ロマンスはここにある
事実婚している槍弓のなんてことない日常シリーズ。ロマンスのカケラもない、最終回。
Twitterにて呟いていたものになります。
最終回といいましても、この二人の最終回はこうであって、今後続きを書かないという意味ではありません。
しじみの味噌汁から2年後の二人。
言うなればこの物語はここに至るまでの730日間のどこかしらを切り取った話というわけです。
イベント・通販で本をお手に取ってくださいましてありがとうございました!
お手元に届いたご報告などいただきましたので、こちらでもUPさせていただきます。
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とんでもないものを見つけてしまった。
私は寝室のクローゼットを前に頭を抱えた。
平日の昼間。
そろそろ暖かくなってきたことだし、冬物のコートをクリーニングに出そうか。そう思って厚手のダウンジャケットを確認すると、ポケットからしっとりした手触りの、高級感のある、まるで指輪でも入っていそうな5センチ角の小箱が出てきた。
というかまあ、まさしく指輪だ。
ペアリングだ。
このダウンジャケットは、冬の寒い時期に同居人が毎日のように着ていたものだが、まあ、そういうことなんだろう。誰宛の指輪だ? などとは思うまい。間違いなく彼が私に宛てたものだ。だってL to Aって彫ってあるし。
隠すにしても、もう少し何かなかったのか。何故こんなところに。冬の間ずっと持ち歩いていたのだろうか。様々な考えが脳内を巡る。気が付かなかったことにすべきだろう。だが、そうなるとこのダウンジャケットをクリーニングに出すことができない。それは嫌だ。これだけ置いて、ほかの冬物だけクリーニングしてしまうか、いや、同居人はそういうところは変に聡いので多分気がつく。
散々に悩んだ末に、私は腹を括った。
「マジか……」
帰宅してダイニングのテーブルを見た瞬間、同居人は呆然とそう呟いた。
私が悩みに悩んだ末、指輪の入った箱をテーブルの上に置いたからだ。
「いいから座れ」
「え、いやおま……マジか」
私が席を指差すと、同居人は言われるがまま、のろのろと椅子に座った。頭が真っ白、という感じだ。
「おまえ、さ、そりゃねえだろ」
「見つけてしまったんだから仕方ないだろう」
だいたい、あんなところに隠していたキミも悪い。
「これはその、なんつーか、そろそろこういうのがあってもいいんじゃねえかって……」
「ああ、それについては私も相違ない」
共に暮らし始めてもう8年。今更嫌だと言うつもりはない。なんとなく機会を逃してここまできただけだ。
「役所で貰ってきた。明日、提出してくるから今すぐ書いてくれ」
「へ? あ、おう」
ボールペンを手渡すと、同居人は言われるがまま、私の差し出したパートナーシップ宣誓書に氏名を記入した。彼は、見かけによらず綺麗な字を書く。必要書類は揃えたし、私の名前はすでに書き終えているので、彼の名前を書けば完成だ。私はそれらの宣誓書をファイルに入れて棚にしまう。
「さあ、ランサー。出かけるぞ」
「え、今からか?」
「キミはシャツとパンツはそのままでいいな。ジャケットだけ替えるか」
「そういや、メシは?」
同居人は今になって、ようやくテーブルの上に料理がないことに気が付いたらしい。
「レストランを予約したんだ」
しかもそれだけじゃない。
「とびきり夜景の綺麗なところだぞ」
私がウインクをしてみせると、同居人は目をパチパチと瞬かせ、ぶっ、と大きく吹き出した。
「マジかよ」
「マジだ。ほら、早く着替えて車を出してくれ」
ゲラゲラと笑う同居人の背中を寝室へ向けて押す。
「指輪も忘れるなよ」
「へーへー」
彼は私が差し出した箱を受け取って、ズボンのポケットに入れる。
「ったく、締まらねえよなぁ」
「なら、店に着くまでに、締まりのあるプロポーズ の言葉でも考えておいてくれ」
私の言葉に同居人はさらに大きな声で笑った。私もつられて笑ってしまう。
あの箱の中の指輪を嵌められて、素敵な愛の言葉を囁かれたところで、今更感動に咽び泣くなんてできないが。
それでいいのだ。
これが私たちなのだから。
病める時も、健やかなる時も、ただ毎日を共に過ごせればそれでいい。
そうだろう?
それに、これはこれで。
『ロマンティックだ』と言えなくはないだろうか。