【Fate/軍パロ】鎖をつける者
W槍と五次アーチャーが出演。
以下、キャプションと本文中で原作の重大なネタバレに相当するキャラの真名表記がございます。
原作・アニメを視聴途中の方はご注意ください(回れ右推奨です…!)
ついったで某様の軍服兄貴に触発され、勢いで書いてしまった軍パロFateです!兄貴がアーチャーをたらしこんで自分の部下にするまでのお話、第一弾(になるかな?)
オディナは光の御子を崇拝する副官で、ナチュラルにおしどり夫婦な二人だといいです。続きがあるとしたら、ディルムッドが出世して兄貴と双璧として情報部の中核を担うようになって、アーチャーは兄貴の副官におさまる予定。アーチャーは副官スキル高そうですね。
***ブクマやタグ、コメントありがとうございます!はい、ご指摘通りクー大尉の説教(物理込み)は某黒髪長髪の宇宙軍の英雄大尉へのオマージュとなっております。もし不愉快になられたようでしたら申し訳ございません><ちなみに、作者は黒豹副官とマッドドクターズの兎っぽい方が大好きです。
***タグありがとうございますwwwwズボンを下ろされるより下ろす方が好みの副官はどちらになりますでしょうかw
***こっそりアンケートを設置してみました。いつになるかわかりませんが、一応続きを書くつもりではあります。
***アンケートにご協力ありがとうございます!予想以上に反応いただいてあわあわぶるぶるしておりますgkbr・・・!そして圧倒的クー×エミの人気//////方向性が定まったので後はアクセル踏み込むだけですね・・・がんばります・・・!
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血の色をした夕陽が地平線に触れ、あと一時間ほどで地上が薄暮に包まれる時間。
早朝に始まった二つの軍隊の戦いが今、夕暮れとともに決着をつけようとしていた。
戦場は、アラヤ帝国とアルスター王国との国境でもある長大な河の河畔に拓けた大平原。とうとうと流れる大河をわたってアルスターの肥沃な領土に攻め入った帝国軍は、アルスターの精鋭部隊の迎撃を受け、実に半日以上の激闘の末、ついに敗戦を認めざるを得ない状況を迎えていた。
開戦当初は圧倒的有利を保っていた帝国軍だったが、一度戦線が崩れ始めるとあとは脆かった。アルスターの勇猛な兵士たちが勝鬨(かちどき)を上げる頃には、真紅の帝国軍旗は地に倒れ、帝国兵たちは夜が訪れる前に国境を越えようとひたすらに河を目指して撤退して行った。
昼間の戦闘の激しさを物語る焼け野原には、今なお硝煙と死の臭いが色濃く立ち込めている。
本体から取り残された帝国軍の兵士たちは次々と投降をするか、頑迷に抵抗を続けてアルスター軍の銃火によって命を落としていた。捕虜となった者の大半は怪我人であり、そうでない例外は戦況に見切りをつけて自ら投降という道を選んだ者がほとんどだったが、その中にもさらなる例外がいた。
アルスター総軍の作戦司令部がおかれた本陣に程近い場所で、ちょっとした騒ぎが起こったのは、掃討戦も終幕を迎えつつある頃合いである。
今日の戦いでは後方支援に徹していたアルスター軍輸送科のある士官が、一人で装甲車の格納に使われるスペースを訪れた時だった。ふだんは使われていない作業スペースに異様な人だかりができているのを発見し、何事かと近寄ってみると、十名以上の兵士たちが一人の男を取り囲み、リンチまがいの暴行を加えているのが目に入った。士官が目をむいたのは、暴行を受けている男の軍服を確認した瞬間である。
「おい、貴官ら!そこで何をしている!」
驚きと不審にかられて声を上げると、殺気立った兵士たちが暴行の手を止めて士官の方を振り向いた。彼らは険しい目でこちらを見る士官が、自分たちにとって階級上位者である少尉であることを知ると、軍人の習性として一斉に敬礼の姿勢をとった。
だが、少尉はそれに返礼するのもそこそこに、事情を説明するよう厳しい声で告げる。
