反ワクチンデマへの10の回答
訂正しても訂正しても「接種の3か月後に死亡が増える。新型コロナワクチンは遅効性の毒だ」という人がまた出てくる。しつこい。秋に高齢者に定期接種しているのだから、3か月後の冬に死亡が増えるのは当然の話だ。昔から高齢者は冬が危ないという現実を反映しているだけである。「秋に栗ごはんを食べた人のその後の死亡者数」をプロットしたら、やはり3か月後に死者数が増えているだろう。
これもきっとムダな努力かもしれないが、mRNA新型コロナワクチンへの理不尽な批判を10個選んで説明を試みる。正しい理解をする人が増えることを願う。
Q01: ともかくmRNA新型コロナワクチンは過去のワクチンに比べて、群を抜いて健康被害が多い。過去最低最悪のワクチンではないか。
A01: それはワクチンの安全性に違いがあるというよりは、接種群の違いである。ほとんどのワクチンは10歳前後までにうち終わる。一方、新型コロナワクチンは高齢者を含めた全年齢層に接種した。その比較は、子どもの三輪車と自動車の事故件数を比べ、三輪車のほうが安全だと言っているようなものだ。
Q02: それでも、健康被害が多いことは事実ではないか。いますぐ接種を中止すべきだろう。
A02: 健康被害が多いわけではない。「健康被害の疑い例」(副反応疑い報告)が多いだけだ。そして、ほとんどの人が誤解をしているが、副反応疑い報告は多ければ多いほうがいい。理由を説明する。
接種直後に死亡した場合、「ワクチンのせいだ」と考えたくなるが、現実には「たまたま死亡する直前にワクチンを接種した」という可能性もある。たとえば、冠動脈が詰まって心臓の筋肉が壊死する心筋梗塞の場合、血管の詰まりは徐々に進行しており、限度を越えたときに発作となる。ワクチン接種後すぐに心筋梗塞を発症したとしても、接種によって急激に血管が詰まったとは考えにくい。たまたま発作の寸前にワクチンを接種したとみるのが妥当だ。
しかしながら、ワクチンによって血管の詰まりが劇的に進むという可能性もある。そこで、医師たちに副反応疑い報告という形で、接種後に起きた有害事象を報告してもらい、統計学的に分析し、非接種群と比較する。もしもワクチンが心筋梗塞の増悪要因となっているなら、疑い報告中に心筋梗塞が目立ち、未接種群と比べたら接種群にやたらと多い、という結果になるはずだ。現実には、ワクチン接種群のほうが、心血管系のイベントが減っているのである。
副反応疑い報告の数が多いということは、このように確認する事例が増え、見逃しが減るということだ。だから「多いほうがいい」のである。他国の他の病気のワクチンの例だが、自殺も報告されていた。死因は明らかにワクチンではないが、もしもワクチンの疑い報告に自殺が目立つなら、接種によって希死念慮をもつ人をかりたてる何かがあるのかもしれないから、対処を考えるわけだ。
このシステムは、薬害かどうかを判定する(疑わしいときは接種を即刻中断もしくは中止する)ことに加え、接種をより安全なのものにすることが目的の制度でもある。事実、モデルナワクチンを接種した若い男性の副反応疑いとして心筋炎が複数報告されたため、若い男性についてはモデルナ以外のワクチンを接種するように変更された。安全のために運用されている「疑い報告」の数で薬害だと騒ぐのは、関係者の努力を踏みにじっている。
Q03: 健康な人にうつワクチンなのに、接種によって体調を崩す人が出てくるのは、それだけでも異常。あってはならないことだ。
A03: 「健康な人にうった」というのが思いこみである。新型コロナワクチンは80代/90代のがん患者にもうっているし、中高年の持病をもつ人にもうっている。疑い報告が他のワクチンに比べて多いのも、この違いだ。10歳前後の子どもはアル中だったりはしない。現実には不健康な集団に接種したのが新型コロナワクチンである。
Q04: ロット別に報告数をみると、初期ロットに死亡報告が多い。ワクチンはロットによって中身が異なり、死のロットがあるということだ。この事実を無視するな。
