クロユヒで少し前に呟いていた、例の悪魔の囁きです。
エンドA軸後のお話(全年齢版)
※子どもの名前は私の勝手な想像です
※少しいかがわしいかもです
陽の光が届かぬ王城の地下牢。重い鉄格子越しに見えるのは、松明の光すら届かぬ永遠の闇。部屋の隅には簡素な鉄枠のベッドがあり、薄いマットレスの上に毛布一枚だけが敷かれている。その中央に置かれた椅子に、ユヒルは座らされていた。両手首、両足首、胴体までもが幅広の革ベルトでしっかりと固定され、少しも動くことができない。ベルトの内側は柔らかな羊革で裏打ちされていて、肌に赤い痕すら残らないようになっている。
昨夜から続く下腹の鈍痛と、体の芯に残る熱が、まだ消えていない。ユヒルは力なく首を垂れ、震えていた。扉が開く音。鍵の鳴る音。ゆっくりとした靴音が近づいてきて、ユヒルの肩がびくりと跳ねた。
「……おはよう、ユヒル」
クロードはいつもの笑顔で、鉄格子越しに屈み込む。手には銀の盆が抱えられており、その上には温かいスープと、パンが置かれていた。ユヒルは唇を噛んで顔を背けた。
「……いらない」
「だめだ。ちゃんと食べないと。……今日は特別な日なんだからさ」
クロードは鍵を開けて中に入ると、ユヒルの前に跪き、ベルトを一つずつ丁寧に外していった。拘束が解かれると、ユヒルは力なく崩れ落ちそうになる。クロードはすぐに抱きとめ、ベッドへと運び、そっと横たえた。甘い香りが漂い、ユヒルの体は反射的に震えた。
「お前はずっと言ってたよな。『故郷に帰りたい』って」
ユヒルはぎゅっと目を閉じる。
「だったら、ここをもう一つの故郷にすればいい」
「……っ!」
「俺との子供ができれば、俺たちは家族になる。そうすれば、ここがお前の家になるだろ?」
ユヒルの顔から血の気が引いた。
「……やだ……っ、子供なんて……絶対に、いや……っ!!」
ユヒルは這うようにして逃げようとしたが、クロードに腕を掴まれ、ベッドへと引き戻された。
「逃げないでくれよ」
ユヒルは必死に暴れ、叫んだ。しかし力の入らない体ではどうにもならない。クロードは静かに、けれど確実にユヒルを押さえつけ、優しく服を脱がせていく。クロードはユヒルの震える唇に深く口づけ、涙で濡れた頬を舐うように唇を這わせた。首筋に熱い息を吹きかけ、優しく吸いながら降りていく。びくびくと跳ねる体を逃がさぬよう抱きしめ、耳元で甘く囁いた。
「今日は……最後まで、ちゃんと愛してやるから」
ユヒルは首を振り、嗚咽を漏らしながら拒み続けた。けれどクロードは逃げられないように深く抱きしめたまま、ゆっくりと、確実に、すべてを注ぎ込むまで離さなかった。
「……愛してるよ、ユヒル」
すべてが終わったとき、ユヒルはただ荒い息を繰り返し、虚ろな瞳で天井を見つめていた。クロードは優しく髪を撫でながら、耳元で囁いた。
「これで……もうお前は、俺から離れられない」
───数年後
夏の陽射しが、黄金色の麦穂を煌めかせている。ユヒルは麦わら畑の端に立ち、遠くを見つめていた。長い黒髪が風に柔らかく揺れている。年を経ても少女のような美しさは失われていない。ただ、瞳の奥には深い諦めと、静かな悲しみが宿っている。
「おかあさぁん!」
明るく元気な声が響き、麦穂をかき分けて駆けてきたのは、八歳の息子レオンだった。藁色の髪に、ユヒルと同じ黒い瞳。無邪気な笑顔は、かつて旅を共にした頃のクロードにそっくりだ。
「お父さんが、お昼ごはんできたって!」
ユヒルの表情が一瞬、深い哀しみに沈む。
「……お母さん?」
レオンが不安そうに袖を掴んだ。ユヒルは慌てて微笑みを作り、レオンの髪を優しく撫でた。
「ううん、大丈夫。お日さまが眩しかっただけ」
「さあ、お父さんが待ってるよ。一緒に帰ろう?」
「うん!」
小さな手を握り返し、二人で麦畑の道を歩いていく。家の前で、クロードが立っていた。
「お帰り」
優しい笑顔の奥に、静かな暗い色をたたえて。
「……お前たちが帰ってくるのを、ずっと待ってたよ」
ユヒルは静かに目を伏せ、小さく頷いた。