「なぜ、ここに帝国兵がいるのだ」
武装した十数人のアルスター兵に囲まれ、殴る蹴るの激しい暴行を受けていたのは、帝国軍の戦闘服に身を包んだ若い兵士だった。
白い頭髪に褐色の肌をしたエキゾチックな容姿と、地面に膝をついている姿勢でもわかるたくましい長身は、彼が生粋の帝国人ではないことを表している。だが、その襟元に付いている引きちぎられかけた階級章は帝国軍軍曹を示すものであり、没収されたとおぼしき銃器もアルスター軍では使用されない型のものだった。
「特殊機工部隊の下士官か…」
血と泥で汚れた帝国軍の軍服、そして兵科章を見た少尉が呻くような声で言うと、一人の兵士が男の白い髪を鷲掴みにし、強引に顔を上げさせた。額から流れる血に汚れ、殴られた跡がすでに腫れ上がり始めているにも関わらず、男の顔立ちは端正で、浮かぶ表情はいたって静かなものだった。
「意識はあるようだな」
敵地に捕らわれ集団で暴行を受けているというのに、恐怖も動揺も見せない帝国兵の姿に不気味なものを感じつつも、少尉はぐるりと自軍の兵士たちを見回して言った。
「重ねて問うが、なぜこのような場所に帝国兵を連れ込んでいるのだ。ここは捕虜の収容所ではない。貴官らは、装甲兵団の所属のようだが」
「はっ。第三連隊第二中隊の所属であります。先ほど、弾薬と燃料の補給のために帰投し、その際にこの捕虜を連行いたしました!」
「装甲車にこの者を乗せて帰投したというのかね」
「いえ、その…」
言葉を濁す兵士に不審なものを感じ、さらに問いただそうとした少尉に、別の兵士が声をかけた。
「見逃していただけませんか、少尉殿」
「なに…」
詰問中の上官を遮っての発言という無礼さに加え、その内容に少尉が驚愕していると、さらに別の兵士が口を開いた。
「こいつは、我々の中隊の半分近くを殺して回ったんです。悪魔みてえな野郎だ」
「弾薬が尽きたところを押し囲んで、やっとの思いで捕まえたんです」
「憲兵隊に引き渡すまでもない。我々の手で当然の制裁を加えてやります。少尉殿、止めないでいただきたい」
口々にそう申し立てる兵士たちの目は凶悪な殺意に血走っていた。
おそらく、前線でも相当な苦戦を強いられたのだろう。兵士たちはみな一様に血の臭いと、そして目の前の帝国兵に対する復讐の念に酔っていた。階級上位者ではあるが兵科の違う少尉が彼らを頭ごなしに抑えたとしても、なんらかの遺恨を残す可能性が高い。下手をすると、兵士たちの狂気が暴発し、今以上に手に負えない状況に陥るかもしれなかった。
「う、む…」
軍人としての矜持と己の保身とが、少尉の頭の中でせわしなく天秤にかけられる。捕虜となった兵士の何割かは、どうせ戦いで負った傷が原因で数日中に死亡する。ならば、ここで多少行き過ぎた暴行を見逃したとしても、結果は大差ないだろう――。
数の圧力に気圧されたこともあり、少尉があいまいに頷いて暴行の続行を許可すると、唯一のブレーキを外された兵士たちは歓声まがいの怒号を上げ、彼らの仲間の命を多く奪った敵兵をコンクリートの床に引きずり倒した。
「殺せ!」
「いや、すぐに殺すんじゃない。焼き殺された連中の苦しみを、こいつにも味わせてやれ…!」
一度抑えられた狂気と殺意が爆発したかのような熱狂ぶりから、少尉は乾いた視線をそらして軽く咳払いをした。暴行の様子は目を覆うようなものになり始め、もはや誰一人としてその熱を冷ますことはできないだろうと思えた。
戦場は人を狂わす。死と暴力に対する恐怖や怒りに、明確な復讐心が加わった今、兵士達の行動はとどまるところを知らないだろう。彼らの狂気を鎮めるためには、この一人の若く優秀な帝国兵の無残な死体が必要なのだ。
少尉が多少の後ろめたさを押し殺し、血なまぐさい現場に背を向けかけた時――
殺気だった空気を震わす号令が飛んだ。
「Attention(気を付け)!!」
それは、聞くものを否応なく従わせる力を持った声だった。
