼べなくもなさそうな要素が「ターン割」だ。このゲームはDance, Visual, Vocalの3つのパラメータを伸ばすが、ゲームのスコアはそのうちの毎ターン変動するどれか1つのパラメータのみから計算され、何ターン目が何のパラメータに対応するかは左上にあらかじめカラーサークルの形で表示されている。
ライフは基本のコストであり、アイドルは全員アイアンクラッドと言えるだろう(?)
したがって、低いパラメータのターンはバフカードの使用に割り当て、得意なパラメータが優遇されるターンにスコアするなど、ターン割を見越して行動計画を立てる要素がある。
そういう意味で、『学園アイドルマスター』は1ターン単位での行動予告の空間を色だけにして大きく削減したかわりに、遠い未来まで予告してスケジューリングさせるというゲーム性を付加しているとも言えそうだ。
なお、StSフォロワーであることの目配せか、『学園アイドルマスター』のゲーム中に登場するお助けキャラの名前は根緒亜紗里(ねおあさり)で、StSの癒しキャラであるネオーの名前をオマージュしている。してるよな?
行動予告に関する構成は変奏されていても、そこにはStSがもつのと同じ快楽が存在する。
でも、ソシャゲのゲーム部分が面白すぎるのって、よくないよ!
もっと行動予告するStS
行動予告の要素ををさらに押し進めたのが 『Vault of the Void』(Spider Nest Games, 2022)である。low-RNG(低ランダムネス)をスローガンに掲げる本作では、各戦闘の前に次に戦う敵をプレビューできる機能があり、敵に合わせてデッキを組み替える要素が生じている。
また、「攻撃を受けるターンではなく、受けた次のターンに貼ったシールドの値でダメージ判定する」「カードを好きな枚数選んで次ターンに持ち越せる」というメカニックの組み合わせによって、防御カードを手札に残すタイミングにバッファを持たせ、ドローに由来するランダム性を弱める試みをしているのもポイントで、StSを低ランダムなタクティクスゲームの方向に深化させることに成功している。
非StSライクゲームだが行動予告のメカニックが印象的な作品に、『7~モールモースの騎兵隊~』(ナムコ, 2000)およびそのメカニック的続編、『ヴィーナス&ブレイブス〜魔女と女神と滅びの予言〜』(ナムコ, 2003)がある。これらのゲームではバトル開始前に敵がどのターンにどういう行動を行うかが全て一覧でき、それに勝てるように隊列を組むという独特のゲーム性があった。
StSにおける敵の行動パターンには実は確定的な部分も多く、上達のためには次ターンにどういう行動があり得るかを覚えるのも大きい。これはゲームに習熟すると暗黙的により未来の行動予測がわかるようになることを意味する。かなり未来の行動予測を実際に表示してしまって、それに対応して戦闘計画を立てる方向性のStSライクには可能性を感じる……というか、『ヴィーナス&ブレイブス』みたいなデッキ構築型ローグライクがやりたいので誰か作ってください!
