1990年代半ばから2000年代前半の深刻な不況期に就職活動を経験した「就職氷河期世代」は、いまや40〜50代となり、人生の後半に差し掛かっている。当時から続く格差は十分に縮まらないまま、親の介護や自身の老後など、将来への不安を抱える人も多いだろう。こうした課題に私たちはどのように向き合い、乗り越えていけばいいのだろうか。専門家とともに考える。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:永濱利廣)
- 検索ワードに見る将来の不安。「年収」「雇用」「親の介護」が切実な課題
- ブルーカラー職種の賃金が上昇。多様な選択肢を持つことが突破口になる
- 世代でひとくくりにせず、年齢や経済状況に応じた支援が求められる
1.氷河期世代の関心〜「年収」「貯金」「非正規雇用」など、お金や雇用に関するキーワードを検索
LINEヤフーの検索データで「氷河期世代」と検索した人の検索行動を分析すると、前後30日間には「貯金40代」「50代年収 中央値 男性」「人手不足 業界」「公務員 中途採用」といったワードが並ぶ。同世代の経済水準と比較して、自分の立ち位置を客観視しようとする心理が見て取れる。また、雇用については新たな職種を模索している様子がうかがえる。
内閣官房の資料によると、氷河期世代の中心層(2019年時点で36~45歳、2024年時点で41~50歳)の正規雇用労働者は、2019年の923万人から2024年には934万人へと、5年間で11万人増加した。不本意非正規雇用労働者も同期間で11万人減少しており、雇用環境は一定の改善を見せている。一方で、無業者(ニートやひきこもりなど、家事や通学をせず、かつ就職をしていない非労働力人口)は41万人から44万人へと3万人増えており、就業に至っていない層も残る。
エコノミストの永濱利廣氏は、日本の年功序列賃金体系においては、40代や50代で正社員になっても、これまで積み上げられなかった賃金や資産の差を埋めるのは難しいと指摘する。
- 永濱氏
- 就職氷河期世代は、社会に出る際もその後のキャリアにおいても「割を食って」きた世代です。特にこの世代は、賃金が上昇しにくい非正規雇用で長年働いてきた人も多いため、資産形成も遅れています。
- 永濱氏
- 今、人手不足を背景に若い世代の初任給や賃金は大きく引き上げられていますが、中高年層の賃金は据え置かれたまま、あるいは上がっても微増という企業が少なくありません。
- 永濱氏
- さらに追い打ちをかけるのが、企業の業績が良くても、人員の新陳代謝を目的として実施される「黒字リストラ」です。40〜50代が対象となることが多いですが、理由としては、給与水準が相対的に高く、人件費削減の面で効果が期待できる点や、再就職や起業など、セカンドキャリアに移行するのに適した年代であることなどが挙げられます。
2.「親の介護・お金がない」「生活が苦しい」将来の不安にどう備える
厚生労働省の調査によれば、介護・看護のために離職した人は2024年に約9.3万人に達し、2000年比で約2.4倍に増加した。性・年齢階級別にみると、男性では「45〜49歳」が最も多く、まさに氷河期世代の男性が介護離職リスクを抱えている実態が浮かび上がる。一方、女性の離職は「55〜59歳」にピークがあるものの、全体では介護・看護離職者の約63%を女性が占めており、依然として女性に負担が偏っている現状がある。
LINEヤフーの検索データでも、「介護」と一緒に「親の介護 お金がない」「介護で仕事を辞める」といったワードが検索されており、親の介護や仕事との両立、経済的な負担への悩みが見て取れる。不安定な雇用が続き、十分な資産形成ができないまま、親の介護や老後にどう備えたらいいのだろうか。
- 永濱氏
- まずは収入を得ることが前提になりますが、生活に支障がない範囲で資産形成をすることをお勧めします。今はインフレの時代なので、預貯金だけでは資産が目減りする可能性があります。NISAやiDeCoは税制優遇を受けながら積み立てができる制度です。まずは家計の見える化から始めて、ご自身の状況を整理することが大切です。
3.ブルーカラーの賃金上昇〜視野を広げて幅広い選択肢を持つ
永濱氏は、現在の職種や業界にとらわれず、選択肢を広げて考えることが重要だと言う。
- 永濱氏
