カオスなカルデアで大騒ぎ〜色恋沙汰も魔猪次第〜
タイトルの通り、ギャグでございます。真面目な槍弓はいません。
いつものように設定は捏造・妄想の産物なので、細かい所は気にしない方向け。
ドタバタしてる槍弓が書きたかったけど、なんかイマイチドタバタしてないというか、あんまり槍弓絡んでないというか。最初はフェルグスさんが出張ってます。
槍弓(広義)に幸せになってもらいたい。なのに、幸せ描写ほぼ無し。精進したいと思います。
いいね、ブックマークありがとうございます。とても嬉しいです。
誤字脱字があったらごめんなさい。確認次第修正します。
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穏やかな日常は、ふとしたことで失われるのだと思い知った。だから、この日1日が平穏に過ぎていくことを願いながら、私は今日も厨房に立つ。byアーチャー・エミヤ
ソレは、突然襲ってきた。
レイシフトから戻ってきマスターを労うために、料理自慢のサーヴァント達が腕を振るう食堂で、食堂の主であるエミヤを呼び止めたのは、最近召喚されたケルトの戦士・フェルグスだった。
「どうされましたか?何かリクエストしたい料理でも?」
忙しい手を止めて、エミヤはフェルグスに向き直った。まだカルデアに慣れていないだろう新参のサーヴァントに特に優しく接するのは、もはやエミヤの癖である。
「やっぱり、イイ。なぁ、エミヤ殿。俺のものにならんか?」
「…は?」
さっきまでの喧騒が嘘の様に静まり返った食堂に、フェルグスの声が響く。ーーー英霊は色恋を好む者が意外に多く、この場に居合わせた英霊達は、がっつり聞き耳を立てていた。
「いやぁ。初めて会った時から気になっていてな。誰の手もついていない様であるし、この際貰おうと思った次第だ」
ハッハッハーと快活に笑うフェルグスは、呆然としているエミヤの反応もお構いなしに、筋力にモノを言わせて担ぎ上げた。この時、我に返ったエミヤは当然、力いっぱい抵抗している。しかし筋力Aに筋力Dが敵うわけもなく、あっさりと捕獲され、拘束されたのだ。
助けを求めて周囲を見るが、何故か視線を逸らされる。こちらをうかがう気配はするのに、視線は合わない。どういうことだとエミヤは慌てた。
何とか逃れようと暴れても、ビクともしない。おのれ、脳筋ケルトの戦士め。
だが、エミヤの諦めの悪さだって伊達じゃない。肩に担ぎ上げられているのであまり自由は効かないが、上体を海老反りに跳ね上げ、フェルグスの首に腕をかけると、その腕にグッと体重を乗せ、首を背中側に仰け反らせようとした。顎が上がれば、身体に力が入らなくなる。逃げ出す機会があるはずだと。
ーーー甘かった。
まさか、不意打ちでも敵わないとは思わなかった。
「どうした?虫でもいたか?」
上体を跳ね上げて首に腕をかけたのを、虫か何かに驚いたからだと思ったらしい。つまり、攻撃と認識されなかったのだ。
戦士としてのプライドは激しく傷付いたが、諦めずに次なる一手を考えていたエミヤは、凄まじい怒号に思わず辺りを見渡した。
「待あぁあぁてぇえぇぃ、ごぉるぅあぁ!!!」
食堂から出た廊下の向こうに立ちはだかっているのは、クー・フーリン・ランサーだった。まるで悪鬼の様なその形相に、フェルグスは足を止めた。そして首を捻る。
「どうかしたのか?クー・フーリン。いつものお前らしくないぞ」
明朗快活な普段の様子から一変した姿に、滅多なことでは動じないフェルグスさえも戸惑った。肩に担がれたエミヤは、初めて見るランサーの怒りに動揺し、恐怖を感じて、無意識にフェルグスの上衣を縋るように掴んだ。
それを見たランサーが余計に怒り、ギリリと歯を喰いしばる。それから唸るように、
「ふざけんなよ、テメェ。そんな所で何してやがる」
「やめろ、クー・フーリン。エミヤ殿は我が妻になるのだ。無礼は許さんぞ」
「はぁ?何言ってやがる。そいつは俺のもんだ!」
「嘘をつけ。俺がカルデアに来てからずっと探っていたが、エミヤ殿は誰とも特別親しい間柄ではなかったぞ」
「俺がいるだろ!運命感じるくらいだぞ!」
「単に同じ聖杯戦争に何度か呼ばれたというだけの間柄だろう?深い仲になったこともないなら、ただの顔見知りだ」
「今からなるんだよ!人が機会を待ってるってのに、横から掻っ攫いやがって」
ケルトの勇士である2人の争いは、カルデアの英霊達の関心を引き付けた。それは同時に、マスターの参入を意味する。