エナジーを拡張する
StSの戦闘を支えている重要なメカニックのひとつが、毎ターン定量で回復するエナジー制である。
「限られたエナジーをどのカードに使うか」のエナジー制だが、このコスト感覚を別の方法で表現したゲームがある。
『Moonsigil Atlas』(Snake Tower Games, 2026予定/Demo 2025)はエナジーを空間配置の問題に置き換えた良作である。戦闘画面の中央には大きな正六角形の盤があり、毎ターン配られるカードには複数の正三角形が連なった図形が表示されている。『Moonsigil Atlas』では「盤面にカードを置けること」がカードの使用条件に対応する。エナジーに対応するリソースは中央の盤の空きマスであり、カードはエナジーの数値ではなく、物理的に図形が盤面に収まることが使用条件になる。
単純に数字を割り振るだけでよかった「どのカードにエナジーを割り振るか」問題が、「どのカードに空きマスを割り振るか」に変わっただけではない。面積的には余っているが形の噛み合わせが悪くて置けないこともあれば、工夫すれば一枚多く置けることもある。エナジーという抽象的な数値資源を、空間という具体的な制約に変換した設計として鮮やかなアイデアだ。
『One Turn Kill』(DenDen, 2026)もエナジーを代替する面白い方式を採用している。
『One Turn Kill』のコストはカードに書かれた枚数分、カードを引くことである。山札が尽きると負けなので、エナジーに対応するのは山札の枚数ということになる。そのまま引き続けると山札が尽きてしまうので、「引く枚数以上にカードを山札に戻す」カードや「引く枚数以上に山札にカードを生成する」ことがリソース回復手段になるという、通常はリソースとみなされるドローを同時にコストとして考える不思議なプレイ感がある。
デッキを置換する
StSフォロワーを見ていると、「カードのデッキをよくする」ことそのものより、プレイ中に何かの構成物を少しずつ改善していくことが本質なのではないか、と思えてくる。
そこで登場するのが、デッキのかわりにインベントリや盤面配置を最適化していくゲームである。
インベントリパズル
『Backpack Hero』(Jaspel, 2023)はインベントリ式のStSライクゲームの典型例だ。このゲームでは道中で拾ったアイテムを2Dグリッドのインベントリのカバンの中に詰め込み、戦闘中は詰め込んだアイテムごとに割り当てられたエナジーコストで使うゲームシステムをとっている。インベントリ内での配置場所によるアイテムの相互作用がこのゲームの肝で、非戦闘時の配置の最適化とそれを使った戦闘を繰り返ししていくことになる。配置の最適化の要素は同じ時期にアーリーアクセスが出ていた『Backpack Battles』(PlayWithFurcifer, 2025)にもよく似ている。
攻撃、ブロック、毒、脱力といった戦闘の構成要素はStSとほぼ同じである。強力なアイテムは使い切りであったり1ターン内での使用回数に制限があったりだんだんコスト増大することで調整されているが、構造的には「毎ターン常に全カードが使用可能なStS」に近いと言える。
『Backpack Hero』に特徴的なのが、クラスごとのゲーム性の差が非常に大きいことである。インベントリの配置最適化という根本部分は共通しているものの、特にカエルとロボットのクラスは「アイテムをドローして配置するたびに効果が発動する」「エナジービームが当たったアイテムが発動する」といった新しいメカニクスを採用していて、別ゲームと言っていいほどプレイ感が異なる。
配線のパズル
インベントリ系の文脈として 『Rogue Voltage』(Horizont Computergrafik, 2024)も挙げておきたい。このゲームはアイテムやモジュールを盤面内に配置し、それらのつながりや相互作用を利用して出力を最適化するゲームである。
『Backpack Hero』と異なるのは、『Rogue Voltage』は基本的に行動順が来るたびにインベントリを組み替えるということだ。毎ターンエナジーを生成するエンジンやセンサーからの出力を増幅器などのモジュールを介して配線で接続し、状況に合わせて出力や入力を組み替えることで対応をとっていく論理パズル的な楽しみがある。ATB(アクティブタイムバトル)的な時間管理も特色で、敵の行動タイミングをうまくずらすことで有利状況を作るという意味では、StSを時間方向に拡張している、と呼べそうな要素もある。
行動を自動化する
『Backpack Hero』のCR-8はStS的なゲームシステムでありながらほぼ戦闘が自動化されていたが、その行動の自動化に特化したゲームがある。オートローグ(定期的な宝物, 2025)だ。
オートローグは相手の行動や現在HPなどに応じた複雑な条件分岐を構成し、自動的に勝てるアルゴリズムを組むゲームである。戦闘がはじまると人間は一切介入できなくなるので、「相手の行動予告が攻撃なら攻撃値以上になるまで防御を積む」「行動予告が攻撃でもHPを削り切れる条件なら攻撃して倒してしまう」といった条件を(時には条件式に入れる数を計算で求めて)組み、自動で勝てるようにする。
攻撃や防御といったスキルはStS同様に報酬として獲得するほか、条件の個数を増やしたり特定の条件を使うのにもコストが必要で、アルゴリズム自体にもリソース管理の要素があって面白い。
ゲーム進行を拡張する
StSの特徴に、戦闘やイベントなどの報酬として「3つの選択肢の中から1つを選ぶ」ドラフトでデッキのカードを獲得することがある。初期に偶然選んだカードの特性から後のドラフトで「次にどういうカードをとるとデッキが強くなるか」が定まっていき、終盤には「毒」軸であったり「ナイフ」軸であったりといった、ビルドと呼ばれるシナジー性の高いデッキ全体の構成が出来上がる。
ここで問題になるのが、カード種を多くして多様なビルドを可能にすると、逆に特定のビルドを組みにくくなってしまうジレンマである。カードプールが広くなるほど、特定のビルドに適したカードが抽出される確率が下がるわけで、ゲームの多様性を高めようとする工夫がゲームを平板なものにするのを避けるにはどうすればいいのか?
