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棺桶で眠る君は/Novel by yosihito

棺桶で眠る君は

2,312 character(s)4 mins

診断メーカーのお題アンケートで投票していただいたもの。

できてない士弓(Notホモ)。

レアルタ式(添い寝)で魔力供給する士弓主従の話。短いです。

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アーチャーの眠りは深い。

聖杯戦争が終わって、その成り行き上、半ばヤケクソのようにアーチャーは俺との主従契約を受け入れた。
心底嫌そうな顔をしながらも俺をマスターと呼ぶアーチャーと、同じくらい苦い顔をした俺たち二人の顔を見て遠坂は爆笑した。
その頬が濡れて光っていたのは、俺も奴も見なかった事にした。

と、まあ、そこまでは良かったが――

聖杯戦争の終結した現在、残ったサーヴァントの現界に聖杯からのサポートは期待できず、俺は奴を維持するための魔力を自前で何とかしなければならなくなった。
もちろん、半人前の魔術使い風情にそこまでの魔力が融通できるはずもなく、遠坂と当のアーチャー本人にも協力を仰ぐ事となった。
遠坂に移植された魔術刻印は、わずかだがこの体にまだ残っていて、100%とはいかないまでも彼女からの魔力を俺経由でアーチャーへ渡すことができた。
それでも、慢性的な魔力不足はいかんともしがたく、それを少しでも補うため、俺とアーチャーは夜に同じ部屋で密着して寝ることを厳命された。直接接触による魔力供給だ。
つまり、俺達は毎夜添い寝をしているのである。
男と、それもあのアーチャーと一緒に眠るなんて正直言って複雑な思いしかなかったが、奴の現界を維持するために必要な事だとなんとか自分を納得させた。
そもそも、ろくな魔力供給もできないくせに、後先を考えずに奴に契約を迫った俺が招いた事態だ。その俺がどうのこうのと文句を言える筋合いではないだろう。
だが、男同士という事もあってか変な意識はせずに済み、そういう意味では気は楽だった。
俺も奴も寝つきは良い事もあって、結局すぐにこの状況には慣れてしまった。

だが、ある夜、
「こんな事までせずとも、私がずっと霊体化していれば済むことだぞ、衛宮士郎」
並んで布団に入り互いの手を固く握る、といういつもの体勢を取り、さて寝るかという段になってアーチャーがぽつりと言った。
「貴様も凛も随分と無駄な事をしている」
「――無駄ってなんだよ?」
自分でも声が低くなるのが分かった。
「聖杯戦争の終結した今、サーヴァントに実体は不要だ。戦う必要が無いのだからな。だというのに、凛と――まあ、こちらはどうでもいいが、お前にも――決して軽くはない負担がかかっているこの状況は、はっきりいえば魔力の無駄遣いでしかないぞ。この世界での存続を私は受け入れたが、何も無理に肉体を維持する必要はない」
「それはもう散々話した事だろ?俺も遠坂もお前が現界を続ける限りはここで生きて暮らして欲しいって」
「私はすでに死んでいる」
遮った声は静かで、だからこそ余計に俺は言葉を続けられなかった。
「肉体があろうとなかろうとその事実は変わらない。お前達はただの人間ごっこを私に強いているだけだ。これが無駄と言わずにいられるか」
人間ごっこ、という言葉が胸を抉った。そして、何故その言葉にこんなに自分が傷ついているのか、咄嗟には理解できなかった。
「人として生きて良いのは、本当に生を持つ人間だけだ。いくら人と変わらない肉体を得ていようとも、この中身はすでに死んだ人間、死者だ。それは変えようのない事実だ」
「それはそうだけど、でも——」
言葉が続けられない。
頭のどこかで奴の言葉を否定しきれない自分がいた。
平穏な、人としての暮らし。穏やかな日々。
それらに奴が感じている居心地の悪さ、いたたまれなさを俺には容易に想像ができた。
エミヤシロウとして生き、その生を一度閉じた奴であれば尚更だ。
その終わったはずの生を再び奴に強いるのは、生きている俺たちのエゴでしかないのかもしれない。

黙り込んだままの俺の手を、一瞬だけわずかに強く奴が握った。
はっと顔を向けるこちらを見返す事もせず、アーチャーは目を閉じた。
「もう寝る。くだらない事を言ったな。魔力不足で少し苛ついていたようだ。忘れてくれて良い」
「アーチャー」
思わず名前を呼んだ俺の声色に何を感じたのか、閉じた目を開いて奴がこちらを見た。
感情の読めない静かな目をしている。
「士郎」
珍しく下の名前を呼ばれて何故かどきりとした。
「この手を取った時、お前の生を見届けるとオレは決めた。それを今さら違えるつもりはない」
違う、そういう事じゃない。出かかった言葉はそのまま飲み込んだ。
何も言わない俺の様子を無言の了承と受け取ったようで、奴は再び目を閉じた。
どうやら本当に眠たいらしい。
「お休み、アーチャー」
返事はなく、すぐに静かな寝息が耳に届いた。

アーチャーの眠りは深い。
一度眠るとよほどの事でもないと起きない。
無防備に隣で眠るのは、それだけ自分を信頼してくれているのか、と少し誇らしく思いかけ、
いや、もしかしたら俺ごとき脅威にはならないと侮られているだけかもと思い当たる。
心の平穏のために、このことについてそれ以上考えるのを俺は放棄した。

微動だにしないその寝姿に、自分を死者だと言った奴の言葉をつい思い出してしまう。
では、死者が眠るこの部屋は棺桶だということになるのか、と馬鹿なことを連想して、あまりの発想に自分で呆れた。
どうやら俺も眠たいらしい。
繋いだアーチャーの手は温かく、死人ではないその温もりに安堵する。
さっき奴がやったようにその手を一度だけ少し力を込めて握って緩め、目を閉じた。
体の力を抜くと眠気はすぐに訪れてきて、そのまま素直に意識を委ねた。

(End)

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