冬優子「ほんとに? ウソついてないわよね」
P「こんなことでウソついてもしょうがないだろ」
冬優子「じゃあ、あの娘なによ?」
P「あの娘?」
冬優子「今度新しく入った――」
P「透か?」
冬優子「そう!」
P「あいつがどうかしたのか?」
冬優子「あの娘、あんたに馴れ馴れしくない?」
P「冬優子ほどじゃないだろ」
冬優子「ふゆはいいの」
P「自分に甘すぎないか?」
冬優子「そんなことどうでもいいから、早く言いなさい。今ならまだ罪は軽いわよ」
P「言うも何も、透と俺は別に幼馴染みじゃないぞ」
冬優子「じゃあ、あの娘とあんたの空気感が他の幼馴染み連中と同じなのはどう説明するのよ」
P「別に、普通じゃないか?」
冬優子「普通じゃないわよ。あの娘、自分が信頼している人間には思いっきり甘えてるじゃない」
P「……よく見てるな」
冬優子「当然」
P「それだけ、透が俺のこと信頼してくれてるってことじゃないか?」
冬優子「信頼だけであの空気感が出せるわけないでしょ。それ以上の関係じゃないと」
P「関係ねえ」
冬優子「で、どうなのよ。昔近所に住んでてよく面倒をみてあげていた年下の幼馴染みをアイドルにスカウトした敏腕プロデューサーさん?」
P「笑顔がこわばってるぞ」
冬優子「誰のせいだと思ってるのよ」
P「わかったからその顔やめろ。アイドルがしていい顔じゃない」
冬優子「ようやく吐く気になったわね」
P「冬優子の誤解を解くだけだ。俺ははじめからウソをついていない」
冬優子「ふゆが何を誤解してるって言うのよ」
P「いいか。確かに俺は昔、透に会ったことがあるらしい」
冬優子「ほらみなさい!……って、らしい?」
P「ああ。俺は透に会った記憶がない」
冬優子「……どういうことよ」
P「俺もよくわからん。透に聞いても俺に思い出して欲しいから言わないの一点張りでな」
冬優子「あの娘があんたのことを他の誰かと勘違いしてるとかじゃないの?」
P「俺もそれを疑ったんだが、透にそんなことないって断言された」
冬優子「……それ、もし本当だとしたら、あんた最低じゃない」
P「だから困ってるんだよ。俺があんな美人忘れるはずないんだけどな」
冬優子「それも、曲解すれば別の意味で最低よ」
P「いや、正直あいつは別格だろ。あの顔であの雰囲気を17歳で醸し出してるんだぞ」
冬優子「……確かに、ふゆもはじめ年上かなとは思ったけど」
P「その一方で若さっていうか碧さがあるしな。いい意味ですれてない」
冬優子「どうせふゆはすれきってるわよ」
P「当人は認めないだろうが、若干天然入ってるんだよな。でもそれがミステリアスさになるんだからズルいよな」
冬優子「……やけに褒めるじゃない」
P「そりゃ、スカウトしたのは俺だからな。担当は別のやつになったけど、あいつが忙しいときは俺が付いてくこともあるし、何よりこの世界に招き入れた責任がある」
冬優子「そうね。ふゆが仕事の時はあまり付いてこなくなったもんね」
P「冬優子はもう俺が見てなくても完璧な仕事してくれるからな。透はまだ新人だし、プロデューサーの誰かが見てやらないと」
冬優子「はいはい。ふゆのプロデューサーさんは新しい娘に夢中だもんね」
P「うちは大きな事務所じゃないからな。担当アイドルだけ見てるわけにはいかない」
冬優子「わかってるわよ」
P「明日の撮影にはついて行くぞ」
冬優子「……そ。せいぜいふゆのかわいさに打ちひしがれるといいわ」
P「ああ。楽しみにしてる」
冬優子「で、あんたもしあの娘が幼馴染みだったらどうするのよ」
P「どうって?」
冬優子「いやだって、好きでしょ? 幼馴染み」
P「嫌いな男がいるのか?」
冬優子「嫌いな女もいないでしょうね」
P「だからといって別に俺、幼馴染み属性に特別な思い入れはないぞ」
冬優子「そうなの?」
P「どちらかというと、妹の方が萌える」
冬優子「キモッ!」
P「いいだろ別に。俺の知り合いなんて年下の従姉妹に兄さんと呼ばれたいって公言してるぞ」
冬優子「……うわー」
P「そんな目で俺を見るな。俺は違う」
冬優子「あんたが男同士でお酒飲みながら、好きな属性について話し合ってる姿を想像したらドン引きしただけよ」
P「公言してるやつ、アルストPだぞ」
冬優子「ウソ!」
