透「樋口……Pの横にいる女、だれ?」
透のPドル系3本目です。
初めての円香視点です。視点だけで内容はP透です。
前2作とは毛色が違いますがラブコメだと思ってくれれば幸いです。
作中、キャラ崩壊(特に透)が伴うので苦手な方はご注意を。
過去作等未読の方は、お時間ある際にどうぞ。
【余談】透のメンタルが強弱どちらなのか問題ですが、作者的には豆腐メンタルじゃないかと思います。
直接、浮気現場を目の当たりにすると、余裕を無くして『私のに触んな』と威嚇しつつ、独占的な振舞いをする透であってほしい(願望)
どなたかそんなSSの供給をお願いします。
いつも、すき!いいね!ブクマを本当にありがとうございます!
感想なども気軽にコメントいただければ更なる創作活動の活力にして参ります。
これからもお付き合いをいただけると嬉しいです。
㊗️2021/10/19の[小説] 男子に人気ランキング27位
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なんで勉強しなきゃいけないのだろう。仮にもその教科の教職を目指しているのであれば、まだ理解出来る。しかし、アイドルを目指している学生にベクトルの平面やら空間の求め方が、その後の将来の何の役に立って、叶えたい夢の手助けに繋がるのか……と課題を出した髪の薄い数学教師に言ったところで、自身の毛程も理解してくれそうにないと思う。
「樋口ー、ここの答えだけ教えて」
「……またなの?前のページでも教えたじゃない」
「……ポテト5本で、取引」
「……」
「うーん、今ならナゲット1個もついてくる」
「……はぁ、別にいらないから。どれ?」
学校の最寄り駅付近のファーストフード店の一角に、浅倉と私は向かい合わせで座っていた。
先週、私たちは担任に不定期なアイドル活動における単位数の補填との名目で、各教科担当の教師より課題の紙の山を貰っていた。
再来週が提出期限と告知され、未提出の場合には最悪で留年の対応も視野に入れるとの有難いお言葉付きだった。
私は課題の山を受け取った日から、自宅や空き時間を利用し、着実に消化をしていたが、向かい合う彼女は昔から夏休みの宿題を最終日に駆け込んでやるタイプで、現在までろくに手を付けていなかった。
偶々、仕事や各レッスン予定がオフの下校時に『一緒にやるとモチベが〜』との謎理論を彼女は提唱し、店内でお互いに残りの課題を着手することになったのだ。
「……とりあえず、私はこれで全部終わったけど。浅倉は?」
終わった課題の紙を鞄にしまいながら、目の前で紙と格闘中の彼女の進捗を伺う。
「ふふっ……樋口先輩って呼ぶね、来年から」
「……浅倉後輩は、小糸や雛菜と同学年で満足?」
「うーん、というか樋口が嫌でしょ?」
「……はぁ?」
「1人で高校卒業するの。私は小糸ちゃんと雛菜の3人一緒に卒業出来るし」
「……今年留年するとして、なんで来年は留年しないって言い切れるの?小糸と雛菜の方が先輩になるって可能性は?」
「いや、小糸ちゃんだったら、こういう課題は全部写させてくれるでしょ」
「……あっそう」
課題を写させず、少しでも自力でやらせようとしていた私が馬鹿だった。
呆れて下に置いた荷物を持ち、席を立ち上がる。
「ちょっと待って、樋口。ヒントだけでいいから。親愛なる隣人が困ってるよ」
(いつからNYを守るヒーローになったんだか)
「はぁ……まったく」
荷物を自身の椅子に置き、向かい合わせから、彼女の隣へ席を移る。
その後は案の定、殆どの問題でヒントを聞かれる始末だった。
〜〜〜〜〜
日が暮れ始めた頃、浅倉の課題も目処が立ち、残りは自宅で何とか1人で済ませられる程の量に済んでいた。
荷物を持ち、2人分のトレーを片付け、店外へ出る。
「残り数枚なんだから土日で出来るでしょ?」
「うん。ありがとう、樋口」
他愛も無い会話をしつつ、駅前の道を歩いていると、目の前に噴水広場が見えてくる。
「あれ……プロデューサーじゃない?」
「ん……どこにいるの」
浅倉は噴水前のベンチで座っている男性を指差す。
目を凝らすと、確かにあの人が携帯をいじりながら座っている。
白Tに黒のカーディガンを羽織り、下は青いデニムとラフな私服姿だ。
普段見慣れた仕事のスーツ姿とは対照的で、毛先を遊ばせた髪型や首元のアクセサリーを身につけたプライベート感丸出しの様相に、いつもと違ったギャップを感じる。
