お姉ちゃんの恋人はプロデューサーさん
ギトギトドロドロ作品です。
最初はこんなはずじゃなかったんですけどね…。Pはづイチャ甘な話を書いてたんですよ。信じてほしい。んでもってストーリーのスパイスににちかを一つまみしたらにちかが曇ったんですよね。そして話がにちかに乗っ取られた。私は何を言っているんでしょうかね。ちょっと解らないと思いますが安心してください。私もわかりません。ちょっとスパイスにちかが効きすぎたんでしょうね。
ところでイケ甜花見ました???良きよき妄想もくもく。むしゃりんこ。甘奈と一緒に奇声を上げたいよね。
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「ただいまー。」
そう言いながら学校から帰宅した私は、玄関のところで最近見慣れるようになった男性物の靴を発見する。
うげ…、今日もいるのか…。
家に帰って早々に出ていきそうになったため息をぐっと我慢する。あの人が家に来るときはそっちの理由だけとは限らないのだから。アイドルのプロデューサーとして事務員のお姉ちゃんとの打ち合わせという時もあったのだ。
…いやまあ、そもそも仕事の打ち合わせならウチじゃなく職場でやれって話なんだけなんですけど。
さっさと靴を脱いで廊下を踏みしめて歩いてリビングの扉のノブへと手を掛ける。
そして一度呼吸を整えて覚悟を決めてから、その勢いのまま扉を開いた。
「ただいま!」
「あ。おかえり、にちか。」
「お邪魔してるよ。」
………。
お姉ちゃんをプロデューサーさんが後ろから抱きかかえるように二人でテレビを見ている。テレビの方はなんか良く解らない洋画っぽいやつ。パニック系だろうか? ちょうど船が沈んでいっている。
この感じは…。多分訪問理由はそっちだと思う。仕事じゃない方。
でも、まあ。一応聞いてみる。
「今日はどっち? 七草さん? お姉ちゃん?」
「今日は恋人として、ですよね?」
「ああ。一緒にいるために寄らせてもらった。」
「ふ~~ん。お姉ちゃんの方なんですか。そーですか。」
その場から部屋全体を見て回す。
バスタオルが敷かれたソファーに、何故か机の上に置かれたトイレットペーパー。棚の奥の方にあったはずの消臭スプレーが何故か最前列へと移動している。一体何の証拠を隠滅したんだか。流石にバレバレすぎ。
つい先ほど我慢したばかりのため息を深々と吐いた。
まあでも…、あんなに幸せそうなお姉ちゃんを見てしまうと文句も言えなくなる。それに私がいる時になんかイロイロとおっぱじめられるよりは全然いい。…えっと、大丈夫だよね?私がいるのにプロデューサーさんの手の甲を指先でスリスリとするのを止めないお姉ちゃんに多少の不安を感じるんですけど…。
「まあ、ゆっくりしていけばいいんじゃないですか。」
そっぽを向いて踵を返す。自室に入ると同時に抱えていた荷物を下ろす。荷物を下ろしたはずなのに先程のリビングの光景を思い出して猛烈な疲労感に襲われて椅子に座り込む。けれども帰宅してから手を洗っていない事に気付いて座ったばかりの椅子から立ち上がった。
学校では最近風邪が流行っている。明日は新曲の振り入れもある。
ただでさえ平凡な私が体調を崩して足を引っ張る訳にはいかない。
手を洗うために重い足取りを洗面所に向けたその道中。
チラリと見えたあの二人は、私のいなくなったリビングでさっそくゼロ距離で向かい合っていた。
「………美琴さんのレッスンの映像でも見よ。」
言葉を漏らしながら手を洗ってもモヤモヤが晴れない。当てつけのようにわざと水量を最大にして水の音を立ててみても気持ちは晴れない。蛇口から勢いよく出てきたために撥ねた水滴がスカートを湿らせているように、私の奥底にある何かが水を吸った洋服のように重たく沈んでいく。
ヘッドホンをしよう。
絶対に外の音が入らないように。
何も見ないように。何も聞かないように。何も知らないために。
ああ、でも…。
なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
「ゆっくりしてけなんて言わなきゃよかった…。」
疑問と呟きは水と一緒に排水溝へと流れ落ちた。
***
なんて事があった翌日の事。
げんなりとしながらも新曲の振り入れの為にレッスン室へと足を運ぶ。
大体お姉ちゃんもお姉ちゃんだ。
色ボケ過ぎる。プロデューサーさんが家にいる時といない時の差が激し過ぎる。部屋着なのに超こだわってたし、メイクまでしてるし。なんかずっと声が高めだし。私の家でもあるのに私の居心地が悪すぎる。
それに…。あの二人、絶対にあのあと…。もう最悪。
深々とため息を吐く。