- 近年では人手不足の影響もあり、ブルーカラーの仕事や職人の一部で賃金が上昇しています。実際に、タクシー運転手に転じて収入が大幅に増えた例や、専門学校で技術を学び、すし職人として活躍しているケースもあります。もっとも、収入水準は地域や勤務形態、経験によって差が大きいのが実情です。必要な資格や訓練もあるため、制度や支援策を活用しながら、現実的に検討していくことが重要です。
リクルートワークスの調査では、「タクシー運転者」や「建設躯体工事従事者」などの職種で年収の伸びが目立つ。従来は賃金水準が高いとはいえなかった分野でも、需給の変化が起きている。
さらに、厚生労働省によると、建設業の女性比率は依然として低いものの、女性就業者は増加傾向にあり、2011年の約66万人から24年には約87万人へと約21万人増えている。
- 永濱氏
- また、中高年であっても、これまでの経験や実績が即戦力として評価される可能性は十分にあります。人材派遣会社に登録したところ、「すぐに来てほしい」と声がかかり、採用につながった例もあります。転職を検討する際には、これまでの職種に限らず、選択肢を広げて考えてみることも一つの方法です。
雇用保険を受けられない人や、収入が不安定な人に向けては、「求職者支援制度」があります。月10万円の給付金を受けながら、無料の職業訓練を受講できます。こうした制度を活用し、段階的にスキルを身につける道もあります。
他には副業やフリーランスとして働く手もありますが、雇用契約とは異なり、労働法上の規制や保護が限定的なケースもあるため、収入や健康面での自己管理が求められます。
氷河期世代は、厳しい時代を生き抜いてきました。過度に悲観せず、公的支援をうまく活用しながら、視野を広げ、自らの価値を更新し続ける姿勢こそが、現実を生き抜く鍵となるでしょう。
就職氷河期世代が抱える不遇感や将来への不安。それらに向き合うには、個人の体験談や断片的な印象だけでなく、データに基づいて事実を捉えることが必要だ。統計データの分析を通じてこの世代の実態を浮き彫りにした、東京大学社会科学研究所の近藤絢子教授に話を聞いた。
4.データから見えてきたこと「厳しかったのは氷河期世代に限らない」「女性が働きやすい環境が整ってきた」
氷河期世代以降も雇用状況は厳しかった
就職氷河期世代の中でも、1999年から2004年に就職活動を行った氷河期後期世代は、特に厳しい雇用環境に直面しました。ただし、氷河期世代以降も雇用環境が一様に改善したわけではありません。売り手市場とみられていた時期に社会に出た世代でも、非正規雇用比率が高く、年収が伸び悩んでいたことがわかりました。特に2010年から2013年に社会に出た世代は、リーマン・ショックや東日本大震災の影響を受け、雇用の不安定さという点では氷河期世代と同程度の水準でした。
女性は働きやすい環境が整ってきた
女性の就業環境には変化が見られます。氷河期世代以降、仕事を長く続ける人が増えており、若い世代ほど既婚女性の就業率や正規雇用比率が高い傾向があります。
背景には、育児休業制度の普及や育児休業給付金の拡充、企業の制度整備、社会規範の変化などがあると考えられます。出産後も仕事を継続できる環境は、以前に比べて整いつつあります。また、団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)と比べると、氷河期後期世代では子どもを持つ割合が高く、出生率にも下げ止まりの傾向がみられます。
一方で、政府の支援については、「本当に困っている人」に行うべきだと近藤氏は指摘する。
5.本当に困っている人や、年齢に応じた支援・対策を
ひとくくりに「氷河期世代」といっても、非正規雇用を続けている方から、キャリアアップに成功している方までさまざまです。政府はまず、将来的に生活保護水準に近い年金しか受け取れない人がどれほどいるのかを、正確に試算するべきです。
データを精査することで、支援が必要な層がどこにいるのか見えてきます。
その結果を踏まえ、生活保護とは別に、低所得層を対象とした所得補填の仕組みを整備することが求められます。
氷河期世代の多くは現在、フルタイムで働き、社会を支える側にいます。負担を抱える世代であることも前提に、必要な人に支援が届く仕組みを整えることは、世代全体を支えることにもつながります。
現実を正確に見つめることが、憂鬱の先にある選択肢を広げる第一歩となる。
政府は従来の就労・処遇改善支援に加え、家計改善、資産形成、住宅確保など、老後を見据えた支援を強化する方針を示している。
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