「アーチャー!」
見てくれこれ、と高く掲げられたそれは、名前の通り鮮やかなオレンジ色をした果実だった。
「?」
無言で問えば、
「いつも買ってくれるからおまけだって」
と笑顔で背後のマーケットを振り返る。
目線を向ければ、アーチャーも顔見知りの野菜売りのおばさんが笑顔で手をあげた。
それへこちらも手を上げて返しながら、荷物を抱えて歩いてくる士郎を待つ。
それぞれ分担を決めて買い出しをするのが、ここ最近の二人のやり方だった。
士郎は野菜、肉と魚はアーチャーと、各々の担当を購入した後に、マーケット入り口のここで待ち合わせしていたのだ。
「普段あんまりフルーツとか買わないからありがたいよな。貴重なビタミンだぜ。半分こして食べようぜ」
嬉しげに差し出してくる士郎の手から、オレンジを受け取ろうとして、ふと引っ掛かりを感じたアーチャーは手を止めた。
ーーオレンジ?
――半分こ?
そこで、アーチャーは士郎の肩越しに、野菜売りのおばさんが笑顔で指を立ててウィンクする様を見てしまう。
――そういえば、あの人は確かスペイン出身だと以前聞いたことがあったな。
――スペインでオレンジといえば……
「!!」
“それ”に思い至った瞬間、アーチャーはくるりと踵を返すと士郎を置いて早足で歩き出した。
「アーチャー?」
「帰るぞ。あと、そのオレンジはお前が食べろ。オレにはビタミンなんぞ必要ないからな!」
早口でまくしたてるアーチャーが、顔を赤くしている理由に士郎が気づくのは、まだずっと先のことなのであった。
おしまい
【解説】
タイトルはスペイン語のことわざ
「あなたは、私のオレンジの片割れ (tu eres mi media naranja)」
から。
『半分に切ったオレンジがピタリと重なるのはその片割れのみ』という意味で、「運命の相手」を指す言葉だそうです。
一人だけ意味が分かって、いたたまれなくなるアーチャー可愛いくない?ってだけのお話でした。