そんな時、黛先輩の「理想のデート?」という声がレッスン室に響いた。
「アンケらしいよ。CD購入者特典用に私たちがアンケに書いた理想のデートコースをなぞったアルバムを同封されるんだって。」
「そうなんだ~。」
園田さんの説明を『へー、そんなのがあるんだ』なんて思いながら耳を向ける。
理想のデート、ね。自分ならどう答えるのだろうと考えてみる。
だが、思い浮かぶのは昨日のお姉ちゃんとプロデューサーさんの情景のみ。お家デートで一緒に映画を見て、ご飯を食べて、そして…、…な感じの事ばかり。完全に昨日のあの二人の雰囲気に毒されている。あーもう最悪!!お姉ちゃんの色ボケが私にまでうつってしまっている。
「そうなると~。ふゆは遊園地デートがいいかな~。」
「私はお祭りの食べ歩きって回答したかな。」
「わ~。それも楽しそう♡」
そう。多分それが普通の回答。
だけど色ボケお姉ちゃんに悪影響を受けた私は ───
「あたしはプロデューサーと一緒に居れたらなんでもいいって言ったかなぁ。」
そう。そんな感じの事ばかり考え…。
………。………は?
「は?」
「うぇ!?」
「…?」
黛先輩は氷点下の視線で、園田さんはギョッとした表情で。大崎甜花さんは何も聞いていなかったようで不思議そうに横にしたスマホから顔を上げて首を傾げていた。対する私は声すら上げる事も出来ずに口を開け放つばかり。どこかで冷静な私が『開いた口が塞がらない』とはこの事か、なんてくだらない事を考えている。
「え、えっと…。は、羽那ちゃん…? それはその….。」
「んー? どうしたの、チョコちゃん。」
「どういう意味なのかなって…。いやいやいや、言い辛かったら別にいいんだけどね!? 別にね!?」
「やーん♡ ふゆも気になりますー♡」
「ふふふ、ふゆちゃん!?」
自分には関係無さそうと感じたのか再度スマホに視線を落とす大崎甜花さん。
何時もはもどかしくなるそのメンタリティーが今だけは酷く羨ましく感じる。
「それって…、好きってことですか~?」
「えー。これじゃおえんかなぁ? もうちーと解り易く言った方がよかったかも。」
「じゃ、じゃあ…!」
「ふふ。」
園田さんが傍目から見ても解るくらいにつばを飲み込んだ。
けれども私もまったく同じタイミングでゴクリと喉を鳴らす。そうか、鈴木さんは…。
「ふ~ん。そうなんですね♡」
「うん、そうなんだー。ふゆちゃんは?」
「ふゆは…。」
「隠さなくても平気だよ? そういうのって解っちゃうでしょ?」
「そうね、ふゆも好きよ。愛してる。」
やっぱり~、なんて言って笑う鈴木さん。
プロデューサーさんに対して、お姉ちゃんという恋人がいながらあんな綺麗な人たちに好意を寄せられているという事実を目の当たりにして腹の底にグツグツと煮える様ないら立ちが沸き上がる。
…いや、違う。
そうじゃない。そっちじゃない。
このいら立ちは恋人がいながら他の女に好意を寄せられているプロデューサーさんに向かっているのではない。私はプロデューサーさんについて話すあの二人に対してムカついているのだ。プロデューサーさんの話なのにあの二人が私のことを見もしない事にイライラしている。
なんで? どうして?
私だってあなたたちのライ ───
─── ああ、そっか。私はプロデューサーさんの事が好きだったんだ。
「ひょえ…」という情けない声と共に二人の修羅場から避難してくる園田さん。
顔色は良くない。大崎甜花さんのように図太く我関せずとスマホを眺める様な気分にはなれないらしく、ただ黙って成り行きを見守っていると見えたらしい私のところにやってきた。
「な、なんか凄い事になっちゃったね…。」
「ですね。」
恋を自覚して、その瞬間に失恋した惨めな私のところに。
今更理解して、何も出来ないままに恋が終った私の元に。
気分は最悪。そっか。そういう事か。プロデューサーさんとお姉ちゃんが一緒に居てモヤモヤとしていた理由はそういうことだったんだ。どうりで二人がイチャついている所を見ると心が痛かったわけだ。苦しかったわけだ。知らないままの方が幸せだったかもしれない。祝福できたかもしれない。こんな事なら知りたくなかったと叫びたい。もう一人になりたい。心の中に既に深く沈み込んでいる私の恋心が軋んで喚き散らしている。
知らなければあの目の前の不毛な言い合いに混ざったのだろうか。それとも臆病な私は逃げたのだろうか。
解らない。知る事も出来ない。
だって私はプロデューサーさんとお姉ちゃんが恋人同士という事を知っているから。知ってしまっているから。
「まぁ、全部無駄なんですけどね。」
「へ…? 無駄?」
「はい。だって…。」
言わない方がいい。
止まった方がいい。
そんなの解っている。解っているって!!