「確か、『久々の一日休みだ』って前に浮かれてたでしょ」
小声で呟くと、浅倉は「後ろから、声掛けて驚かせよう」と視界に入らないように彼の背後へ回って近付こうとする。
その姿に呆れながらも、仕方なく着いていく。
ゆっくりと近づく最中に、急に彼女は立ち止まり背中にぶつかりそうになる。
「!……急に止まらないで……どうしたの」
「……あれ、誰?」
彼は立ち上がり、遅れてやってきた女性へ手を挙げて、話し始める。
『遅れちゃってごめん』『俺も来たばかりだよ』という具合の掛け合いに見える。
20代前半〜中盤ぐらいに見える大人っぽい女性は仲睦まじい様子で、彼の隣へと座り談笑していた。
私たちはベンチ側から見えない死角から、やり取りの声が聞こえない程度の距離間を保ち、様子を伺う。
「はぁ……多分デートでしょ。私達は帰りま……」
「樋口、あの女の人ってプロデューサーに似てる、よね?」
「はぁ……?」
「プロデューサーの親戚とかだよね。……久しぶりに会ってるんだ、いとことか、はとことか……」
「ちょっと、浅倉……」
浅倉の突拍子も無い発言に対して、円香が顔を覗き込むと、目は全く笑っておらず、むしろ光を失ったように澱んでいる。
眉間に皺を寄せ、彼の横に座る女性の一挙手一投足を確実に見逃さない様子だ。
「……絶対そう、なんか似てる気がする。プロデューサーと他人じゃなくて身内なんだから、きっと大丈夫……」
浅倉は自分自身に言い聞かせるように、何度も繰り返し呟いている。
(……正直似ても似つかない)
「……私帰るから。ほら、浅倉も」
「……嫌って、言ったら?」
浅倉の腕を無理矢理に引こうとするも、びくともしない。「いてもしょうがないでしょ」「嫌、あの女の正体がわかるまで帰らない」と小声でやり取りをしていると、2人はベンチから立ち上がり、連れ添うように繁華街へ向かって歩き出す。
急いで追いかけようとする彼女の前に両手を広げて進路を塞ぐ。
「……行かせないから」
「樋口……なんで、邪魔するの?」
「浅倉が追いかけたところで、何になるの?」
「それは……わからないけど」
「『2人はどういう関係なんですか?』って面と向かって聞くつもり?……それが無理な事ぐらいわかるでしょ」
「でも……」
「……はぁ。明日、事務所で直接聞いてみるのは、どう?」
押し問答をしている内に、彼と女性の姿は見えなくなっていた。
追いかけられなくなったことに、諦めがついたのか、浅倉も渋々といった形で頷く。
下りの電車内で、彼女はわかりやすく落ち込んだ様子で吊革に掴まり、うなだれていた。
そのまま、お互いに一言も発さず隣接した自宅へと帰宅する。
その後、就寝準備をしていると、携帯には『留年したらごめん』との不吉な通知が入り、反射的に『ふざけないで』と送るも、既読はつかなかった。
(……私だけ進級して、卒業したらどうなるんだろう)
つい、変な想像をしてしまい、眠気が飛んでしまう。
結局寝付けたのは、窓から白んだ光が差し込む朝方を迎えたぐらいだった。
〜〜〜〜〜
翌日、午後からのスケジュールとして『ノクチル』の新曲における事務所内で打合せが予定されていた。
浅倉より打合せ前に『昨日の件の確認をしたい』とせかされ、眠気を抑えつつ、昼前の時間に事務所の前へ到着する。
「……どう、聞けばいいと思う?」
彼女の目の下のクマが、昨夜一睡も出来なかった様子を表していた。
「『昨日会ってた人は誰ですか?』でいいんじゃない」
「……どうすんの。もし、万が一、絶対有り得ないと思うけど……プロデューサーの彼女だったら」
「どうこうすることじゃないでしょ。昨日言ってたように親戚とかなんじゃない」
親戚の可能性は0じゃない……と思うが確証は全くない。
ただ、その一言で少しだけ浅倉の顔が明るくなったように見えた。
「……そう、だよね……やっぱ、樋口から聞いてくれない?プロデューサーに」
「……はぁ?私正直どうだっていいんだけど」
「一生のお願い」
「……昔から言ってるけど、浅倉の一生は一体何回あるの?」
結局、強引に押し切られる形となり、都度チェインで進捗状況の報告を無理矢理に約束させられる。
浅倉は近くのコンビニ周辺で待機し、私だけで事務所へと入っていく。
「おはようございます」
「円香か、おはよう。なんだか今日は早いな」
いつもと変わらず自席で仕事をする『悩みの種』に「話があります」と奥のソファーへと呼び出した。