A04: それはロットごとの中身の違いではなく、初期ロットは高齢者に接種したこと、そして最初期は関係なさそうな有害事象も報告をすることによるバイアス(偏見)である。
日本では2021年2月に新型コロナワクチンの接種が始まったが、対象は医療関係者と高齢者だけだった。80代/90代の高齢者に接種した初期ロットと、若い世代に接種したその後のロットを比べたら、前者に死亡の疑い報告が多いのは当然の結果だ。
また、ウェーバー効果という名前がついているが、ロールアウトしてからしばらくは、疑い報告が多くなる。誰もが新しいワクチンの安全性を懸念しているから基準がゆるめで、関係なさそうなものも報告するからだ(この態度は正しい)。一方、接種開始から日数が経過すると、疑い例の結果も明らかになるから、報告対象も減っていく。新型コロナワクチンの場合、たとえばギラン・バレー症候群や帯状疱疹は接種群に増えていないことが確認されたので、もはや報告対象ではない。
Q05: SNSで某医師が「ワクチンの中身は秘密保持契約の対象で秘密にされており、製薬会社は途中で内容成分を勝手に変えているが、誰にもわからないのだ」と憤怒していた。これは問題ではないのか。
A05: 企業人ならNDA(秘密保持契約)を結んで仕事を進めることに違和感はないだろう。対象となる資料には Confidential と記す。当たり前の話だ。これが伝言ゲームの連続で(あるいは意図的な曲解で)、「ワクチンの中身は秘密」というデマに仕上がっている。
薬事承認の際、中身を秘密にすることなどあり得ない。よく効く薬だと喜んでいたら、麻薬成分ががっつりと入っていて、依存症患者だらけになることもあり得る。あるいは、食べ合わせと同じく、相性の悪い薬品の組み合わせというのもあるわけだが、中身を秘密にされていると、事前に他の服用薬がもたらすリスクを想定することができない。ワクチンの内容成分は添付文書で公開されている。
それにしても、SNSをみていると、医師が医薬品の内容成分が「こっそり変わっている」と言い出していることに驚く。薬事承認は非常に厳格なもので、容器や内容量の変更ですら許されない(承認のとりなおしだ)。まして、内容成分をこっそり自己都合で変更していたら、もうその会社は製薬会社としてはやっていけないだろう。人体にいれる医薬品を製造する資格はないと判断される。
こうしているいまも、日本中で診察が行われ、投薬がされているわけだが、それを支えているのは医薬品の「均質性」である。ロットごとに薬の中身が違っていたら、治療は困難を極める。「効かない理由」が診断にあるのか薬にあるのかが判断できなくなるからだ。
だから国も製薬会社の工場への立ち入り検査(GMP調査)なども組み合わせて、均質性を確保する試みを続けている。毎晩の線路の保守作業と同じで目立たないが、とても重要な仕事だ。その医師の軽薄な決めつけは、医薬品の均質性こそ医療のインフラであると自負し、保守にあたっている人たちを愚弄している。
Q06: 過去になんの実績もない新規のmRNAワクチンを、長期的な治験をすることもなく承認したことに不信感をもっている。mRNAなどという新規の物質をいきなり体内にいれるなど、危険すぎるだろ。
A06: mRNAは体内でメッセンジャーとして機能しているありふれたもの。生体にとってはけっして新規ではなく、なじみの物質だ。そして、mRNAワクチンは30年間の基礎研究の歴史があるし、最初に治験が実施されたのは2013年なので(人間向け狂犬病mRNAワクチン)、最初に人間にmRNAワクチンを接種してから、2021年で8年が経過していた。十分、長期にわたる安全性が確認されている。「実績のないワクチン」というのが間違った認識だ。
mRNA新型コロナワクチンの承認にあたっては、国がセンスのカケラもない「特例承認」とか「緊急承認」といった表現をしたのが問題だ。どちらも内実をみると「省けるものを省いて急ぎました」というだけのことである。そして省くかわりに、GMP調査を追加したりしている。けっして「承認を手抜きした」わけではない。
