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冬優子「あんた、バレンタインとか嫌いそうよね」 P「好きだが?」/Novel by 紅木弘

冬優子「あんた、バレンタインとか嫌いそうよね」 P「好きだが?」

3,526 character(s)7 mins

バレンタインに冬優子からチョコレートを貰って嬉しくないプロデューサーなどいない。つまりはそういうことです。

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冬優子「……は?」

P「むしろ、なんで俺がバレンタインを嫌いだと思ったのかが非常に興味あるのだが?」

冬優子「だって、バレンタインよ?」

P「バレンタインだな」

冬優子「バレンタインがどういう日か、知ってるわよね?」

P「一般論として、この国では2月14日に女性から男性にチョコレートを贈る日だな。もっとも、最近では形骸化して、チョコレート以外のものを贈ることもあるし、贈る相手も様々だと聞いている」

冬優子「……じゃあ、バレンタインに女の子が男の子にチョコレートを渡す意味もわかってるわよね?」

P「義理チョコという概念が生まれてからは別だが、基本的に好きな相手に渡すものだな。つまり告白だ」

冬優子「……本当にちゃんと知ってるのね」

P「冬優子は俺のことを馬鹿にしているのか?」

冬優子「あんたのことだから、セント・バレンタインが処刑された日とか言うと思ってたわ」

P「バレンタインの由来がそうだということは知っているが、それを堂々と言うやつは早々いないと思うぞ」

冬優子「あんたならやりかねないと思ったからよ!」

P「理不尽が過ぎるだろ」

冬優子「だって、バレンタインよ? お菓子会社が2月の売り上げが少ないのを何とかするために行ったキャンペーンよ?」

P「この国での発祥はそうらしいな」

冬優子「お菓子会社の策略に踊らされるほどヒマじゃないとか思ってないの!?」

P「思ってないし思ったこともないな」

冬優子「……うそぉ……」

P「むしろ、冬優子は俺のことをどう思っているんだ?」

冬優子「思想と思考と倫理観が一般のそれから大きく外れていて、それを自覚しているから巧妙に隠しているペテン師」

P「よしわかった。冬優子は俺に喧嘩を売っているんだな?」

冬優子「今まであんたがふゆにしてきたことを振り返ってみなさいよ!!」

P「むしろ、今まで俺が冬優子にしてきたことからの結論がそれなら俺は泣くぞ?」

冬優子「泣けるもんなら泣いてみなさいよ! あさひは未だに、あんたのことアンドロイドじゃないか疑ってたわよ!」

P「……大体、考えてもみろ。アイドルのプロデューサーをやってて、バレンタインを知らないとかありえないだろ」

冬優子「だからといって、それが好きかどうかは別でしょ? 感情と行動を切り離すの、あんた得意じゃない」

P「俺が得意なんじゃなくて、大人になれば自然と得意になっていくんだよ」

冬優子「……すごく、悲しいことを言ってる自覚ある?」

P「それを悲しいと思わないから大人なんだよ」


冬優子「で、あんた。バレンタインにいい思い出でもあるの?」

P「特別バレンタインにいい思いをした記憶はないな」

冬優子「だったら、なんでバレンタインが好きなのよ」

P「嫌う理由がないからな」

冬優子「は?」

P「色々言うやつはいるが、突き詰めると男がバレンタインを嫌う理由なんて1つだ。学生時代にチョコレートもらった経験がない。それだけだ」

冬優子「……なにそれ。つまり、あんたはチョコレートをもらったことがあるってわけ?」

P「義理も含めて何回かある。学生時代に女友達もいたしな」

冬優子「モテたの?」

P「そこまでじゃない。毎年2・3個といったくらいだ」

冬優子「十分でしょ」

P「ああ。べつに数を競い合ったわけでもないし、モテたかったわけでもないからな。大体、甘いものも苦手だし」

冬優子「つまり、バレンタインに嫌な思い出がないから好きってこと?」

P「そうだな。さすがに無関心でいるのは無理があるし、嫌いにならない以上、好きになるだろ」

冬優子「……好きの理由が消極的過ぎない?」

P「積極的にバレンタインが好きな男なんて早々いないだろ」

冬優子「積極的に好きな女もあまりいないと思うわよ」


P「で? わざわざバレンタインが好きかどうかを聞いてくるということは、そういうことでいいんだな?」

冬優子「そういうこと、思っても言葉にするんじゃないわよ」

P「仮にもバレンタインにそわそわしている男にそんなことを聞いてきた冬優子が悪い」

冬優子「……そわそわしてたんだ」

