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難攻不落嬢エミヤ部長攻略本/Novel by 天野 珪

難攻不落嬢エミヤ部長攻略本

23,938 character(s)47 mins

社長の御曹司槍×キャリアウーマン弓
Twitterのツリーから

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社長の御曹司槍とキャリアウーマン弓♀


都内でも有数の大手企業、アルスター社のF支社のビルへ、ヒールの音を響かせながら姿勢の良い女性が出勤する。
褐色の肌に短い白髪をオールバックにし、豊かな胸元を飾る上品な赤いインナーの上には、上下黒のパンツスーツをビシッと着こなすスタイルの良さは女性社員の憧れだ。
引き締まった表情の見た目に違わず仕事ぶりは初志貫徹でスピーディー、まさに敏腕の彼女の名はエミヤ。 
齢三十にして、支社の企画開発部部長を任されているキャリアウーマンである。

支社のエントランスはホール側がガラス張りになって居る為中の様子が窺えるのだが、その向こう側に鮮やかな蒼色が光るのが見えた途端に彼女は美しい顔を盛大に顰めて舌打ちを一つ落とした。

エントランス内では、花束を片手に誰かを待っている様子の男が居た。
目の醒める蒼の髪は後ろ髪が長く、髪飾りで1つに纏めている。瞳は吸い込まれる様な紅で、高い鼻梁や整った顔立ちや色の白さや長身から日本人では無い様に見受けられる。見るからに有名ブランドで誂えた紺色のスーツを身に纏うその立ち姿には、何処ぞの王族かと見紛う様な高級感と気品を感じる。
そんな彼が落ち着き無く、これまた高級そうな腕時計を確認したりタイを直したりしているのを、出勤して来る社員や受付嬢達はやけに生温い見守るような目で見ている。女性社員が4、5人遠巻きに小声できゃあきゃあ言っているのを数人の男性社員が何とも言えない表情で眺めながら通り過ぎ、奥のエレベーターホールに進んでいく。

そこへ自動ドアが開きエミヤが姿を顕すと、蒼髪の彼は慌てて彼女に駆け寄る。

「おはようエミヤ!」
「…お、おはようランサー」

滅茶苦茶爽やかな笑顔で、振りたくられる犬の尻尾の幻覚が見える程の高いテンションのランサーと呼ばれた男と、盛大に顔が引き攣るも足を止める事無くエントランスを真っ直ぐに進んで行くエミヤはとても対照的だ。
蒼髪の彼が花束を渡そうとするも
「これから仕事だというのにこういった物は困ると言っているだろう」
と、チラリと花に一瞥をくれただけで断られてしまう。
しかし彼は諦めずに彼女の早足について歩く。
これは、毎朝恒例のやり取りだ。

彼の名はクー・フーリン。アルスター社の現社長の御曹司の第二子であり、この支社でなく本社に勤めているのだが毎朝こうして彼女を口説く為だけに、出社前の時間に花束を持って現れるのだ。
因みに、ランサーと云うのは幼少期から親しい人にのみ呼ばせている渾名でエミヤにはそう呼んで欲しいと頼み込んだらしい。

周りの社員達の反応は、二人の恋を応援派とエミヤファン、クーファンの反対派で意見が半々だ。
(嗚呼、エミヤ部長今朝も凛々しいっス!)(御子様目を覚まして)
(頑張れ御子様!)
(部長、負けないで!)
と様々な心境が入り混じる視線が二人に注がれる。
因みにこの御曹司、ファンからは「御子様」という渾名で呼ばれてる。

「なあ、エミヤ。一度で良いからデートしてくれよ」
「生憎仕事もプライベートも忙しくてね、君の為に割ける時間は欠片も無いのだよ」

エレベーターホールに着いてボタンを押し、腕時計を確認するエミヤは一切彼の方を見ない。

「どこか行きたい所とか」
「あったとしても、君とは行く理由が無いな」
「食事だけでも」
「私は外食はあまりしない主義でね」
「じゃあ、昼!昼飯一緒に食べないか?」
「…はあ、君はしつこい!いつになったら諦めるんだ?」
「一回だけでいいから!一回だけー」
チーン 
エレベーターの到着音が二人の会話の終了を合図した。
「ランサー」
支社の敏腕部長は無駄の無い動きでエレベーターに乗り、自分の階のボタンを押すために向き直るとランサーに向かい不敵に笑んで見せた。

「諦め給え」

エレベーターの扉が閉まる音が御曹司には厭に響いて聞こえた。
毎朝このエレベーターに乗るまでの短時間で口説き落とそうと奮闘するも、中々良い返事が貰えず終いなのだ。

しかし、エレベーターの中で一人になったもう一人の当事者はと言えば
物凄い勢いで赤面する自分の顔を両手で覆っていた。以下、彼女の心情の吐露である。
(今朝も顔が良すぎた、危ない、あと少し一緒に居たらボロが出る所だった。
私なんかが御曹司とデートなんかしたら失礼だ早く目を覚まして貰わなくては困る、私の心臓も保たない!)
実は彼女、中高大と女子校の出身で就職してからも仕事一筋の叩き上げなので、この見た目に反して、男性とお付き合い所か手も繋いだことすらないという吃驚案件。
ランサーに対しての対応も、ポーカーフェイスが崩れない為に極力顔を見ない様にしているだけ、更に言えば彼が美形すぎて完璧にびびってるだけなのだった。

