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名も無い弓兵の小さなお話/Novel by いちまる

名も無い弓兵の小さなお話

5,577 character(s)11 mins

五次弓兵の小話ふたつ/著者知識:アニメ2作、劇場版、CP版視聴済み、ウィキペディア/ひとつめ:UBW下地のぼくのかんがえたあーちゃー像/ふたつめ:ぼくのかんがえたhollow ataraxia妄想アーチャーとランサー。全部妄想とてもドリーム入ってます。お気をつけて。

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夢も希望も×××××


「ハッ、贋作者(フェイカー)か」
神々しいまでに金色(こんじき)に輝く荘厳なる王は、鼻で笑いそう言った。とろりと輝く紅玉の瞳は眇められ、視界にも映したくない、存在さえ赦さないと暗に伝えていた。
初めて、否再開の時彼の王の口から発せられた言葉を耳にした時、深紅の外套を纏った男は目を見開き、そして受け止めたのだった。

英霊は夢を見るのだろうか。
夢とは身体の体験を整理する現象、という一説がある。見た事聞いた事実際に身体を動かした事、つまり逆を言えば全く見た事も無ければ聞いた事すらも無い、そんな事は夢として見る筈も無いのだ。
そしてその定義に当てはめて言えば、深紅の男は夢を見た事が無いのであった。
男が知っている事は荒れた平地と無数に聳え立つ剣(つるぎ)、そして何故か漆黒で巨大な歯車が廻る天。若しくは土煙りと阿鼻叫喚、無数に散らばるどす黒い赤と錆びた鉄の臭い、そして恐らく肉の塊。この2つの景色だけだった。細かい事を言えば、歩くだの走るだの剣を振るだのまあそんなに多くもないけど少なくはない、殆ど反射の様な動きの知識や、無駄に手際良く効率化された数々の肉塊の作り方等も知ってはいたけれど。
景色に関して言うのであれば、少なくとも悠久の間、男が体験した物は前述の二つのみであった。そして常にどちらかの景色は目にしているわけであり、そんな訳で男は夢を見た事がなかった。

深紅の英霊は微睡んでいた。
睡眠等必要の無い存在だと言うのに、何故か自分でも自覚できる程にこれはうつらうつらとしている、と実感を得ていた。
優しく耳朶を打つ低い声が心地良い。己の出した声が存外高くて男は驚いた。これは私の声ではない。
「仕方ないなー、じいさんはもう大人だから…俺がじいさんの夢叶えてやるよ!」
そう、確かに己は言い、
「…そうか。安心、した」
低い声が優しく、切なく、暖かく、そう呟いた。
知っている。知らないけど私はこの会話を知っている。…忘れて、い、る…?

「アーチャー!」
遠い天から声が聞こえたかと思うと、眉を釣り上げた少女が眼前に広がっていた。
「…何かね、凛」
努めて平静な声で返すと
「何かね、凛、じゃないわよ何なのよさっきから呼んでるのにぜんっぜん応えてくれないからさーがしちゃったわよ、もおー!家の中に居たから良かったよーなものの…外行ってたらどうしようかと心配しちゃったんだからねっ?!」
いっきに捲し立てる少女に男は周囲を見回した。そこは少女の呼び出しに応じた時の景色だった。
「…もしかして私は眠っていたのか?」
そう口にしながら、いや確かに眠っていただろう、そう自覚していたではないかと心中呟く。となると疑問が湧く。
「はぁ?知らないわよ、今見つけたんだもの。つーか英霊って眠るの?」
男の疑問をまさに少女が口にする。
「眠らない…と思っていたのだが…」
でもあれは確かに「眠って」いた上に恐らく夢と言われる物を見ていた。
「えっ、もしかして魔力足りてない…?少なくて良いって言われたから確かにそんな多くあげてるつもりは無かったのだけど…少な過ぎたかしら?疲れてる?」
慌てた少女は男の手を取り、頬を掌で包み、更にはその掌を男の額に当てる。
「いや、君の魔力は充分だ、凛。その証拠にほら、霊体では無いし武装もしている」
されるがままにしていた男はそう言い、少女の手を取る。
「それに私はヒトじゃない。熱も出さないし気分が悪くなりもしない」
「そ、そうね!そうだったわね!熱計っても特に意味は無かったわね!!」
見るからに慌てながら少女は返し、それなら、と続ける。
「それなら何で…ヒトだった頃の記憶?体験?あっ、習慣?みたいなもの…思い出したのかしらね?という事はアーチャーはヒトなのかしらね?だって所謂神話の神様だったら当時から眠る事とかしないかもしれないじゃない?」
成る程それは一理あるかもしれない。そろそろ「しら、しれ」のゲシュタルト崩壊かもしれない。
男はそう思いながら、ふむ、と呟いた。