「 ─── プロデューサーさんは昨日、私の家に泊まったんですよ?」
でも、醜く淀んだ私の感情があの二人にも同じ気持ちを味わせろと囁く。
だから不毛な言い合いをしている二人にもギリギリ聞こえる様な声で言ってやった。
あ、黛先輩と鈴木さんがようやく私を『敵』を認識した目で見てくれた。あはは、口角が変に吊り上がる感じがする。きっと私は嗤っているのだろう。醜い笑顔を浮かべているのだろう。私の元へとやってきた園田さんも頬を引き攣らせている。
「へえ…。」
「ふーん。」
でも、その目は何かを見透かすようで。
まるで全部お見通しとでも言っているようで。
『対等』というよりは『哀れみ』のような眼差しであって。
視界が暗くなっていく私の口はもう止める事が出来ない。私を見て。そんな目で見るな。違う私はこんな事をしたい訳では。もう全部どうでもいい。よくない。いやだ。嫌だ。終わりたくない。私はまだ。まだ!!
「そ、それは…。にちかちゃんに会いにってこと…?」
「さあ、どうでしょう。私かもしれませんし、お姉ちゃんかもしれませんね。あ、私たちって可能性もあるかも。」
「あわわわ。」
もうやめてと心が叫ぶ。うるさいと返す。
そんな事しても意味ないと理性が喚く。黙れと怒鳴る。
こんなの『私』がもっと惨めになるだけだと恋心が悲鳴をあげる。
そんな事、私が一番知ってる。
でも、もう止まれない。
誰もいないレッスン室。
私たちが割り当てられていたコマは既に終わり、今日この後にこのレッスン室が使われる予定はない。
陽が落ちて焼けた空が窓から見える。これから夕食時だからか、街の喧騒は窓越しにも音として私にも届いている。話し声、笑い声、横断歩道のメロディーに赤ちゃんの泣き声。人が活動するありとあらゆる音が。
この静けさに満ちたレッスン室とは大違いだ。
「あーあ…。」
なんの意味もない間を埋めるためだけの音。
それが私の喉から発されて空気に溶けて消えた。
言ってしまった。
やってしまった。
トレーナーすらも何も言えない程に終わった空気感でのレッスンは初めてだった。だけど、それをもたらしたのが自分だと思うと心のどこかがスカッとして、自己嫌悪でそれ以上に気分が落ち込んだ。それでいて改めて思った。
言わなきゃよかった。
やらなきゃよかった。
「まあ、もう手遅れなんですけど。」
乾いた笑いが出ていく。
お姉ちゃんと自分を置き換えてプロデューサーさんへと懸想する二人へと自慢げに語る。それが最終的に何をもたらすのか解らない程子供ではない。ましてやあの感じはなんかバレてそうだったし。なのに、どうすればいいのかも解らない。真逆の感情のせいで自分がどうしたいのかも解らない。何も解らない。
「ねえ、どうしたらいいんですか。教えてくださいよ…。」
そう呟きながら窓から外を眺めていたら見覚えのあるスーツ姿の男性がいた。見間違えるはずがない。プロデューサーさんだ。
涙が止まらない。ぐちゃぐちゃの感情のままに窓に手を伸ばす。
「ムキムキにちか~~、なんて…。」
誰か私を…。
「こっちを見てくださいよ…。私を見てよ、プロデューサーさん。」
窓の外のプロデューサーさんは何も気づくことなくお姉ちゃんの手を取って私に背を向けた。
吐き気が込み上げたが何も出てこない。そういえば朝から何も食べていなかったな、なんて他人事のように思う。
「あーあ。」
なんの意味もない間を埋めるためだけの音。
たった一人だけになった世界に響いた。
いや、何故こうなったw