実は脈無し所か、彼の顔面が好みドストライクなのだという事をランサー本人は知る由も無い。
エレベーターホールでは、垂れた耳と尻尾の幻覚が見えるほどしょんぼりとした御子様が花束を持つ手をダラリと下げ、頭を垂れてとぼとぼ去っていく姿が目撃されていた。


しかし、これで諦める男じゃ無いのが「クー・フーリン」だった。

こうなったら権力を使うしか無い。
と思い立った彼はエミヤの居る企画開発部に「研修」という名目でやってくる。

「これから3ヶ月間こちらの部署で研修させて頂く事になった。クー・フーリンだ。宜しく頼む!」
初日にそう挨拶した時の、エミヤ部長の何とも言い難い表情は暫く部下たちの間で密かにモノマネのネタにされた程だった。

「エミヤ部長、入力作業終わりました」
「あ、ああ」
「エミヤ部長、会議お供します!あ
、荷物持つぜ!」
「け、結構だ!」

勿論、研修とは名ばかりで御曹司は仕事でも優秀だった。
1週間、仕事を卒無く熟しては時間を作り何かしら接点を持とうと近寄ってくるランサーからぎこちなく距離を置いている内に、更に押せばイケるのではないかと思わせてしまった様で
2週目からは朝から晩までデートに誘われる毎日になっていた。

「はぁーーーー」

エミヤが大きなため息をついた場所は、学生時代からの友人である凛の居る部署内。
ランチスペースはどこの部署でも同じ造りになっていて、書類棚を仕切りにして一番奥の窓際に8人掛けテーブルが2つ並べてある。壁際には社員が休憩時に飲む用のコーヒーメーカーや電気ケトル、インスタントコーヒーとティーパックなどが常備された長机が据えられ、隣にはウォーターサーバーも置かれている。
時々テラスや屋上で食べたりもするが、食堂組や外食組の多い凛の部署は閑散としている為、二人は専らここで昼食を摂っていた。

「愚痴は以上かしら?アーチャー」
「…まあ、一応はな」

アーチャーとは、呼ぶ人の少ないエミヤの学生時代からの愛称だ。
この愛称がランサーに知られた折には、弓と槍なんて似た愛称に運命とまで言わせしめたのだった。
降ろした長い黒髪を手櫛で後ろに流して、食後のお茶を飲みながら凛は長い睫毛を臥せ、碧色の瞳に手元のティーカップを写す。
「それにしても、彼はお昼だけは来ないのね」
「ああ…彼に人を寄せ付ける魅力が有るのは確かだよ。まだ彼が来て一週間ちょっとだが、昼食は必ず私の部下達と食堂で摂るのが当たり前になっているよ」

まあ、その食堂での昼食がまさか「エミヤ部長をオトす為の作戦会議」と題されて男女問わず部の皆で、知恵を絞ってランサーに助言する為の物だとはアーチャーは知らない。否、知らぬが仏だ。

「一回位デートしてあげれば良いじゃない。」
ちょうど明日は土曜だし、と凛は呑気な口調で紅茶を啜る。
「し、しかし…」
「素のアンタを見せたら逆に諦めてくれるんじゃ無いの?」
「あ、そうか!流石です凛!」
「セイバーみたいな言い方しないで頂戴」

解りにくいわよそのギャグ、と凛は呆れ顔だが、さも名案だと言わんばかりに納得しているアーチャーには聞こえていなかった。

さて、そんな二人のやり取りなんか知らない御子様は凝りもせず今夜もアーチャーを口説くのだった。
基本的に企画開発部の部下達は、特に急ぎの案件でも無い限り残業をしようとすると、この敏腕部長に非効率を説かれ仕事の納期を翌日に変更してまで帰される為、定時で退社する。
彼女自身もスケジューリングを完璧に計算して、長時間の残業はしないのが常であった。
そんなアーチャーの仕事を無理矢理もぎ取って手伝ってまで彼女の帰るタイミングを見計らっているランサーは、立ち上がって荷物を纏め始めた彼女に、今日こそは、と意気込んで努めて明るく声をかけた。