そもそもどうして己はアラヤによる守護者なのだっけか。
男は自分が何者だったのか、何故存在しているのか知らなかった。ただ、世界の記録に存在している、人類の守護者という概念だという事は知っていた。
男は遠く擦り切れた細い記憶をなぞる。しかしそれはやはりとうに擦り切れていて、なぞっても思い出せるのは、いつもの荒野と剣(つるぎ)と歯車か、阿鼻叫喚と鉄錆の臭いそして肉塊だった。
しかし。
「この間聞いた声は知っているものだったな——」
今は擦り切れたテープレコーダーの様に記録は再生されないのかもしれない。しかしもしかしたら、引き伸ばしたテープレコーダーの様に細いけれど切れずに繋がっているのかもしれない。辿れるのかも、しれない。
私はどうしてここに居るのだっけか。
自問しても自答は返ってこなかった。
男は自嘲の笑みを浮かべて立ち上がる。無駄な自問自答は取り敢えずやめだ。今すべき事をしなくては。
そう自身に言い聞かせ、男は夜の街へ音も立てずに飛び出す。

衛宮士郎という少年がどうも気に食わない。
暫く少女に付き従う間に、男はそう自覚した。最初は何が気に食わないかも分からないが、見ていてとても苛立ちを感じた。が、その内理解した。
何も無いのだ、自己が。
皆を幸せにしたい、正義の味方になる。その為には自分だって要らない。
そうある時はにこやかに、ある時は真摯に言う彼に吐き気がした。
何を言っているんだ、こいつは。
口では軽々しく言えるが、現でそのような事をした事があるのか。
全てを救う(文字通り全てだ)、それがどれだけ血に塗れて、矛盾して、叶わぬ夢幻だと知っているのか。
沸々とした悪寒を覚えて初めて男は気付く。あれは己だと。あの何もない空っぽの少年の「正義」の成れの果てが己なのだと。
誰かと約束した正義。
それはただの子どもの夢ではなく、一人の少年の人生となった。
皆を救おうと思った。皆を救いたいと思った。
皆幸福ならと願った。皆幸福になってと願った。
そうしたら。己は己であれる。己は幸福を感じる。筈だった。
現はどうだった。
一方は救えた。でももう片方は救えなかった。
多数は幸福を感じた。でも少数は感じなかった。
遂には人類を救う為に、ヒトをたくさんころさなくてはいけないそんざいになった。
君を救いたかった。お前を幸福にしてやりたかった。
そう強く思いながら男は剣を振るった。
恨み辛みを沢山浴びた。打ち付けられ、狙撃され、剣を突き立てられた。
男は何も、言わなかった。何も、言えなかった。
これが望んだ事だったのだろうか。これが望んだ世界だったのだろうか。
男は何も、考えなかった。何も、考えられなくなった。
そして——

見えるは荒れた平地と無数に聳え立つ剣(つるぎ)、そして何故か漆黒で巨大な歯車が廻る天。若しくは土煙りと阿鼻叫喚、無数に散らばるどす黒い赤と錆びた鉄の臭い、そして恐らく肉の塊。
それが男の全てだった。

止めなくては。
男は顔を上げる。
きっと天啓だ、このタイミングであれに出会えるとは。
男は黒白の対の剣を握る。
あれは消さなくてはならない。存在してはならない。

まさか己と戦う事になるとは。
不思議に、奇妙な気分に包まれながらひらりひらり深紅の外套が舞う。
男の剣は冴えない格好をした少年の頭を掠め、はらりと蜜柑色が舞った。小さく舌打ちをして男は跳躍する。土埃と渇いた風が彼を歓迎している。
荒れた平地と無数に聳え立つ剣(つるぎ)、そして漆黒で巨大な歯車が廻る天。今この時だけは男は絶対の英傑であり、王だった。


見慣れた荒野と墓標の様な剣を目にして男は惚けた顔で天を見上げる。漆黒の歯車が重厚な音を立て、軋む。ぱさりと色の抜けた見事な白髪が視界を覆い、男は怠そうに髪を掻きあげた。
ああ、終わったのか。
彼の気に食わない少年と、男が付き従った少女と眩しい程暖かい光の中でつい先程別れた事を男は思い出した。
ああ、終わらせられなかったのか。
そう心中呟きつつも、少女に託した大きな頼みごとを思い出し、一先ずまあ良しと、己の中で区切りをつけた。
本当は、己自身で決着をつけるべきだったのだけど。
そう男は悔やむけれど、そう責める事では無いものだと、彼に教えるものは居ない。
「…しかし私は昔も今も…凛におんぶに抱っこだな」
自嘲の笑みを漏らしながら、男は静かに目を閉じる。
ああしかし、誰だったか。
ちらりちらりと意識を掠める「誰か」の存在に男の意識は戻る。
遠い昔。優しく名前を呼んでくれた。縁側が好きだった。細く、窶れた、ひと。俺に、初めて、魔術をすこうし、おしえてくれた——

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