恋バナ大好きマスターが、このチャンスを逃すワケがないのだ。
「双方待たれよ!話は分かった。この争い、私が預からせてもらう!!」
颯爽と現れたマスターは、ビシッと決めたポーズで完璧に口上を述べた。ーーー絶対、何度か練習して来たな。後ろに控えている盾の少女が小さく拍手しているから、間違いない。
「嬢ちゃんの出る幕じゃねーよ。今回は引っ込んでな」
「マスターといえど、嫁取りにまで口を挟むのはいただけんぞ」
「お前の嫁じゃねーだろ!俺のだ!」
「いや、俺のだ」
「俺のだっつってんだろ」
「諦めろ、クー・フーリン。みっともないぞ」
「ストッーープ!!だから私が預かるって言ってるでしょ!話を聞きなさい!」
令呪を使ってやっと静まった2人の前に立ちはだかり、とりあえず、エミヤを回収した。ずっとフェルグスの肩に担がれたまま固まっていたのだ。
「なんで2人だけで突っ走るの?言い合いしても結論出ないでしょ?」
「だがなぁ、嬢ちゃん。こいつが…」
「シャラーップ!まず私の話を聞きなさい。2人共譲らないのなら、その甲斐性で決めましょう!」
「甲斐性とは?」
フェルグスの問いに対し、マスターはニヤリと笑った。その言葉を待ってましたと、またポーズを決めて、
「 エミヤ争奪!チキチキ☆魔猪狩りレーーース!」
ドヤ顔で言い放ったマスターに、ギャラリー化していたサーヴァントやカルデア職員からは『ダサい』『ネーミングが古い』『チキチキって…』『昭和臭がする』『本当に10代?』等の意見が出されたが、本人は自分に酔っているので気にしない。
「愛する妻を養えないで、何が夫か。魔猪くらい楽に狩れないとエミヤは養えないよということで、ルールは簡単。魔猪を1番多く狩った人からエミヤを選べます。真名がエミヤの人は4人いますね。その中でアーチャークラスの赤弓・影弓・黒弓が対象です。賞品のエミヤは、獲得者が好きにしていい権利があります。R-18だろうがなんだろうが、自分達の部屋の中でならお好きにどうぞ〜。参加希望者は、明日までに私に申込してください。詳しいルールを説明します!」
ギャラリーに向かって宣伝するマスターは、とても輝いていた。周りのサーヴァント達も、マスターの勢いに圧倒されている。
その中で、キャスタークラスで現界しているクー・フーリンが異議を唱えた。
「本人の意向を無視していいのか?そもそも、問題になってるのは赤弓だけだろうが。俺たちまで巻き込んでくれるな」
影弓とデキてるキャスターは、今回のことには反対らしい。彼の言うことももっともだが、このマスターはそんな意見に耳を貸さない。というのも…。
「影弓と黒弓についても、他方から意見がされてまして。この際公平な勝負で、ぐうの音も出ない判定を出してもらえば、私が今後とっても楽です!」
この年若いマスターにとって一番頭を悩ませるのは、サーヴァント同士の相性と問題が起こった時の仲裁だ。こっちを立てればあっちに角が立ち、あっちを立てればこっちに角が立つ。ーーーいい加減、限界だった。
魔猪狩りだとはっきり結果が出るし、ついでに食糧の備蓄もできる。一石二鳥のナイスなアイデアだと自画自賛している。
というワケで、エミヤ争奪!チキチキ☆魔猪狩りレースの火蓋は切って落とされた。
意外にエントリーする人が多く、レイシフトはギャラリーを含めかなりの大人数になった。悲鳴をあげたのはDr.ロマンで『次は絶対無いから!!』と半泣きで叫んでいた。この人はなんだかんだと言ってもマスターに甘いから、き・ち・ん・と頼めば次もしてくれるに違いない。なんたって、チキンだし。
「さーてやって参りました、魔猪狩りの絶好スポット!それでは、参加選手の紹介を致します!
☆エントリーナンバー1頼れるみんなの兄貴分、イケメンじゃない方のランサー、クー・フーリン・ランサー!
☆エントリーナンバー2ダダ漏れの雄フェロモンは場数の証、泣かせた女は星の数?!フェルグス・マックロイ!
☆エントリーナンバー3女難の相は英霊随一、光り輝く容貌と泣き黒子が罪作りなディルムッド・オディナ!
☆エントリーナンバー4闇に染まった騎士王の胃袋は変わらずブラックホール、アルトリア・ペンドラゴン・オルタ!
☆エントリーナンバー5たまには知的に行きますか?槍なし残念クー・フーリン・キャスター!
☆エントリーナンバー6記憶はなくてもパパはパパ、エミヤは僕の息子だよ、アサシン・エミヤ!
☆エントリーナンバー7バーサーカーになっちゃった、トゲトゲと筋肉ムキムキがすごいよクー・フーリン・オルタ!