「アーチャー!なあ、車で送ろうか?夕食…外食は嫌なんだったよな、俺の家で良ければ食事を…」
「………」
アーチャーは支度を終えてシンプルなビジネスバッグを肩に提げると、そんな彼を睨み付けた。
正確には、ポーカーフェイスを守ろうとした結果とてつもなく睨みつけてしまうという不器用この上ない照れ隠しなのだが。
そんな事は知らないランサーは、その表情に少し怯む。
「あ…迷惑、だったか?」
「明日…」
「そうだよな…しつこ過ぎるよな」
垂れた耳と尻尾の幻覚が見える程しょんぼりしたランサーの耳に、エミヤの小さな呟きは届かなかったので。
もう一度彼女が話しかけた時も、何を言われているのか暫く把握できなかった。
「明日…私用で買い物に行こうと思ってるんだが」
「そうか……買い物…ん?買い物?」

パッと耳に入ってきた新しいワードに反応して顔を上げる「御子様」の輝きに、眩しくて見ていられないアーチャーはくるりと背中を向ける。
その反応に一々傷付いているランサーには気付く事も無く、用件だけを伝えようと慌てる気持ちを抑える様に、ぎゅっとバックの持ち手を握り締める。
「…その、買いたい物があって…荷物持ちが居ると助かるんだが」
「!!!俺がやる!!!」

即答だった。
念願の初デートに心を躍らせるランサーにいたたまれなくなったアーチャーは
「お疲れ様」
と言い置いてダッシュでその場を後にした。


初デートでショッピング!と浮かれまくっている御曹司は、ラフなTシャツとデニムながらも全身高級ブランドの服で意気揚々と、昨夜ラ●ンで決めた待ち合わせ場所に向かった。

さて問題は三十路になって、ランサーどころか人生での「初デート」であるアーチャーの方だった。
彼女は自室の鏡の前で半ギレ状態で叫んでいた。

「何を着ていけばイイんだ!!??まっったく解らん!!!!」

普段からお洒落して出掛けるという事が無い彼女のクローゼットや箪笥に収まるのは、仕事着とそれこそ激安衣類ショップで値引きされた時に買った様な普段着ばかり。
結局、着回して何年目なのかすら忘れてしまった程(胸元が楽ちんだからという理由で)ヘビロテのユニ●ロのベージュのロングワンピースを着る。
それに凜に誕生日に貰ったネックレスを着けて、何時もは上げている前髪も下ろし、ほんの少しだけアイメイクを濃くしたら準備は終了。
歩きやすくていつも履いている、赤のコンバースに足を通して出掛ける。

(こんな格好で「御子様」と釣り合うはずがない、やっぱり早々に切り上げて帰ろう)
なんて移動の電車の中で、どうやって早く切り上げようかと思案している彼女の思考は他所に、電車は時刻表通りに待ち合わせの駅へ到着した。
まあ、彼が逃してくれる筈も無いのだが。

予定の一時間前に待ち合わせ場所である駅前に到着したにも関わらず、ランサーは既に待っていた。
少し緊張した面持ちの彼だが、駅から出てくるアーチャーを見つけた途端にいつもの、いやいつも以上の笑顔で駆け寄ってくる。尻尾を千切れんばかりに振る犬の様だと、アーチャーは思った。

「良かった、後少し来るのが遅かったら待たせちまう所だったな」
「いや…時間まであと一時間もあるじゃないか…」
エミヤは彼のラフなデニムとTシャツという格好に少しホッとする。全体的に高そうだし、有名ブランドのロゴが見える気がするのは知らないフリを決め込む事にして。
「あー…アーチャー…」
「な、何だ?」
ランサーにじっと見つめられて、やっぱり安物の普段着ワンピースじゃ駄目だったか?と心配になるアーチャーの予想とは真逆に、ランサーはワンピースで強調されまくってしまっている胸元に視線が釘付けになっている。
(スーツの時も大きいとは解っていたが、これは……いやいや、やっとこぎ着けた初デートだぞ、胸ばっか見てたらヤバいいやしかしデカい)
彼は女子の何処が良いかと聞かれれば胸と答える程の唯一無二の巨乳好き、おっぱい星人なのだった。
そんなクー・フーリンの人生に於いて運命とまで言わせしめたエミヤの私服のワンピース姿。胸元に横線が入って伸びてしまう程のサイズ感は、強烈な一撃となった。

「えっ、君、鼻血!」
「え…うわ、マジか!」
「ティッシュティッシュ」
エミヤは慌てながらも対応は冷静だった。ティッシュを出して鼻を抑え、近場のベンチにランサーの腕を引いて二人で座った。腕を引かれる際に彼女の胸に肘が当たってしまい、更に出血する事態になりそうになるのを必死に堪えているランサーは、未だティッシュを抑えているエミヤの手と自分の手を交換した。
「あー…格好悪い…アーチャー悪いな、手汚れなかったか?」
と鼻を塞いでいる為に、ちょっとくぐもった声で訊ねるランサー。
初デートの出鼻を自ら挫く所業に、童貞でもあるまいしこんな所で鼻血出してる場合かよ!?と心中は穏やかでない。