先述のStarVadersは先駆的で面白いメカニックを採用している。ゲーム全体のカードプールは相当大きいが、ランの開始時点で「そのランで出るカードプール」が全体のカードプールから抽選されるのである。
ここで抽選されなかったパックに属するカードはそのランでは出ない
ほか、『Breach Wanderers』(Baronnerie Games, 2023)では出発時に今回のランで出るカードのプールと初期デッキを自分で選択するというメカニックが取られているが、ここまで来るとデッキ事前構築型に近いプレイフィールになるのでバランスが難しい。
StSでのカード強化は通常状態と強化状態の二種類だが、StarVadersでは強化の方向もドラフトで選ぶ試みをしているのも面白い。
強化にバリエーションを持たせる方向としては、『Die in the Dungeon』や『Monster Train』のように、カードに強化効果をもったエンチャントを付与して強化効果とカードを独立にする方向性もあり、Slay the Spire 2でも一部採用されている。
比較表
ここまで挙げた作品とオマケをつけて要素比較表を作ってみよう。
※1 タイミングによってカード種ごとに使用権の回数が異なる複雑な構成
※2 呪文効果によるダイスの払い戻しや分割等、エナジー制とも言い切れない要素が多い
※3 共通リソースではなく、エンジンごとにエナジーを生み出す構成
※4 ロックマンエグゼをオマージュしたアクション作品だが、構成的には時間連続化したStSライクと見ることができる
なんでもStSライクにしてやろう
以上、StSライクと言えそうなプレイフィールのゲームの差分化点を一覧して比較した。
今回は戦闘のメカニクスなどのレベルで類似している作品の中からピックアップしたが、デッキ構築ローグライクかつドラフトやルート選択の仕組みが似ている作品(『Wildfrost』『Inscryption』『Peglin』『将軍対決』…)等まで射程を広げると限りがない。『Balatro』とかのカジノライクの流れもあるし……◯◯が入ってないやり直し勢は自分で記事を書いてくれよな!
ここまで見てきたように、StSライクとは、プレイ中にビルドを形成していくこと、インプットランダムと行動予告に応答してその場で最適な戦術を組み立てること、そうした複数の要素の結節点として成立したゲームデザインの系譜であると言えそうだ。
StSライクの面白さは、つまるところ「Slay the Spireをどう壊すか」の歴史だ、とも言えるかもしれない。
空間を足し、ユニットを置き、ダイスを振り、配線させ、インベントリに詰め込み、自動化し、スコアラーにまで作り替える。Slay the Spireというゲームはジャンルの起点になりうる多様な拡張性を備えた頑丈なゲームデザインだったのだろう。2があまり変わらない姿で現れることができたのも、その頑丈さゆえのことだろう。
Slay the Spireの子どもたちは様々なジャンルと結婚し、今日も増え続けている。
Slay the Spireはどこへ行くのか。
デッキを最適化しろ。
行動を最適化しろ。
塔を登れ。
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xcloche
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