冷紫
なんていうか、 - 冷紫の小説 - pixiv
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なんていうか、
七海好きなんです。
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2022年4月18日 21:18


ぶっちゃけ、コンディションが良くない。
外は雨、夜半から雪、気温は1桁。任務地は都内のビル。そして私は生理2日目。
帷が降りる前に見た空からはチラチラ白いものが落ちてきていてビルの中とはいえ寒いし、明日も元気に社畜が出社するビルは極力壊せないし、私は生理が途轍もなく重い。
唯一の救いは、合同任務で、その相手が同期の一級術師である七海建人なこと。

「七海くーん。ちょっと申し訳ないんだけど、私今日あんま役に立たないかも。」

「…は?」

エレベーターを降りて、少し前を歩く大きな背中に声をかける。不機嫌がそのまま音になったらこんな感じだろうなという声と共に振り向いた七海に、ヘラリと笑って応えた。

「いやー…ちょっと今日本調子じゃなくてさ。」

「…どこか怪我でも?」

「そういうんじゃないんだけどねー。これでも女の子だったらしくて。」

ヘヘッと笑えば、深い深い溜息を吐かれる。申し訳ないが、こればっかりはどうにもならない。ホルモン剤も飲んでるし、毎回家入さんに怒られながらも鎮痛薬ちゃんぽんしてなんとか働いているのだ。やれるだけのことはやって、それでもこの激重生理がマシにならないのは、単に仕事のストレスのせいだと思う。いや、絶対そう。

「顔色が良くないとは思っていたが…。体調が悪いなら休むべきでは?」

「そういうことするとさ、うるさいやつがいるじゃん?体調管理もできないだの女だからどうのこうのってさ。気にしなきゃいいんだろうけど、そういうの嫌いだから反抗したくなっちゃうんだよねー。」

「…それは反抗じゃなく、ただの強がりだ。」

もう一度溜息を吐いた七海が近づいてきて、着ていたジャケットを脱いで肩にかけてくれる。慌てて返そうとしたけれど、手を押さえてやんわりと断られた。

「呪霊は私が祓うので。それ、車に戻るまで預かっていてください。汚したらクリーニング代は請求します。」

「…七海って、昔からそういうとこあるよねー。」

小さく礼を呟くと、フンと息を吐いて七海が歩き出す。少しだけ歩調がゆっくりになったのに気付いて、やっぱり七海ってそういうとこあるなと笑った。


◇◇◇◇


「いやー、さすが一級。本当に1人で終わらせたね。」

「貴女だって一級でしょう。さっさと戻りますよ。」

背中のホルスターに大鉈を納めた七海が歩き出す。祓除対象の呪霊は本当に七海が1人で祓ってしまい、私はその辺に沸いた蠅頭と、4級程度の雑魚を数体祓っただけだった。2人でエレベーターに乗り込み1階のボタンを押すと、重い音を立てて扉が閉まる。

「あ、上着ありがとう。汚してないよ。」

「車に戻るまでと言ったでしょう。」

独特の浮遊感の後、小さな箱が下降を始める。回数を表示したデジタルの数字が変わっていくのを、ジャケットの裾を摘みながらぼんやり眺めた。

「七海はさ、優しいよね。わかりにくいけど。」

「別に優しくない。」

「またまた。照れなくてもいっ…と?」

一定の速度で動いていた箱が、動き出した時と同じ浮遊感を伴って停止する。デジタルの数字は5で止まり、すぐにエレベーター内の電気と一緒に消えた。

「…止まっちゃったね?」

「停電か?」

ポケットからスマホを取り出し、ライトをつける。真っ暗な箱の中が、ぼんやりと明るくなった。ドアの辺りにいた七海が近寄ってきて、私が羽織ったままのジャケットのポケットを探ってスマホを取り出す。

「非常通話が繋がりません。伊地知くんに連絡してみます。」

「はーい。」

緊張感のない返事に、七海の眉間に皺が寄る。そのままスマホを操作して、コール音が鳴るそれを耳に当てた。

「…伊地知くんですか?任務は終わったのですが、乗り込んだエレベーターが停止してしまいました。非常通話も繋がらないので、依頼元に現状の確認をお願いします。…ええ、それは問題ありません。お願いします。」