「いや、大丈夫だ。それより体調が悪いなら今日はやめようか?」
「!いや、いやいや、違うから!体調とかじゃなくてだな…」
悪気無しに心から体調を心配する声音で首を傾げながら提案してくるアーチャーに、いたたまれなくなり、視線を泳がせる。
「あー、その、…今日のアーチャーが可愛くて、興奮しちまって…な」
「へ?」
この、日の光に透けても絶対に霞む事無く輝く蒼色は、何処から来たのだろう。
エミヤの思考は現実から遠のいてそんな所に飛んでいた。
褐色の形の良い耳から「可愛い」というワードが脳に到達するまでの数秒間だったが。
「…え…?」
自分に対してこの「御子様」が可愛いと言った事の衝撃に対応できず、ポーカーフェイスなど崩れ去りゆで蛸状態、一種のバグ。
そんな彼女をばっちり見てしまったランサーは、驚きを隠せない。
「おい、アーチャー?どうした?」
そう聞かれて初めて、自分の顔に熱が集まっている状態に気付いてどうにも誤魔化しきれないと解っていても、悪足掻きに顔を背けながらランサーの所為にしてしまう。

「き、君が可愛いとか言うからだろう!」
つまりは逆ギレなのだが、これには流石の御子様も少し気に入らなかった様だ。
自分に非の無い事で責められるのは好きではないのだ。
だから、少し下品な言い返し方になってしまったのは本人も認めていた。

「お前、そんなの言われ慣れてるだろ!生娘でもあるまいし…」
「えっ」
「えっ」
固まったまま否定どころか肯定と取れる沈黙が流れ始めてしまい、ランサーはこちらを見ようともしない彼女を全身くまなく見つめ直してしまう。
(おいおいおいおい!!こんなモテる要素しか無い美人が処女かよ!?可愛い以外の単語で形容出来ないんだが!?)
彼女に惚れた時の、正に雷に撃たれハートを射抜かれた衝撃を上回る出来事に心臓が早鐘を打つ。
「あ、やべ」
「…今度は何だ」
返事をしないのも流石に失礼かと思い聞き返したのだが、聞き返すべきではなかったとすぐに後悔する羽目になった。
「勃った」
バシン!!
ほぼ反射的にアーチャーはランサーの頭をはたいていた。拳でなかっただけ感謝して欲しい位だと思いながら。
「君は、公衆の面前で、なな何を!」
「いやいやいや、どれもこれもアーチャーが可愛いせいだからな!?」
「何でさ!!」
頭を抱えて叫ぶ彼女はもうやってられるか!と立ち上がって背中を向ける。
肩で息をしながら何とか気持ちを落ち着けようとする姿を、往来の人々が、カップルの喧嘩かなという様な視線でチラリと見ながら通り過ぎていく。

「アーチャー」
「………何だ」
「もしかして、デートも初めてか?」
機嫌を損ねるかもしれない不安もあるが、エミヤの反応が一々可愛らしく見えてきてしまい、好奇心が勝ったランサーが訊ねる。
「…………ノーコメントだ」
苦し紛れに、ちらりとも此方を見ない彼女の口から出た言葉はそれだけだった。
「(絶対初めてだろ、これ!!)」
大歓喜で神に感謝するランサーの後ろにはブンブン振られる尻尾(略)

「…鼻血は、止まったか?」
「あ、ああ」
微妙な間の空いた沈黙を破ったのはアーチャーだった。ちらりと此方を見て、ランサーが鼻からティッシュを離す様子を確認している。
鼻腔を少し鉄の臭いが通り抜けたが、出血はもう止まった様だ。御曹司に鼻栓をさせて歩くのは忍びないと思っていたアーチャーは少し安堵した。
「洗った方が良いぞ」
「これくらい」
「洗いに行くぞ」
こういう細かい事がどうしても気になってしまうのが彼女の性格なので、近場のコンビニに寄る事にした。
コンビニを出ながら、ランサーが手や顔を洗う間に買ったペットボトルのお茶を一本手渡して、エミヤも自分のペットボトルの口を開けて一口だけ飲んだ。

「アーチャー、買い物行くか」
「……ああ」
自分の分のペットボトルを飲み干してゴミを捨てたランサーは、エミヤとの距離を詰め上から顔色を伺うようにしながら改めて誘う。
「…っ……あんまり、近付くな」
「何で?」
「それは…」
「ん?」
今までは言われたら引いてたから気付かなかったが、距離を詰めてみれば頬を染めて顔を背ける様子に、恥ずかしがっているだけなのだと勘付いてしまったランサー。 
そして彼はこの角度からちゃっかり谷間も覗き込むというラッキースケベも発動している。
「何でもない!…行くぞ」
「おう」
アーチャーは、ちらりと見上げた彼のいつもの御子様スマイルが近すぎて「眩しい!」と心で叫びながら足早に目的地に向かった。

