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夢と理想と二人の距離/Novel by おハナ

夢と理想と二人の距離

5,661 character(s)11 mins

『仔犬に食べられる話』
警察(?)パロ士弓
フォロワーさんへのお礼の品
知識が間違っている場合はそういう世界だとお考え下さい
プライベッターの再録+おまけ

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憧れと意地と二人の夢

「アーチャー!」
 SATの隊服を着た男は知った声に呼びかけられ思わず振り返る。こちらに駆け寄る警官服の思わず少年と見紛うような容姿の男は、やはりアーチャーの見飽きるほど知っている青年だった。
 というのも彼はアーチャーに憧れていると公言し、右へ左へあちらこちらとアーチャーについてまわっているからだ。仕事の時はきちんと切り替えるのだから誰も文句は言わない。それに昔から家が近く言わば幼なじみのような関係だとバレているのだ。むしろ微笑ましい視線を受けて、アーチャーがいたたまれなくなるのも偶に、どころではない。
 アーチャーは眉間を抑えわざとらしくため息を深くつくと、青年──衛宮士郎に向き直った。アーチャーの同僚達はまたか、と言うように肩を小突くと先に歩き出した。
「……何の用だ。持ち場を離れていいのか? 貴様は警護官だろう」
 警護官とはいわゆる所のSP(セキュリティ・ポリス)である。主な仕事は要人警護。今回の士郎の仕事は、この国へ協定の為に来日した大使官のトップを警護すること。
 対するアーチャーはと言うと協定に反対しているテロ組織の対策として配属され、たった今持ち場に移動しているところだ。つまり、彼に幼なじみの無駄話に付き合っているヒマはない。
「む、わかってるだろ。俺はSATの配置確認、兼休憩! じゃなかったら持ち場を離れるワケないだろ」
 この言い分だと、休憩時間にSATの幼なじみに会いに行くが、配置を確認するので見逃してほしい。などと直々に上司へ頼んだに違いない。衛宮士郎の行動を微笑ましく思っている内の一人である彼の上司は、それはそれはいい笑顔で快諾したのだろう。
「聞いただけだ。配置は事前の会議通り。何の問題もない。……………………で、要件はそれだけではないのだろう?」
 もう一度深く息を吐き、渋々とアーチャーは口を開くと、隠しきれない士郎の興奮を指摘した。
「! あのな! この仕事が終わったら! ついにSATへ移動になるんだ!」
 さっき聞いたんだ! と口早にまくし立てる青年にアーチャーは、そうか、良かったな、おめでとう、と当たり障りなく返事をする。
「全く、その程度の瑣末ごとで呼び止めるな。もう持ち場に戻れよ」
 いつも通り辛辣に言いきるとアーチャーはさっさと背を向けて歩きだした。後ろから何やらキャンキャンと鳴き声が聞こえるが、アーチャーは振り返らず立ち止まらず直進する。それもそのはず、自分に憧れているという青年に、こんな緩んだ顔は見せられるわけがない。ああついに昇進か、あの後ろを追いかけまわしていただけの子供が、未熟なあの青年が。持ち場についてもニヤケが収まらず、同僚にまた小突かれてしまったのは仕方がないのだ。

 警備も万全。あとは飛行機から降りてくる大使と外交官が挨拶を交わして車に移動するだけだ。たったこれだけの行程だが油断はできない。いくらだって警備をすり抜ける方法はあるのだ。
『大使が飛行機から降りた。あとは挨拶と移動だけだな』
 ジジジ、とノイズ混じりに同僚のランサーから連絡が入る。アーチャーは車までの道のりを担当しているので、飛行機の方は様子が窺えない。確かあいつは、要人をすぐ側で護衛すると吠えていたな。ふと思考が逸れる。ああいけない、仕事中に無様を晒すなど憧れのしていいことではないな。憧憬の的にも意地があるのだ。
『警護官二人。配置も事前説明通りだぜ』
「了解」
 ランサーから警護官が確認できたということは、もう移動を始めたのだろう。残り数十メートル。部隊全員が緊張感に包まれる。車内に設置されたモニターに警護対象の姿を確認した。警護官もきちんと二人配置されている。
 車まで後三メートル、一メートル。大使が車に半身を滑り込ませ──
 短く、銃声がなった。
 警護官の、赤みがかった髪の、数時間前に誇らしげに昇進を報告していた、幼なじみが。
「出動!」
 数旬の停止もなくアーチャーは走りだす。すぐさま現場へ移動すると車は既に発進していた。大使に怪我はなくこのまま別働隊と共に大使館へと移るそうだ。ならばこちらの仕事は
 ──自慢の目がキラリ、と光る銃身を見とがめた。
「ランサー! キミのいるビルだ! 屋上より二階下、こちら向きの窓に銃身が見えた……逃がすなよ!」
『おうっ! 任せとけ、坊主の仇だ!』
「……まだ死んどらんわ、たわけ」
 恐らくだが。最後の独り言は誰にも聞こえなかったようだ。銃身の見えた位置から車の、乗り込もうとしていた大使を狙ったとして、大使を押し込んで庇っていたとしたら。既に病院に運ばれたのか、姿は確認できずおびただしい赤だけが広がっている。いくつも浮かぶ懸念を押し込め、徹底して仕事を行うアーチャーが病院に顔を出せたのは三日も過ぎた後だった。