P「マジだ。千雪さんに兄さんと呼ばれるのが目標だって言ってた」
冬優子「ふゆ、あの人を見る目が変わりそうなんだけど」
P「当人同士はノリノリだったぞ」
冬優子「公認なの!?」
P「先週、はづきさんと千雪さんとアルストPと俺で飲んだときの話だからな」
冬優子「……この事務所、大丈夫?」
P「ダメなら独立するさ。冬優子は付いてくるか?」
冬優子「……考えとく」
P「ま、ダメにならないようにするのが先だな」
冬優子「話流しそうになったんだけどあんた、妹が好きなの?」
P「幼馴染みか妹なら妹だな」
冬優子「お兄ちゃんって呼んであげようか?」
P「やめてくれ。現実とフィクションを同列に扱うな」
冬優子「じゃああんた、好きな属性とかないの?」
P「なにを企んでる?」
冬優子「サービスよサービス。いつもふゆに仕えているあんたに、ふゆからご褒美あげようと思っただけ。気まぐれよ」
P「じゃあなんだ。俺がセーラー服好きだと言ったら着てくれるのか?」
冬優子「着てあげるけど、次の日から軽蔑するわね」
P「それは残念。制服グラビアの仕事があるのに断るんだな」
冬優子「仕事なら着るわよ!」
P「それはよかった。向こうから冬優子に是非と言われて来た仕事だからな」
冬優子「やけにうれしそうね。セーラー服好きなの?」
P「こういう仕事が冬優子に来たことがうれしいんだよ。普通こういうのは現役が取ってくるから」
冬優子「……そ」
P「詳細はこの書類に書いてあるから。目を通しておいてくれ」
冬優子「はいはい……って、ん?」
P「どうした?」
冬優子「……セーラー服好きなのは否定しなかったわよね」
P「……今日の冬優子はやけに鋭いじゃないか」
冬優子「えーひょっとしてこれ、プロデューサーさんが好きだから取ってきたお仕事。だったりします?」
P「ふゆモードになるな」
冬優子「立派な公私混同ですよね?」
P「即決しただけで、向こうから来た仕事なのは本当だ」
冬優子「ばーか。へんたーい」
P「冬優子、おまえは大きな勘違いをしている」
冬優子「かんちがいー?」
P「ああ。別に俺は学生服フェチじゃない」
冬優子「今更そんな言い訳通じるわけないでしょ!」
P「事実だ。俺は冬優子の制服姿が見たかっただけだ」
冬優子「勘違いでも何でもないじゃない! 語るに落ちるとはこのことね」
P「……俺と冬優子が初めて会ったときには、もう冬優子は学生服着てなかっただろ?」
冬優子「当たり前じゃない。とっくに高校卒業してたんだから」
P「でも、中学や高校時代の冬優子を知ってるやつは冬優子の学生服姿を見たことがある訳だろ?」
冬優子「そりゃそうでしょ」
P「それが妙に悔しくてな」
冬優子「はあーっ!?」
P「俺の知らない冬優子がいると思ったらなんというか、ざわつくんだよ」
冬優子「なにそれ、嫉妬?」
P「とは違うな。どちらかと言えば興味に近い」
冬優子「興味?」
P「ああ。担当アイドルのことをもっと知りたいと思うプロデューサー心ってやつだ」
冬優子「意味がわからないんだけど?」
P「わからなくて当然だ。俺もよくわかってない」
冬優子「興味……ね」
P「どうした?」
冬優子「…………」
P「冬優子?」
冬優子「あんた、高校時代は部活とかやってた?」
P「由緒正しい帰宅部だが?」
冬優子「今でも付き合いのある友だちは?」
P「帰省したときに飲みに行くやつなら数人」
冬優子「ご家族は? 兄弟はいるの?」
P「どうしたんだ急に?」
冬優子「ふゆも興味が出てきたのよ。あんたに」
P「は?」
冬優子「ふゆのプロデューサーがどんな人なのか、よく考えたらあまり知らないなって思ったのよ。あんた、自分のことほとんど話さないし」
P「俺の話なんて聞いてもしょうがないだろ」
冬優子「いいから話しなさい! その代わり、ふゆのことも色々教えてあげるから」
P「今からか?」
冬優子「当然! 明日になったら何だかんだ言って、あんた逃げるじゃない」
P「……よく理解してらっしゃる」
冬優子「逃がさないんだから」
P「……わかったよ」
冬優子「じゃあお茶とお菓子持ってくるから、そこで待ってなさい! 動いたら承知しないわよ!」
P「冬優子の仰せのままに。ったく……」
俺が、冬優子から逃げるわけないだろ?