まさか目的地が家電量販店だとは、ランサーは知らなかった。
結果を先に伝えると、楽しいデート、とは成らなかった。

……………


二人のデートから2日後、月曜日のランチタイム。

凛からアーチャーに
「お昼に必ず来なさい」とラ●ンが来たのは今朝の事。
土日は予定があった為に連絡が取れなかった分、何が何でもデートの報告をさせようという意思をこの一文から感じ取りながら、アーチャーは凛の部署に顔を出す。
「あ、こんにちはエミヤ部長」
「やあ、凛は居るかな?」
「お待ちかねですよ」
「ありがとう、マシュは今からランチかな?」
「はい、食堂で。行ってきます」
デスクの入口で凛の部署の後輩、マシュに会ったので軽く挨拶を交わしてから中に入る。
ランチスペースで既に腕組みして待っていた凛は、部署内が見渡せる奥側の席に座ってにっこりと綺麗な笑みを見せた。
机上にはランチバックと水筒が準備万端、と鎮座している。
「待たせたかな?」
「いいわよ、それより……」
弓が向かいに座ったのと部内がランチに出かけて空になったのを確認してから、凛は興味津々という顔でアーチャーをせっつく。
「どうだったのよ!アルスターの『御子様』とのデートは?」
「う!やはりそう来たか……いや、本当に買い物に行っただけで…」
アーチャーは照れ臭いという様に苦笑しながら、手元は弁当箱をランチバックから出しつつ会話を進める。
「まあ、あんたの事だから一日でどうこうなるとは思ってないけど…で?あった事ぜーんぶ報告なさい?」
にっこり、と美しい笑顔を見せた凛はいただきまーす、と手を合わせて弁当を食べ始めた。この内心とは全く釣り合っていない威す様な笑顔に対したら、拒否権は無いのをアーチャーは良く知っている。
彼女はデートの内容を話し始めた。
槍が鼻血を出した後の会話は流石に伏せたが…。
「その…男性経験が無いのが、バレた」
「まあ、あんたの初心な反応見たらバレるわよね…そりゃ」
凛の反応はあっさりした物だった。
「私はその後の沈黙が怖かったのだが…というか、私なんかが彼とデートなんて痴がましいにも程があるからさっさと断って帰るつもりだったのだが…買い物を始めてしまったらそれ所では無くなってしまってな…」
フッと哀愁漂う笑みを浮かべるアーチャーは、遠い目をしながら土曜日の買い物を思い出す。


「買いたい物」の解釈の違いをランサーは家電量販店の喧しい色合いの広告に飾られた棚と眩い照明で輝く家電製品達を、眺めながら今頃になって気付いた。
女の買い物と言えばウィンドウショッピング、荷物持ちと言えば大量の服や靴や装飾品と身構えていた槍は興味深そうに店内を見回す。

『…買い物ってここか?』
『何か問題でも?』
『………いや、というか初めて来たなこういう店』
面食らうとはこういう感覚か、とランサーは心の中で呟いた。この店でアーチャーが欲しい物、というのが全く予想出来なかったからだ。
『は、初めて?』
御曹司は自分で家電製品なんか買わないのだと、そこで初めて思い至ったアーチャーは驚きと戸惑いが混ざった様な声音で聞き返す。
『ああ、親父が通販マニアでな大体の家電は親父が通販で買っちまうからなー』
『社長にはそんな趣味があったのか…ふむ、社長とは話が合いそうだな』
腕を組み、片手を顎に添えるポーズはアーチャーの思考する時の癖なのだが、いかんせん大きな乳を主張する様な形になるのでランサーは目のやり場に困りながら何やら一人でふむ、と思考する彼女に控え目に声をかける。
『アーチャー?』
『しかし、ランサー。ここは俗に言う家電量販店という場所だが、この店を知らないというのは絶対に、人生を損している』
『…そうなのか?』

槍は何やら弓の瞳に灯る怪しい光に、嫌な予感を感じ取る。
そう、知り合いのアニメオタクのイベントに整理券を貰う為に一緒に並んで欲しいと頼まれた時の、その知人や周りに居た彼らの殺気立つ雰囲気のソレだと、思い至る。

『とりあえず今日は私がチェックしておいた購入予定の商品をメインに見て回るから…その都度説明してあげよう』
『…あ、ああ』
隣に立つ白髪の美女がすらりと長い脚をワンピースの裾から覗かせながらアキレス腱伸ばしのストレッチを始めた様子に、嫌な予感は確信に変わり、興奮よりも緊張でゴクリと喉を鳴らした。
『先ずは、トースターのコーナーからいくぞ!』
ビシッと姿勢良く店内中央を指差し、完璧に仕事モードのスイッチの入ったアーチャーによる量販店巡りが開催された。