「話って、急にどうしたんだ?」
『悩みの種』は呑気な様子でソファーへと深めに座る。
「……」
(昨日の件、どうやって聞くべきだろう。何で私がこんな面倒事に……)
「……円香?」
「……何個か質問するので正直に『はい』か『いいえ』で答えてください」
「え……あぁ、『はい』」
私の真面目な雰囲気を察した『悩みの種』は姿勢を正し、浅めに座り直す。
「まず1つ目……あなたは、いま付き合っている人がいますか?」
「はぁ?」
「んんっ……」
咳払いの意味を察し、彼は『いいえ』と答える。
手元の携帯で『彼女はいない』とチェインを送ると、即既読がつく。
「円香、急に何を……?」
「次に2つ目……あなたには姉妹もしくは従姉妹と最近会ってますか?」
「……いや、姉妹もいないよ。最近父母方の実家にも帰ってないし……『いいえ』だな」
『家族や親戚じゃない』とチェインを送ると、今度は即着信がくる。
「ちょっと離席します……何?」
不思議そうな表情をする『悩みの種』を放置し、ソファーより少し離れた場所で通話を押すと、浅倉の焦った声色が聞こえてきた。
「従姉妹とかじゃないの?じゃあ昨日の女は他人ってことになるじゃん。一体誰なの?」
「……私に言われても。まだ誰なのか聞いてないから、後は自分で確認してみればいいじゃない」
「……一生のお願い、Part2」
「Partいくつまであるの?」と出掛かった声を飲み込み、電話を切ってソファーへ戻り、再度問いかける。
「……もう『はい』と『いいえ』じゃなくていいです。本題ですが、昨日駅前のベンチで会ってた人は誰ですか?」
「え、円香いたのか?」
「正確には浅倉もいました。偶然見かけたので」
「えっと……なんて言えばいいのか」
彼は恥ずかしいのか中々言い出せない様子だ。
チェインには『どうだった?』『おーい』『?マーク』のスタンプの通知が秒単位で、まるで迷惑メールのごとく画面に表示されていく。
「友人に強引に勧められたマッチングアプリで……唯一マッチした子なんだ」
「……はぁ。そうですか」
『マッチングアプリで繋がった子』と打って送る。
即既読がつくも返信が無く、先程までの通知もピタリと止まる。
「とはいえ、昨日初めて会ったんだけど、少しお茶してたら、急に壺だの浄水器だのって話をされて、聞いてみたらマルチの勧誘だったみたいでさ。すぐ断って、そのまま別れたんだけど……恥ずかしいから、他の人には言わないでくれるか?」
「わかりました……が、1人を除いて」
返答した瞬間に事務所のドアから浅倉が勢いよく飛び込んできた。
普段の目の光……というよりハイライトが昨日よりも失われている。
「透、どうした?……そんなに急いで」
「……プロデューサー、アプリなんかいらないでしょ。この先一生、私と繋がってるだけでいいじゃん」
「安心して、浅倉。この人は昨日の女性がタイプで、今後の真剣な交際を視野に入れた上で、直接顔を合わせただけらしいから」
「「はぁ!?」」
あえて、誤解されるようなニュアンスを含ませた伝え方に『悩みの種』と浅倉は同時に反応する。
「円香、その言い方は……」
「……ふふっ、プロデューサー。一緒にジャングルジム登ろうよ。今すぐに思い出してもらわなきゃいけないこと、あるんだ」
「……透、目が据わってるぞ。その手に持ってるビニール紐を置いて、一旦落ち着こうか……」
〜〜〜〜〜
その後、彼は懸命に誤解を解く為、懇切丁寧にマッチングアプリの登録の経緯と、当日のその後の事情を細部に渡って私たちに説明していた。
徐々にではあるが、入室直後の殺気立ったオーラを放っていた浅倉も落ち着きを取り戻し、澱んでいた瞳にも光を取り戻していく。
「なんだかわからんが……勘違いさせたならすまない。俺に出来ることがあれば何でも言ってくれないか」
「うん、2つある。今すぐに目の前で削除してよ、アプリ」
浅倉は携帯からアプリ内のデータ消去、退会処理、アプリ自体の削除を彼自身に実行させて確認をする。
「あと……もう1つは」
彼女は鞄を漁って紙を数枚取り出し、手渡していた。
「これ、罰だから。プロデューサーへの」
彼は受け取った紙を見ると、数字とアルファベットが羅列しており、最初の一文にはこう書かれていた。
『〜の時、次のベクトルを求めよ』
瞳から光がなくなるくらいショック受けてたのに、ちゃっかり宿題やらせようとする浅倉すき