皆さんは、自分の定年後の姿を想像したことはありますか。意外にも人は役割を失ったときに思っている以上に無力感を覚えるものなのです。今回は、筆者の友人E子の仕事一筋だった定年後の夫の変化と、息子のひと言がきっかけとなり、再び人生が動き出したエピソードをご紹介します。
仕事一筋の夫
E子は60代の週2日パートに出ている主婦です。同級生の夫は大手企業に長年勤め上げ、今年ついに定年退職を迎えました。
真面目で責任感が強い人ですが、少しプライドが高い一面があります。特に息子に対しては、「指示待ちをしている人間は仕事ができない証拠だ」というのが口癖でした。社会人3年目の息子に、会うたびにそう言ってしまうほどです。
退職後はキャンプやDIYなど、趣味に思い切り時間を使うつもりで延長雇用は選びませんでした。長年の激務から解放され、やりたいことを満喫するという大胆な人生のシフトチェンジを行う計画でした。
なぜか時間を無駄に過ごしてしまう
ところが、いざ仕事がなくなると様子が一変。時間はあるのに、なぜか趣味に向かう気力が湧かないのです。
朝は遅く起き、テレビを見てはうたた寝。家事を手伝うわけでもなく、ぼんやりと過ごす日々が続きました。これまで夫は仕事中心で生活してきたため、自由な時間の使い方が分からなくなっていたようでした。
E子は戸惑いながらも見守っていましたが、夫は次第に「俺はもう必要とされていない」と発言までも後ろ向きになり、かつての自信に満ちた姿は影を潜めてしまっていました。
“あの口癖”を散々聞かされてきた息子が変化のきっかけに
そんな父の姿を見ていた息子が、ある日静かに声をかけます。「父さん、指示待ちの人は仕事できないって言ってたよね?」ドキッとしたように夫が顔を上げました。さらに息子は続けて「今の父さん、自分に指示出してる? やりたいことあるなら、自分で動かないと始まらないよ」と夫の目を見ながら言いました。
その言葉は責める口調ではなく、あくまで穏やかなものでした。しかし、夫の胸にはまっすぐ届いた様子。翌週から、少しずつ動き始めました。
まずは、家の物置を整理し、放置していた工具を手入れしました。すると、程なくして近所の人に頼まれ、壊れた棚を修理したことから、DIYの腕前が評判になったのです。今では地域の集会所の修繕を任されるまでになり、「忙しくなってきた!」と嬉しそうに話しています。かつて息子に言い続けていた言葉が、自分自身を奮い立たせるきっかけとなったのです。
役割は与えられるものではなく、自分で見つけていくもの。年齢を重ねても、挑戦する気持ちがあれば人は何度でも立ち上がることが出来ると感じさせてくれるエピソードでした。
【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2026年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Miwa.S
事務員としてのキャリアを積みながら、ライター活動をスタート。持ち前の聞き上手を活かし、職場の同僚や友人などから、嫁姑・ママ友トラブルなどのリアルなエピソードを多数収集し、その声を中心にコラムを執筆。 新たなスキルを身につけ、読者に共感と気づきを届けたいという思いで、日々精力的に情報を発信している。栄養士の資格を活かして、食に関する記事を執筆することも。