「そして気付いたら大量の商品説明のパンフレットと、6店舗巡って最安値のアラジン社のトースターと雑貨コーナーで手に入れたこれまた大量の超便利★お掃除グッズを、アルスター家の嫡男に持たせていたし、昼食の時間はとっくに過ぎていた……」
「うわ……退くーアンタいつも通りすぎでしょ…」
「うっ…返す言葉もない…!」
人気のないデスクに、アーチャーの落胆した声が響いた。
凛は弁当箱のおかずから春巻を選んで口に運んでから、何か思案するような仕草で話の先を促す。
「それで?」
「?」
「買い物の最中御曹司の様子はどうだったの?」
弓は話していた分、まだ半分以上残っている自分の弁当のおかずを口に入れたばかりだった為、手で静止を合図しながら飲み込む。
「違和感なく自然と荷物を持ってくれていたし、私のペースに合わせてくれていた様に感じたけれど…」
「女性の扱いには慣れてますーって感じかしら」
やるわねー、と凛が呟くのに、また弁当箱のおかずを口に運びながら頷いて返答する。今日の卵焼きは少しだけ固くなってしまったな、と自分の作ったおかずに採点しながら微妙に眉を顰めるアーチャーは凛の質問を聞き逃した。
「聞いてる?アーチャー」
「え?」
「だ・か・ら!その日のお昼はどうしたの
、って聞いてるのよ。まさか食べずに帰ったって言うんじゃあ無いでしょうね?」
「ああ…いや、流石に私もお腹が空いたし。買い物に付き合わせてしまったし」
アーチャーの歯切れの良くない返答に、まだ何かあったのだなと勘付いた凛は、意地悪い笑みにシフトチェンジした。
「あら、何食べたのよ。てか、何があったのよー?」
さ、続き続き、と凛に急かされてアーチャーは再度デートを思い出す。


興奮と充足感に満たされた彼女が正気に戻ったのは、家電量販店のあるビルから外に出て、さて次はどうしようと時計を確認した時だった。
『え…2時!?』
『………(やっと気付いたか』
バッと勢い良く振り返ればそこには、大きな紙袋とビニール袋、持ち手に吊り下げた段ボール、中身は本日の目的であった最新式のトースターで両手を塞がれ、どことなく草臥れた連れが居た。
『…あ……』
アーチャーはサァーと血の気が引くのを感じた。何たる失態!こんなつもりでは無かったのに!と心で叫ぶも、時間が戻ってくる筈も無く、とにかくこの重い荷物から彼を解放せねばなるまい、と慌てて謝罪した。
『す、すまないランサー。すっかり夢中になってしまって…どちらか持とう』
『いや、構わない。元々この為に来たんだからな』
『…しかし』
『それより、アーチャー』
やはり声に表情に元気が無い槍に、機嫌を損ねたのだろうかと心配するアーチャーは、罪悪感から「諦めて貰う為にしているデート」だという事を完璧に忘れている。
『どっかで飯食べようぜ』
そう言った直後に、ランサーの腹の虫が大きな音を立てた。
とにかく近場の、量販店の店舗から出た通り向こうに見つけたレストランに足早に入店した。

食事の味はあまり覚えていない。
お互い空腹すぎてとにかく美味しく感じたが、はて今思い返せば人口調味料、甘味料の入った味付けだった様にも思える…と彼女は語る。
アーチャーは店に入ってから食事が終わるまでで既に何度目かの謝罪を告げた。
『本当にすまない…!』
『だーかーら、気にしてないって』
『いや、しかし…』
申し訳なさそうに謝るアーチャーを宥めるような口調で、こちらもまた何度目かの「気にしてない」を返答する。
『ちゃんと飯も食えたし、問題無いだろ?』
『私とした事が、つい、新商品の家電を見ると…』
彼は本当に、気にしていなかった。流石に途中何度か腹が減らないか、と控えめに声をかけてみたが、全く彼女の耳に入っていかなかったので諦めたという理由も少しは有るのだが
『アーチャーが楽しそう…というか夢中だったからな。邪魔したくなかったんだよ。俺も楽しかったから、つい言う事聞いちまったんだよ』
『…そうか、なるほど』
納得した様子のアーチャーに、こちらの言いたい事が伝わったのか、と喜ぶ暇も無く否定する事になる。
『君も家電の魅力が解っ『違うからな!?』…そうなのか?』
きょとん、という効果音を使う場面に現実に遭遇するとは思っていなかったが、ランサーは今まさに「そう」なっているアーチャーにため息をついた。
無自覚という物もここまで来ると毒である。
『今のはそういう意味じゃないんだが…』
『…では、どういう意味だ?』
本当に解らない、という様子の彼女に、なるほどこの美人で巨乳で男前な性格で、だけど話してみれば可愛気のある上司が男性経験が無い、という事に納得した。
(恋愛音痴か…)
まるで難攻不落の城に攻め入る様な心持ちになって、何故こういう面倒なタイプばかり好きになってしまうのか…と自分を責めた。
『ランサー?』
『アーチャー』
ぐび、とグラスの水を煽ってから、これは毎回きちんと本音を伝えていかないと届かないと、覚悟を決めたランサーは真剣な面持ちになる。