暴力に酔っていた十数人の兵士達と少尉が、訓練によって体に染みついた第二の本能に突き動かされ、その場で直立不動の姿勢を取る。
静まり返った空気の中、軍靴の音を立てる足音が二つ、こちらに近付いてきた。
「おいおい。とんだパーティ会場に出くわしちまったな」
たった一つの号令でその場を支配した声の持ち主は、副官と思しき士官を連れた年若い長身の軍人だった。
戦闘服ではなく、漆黒の軍用コートに士官のみが着用を許される軍帽をかぶり、黒革の軍靴と手袋を着用している。
身につけた階級章は大尉、兵科章はアルスター軍統合作戦司令本部。
全身黒ずくめの服装と対照的な白い肌、そして稀有な青色の頭髪が兵士たちの目をひいたが、何より印象的なのは彼の瞳の色だった。
「…捕虜の歓迎にしては、ちと手荒すぎるようだな」
兵士達の間に倒れたままの帝国兵の姿を一瞥した紅玉のような瞳が、興味深そうな視線を一同に投げかける。
事態をおもしろがるような飄々とした口調と表情なのに、その赤い光に見つめられた者は、野性の肉食獣に睨まれたかのような根源的な恐怖を感じて背筋を震わせた。
金縛りにあったように硬直している兵士達が一向に口を開こうとしないのを見ると、青い髪に赤い瞳をした大尉は小さく首をかしげ、自分の一歩後ろに付き従っていた副官に軽い合図をする。
「オディナ中尉」
声をかけられた士官が、頷いて一歩前に出た。
「At ease!!」
ザッと床を擦る音を立てながら、兵士達は一斉に脚を肩幅に開き、手を後ろで組む休めの姿勢を取る。
先ほどの直立不動の姿勢よりは心情的にも楽な体勢となり、軽く視線を動かした兵士達は、自分たちに休めの号令をかけた士官の顔を見ると一様にぽかんとした表情を浮かべた。
服装は上官である青髪の大尉と同じものだったが、大尉の印象が猛々しい鮮烈であるなら、この副官は妖艶なまでの美貌の持ち主だった。
やや長めに伸ばした癖のある黒髪を後ろに撫でつけ、実用性を重んじてデザインされているはずの軍用コートをオートクチュールと見まごうほどに見事に着こなしている。
軍人としては規格外なほどの美丈夫だったが、同時にそのたたずまいや所作は武人としての剛毅さを兼ね備えており、己の顔を凝視して呆然とする兵士たちを静かに見渡す視線には、簡単には他者の下につかない毅然とした光があった。
「私は統合作戦本部所属のディルムッド・オディナ中尉だ。こちらは、私の上官であるクー・フーリン大尉殿」
中尉が口にした名を聞いたとたん、兵士達と同様に肝を抜かれていた少尉が飛び上がらんばかりの表情を見せた。
(『光の御子』――!まさか、なぜこんな所に)
驚愕にしながらも、失礼にならない程度に青髪の大尉をまじまじと見つめる。
クー・フーリン大尉。
強兵が多いとされるアルスター陸軍の中でも特に高名な士官であり、戦場でつけられた異名は『光の御子』。
士官学校時代から前線において数多の武勲を重ね、まだ二十代後半の若さですでに左官への昇進も間近だと噂に名高い猛将である。
さきほどの号令に込められた威圧感を思い起こし、華々しい戦功にまつわる逸話もさもありなん、と内心で頷く少尉に、黒髪の副官が声をかけた。
「貴官が、兵科は異なるがこの場では最高上位者のようだな。状況を説明できるか、少尉」
「イ、イエッサー!」
模範的な返事をしながらも、少尉は額にいやな汗が滲むのを感じた。戦場での誉も高いクー・フーリン大尉は、名誉を重んじる正統派の武人と聞く。下手したら、兵士達の暴走を見過ごそうとした自分にも罰則が与えられるかもしれない。
なるべく自身の心証を悪くしないよう、事実に沿った説明を手短に済ませると、美貌の中尉は頷いて彼の上官の方を見た。
「大尉、いかがいたしますか。…状況を鑑みるに、憲兵隊へ通報するのがセオリーかと思いますが」
「んー」
青髪の大尉は、なんとも気の抜けた返事を寄越した。
その静かな威圧感はさておき、高名な英雄の名にふさわしいとは言い難い飄々とした態度で一同を見回すと、おもむろに大股で兵士達の方に歩を進める。
