深夜2時、年商5億の会社の社長から電話が来た。「キャッシュが3ヶ月で尽きる。誰にも言えない」。
経営者は、孤独だ。資金繰りの悩み。人事の爆弾。訴訟リスク。全部1人で抱える。
朝令暮改に見える指示の裏には、経営者だけが知る理由がある。
私は27年間、経営者と向き合い続けてきた。その中で、何百回とこうした深夜の電話を受けてきた。共通するのは「社員には絶対に言えない」という一言だ。
経営者の孤独には、いくつかの層がある。
1つ目は、資金繰りの孤独。月末の支払いが2000万円。入金予定は1500万円。足りない500万円をどうするか。銀行に頭を下げるか、取引先に支払いを延ばしてもらうか、自分の貯金を崩すか。この判断を毎月、誰にも相談できずに行っている経営者は想像以上に多い。社員に言えば不安が広がる。家族に言えば心配をかける。黙って1人で動くしかない。
2つ目は、人事の孤独。「あのマネージャーを降格させなければいけない」「創業メンバーだが、もう会社のフェーズに合わない」。こうした判断を下すとき、経営者は誰にも相談できない。人事の情報は最も扱いが難しい。相談した相手が漏らせば組織が壊れる。だから1人で決め、1人で伝え、1人で恨まれる。
3つ目は、訴訟やトラブルの孤独。取引先からの損害賠償請求。元社員からの労働審判。SNSでの炎上リスク。これらは弁護士には相談できても、社員には話せない。年商10億円未満の会社で、何らかの法的トラブルを経験したことがある経営者は約65%というデータがある。そのほとんどが、経営者1人で対応している。
4つ目は、成功しても消えない孤独。会社が成長し、社員が100人を超え、売上が伸びても、孤独は解消されない。むしろ深まる。判断の影響範囲が大きくなるからだ。10人の会社なら間違えても10人で済む。100人の会社で間違えれば、100人の生活に影響する。その重さは、経営者にしかわからない。
社員から見ると、経営者は理不尽に見えることがある。先週言ったことと今週言っていることが違う。急に方針が変わる。説明もなく人事異動がある。その裏には、ほぼ確実に社員が知らない事情がある。
大型顧客からの取引停止の予告。主要株主からの圧力。競合の新製品の情報。規制変更の内部情報。これらが突然入ってきて、経営者は即座に対応しなければならない。説明する時間がないこともあるし、説明できない内容であることも多い。
では経営者はどう孤独と向き合っているのか。私が見てきた中で、うまくやっている経営者には共通点がある。同じ立場の経営者仲間を持っていること。社外のメンターや顧問がいること。月に1回でも「全部話せる相手」がいること。
あるCEOは、同業種の社長3人と毎月食事会をしている。売上も、悩みも、失敗も全部共有する。「これがなかったら3年前に精神的に潰れていた」と言っていた。
別のCEOは、週に1回、30分だけ社外の顧問と電話する時間を設けている。議題は決めない。「今週、一番しんどかったこと」を話すだけだ。それだけで翌週のパフォーマンスが明らかに変わるという。
社員の立場でできることもある。経営者の判断を「なぜそうなるんですか」と詰めるのではなく、「何かあったんですか」と聞いてみる。それだけで経営者は救われることがある。全部は話せなくても「気づいてくれている人がいる」という感覚は、孤独を和らげる。
経営者のメンタルヘルスの問題は深刻だ。中小企業経営者の約4割が「強いストレスを常に感じている」と答えた調査結果がある。にもかかわらず、経営者向けのカウンセリングを利用したことがある人は1割にも満たない。「弱さを見せてはいけない」という固定観念が、経営者をさらに追い詰めている。
経営者の孤独を完全になくすことはできない。それは経営という仕事に構造的に組み込まれている。ただ、その孤独を1人で抱え込まない仕組みを持てるかどうかで、経営者としての寿命は大きく変わる。
経営者の孤独や、その支え方について、みなさんの経験を聞かせてください