 事の顛末としては、どうも内部癒着やらなんやらと国際問題に発展するものがあったらしいが、アーチャーの管轄外だ。それに仔細詳しく聞いてしまえば、実行犯やそれに連なる人物の無事を約束できなくなってしまう。
「……入るぞ」
 病院に、訪れるつもりなどなかったが士郎の家族に着替えの交換を頼まれてしまい仕方なしに顔をだす。控えめにしたノックに返事もない。アーチャーが一応の断りだけ入れてドアを開けると、ベッドで眠っている士郎がすぐに目に入った。
 患者用の服から除く肩と胸は白に覆われている。先ほど会った上司によると、鎖骨の下辺りを弾が通過したが心臓は撃ち抜かれなかったとか。運ばれた当初は助かるか五分五分だったが今は問題ないらしい。
 後遺症もリハビリ次第でどうとでもなるそうで、退院してから適性テストを再度合格すれば話通り昇進だと。
「昇進して、一緒に働こうなどとほざいておいて……二階級特進でもする気か、未熟者め」
 眠る士郎を一瞥し、アーチャーは目元を片手で隠した。ああ良かった。ずっと、心配していた、気になっていたのだ。単に怖かったのだ、死ぬわけがないと、いつか必ず共に働けると確信していたという事実が。
 こんな職に着いているのだ、お互いにいつ死ぬなんてわからない。だと言うのに、叶うと、二人の夢は実現すると……。
 ボロボロとめどなく流れる涙を懸命に隠し、嗚咽を噛み殺す。安堵と不安と様々な感情が入り混じったこの気持ちは消化しきれなかった。アーチャーのずっと押さえつけていたものが士郎の無事をきちんと目にしたことによって溢れ出した。
「……わるい、約束、ちょっと延期になったな」
 眠っていたはずの士郎に声をかけられアーチャーの肩が跳ねる。顔を顰めながら士郎は起き上がり、片手でアーチャーの頬を包んだ。そっと顔を上げたアーチャーが覆いを外す。
「……情けないだろ、お前の憧れは、本当はこんなにみっともないんだよ」
 未だ零れる涙を拭わずアーチャーは士郎の目をきちんと見つめ返し皮肉げに笑ってみせた。
「何言ってんだよ、お前は俺の憧れだ。俺の為に泣いてくれてるのに、みっともないなんて思うわけない」
 士郎に愛おしげに目を細められ、アーチャーの頬がカッと色づく。こんな、笑い方を、する男だったろうか。
「あのさ、昇進なんだけど」
「? ああ、リハビ──」
「取り消されたんだ……」
 リハビリ次第だろう? と言いかけたのだが。アーチャーは肩を落としてすっかり落ち込んでいる士郎を見つめ微笑み、頬に添えられる手に擦り寄った。
「夢、なんだろ。せいぜい足掻け……ちょっと位なら待っててやる」
 真っ赤になって固まる士郎に思わずアーチャーは吹き出し、士郎が笑うなよ! と噛みつく。そこに居たのはどう見てもいつも通りの二人だ。
 翌日、聞き耳を立てていたランサーに揶揄い倒され、更に昇進はリハビリ次第だと聞いた士郎から苦情の電話が入るのだが、穏やかに笑うアーチャーには知る由もないことなのだ。

Comments

  • fuguihua
    Feb 14th
  • なぎさん
    July 2, 2017
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