「た、大尉殿…!?」
休めの姿勢のまま慌てて道を開ける兵士達には目もくれず、クー・フーリンはコンクリートの床に横たわっているぼろぼろの帝国兵の前に立つと、血で汚れた白い頭髪にむけてぞんざいな声を投げかけた。
「おい。生きてるか?」
しん、と沈黙が落ちる。
皆が固唾をのんで見守る中、ややあってから、ぴくりと白髪の帝国兵の指先が動いた。
それを見て小さく笑ったクー・フーリンが、軍靴のつま先で帝国兵の肩先を小突く。
「…ッ」
おそらく、しばらく途切れていた痛みが再び体を走った衝撃に意識を覚醒させられたのだろう。帝国兵は低い声で呻きながら顔を上げ、目の前に立つ見慣れない黒い軍靴に気づくと、目蓋に流れ込む血をぬぐいながらよろよろと上体を起こそうとした。
その顎を、黒い皮手袋に包まれた指先がすくい上げた。
「おーおー…ひっでえ顔だな」
帝国兵の目が、至近距離でこちらを見下ろすクー・フーリンの顔に焦点を合わせる。
痛みに顔をしかめながらも、その鋼色の瞳に理性と気概が宿るのを見ると、クーが不意打ちのように口を開いた。
「お前、開戦直後に左翼の先陣にいた奴だろ」
「……」
「敗戦が明らかになってから派手に暴れ始めたのは、友軍を河の向こう側に逃がすためだな。たいした献身ぶりだが…よほどの重要人物でもいたのか?」
「…さてな」
初めて口を開いた男の声は、その傷つき汚れた姿からは想像もできないほど冷静で落ち着いていた。
尋問めいた問いかけに動揺したそぶりも見せず、こんな状況では不遜に思えるような皮肉っぽい口調で応える。
「そうだろうとそうでなかろうと、貴官には関係のない事だろう。生け捕りにされた捕虜の命運など知れている。――殺したまえ、さっさと」
クー・フーリンを見上げる鋼色の瞳には、敵意も失意も浮かんでいない。覚悟を決め、本懐を遂げた者のみが持ちうる目だ、とクーは思った。
「いい目をするじゃねえか。…それに、声もいい」
にやりと笑って、クー・フーリンは男を見下ろしたまま、背後に控えていた忠実な副官に声をかけた。
「ディル」
「はっ」
「こいつ、気に入った。連れて帰るぞ」
軽い口調で言われた内容に驚愕したのは、言われた当人ではなく周囲の兵士達と少尉だった。
「なっ…大尉殿、それは…!」
「お言葉ですが、捕虜の身柄をそのように扱うことは…その、いくら大尉殿と言えど…」
「いや、少尉。アルスター軍規第四項17条で、戦時中あるいはそれに準ずる状況において、捕虜の一時的な扱いは現場の最高上位者の判断に一任されると定められている」
ディルムッドの静かな声が、いきり立つ少尉をなだめるように響いた。
「つまり、この状況では最高上位者である大尉の意志が決定権をお持ちだ。むろん、最終的には憲兵隊の手に引き渡すことになるが」
「そういうこった」
優秀な副官の口上に満足げに笑うと、クーは帝国兵の顔から手を離して立ち上がった。
「どのみち、見つけちまったからにはこれ以上の暴行は見逃せねえ。パーティはここで解散だ」
「な…!」
こともなげに言って片手を振る青髪の大尉の言葉に、兵士達が一気に騒然となった。
「こいつは俺たちの仲間を殺しまくった奴です!生かして憲兵隊の連中に渡してやる義理なんてねぇ…!」
「あんだけ殺したんだ、どうせ軍法会議にかけられたって死刑に決まってる。ここで俺たちが面倒見てやったってかまわねえだろ!」
昂った感情のままに叫び出した一人の兵士が皮切りとなって、皆が次々と不満を口にする。
普段なら到底、『光の御子』の異名を持つ英雄に刃向かうような発言などできないが、今は彼らの精神状態も正常とは言えなかった。
「だいたい、何様のつもりだよ。いくら上官だからって、横から出てきて勝手なマネするんじゃねえぞ…!」
「馬鹿者…!」
血相を変えた少尉がそれ以上の暴言を制止しようとする。
軍隊において、階級の上下は絶対だ。上官に対して敬意を払っていないとみなされた場合、上官侮辱罪と命令違反として厳罰の対象となることもある。