『俺は、アーチャー…いやエミヤ。お前が好きだ。だから一緒に居る時間も、お前が楽しんでいるなら苦には成ら無いって意味だよ』
『………』
自分がどんな顔をしていたのか解らない、とアーチャーは語る。
レストラン内の食器のぶつかる音、店員の接客の声、他の客の会話、店の扉の開閉する音耳に入ってくる全ての音が、まるで時間すら止まったような感覚が刹那彼女を包んだ。
『…私を、好き?』
『ああ、勿論恋愛感情でな』

あれだけの猛アピールで解っていたとは思うが改めて言わせてもらったぜ、とランサーは真面目なトーンを崩さずに続けた。
蒼い髪は窓から入る陽光に反射し余計に眩しい、紅い瞳は目が合うと吸い込まれる程濃く深く、白磁の如き白い肌に通った鼻筋、大きめの男らしい口元にはいつも余裕のある笑みが讃えられている。
アーチャーはまじまじと彼の顔を見て、やはり赤面してしまう自分を自覚して、言うならば…
私が好きなのはこの美しい顔面なのだよな、と思った。
『……私では、君に釣り合わないだろう?』
『は?』
ランサーは何を言われたのか解らなかった。
『私では、役不足だと言ったのだよ。
今日は、買い物に付き合ってもらって助かったよ』
『えっ、おいアーチャー?』
アーチャーはそう言いながらサイフから自分の分の食事代を出してテーブルに置く。
それからランサーが止める間もない位の素早さで、女性が持つには些か重すぎる荷物達をひょいと持ち上げて店を出た。

そして…

「御曹司が呼び止めるのも振り向かず、タクシーに飛び乗って帰った…と」
「ああ、そう言っているではないか凛」

話を聞き終えた凛は、まず何処からツッコめば良いのか水筒のお茶を飲みながら額に青筋を浮かべ考える。
「……なんで帰ったのよ?」
「あれ以上彼の大事な休日を私に付き合う事で潰させるのも忍びなくて…」
「告白されてるのに?」
「り」
「もっと一緒に居たい、って言われている様な物なのに?」
「う…」
「もうちょっとマシな振り方あったでしょ…御子様に同情するわ」

呆れ返った様子の凛が放つ正論に反撃するにはアーチャーに分が悪すぎた。
自分でも流石に置いて帰ったのは不味かったか、と反省している所なのだから。

「でも…何で私なのだろうな…」

空になった弁当箱を見下ろしながら、はぽつりと零した。
「それは本人に聞きなさいよ。てか、その本人と今日はどうしたのよ。
そんな酷〜い振り方されてどんな態度だったのか気になるわ」
凛は机の下で足を組み直すと、先程と同じ誂う様な意地悪い笑みを浮かべた。

「今日は午前中は本社の方へ行ってるんだ…午後からこちらに来る予定にはなっているが…」
「へえー、じゃあ今から楽しみね」
「何が楽しみなものか!」
「人の恋路程見ていて面白い物は無いわよ?」
がっくり項垂れるアーチャーはもう、このまま彼が出勤してこなければ良いのに、と願っていた。
彼女の願いが叶った試しは無いし、まさに次の瞬間には打ち砕かれるのだ。

「エミヤ!!!!」
空っぽな部内に響き渡る程の大声で部署の入口に登場したのは勿論ランサーだった。
大股で、部署最奥にあるこのランチスペースに座るアーチャーを目指して向かってくる。
「り、凛…」
戸惑いの隠せないアーチャーを見かねて、凛はランチスペースの入口である書類棚の仕切りまで移動してランサーの進路を塞いだ。
腕組みで仁王立ちをしながら、勝気な笑みを浮かべてランサーを睨み上げる姿は名前の通り凛々しい。
「『私のアーチャー』に何の用?」
「…嬢ちゃんが遠坂凛か?」
「あら、アルスターのお坊っちゃまに名前を覚えて頂けて光栄だわ」
二人の間に火花が散るのを、アーチャーは椅子に座ったまま眺める事しかできなかった。
「まあ、良い。嬢ちゃんが居ても居なくても関係無い。
俺はそこのエミヤに用があるんだよ」
ランサーが凛の向こう側からこちらを覗き込んで来たのでばっちりと目が合ってしまい、アーチャーはそわそわと視線を彷徨わせた。
「俺は諦めねえからな」
「えっ」
今、何と?鳩が豆鉄砲を食らった様な顔、とはこの事か、と彼女の顔を見たランサーと凛は同じ事を思った。
その表情のまま固まってしまったアーチャーに、ランサーは話を続けた。
「一回デートしただけでも、お互い知らない面があっただろ?
だから…もう少しお互いを知り合ってから答えを出しても良いだろう?」
「…必死じゃないの」
ぽつりと呟いた凛の指摘に、ランサーはハッと自嘲する様な笑いを零す。
自分の項に手をやってポリポリと掻きながら俯いて、うーんと短く唸り声を上げた後で、ゆっくりと顔を上げながら視線は再びアーチャーへ注がれた。