通話を終了した七海が、フゥーと溜息を吐く。深夜の合同任務をほぼ1人でやらされた挙句、エレベーターに閉じ込められるとか、そりゃ溜息も出るよね。原因の一端になってごめんね。

「なんだろうねぇ。」

「さあ…伊地知くんの返事を待つよりありません。」

七海が腕を組んで背中を壁に預けた。七海のいる壁とは反対の壁に、同じように背中を預ける。任務のために張り詰めていた緊張と薬が切れてきたのか、下腹部にジクジクと疼くような痛みが出てきた。七海のジャケットをかき合わせ、その下でそっと下腹部に手を当てる。

「…寒いですか?」

「え?…ああ、大丈夫。七海こそ寒いでしょ。やっぱりこれ返すよ。」

投げられた視線と言葉に、一瞬反応が遅れた。じっと見つめてくる視線を避けるようにジャケットを脱ごうと動けば、静かな声がそれを制する。

「私はいい。貴女が着ていなさい。」

「…うん、ごめんね。」

七海が小さく溜息を零すのと同時に、スマホのバイブ音がエレベーターに響く。画面をタップして、七海が通話を開始した。

「はい七海。…ええ、はい。そうですか。…いえ、伊地知くんの責任ではありません。わかりました。では、何かあればまた連絡します。」

通話をする七海の顔が、どんどん険しくなる。通話を終えて、スマホをスラックスのポケットにしまった七海が、今日1番の溜息を吐いた。

「フゥー…」

「…伊地知、なんて?」

「こちらのビルは、深夜2時からエレベーターの自動点検が行われているそうです。依頼元がそれをこちらに伝えるのを忘れていたようで、点検終了まではどうにもならないと。」

「あー…なるほど。」

スマホのディスプレイに表示された時間は、2時を少し過ぎている。薄暗い中ですら、七海のこめかみの青筋が見えるようだった。壁伝いにズルズルと座り込むと、ひんやりした床から寒気が這い上がってくる。

「ちなみに、どのくらい?」

「1時間から2時間。」

「そっかー。待つしかないね。」

へらりと笑ってみたけれど、七海の表情は険しくなる一方だ。私のほうは完全に緊張が切れてしまい、下腹部の痛みとか、寒気とか、いつのまにか痛み出した頭とか、いろんなものが一気に襲ってきてちょっと余裕がない。借りたままのジャケットを握って膝を抱えると、少しだけ腹痛がマシになったような気がする。

「…貴女、大丈夫ですか?」

「…んー、まあ、そうねー。」

膝に額をつけたまま返事をすればコツコツと足音がして、小さな箱が少しだけ揺れる。

「…ななみ?」

ゆらりと空気が揺れて、左隣に七海がしゃがみ込んだのがわかった。のろのろと顔を上げると、いつのまにかサングラスを外したらしい瞳と視線が合う。

「酷い顔色だ。」

「…ひどいなぁ、乙女に向かって。」

顰めっ面の七海がそのまま床に座り込む。服越しの左腕に七海の体温を感じる。

「こっちへ。」

「わ、」

ひょいと体を持ち上げられて、ふわりと七海の香りがした。

「な、ななみ?」

「…床では寒いでしょう。これなら私も暖かい。嫌ですか?」

七海の立てた左膝を背もたれに、右膝に抱き上げられた。背中とお尻、それから右腕が、温かな七海の体温に触れる。

「嫌、ではないけど、割と恥ずかしいが?」

「我慢してください。」

七海の右腕が、私のお腹の上を通って左の腰に回る。下腹部に触れた温度が、腹痛を和らげてくれる。

「…ななみぃ、これ、他の人にやったら勘違いされるやつ。」

「他の人にはしない。」

耳元で聞こえる静かな七海の声に、ぞわりと右半身が粟立った。咄嗟に耳を押さえると指先が酷く冷たく感じて、自分の顔が熱いことに気付く。

「どうせしばらく出られない。少し休んでいなさい。」

「…ん、ありがと。」

いつもと同じようで、いつもより少しだけ柔らかな七海の声を聞くと、急に眠気がやってくる。七海の肩口に頭を預ければ、七海の香りが強くなった。それがなぜかとても安心できて、目の前の首筋に額を擦り付ける。七海の喉仏が一度下がってから元に戻るのを見届けて、私の意識は柔らかい暗がりに落ちていった。