だが、少尉の制止が功を奏するより先に、クーの体が動いていた。
黒いコートに包まれた長身が風のように動いたかと思うと、次の瞬間、戦闘服を着た兵士のたくましい体が3メートル程吹っ飛ばされ、短い空中旅行の末にコンクリートの床に不時着していた。
「……!」
瞬きひとつの間に起った出来事に、騒然としていた兵士達も少尉も、みな目と口をぽかんと開くばかり。
身体をくの字に折り曲げ、声も上げずに気絶した兵士は、どうやら青髪の大尉に腹を蹴り飛ばされたらしかったが、あまりにも素早い動きに、鍛えられた彼らの目ですら付いて行くことができなかったのだ。
荒っぽい方法でその場を静めたクー・フーリンは、兵士を蹴り飛ばした長い脚を下ろすと、顔色ひとつ変えずにその様子を見守っていた副官の方を見て言った。
「ディル、医療班呼んどいてくれ。本部のな」
「は。…この兵士の方は、肋骨の単純骨折、といった所でしょうか」
「だな。たぶん三本」
「アイ・サー」
慣れた様子で携帯端末を操作し、本部所属の医療班を呼び出すディルムッドに背を向けると、クーは固まったままの兵士達を見渡してにやりと笑った。
「さて。こう見えて俺はなかなか時間のない身なんだが、今から特別にお前らに訓示を垂れてやる。ありがたく拝聴しやがれ。いいな?」
その口元に浮かんだ笑みも、赤い瞳から伺える表情も、頭に血が上った兵士達を慄然とさせるのに充分な凄みがあった。もはや号令をかけずとも直立不動で立ち尽くす彼らに、クー・フーリンは腕組みをしてよく通る声を投げかける。
「まず帝国兵捕虜に対する軍法違反の私刑についてだが。あー。まあ、お前らの気持ちもわからなくはねえ。ダチや部下を殺された直後だ。その仇が目の前に転がってりゃ、頭に血が上るのが人情ってもんだろ」
「……」
「だがな。軍隊ってのはそもそも、殺し合いをするための組織だ。お前らだってこれまでさんざん相手方の兵士を殺して来たんだろうよ。それでいちいち血道を上げてんじゃあ、この先戦場でやっていけねえぞ。のぼせ上った頭を撃たれて、出世する前にオダブツってのが関の山だ。それがいやなら、ちったあ冷静になれ。さもなきゃとっとと転職なり除隊なりするんだな」
アルスター軍の英雄と呼ばれる男にしては、どうにも軍に対する忠誠心の薄いことを言うクー・フーリンだったが、続けて口にしたのは軍人として最もな訓示だった。
「それよりもだ、お前らの上官に対する態度の方が問題だ。いいか。上官の意向に逆らうんじゃねえ。上官には常に敬意を持って接し、語尾にはサーを付けろ。軍隊なんつう筋肉バカの集団が効率的に機能するためには、最低限の規律が必要なんだよ。新兵時代にさんざん叩き込まれたはずだぜ?それともなんだ、お前らのクソみてえな脳ミソはそれすら忘れちまったのか、あ?」
クー・フーリンの小気味のいい口調に聞き入る兵士達の背後では、どさくさに紛れて一緒に訓示に耳を傾けていた少尉が『光の御子』の伝法な物言いに目をむいていた。下士官や士官の間では畏怖と憧れの的となっている若き英雄のイメージが、先ほどから音を立てて崩れ落ちている気がする。だが、それは落胆や失望ではなく、むしろその逆とも言える高揚感を伴っていた。
「大尉、医療班の手配が済みました。10分後に到着するそうです」
ぶいぶい飛ばすクー・フーリンの訓示がひと段落したところで、美貌の副官が携帯端末をしまいながら声をかけた。
それに頷き、青髪の大尉は兵士達に最後の指示を与える。
「よし。では、医療班が到着するまでに、上官侮辱罪に対する罰則と行くか。お前ら全員、その場でプッシュアップ200回。装備は付けたままでな」
「はっ…」
「返事」
「イ、イエッサー!!」
装甲兵の装備は歩兵ほどではないが、それなりにかさばるし重量もある。
戦闘後の腕立て伏せという苦行を命じられつつも、兵士たちがおとなしく従ったのは、ありがたい訓示の効果もあるがひとえにクー・フーリンの静かな迫力に押し負けたからであろう。