Q07: 自治体の死亡統計をみると、ワクチン接種直後の死者数が群をぬいて多い。どうみても接種したせいだろう。
A07: その統計は「最後のワクチン接種から死亡するまでの日数」を累計している。接種するたびにふりだしに戻るので、当然、接種直後の死者数が多くなり、因果関係があるように見えるというトリックだ。もしも3か月に1度接種する人がいたとすると、その人は必ず接種後3か月以内に死亡するように集計している。
Q08: ある高齢者施設では、2回接種した全員が死亡したと聞いた。恐ろしすぎるではないか。
A08: これは表現のマジックで、その内実をみると入所者の大半は3回接種に進んでいる。「2回接種後に、不幸にして亡くなった高齢者が少数いたが、多数は3回接種に進んだ」という事実を、「2回接種した人の全員が死亡した」と切り取って表現する人がいたという話だ。虚偽ではない点で、じつに巧妙な表現である。
Q09: ワクチンを接種しても感染を防げないみたいだ。国はウソをついて意味のないワクチンをうったのではないか。
A09: 国が2021年に新型コロナワクチンを導入したときの説明は、「発症予防効果と重症化予防効果が確認されている」であって、感染予防効果についてはうたっていなかった。ウソはついていない。
ワクチンは獲得免疫に予習させるものである。乱暴な言い方になるが、「うすく感染させるもの」だ(mRNAワクチンの場合は、「体内でうすく感染したのと同じ状態をつくるもの」である)。したがって、感染で得られる免疫と基本的な性質は同じである。麻疹のように、一度感染すると何十年も感染しない免疫がつく病気のワクチンには感染予防効果があるし、インフルエンザのように何回でも感染する病気のワクチンには、感染予防効果をあまり期待できない。
インフルエンザと新型コロナに共通しているのは、ウイルスが頻繁に変異をすること、および接種や感染で得られた抗体が、日数の経過とともに減衰することだ。
Q10: ワクチンを接種していたのに重症化した知人がいる。これはどうなっているのか。
A10: ワクチンは獲得免疫を利用し、体内に侵入してきたウイルスなどの敵の正体を早期に識別する能力と、特定した敵に効果のある武器を備蓄させるものだ。未知の敵の処理には手間どるが、既知の敵には即応できるから、結果として体内でのウイルス増殖量を抑えることができる仕組みである。ただし、接種で備蓄した武器(抗体)は、日数の経過とともに減っていく。だいたい半年‐1年で消滅する(だからインフルエンザワクチンは毎年うっている)。
新型コロナワクチンの効果を分析した研究をみると、「100%の効果」を示しているものはない。ワクチンを接種していても、重症化することはある。その理由は単純で、侵入してきた敵が多く、ワクチンで強化した防衛ラインを突破されているのだ。いくら武器を備蓄しても、数で圧倒されると免疫が負ける。「ワクチンをうってマスクしよう」と書いているのは、侵入してくる敵の数を減らす効果がマスクにあるからである。
基礎疾患があったり、最後のワクチン接種から日数が経過し、抗体が自然消滅していたりすると防衛ラインも下がるから、より少ない敵の数でも陥落しやすくなる。また、既感染者は体内に重症化因子である抗N抗体をもっているから、ウイルスが大量増殖すると免疫が暴走しやすい。適切なタイミングでワクチンを追加接種して抗体を補充し、ウイルス量の多い場面ではマスクをして、吸いこんでしまうウイルス量を減らすことが重要だ。
体内で増殖するウイルス量を減らすと、後遺症(Long COVID)にもなりにくい。理想は防衛力を身につけた上でマスクや換気、空気清浄機で敵の数を減らし、感染または発症を予防することである。
Want to publish your own Article?
Upgrade to Premium