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ゆめみさわがし/Novel by yosihito

ゆめみさわがし

2,618 character(s)5 mins

MIU404 8話あとの捏造小話。伊吹が悪夢を見るお話。短いです。
8話の重大なネタバレがありますので、未見の方はご遠慮下さい。
CPものではありません。

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「着いたよ、ハムちゃん。ここがガマさんち」
振り向いた俺にハムちゃんが笑顔で頷いてくれた。
ああ、きゅるんとしてる。
これぞ正真正銘のきゅるんだぞ、志摩!
と、ここにはいない相棒に思わず熱弁したくなる。
「ここでこれから3人で暮らすんだよ。行こう」
繋いだ手を引いて、門扉を開けようとした時だった。
獣の雄叫びのような声が家の中から聞こえてきた。
「!」
ハムちゃんにここで待つように伝えると、俺は土足のまま家に飛び込んだ。
鍵は掛かっていなかった。
「ガマさん!伊吹です!どこですか!?」
再び声が響く。
浴室の方向だ。
早足で向かおうとする俺に、何かが脳内でストップをかける。

――ダメだ!行くな!

だが、足は止まらない。

――行くな!!

浴室の戸に手が掛かる。

――ダメだ!!開けるな!よせ!やめろ!!

制止の声はどんどんと必死さを増してくるのに、俺の手は何かに操られるように戸を開けてしまう。

――やめろ!見るなーっ!!

目を閉じることも逸らすこともできないまま、俺は浴室の中を見た。

そこには、獣が、いた。
いや、獣の頭をしていたが、その体は人間のようだった。
両手を椅子に縛りつけられて、その指先からは血が滴り落ちている。
見なくても、真ん中の指が3本が切り落とされているのだと分かった。
その獣は、痛みからか恐怖からか、ガチガチと牙を鳴らしながら、唸り声のような叫び声のような声をあげ続けている。
目からも口からも、涙なのか涎なのかわからない液体を垂れ流している。

そして、その傍らにガモさんが立っていた。
血のついた手斧を手にぶら下げている。
その横顔はいつもの優しい笑顔を浮かべているように見えた。
状況に似合わない、ゆったりとしたその立ち姿に、逆に異常さが増して見える。
「ガ、マさん……?」
ようやく絞り出した俺の声に、ガマさんは顔を上げるとゆっくりとこちらを見た。

目があった、と思った次の瞬間、なぜか俺はその獣人間になっていた。
椅子に縛られ、ぼやけた視界でガマさんを見上げている。
両手の指が信じられないほど痛い。
驚愕と恐怖と苦痛がいちどきに押し寄せてきて、混乱で何も考えられなくなる。
さっき見た獣と同じような声を、あげ続けることしかできない。
叫び続ける俺を見下ろして、ガマさんはゆっくりと言った。

「だから言ったろう。お前は人を信じ過ぎるって」

いつもの穏やかな顔のまま、手に持った斧を俺の脳天に振り下ろした。

「わぁ――っ!!」

叫び声を上げながら跳ね起きた。
心臓の鼓動が早い。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、徐々に覚醒してくる頭で現状を確認していく。
ここは機捜の仮眠室だ。
今は24時間の当番明けの仮眠の最中で、もちろんさっきのあれは夢だ。
悪夢だ。
「サイアク。なんて夢だよ……」
ため息をついて膝を抱える。
サイアクでサイテーな夢だった。
「ガマさん……」
やべ、泣きそう。
抱えた膝に顔を押し付けた。

誰よりも信じていた人だった。
俺があの人に救われたように、俺も誰かを救いたいと思うようになった。
それだけじゃない。
いつか、きちんとガマさんに恩返しをしたいと思っていた。
でも、できなかった。
俺は間に合わなかった。
志摩の言う通り、俺はきっと気づいていたんだろう。何かがおかしい事に。
なのに、ずっとそれに気付かないフリをしていた。
「あの人に限って」
そう思うことで何もかもに蓋をして、何事もなくやり過ごそうとしていたんだ。
それに何より腹が立つ。
俺は俺が許せない。

だけど、もし、あの夢みたいに、あの時に戻れたなら。
あの場に俺がいたなら、今度こそ俺がガマさんを止めるのに。
どんなことをしてでも俺が。
そんなありえない「もしも」の空想に逃げ込もうとするのを冷静な声が遮る。

「『お前にできることは何もなかった。何もだ』
と言うのがあの人からお前への伝言だ。ちなみに俺もそう思う」

志摩の声は、腹が立つくらい落ち着いていたけれど、付け加えられた一言には奴なりの気遣いが感じられた。
そして、ガマさんの伝言にも。

分かってる。
刑事であった自分自身を裏切ってでも、あの男に罰を与えずにはいられなかったあの人が、俺なんかに制止出来るなんて思ってない。
でも、たとえ当人にとって不本意だとしても、力づくででも、俺はあの人の人殺しだけは止めたかった。
でも、もうそれは叶わない。
起こってしまった事はもう取り消せない。
死んだ人間は生き返らないし、犯した罪をなかった事にはできない。
ああ、本当にもう俺には何もできないんだ。
覆らない事実に行き当たって、やるせない思いに頭を抱える。
自分の無力感に押しつぶされそうになる。
「ううぅ」
辛い。
苦しい。
堪えられない。
いっそ、もう一度寝て現実逃避してしまおうかと思った時だった。

「なんだ、起きてたのか」
「……志摩」
いつの間にか志摩が傍に立っていた。
「陣馬さんがな、うどん茹で上がったからお前を起こして来い、ってさ。起こす手間が省けて助かった。お前寝起き悪いからな」
「うどん……」
「なんだ、まだ寝ぼけてるのか?顔洗って早く来い、延びるぞ」
「志摩!」
言うだけ言って立ち去ろうとする相棒を思わず呼び止めてしまう。
「なんだ?」
そうだ、こいつだって同じだ。
元の相棒を救えなかった事をずっと悔やみ続けている。
寝ながら魘されているところを何度も見た。
未だにウイスキーが飲めないのだと打ち明けてくれた。
それでも、俺たちはまだ生きていて、刑事を続けている。
そして、こんな風に痛みも後悔も、抱えて生きていくしかないんだろう。
「伊吹?」
呼び止めておいて何も言わない俺に何かを感じたのか、志摩が怪訝そうに顔を寄せてきた。
それへごまかすようにヘラっと笑って
「いや、今日のうどん何?」
と逆に尋ねれば、勘の鋭い奴は察してくれたらしい。
「……福岡のかしわうどんって言ったかな?九重の土産だってさ」
とだけ言うと、そのまま立ち去った。
その後ろ姿を見送ってから、気合を入れるように両手で頬を叩く。
「うっし!」
と掛け声と共に俺は立ち上がると志摩の後を追って歩き出した。

END

ゆめみさわがし(不吉な夢を見て、心が落ち着かない。夢見が悪くて、胸騒ぎがする。夢騒がし。)

Comments

  • アーモンド
    July 25, 2022
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