「しょうがねえだろ?どうにもならねえ位、惚れてんだよ」

その、真摯な眼差しや言葉に籠められた熱に彼の本気が覗える。
「合格」
ランサーの一挙一動に警戒していた凛が、それを解きむしろにっこりと歓迎する様な笑顔でそう宣った。
「「は?」」
出会ってから初めてランサーとアーチャーがハモった瞬間だった。
困惑する二人を差し置いて、凛は事も無げに話を続ける。
「アーチャー、私は彼を全面的に応援する事に決めたわ」
「え、マジ?」
「マジよ、あ、そうだ」
凛は何か思い付いた様に手を打つと自分の席に戻って弁当箱を片付け始めながら、未だに友に裏切られた現状を把握しきれていない様子のアーチャーを見てとめると、それはそれは女神の様に美しい笑顔で告げた。
「あなた達、今月は一緒にランチしなさいよ」
「凛?」
「アーチャー、私は今月は一緒にランチしないから。
彼と一緒に食事を摂りなさいよ」

徐々に顔が引き攣っていくアーチャーと、満面の笑みになっていくランサーと、二人のリアクションは正反対だ。
「そんな事、勝手に…迷惑」
「え!アーチャーと一緒にランチ出来るのか!?」
「眩しい!!」
今までとは比べ物になら無い程の輝く笑顔に太陽神の加護でもあるのか!?と叫びそうになるのをアーチャーは何とか堪えた。
もちろん背中にはブンブン振られる尻(略)

「よし!決まりだな!アーチャー、明日のランチ楽しみにしてるぜ!」
「…えー」
「さ!昼休み終わるから戻ろうぜ!」
いつの間にか彼の手によってランチバッグに仕舞われた弁当を持ち、反対の手でアーチャーの手を引いてランサーは進み出した。
「ありがとな、嬢ちゃん!」
「いえいえー」

ランサーは凛に手を振るとそのまま社内の廊下を突き進んで行く。
アーチャーはと言えば、さり気なく繋がれた手に意識しまくってしまい、すれ違う社内、社員の視線が気になって気になって、赤面しそうになるのを顔を顰めて誤魔化す事しか出来ないで居た。
(御子様がまたエミヤ部長にアプローチしてる)
(部長めちゃくちゃ嫌そうな顔で連行されてる)
(御子様が羨ましい!!)

そんな羞恥に耐えられず、自分達のデスク近くの非常階段入口を通りかかった時
「ランサー!」
ぐい、非常階段扉の向こうへランサーを引っ張り込んだ。
非常階段は勿論人目も無く、二人きりの空間だった。薄暗く、ひんやりとした空気は、アーチャーの火照った頬を冷やすには調度良かった。
はあ、と少し息を切らしている彼女は未だに離してもらえずにいる手に気が付いて
明後日の方を向いてしか、赤面する顔を隠す事ができなかった。
「アーチャー?」
「……後で戻る、先に行っててくれ」
こういう時は大体が照れ隠しなのだと学習してしまったランサーは、彼女の顔を見ようと繋いでいる手をくい、と引き寄せた。
「っ…」
油断していた、というか既にいっぱいいっぱいだったアーチャーはバランスを崩してランサーの腕の中に背中からすっぽりと、簡単に収まってしまった。 
「嫌なら、言ってくれ」
「ら、ランサー…」
直ぐに離すから、と囁きながら、両肩を囲う様にホールドされて見下ろされたら、隠せるはずも無く真っ赤になった顔がランサーと向き合う。
「…や、やめてくれ」
困った様に眉を垂れて、頬を染めてそう訴えるアーチャーの顔を至近距離で見てしまったランサーの理性は崩壊寸前まで勢い良く振り切った。
「それは俺のセリフだ!」
ガクリ、と脱力した様に彼女の肩に額を落としたランサーに、アーチャーは更に困惑した。
心臓は早鐘の様に鳴り続けてどうしようもなく恥ずかしくて、密着した背中や腕から槍の熱い熱い体温が伝わってきて、なのにやめてくれと言われる様な身に覚えは何一つ無くてー
「…なあ、ランサー」
「ん?」
「何で、私なんだ……」
アーチャーは、下を向きながらずっと疑問に思っていた事を訪ねた。
「何でって…なあ……」
ランサーは数秒思考を巡らせたが、パッと彼女を抱き留めていた腕を離し半歩だけ距離を取った。
「長い話になるからな、明日のランチに教える。それでも良いか?」
「……そう来るか」
その提案を認めてしまったら、明日のランチを断れなくなってしまう。
断ろうと思えば、この時に断れたのだ。
しかし、アーチャーはどうしても聞いてみたかったのだ。彼が自分にここまで懸想してくれている理由を、知りたかったのだ。

「解った」

そうして部署に戻った二人は午後からは普段通りに仕事をこなし、その日はそれ以降は何事も無く過ごした。

Series
#2 -----

Comments

  • あい
    January 3, 2021
  • なお

    June 30, 2019
  • anzu
    June 27, 2019
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