もちろん、彼がその気になればこの場にいる全員を軍法会議にかける事も可能なのだから、これはある意味寛大な処置とも言えた。
一斉に腕立て伏せを始める兵士達を横目に、クー・フーリンはそれまで無言で事態を見守っていた帝国兵の前に膝をついた。
やや呆気にとられた風にこちらを見上げる鋼色の瞳を見据えて、赤い瞳の大尉はにっと不敵な笑いを浮かべる。
「さて。話の流れはわかってると思うが、一応言っておく」
「…一応、聞いておこうか」
「お前、俺のもんになれよ」
あまりに単調直入なひとことに、褐色の肌の帝国兵の瞳が大きく見開かれた。
言葉を失う男を見かねたのか、二人の頭上でディルムッドが苦笑まじりの助け船を出す。
「大尉。その言い方では、彼も答えに詰まるでしょう」
「なんでだよ。別に間違ってねえだろ」
「そうですが、この場合は少々、あらぬ誤解を招く可能性があるかと」
「そうかぁ?てか、お前の時もおんなじような口説き方だった気がするけどな?」
特に気にしてない風情で小首をかしげる上官に、ディルムッドは秀麗な口元をほころばせて言った。
「私の時ともまた少し、状況が異なりますから。――ともあれ、彼の返事はおいおい聞くとして、差し当たっては憲兵隊への手回しが必要ですね」
「そっちは任せた」
「アイ・サー。微力を尽くします」
口を挟む間もなくとんとん拍子で進む二人の士官の会話に、白髪の男は痛みによってだけではなくしかめられた顔で口を挟んだ。
「ちょっと待て。さっきからなんだ、貴官らは?」
苛立ちを隠せないといった口調の男に、クー・フーリンはなぜか楽しげな表情を浮かべて返事をする。
「なんだって、なんだよ」
「とぼけるな。何やら勝手に話を進めているようだが、私はここで――」
「死ぬつもりだった、とでも言うつもりか?」
乾いた声で揶揄するように先回りをするクー・フーリンに、男はむっと押し黙って険しい視線を返した。
その妙に堂に入った不機嫌そうな顔に、アルスターの英雄はますます愉快そうに笑い、指先で血に汚れた白い前髪をつんと引っ張った。
「痛…ッ!おい、何を」
「いや、いいなその顔。すげえ機嫌悪そう。お前、あんなえげつない戦い方するわりに可愛いとこあるじゃねえか」
「なっ…誰が、可愛いだと!」
「お前がだよ。うん、ますます気に入ったぜ」
こともなげに言って立ち上がったクー・フーリンは、いつもの事だと言わんばかりに苦笑するディルムッドの肩をぽんぽんと叩く。
近付いてくる医療班の姿を遠目に眺めながら、彼は忠実な副官の耳元に低く囁きかけた。
「部長に一報入れておけ。親父殿には、俺から話を通す」
「了解です、クー」
「頼んだぜ」
親しげに小声の会話を交わす敵軍の男達を、今では彼らの預かりとなった帝国の男が信じられないというように見上げる。
このアルスターの士官がいう事は、罠にしては手が込みすぎているし、本気なのだとしたらあまりに馬鹿げていた。
だが、それより馬鹿げているのはこうして動揺している自分だ。つい先ほどまで胸の内にあった、いざとなったらいつでも死を選べばいいのだという諦念は、いったいどこに雲隠れてしてしまったのだろうか。
己の中に生まれた奇妙な感情の動きにいらだつ男――エミヤという名をもつ帝国兵をもう一度見下ろして、クー・フーリンは彼に止めを刺すように宣誓した。
「まあ諦めろ。お前、もう逃げられねえから」
どうしてそんなセリフをそんな顔で言えるんだ、と震えながら呆気にとられるエミヤの周囲で、彼をボコボコにした兵士達が次々に苦しげに床に沈む音が響いていた。
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はじめまして。私の好きなキャラのオンパレードで感無量!!是非とも続けて下さい!!それと兄貴の説教(物理)とその後のセリフが、某黒髪長髪顔面凶器なカリスマ大尉とかぶる気がするんですが気のせいならすみません。