◇◇◇◇


瞼に光を感じて、ゆっくり目を開ける。きっと点検が終わってエレベーターの電気がついたのだろう。そう思っていたのに、視界に入っていきたのは見慣れない部屋だった。

「…おおん?」

もそりと身動ぐと、柔らかな布団の感触。それから、背中にぴったりとくっついた、温かいなにか。

「…ん…起きましたか?」

頭のてっぺんの辺りで、声が響く。少し掠れているけれど、間違いなく聞き覚えのあるそれに体から血の気が引いた。

「…ななみ?」

「はい…おはようございます。」

お腹に回されていた七海の腕が動いて、大きな手が優しく下腹部を撫でる。慌ててその手を掴むと、不機嫌そうな声が降ってくる。

「…なぜ。」

「いやいやいや、むしろなぜ。」

なんで私は見知らぬ部屋で七海と一緒に寝ているのか?え?やった?血塗れ?でも服着てるな?え?ちょっと待ってわかんない。

「全部声に出てます。」

「まじ?」

朝から七海の溜息をいただいてしまった。というか、一旦離してほしい。

「…貴女、昨日エレベーターで眠ってしまって、その後も起きなかったんですよ。その上私のシャツを握って離さなかったので、私の家に連れてきました。」

「…えー。」

私まじか。七海の腕の中そんなに居心地よかった?あ、七海は実はママミンだった?

「…引っ叩きますよ。」

「ごめん。」

また口に出てた。

「…体調はどうです?」

「んー、大丈夫そう。迷惑かけてごめんね。」

「迷惑ではありません。むしろ好都合でした。ですが、一晩貴女といて何もしなかったことは褒めて欲しいですね。」

「なんて?」

掴んだままだった七海の手が動いて、ぎゅっと抱きしめられる。鼻先をすりすりと髪に擦り付けられて、ぬるい息が頭皮を掠めた。

「な、なみ?」

「…なんです。このくらいのご褒美はあってもいいでしょう。」

七海の腕の力は弛まず、むしろ全身を押しつけるように密着させてくる。そうなると、なんとなく感じていた腰の辺りの違和感がはっきりしてきて、非常に居心地が悪い。

「いや…七海さぁ?なんていうか、あたってるなーなんて思うんだけど、どう?」

「あててるので。」

あててるのかー。そっかー。

「…なんで?」

「いい加減、私も男だとわかってくれてもいいでしょう?」

クスリと、七海が笑ったのが気配でわかった。

「学生の頃からずっと、貴女が好きでした。貴女にそんな気がないのはわかっていましたが、そろそろ限界です。」

ちゅっと、頭のてっぺんでリップ音がする。

「耳、真っ赤ですよ。」

じわじわと上がっていた熱が、七海の言葉で一気に顔に集まる。

「今日はまだ、貴女も本調子ではないでしょうから、返事は後日で結構です。まあ、イエスと答えるまで諦めるつもりはありませんが。」

「ひぇ。」

一度ぎゅうっと抱きしめる力を強くして、七海の腕が離れていった。体を離して、七海がベッドから降りる。

「手洗いはドアを出て右です。家まで送りますから、支度ができたら教えてください。」

ガチャリとドアを開けて、七海が寝室を出ていった。チラリと振り向いた瞳が、昨日までの七海とは違う気がして、熱くなった頬がさらに熱をもった。

「…なんていうか、男、だなぁ。」

その日から、七海の私に対する態度が激変する。それを見た五条さんが七海を揶揄って、揶揄われた七海が真面目な顔で「口説いている最中です。」なんて言い出すのを、今の私は知る由もなかった。



なんていうか、
七海好きなんです。
58974910,708
2022年4月18日 21:18
冷紫
コメント
よう
よう
2022年4月24日
とりこ
とりこ
2022年4月19日
*ka.rin*
*ka.rin*
2022年4月18日

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