P「バレンタインの好き嫌いに関わらず、大抵の男はそわそわしてると思うぞ」

冬優子「そういうもの?」

P「多かれ少なかれ、ひょっとしたら今年はもらえるかもしれないという期待や今年はもらえないかもしれないという不安を抱えるもんだ」

冬優子「あんたにそんな一面があるとか想像できないんだけど」

P「ここまでくると、男としての性というか本能的な部分だ。理性でどうこうなるものじゃない」

冬優子「……じゃあ、これ」

P「ん」


冬優子「義理だからね。感謝しなさい」


P「――ああ。ありがとう」

冬優子「……やけに素直ね」

P「バレンタインにチョコレートもらっておいて素直にお礼を言えないような男は、男として終わってると思うぞ」

冬優子「そう言われると、男というか、人として終わってるわね。」

P「だろ?」

冬優子「……で?」

P「なにがだ?」

冬優子「感想とかないわけ?」

P「……それは、ここで食べろってことか?」

冬優子「ええ。今すぐ食べなさい」

P「家に帰ってからじゃ――」

冬優子「だめ。じゃなかったら返して」

P「渡したチョコレートを返せってなかなかすごいことを言ってる自覚はあるか?」

冬優子「うるさい。いいから食べる」

P「……せめて、コーヒーだけ入れてもいいか?」

冬優子「はいこれ。いつものやつ」 カンコーヒー

P「……用意がいいな」

冬優子「逃がす気がないもの」

P「……わかった」


チョコノツツミハギハギ


チョコレートモグモグ


冬優子「ご感想は?」


コーヒーノミノミ


P「……甘い」

冬優子「ええ。砂糖普通より少し多めにしたもの」

P「……俺が甘いもの苦手なこと知ってるよな?」

冬優子「とーぜん」

P「だったら、ビターチョコにしてくれてもよかったんじゃないか?」

冬優子「無駄口叩くな。まだ一口食べただけじゃない」

P「時間をかけてゆっくりとか――」

冬優子「は?」

P「本気でにらむな。かわいい顔が台無しだぞ」

冬優子「そう何度も同じ手が通じると思わないことね」

P「……はい……」

冬優子「よろしい」



P「……ごちそうさまでした」

冬優子「はい。お粗末様」

P「冬優子、コーヒーもう1本持ってたりは――」

冬優子「しないわ」

P「……だよな」

冬優子「……そんなに甘かった?」

P「少なくとも、俺が今まで食べたチョコレートの中で一番甘かったぞ」

冬優子「でしょうね。味が壊れないギリギリまで砂糖入れたし」

P「嫌がらせか?」

冬優子「あんたに嫌がらせをするんなら、もっと丁寧にやるわよ」

P「俺、冬優子に嫌われるようなことしたか?」

冬優子「自分の胸に手を当てて聞いてみなさい」

P「自覚がないから聞いているのだが?」

冬優子「……べつに。あんたはなにもしてないわよ。ええ、なにも」

P「その割には嫌がらせの方向性が少しねちっこくないか?」

冬優子「だって、嫌がらせじゃないもの」

P「……絶対に断れない状況で、苦手なものを食べさせることが嫌がらせじゃないとしたらなんだ?」


冬優子「上書き」


P「……はぁ?」

冬優子「あんた、さっき言ったわよね。バレンタインに特別いい思い出はないって」

P「言ったな」

冬優子「特別悪い思い出ないのよね?」

P「なんなら今がそれに該当しそうだが?」

冬優子「だからよ」

P「いや、説明になっていないんだが?」


冬優子「今日のバレンタインが、一番忘れられない思い出になるでしょ?」


P「…………」

冬優子「あんたの中で、バレンタインって言ったら今日の今このときを思い出すようにしたかった。だから、記憶の上書き」

P「……冬優子、おまえ……」

冬優子「……なによ?」

P「ばかだな」

冬優子「なっ……!」

P「まだまだ、俺のことを理解できていない」

冬優子「どういう意味よ!?」

P「言葉通りの意味だ。そのうちわかるようになるんじゃないか?」

冬優子「そのうちじゃなくて、今説明しなさい!」

P「嫌がらせを受けたお返しだ。自分で考えろ。そして気づけ」


――始めから、上書きなんて必要ないってことに。

Comments

  • TKわ

    本当に話うまい

    October 19, 2023
  • ダーティー

    たとえ甘いものが苦手でも、冬優子から貰ったチョコが悪い思い出になることはないってことか……

    May 25, 2022
  • いーたん

    続きは?

    October 21, 2021
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