「球速アップ法」を筑波大監督が極力教えない理由 高校野球の球数制限は一定の成果も
【Photo by Thearon W. Henderson/Getty Images】
「現代野球を"見える化"する 最先端のデータ分析と戦略」から一部抜粋して公開します。
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技術向上に特化した「プライベートコーチ」
この背景にはどんなことがあるのか。ひとつは、さまざまな研究によって、球を速くするための理論理屈がわかってきたことが大きい。以前からわかっていたこともあったが、情報化社会になり、多くの成功例が共有され、広く伝わるようになった。
加えて、アメリカでも日本でもいわゆる「プライベートコーチ」に教えを受けることが珍しくなくなり、マンツーマンで課題の解決に臨める機会が増えた。世界的な“トレンド”と表現しても過言ではないだろう。
アメリカではシアトルにある「ドライブライン」が有名で、オフになると日本人選手も学びにくる。フォームの動作解析をもとに、トレーナーと選手で改善点をディスカッションし、トレーニングで取り組むべき数値目標を明確に提示するのが特徴だ。MLBの一流投手のトレーニングデータを無数に持っているため、現在の自分と目標の投手を比較しやすい利点もある。
私は監督の立場であるため、選手を評価する側であり、メンバーを決める重大な役割を担っている。どうしても、「監督」と「選手」という立場の違いが生まれ、選手は無意識であっても、監督の指示に従う関係性が生まれやすい。監督はマネジメントに徹して、技術指導はコーチに任せた方がチームはうまくまわりやすいと、ここ最近特に感じることだ。
プライベートコーチは、選手を評価する立場ではなく、パフォーマンスを伸ばすことが最大の役割になる。指導者の立場を「教員」とすれば、プライベートコーチは「家庭教師」。信頼関係を意味する「ラポール」の質が違うように感じる。
重たいボールを活用する
ただし重たいボールを投げるといっても、その重さが重要だ。
筑波大の男子野球部員7名を対象にした研究では、投球の正確性を維持するために、ボール質量の増減を基準球(145 グラム)に対してプラスマイナス10パーセント以内に抑えることが望ましい、という結果が出た。つまり体に合った負荷をかけることが重要で、あまりに重たすぎると、投球の正確性が損われるだけでなくむしろケガのリスクを伴うことになる。
じつはこうしたトレーニングは、オリンピックで強さを見せていた時代のキューバの考えがもとになっている。「クバボール」とも呼ばれる約1キロの鉄球をブルペンで投げ込み、神経伝達速度を上げることに力を注いでいた歴史がある。重たいボールのあとは、硬球よりも軽いボールを使い、腕を振る速度を上げていく。重たいバットと軽いバットで交互にスイングする考えとよく似ている。
ただ、重たいボールを使うことはハイリスク・ハイリターンの側面もあり、重さの設定を間違うと、肩やヒジにかかる負担が強くなる。数多くやるものではなく、適切な重さで数球の刺激を入れるぐらいがちょうどいい。
もっと遡れば、アスリートのパフォーマンスを高めるトレーニング理論は、ソビエトや東ドイツがオリンピックで勝つためにさまざまな研究を重ねた歴史がある。その他にも、遠くに投げる「やり投げ」の研究は、昨今の投球理論にも生かされている。
MLBの多くの投手は、右投手であれば、一塁のネクストサークルの方に体重を移動させながら、腕を強く振るスペースを確保している。コントロールは定まりにくいが、このほうが腕を振るベクトルをホーム方向に向けやすい。これは、やり投げの基本的な考えで、投げ終わったあとに左側に体が流れることが多いのはそのためだ。