以上の7名で開催致します」
マイクを持ったマスターは今日も元気にノリノリだ。ちなみにこのマイク、ダヴィンチちゃんの特製で、スピーカーがなくてもOKという広範囲を移動しなければならない今回の騒ぎにうってつけの仕様になっている。
「制限時間は1時間。より多く狩ってきた人が勝ち。いいですね?後での異議は認めませんよ?それでは、よーい、始め!!」
一斉に魔猪を求めて駆け出す参加者達。最初に仕留めたのはクー・フーリン・オルタだった。
魔猪を見つけたクー・フーリン・オルタは、トゲトゲだらけのゲイボルクを投擲して、まず一頭仕留めた。あっさりと倒しているが、魔猪は手練れ揃いの一個小隊が数人の犠牲を出してやっと倒すくらいの強さはある。サーヴァントと人間の差は計り知れない。
こんなサーヴァント達がカルデアで肉弾戦なんか繰り広げたらどうなるか、火を見るよりも明らかだろう。だからこそ、マスターはこのイベントを催した。……これ以上、壁や床に穴があくのを見たくない。建物の一画が使用不可になるのを、もう見たくないのだ。
それぞれが魔猪狩りに勤しむ中、ディルムッドだけはまだ一頭も仕留められていなかった。ていうか、何で彼は参戦しているんだ?魔猪には途轍もないトラウマがあったはずなのだが。
苦戦しているディルムッドの横に行き、マスターは訊ねた。帰ってきた答えは、大事な友人の赤弓が不憫で、助けになりたかったからだと言う。なんと友誼に厚いことか。他のケルト勢に見習わせたい。
苦戦しているディルムッドを尻目に、他のサーヴァント達は着々と魔猪を仕留めていく。トップはぶっちぎりでクー・フーリン・オルタだが、それに続くランサーとフェルグスもなかなかの善戦ぶりだ。アサシン・エミヤはコツコツと数を重ねている。イマイチ成果が出ていないのはクー・フーリン・キャスターと意外なことにアルトリア・ペンドラゴン・オルタだった。
クー・フーリン・キャスターは『槍がありゃあ、こんな事にはならなかった!』と嘆き、アルトリア・ペンドラゴン・オルタは『何故エクスカリバってから狩ってはならないのだ?木が邪魔だろう。アグラウェインは容認していたぞ』とゴネた。
普通に考えて、森を切り払うのはダメだろう。アルトリア・ペンドラゴン・オルタは木々が邪魔で大振りに剣が振るえず、思った成果が上がっていない。それは、クー・フーリン・キャスターに対するハンデと言っていい。マスターはそこまでは考えていなかったが、結果オーライとひとり自己満足に浸る。
制限時間終了の鐘が鳴り、参加者とギャラリー達は一斉に計数広場に集まった。ちなみに、倒した魔猪の運搬をしてくれていたのは、ライダークラスのサーヴァントの方々で、計数の前にみんなで丁寧にお礼を言った。
それで、計数の結果は。
優勝 クー・フーリン・オルタ
2位 アサシン・エミヤ
3位 クー・フーリン・ランサー
4位 フェルグス・マックロイ
5位 クー・フーリン・キャスター
6位 アルトリア・ペンドラゴン・オルタ
棄権(マスターストップ)ディルムッド・オディナ
となった。
さて、またしても問題である。
「好きなの選んでいいんだよな?オルタのエミヤだ」
優勝者の特権で賞品席から問答無用で掻っ攫い、森の奥に消えたクー・フーリン・オルタ。自分の部屋の中でなら、って言ったはずだが、バーサーカーの彼はとっくに我慢の限界を超えていたか、うん。ダッタラショウガナイネ。
次にアサシン・エミヤが選ぶ番だが、ここで問題が起こった。赤弓か影弓のどちらも選びたいと、アサシン・エミヤが譲らなかったのだ。そしてそれに便乗するアイリスフィールとイリヤスフィール。
「家族は、みんな揃ってこそなのだわ。さっきの彼にも、そうお願いしてきましょう!」
「みんな私の兄弟なんだから、一緒にいないとダメなの!」
「そういう訳だから、全員…」
これにはケルト勢が一斉に異議を唱えた。
「ふざけんな!誰がそんなの認めるか!」
「これは嫁取りの権利を賭けた勝負だ。家族の方は引っ込んでもらおう!」
「つーか、アンタ息子の記憶ないだろ?」
「そもそも、貴様が狩ったのは殆ど私が追い詰めた魔猪を横取りして、トドメを刺しただけではないか!」
そう。アルトリア・オルタが仕留めようとすると、横から必ずアサシン・エミヤの銃弾が飛んできて獲物を横取りされ続けた。それに対してアサシン・エミヤは、『結果が全てさ』と死んだ魚の目で笑うのだ。カンに障ること、この上ない。
ケルト勢の地団駄をさらりと流し、アサシン・エミヤが賞品席に近付いたその時。
「待ってキリツグ!やっぱり、私達は身を引きましょう」
森から引き返してきたアイリスフィールが、さっきと真逆な事を言いだした。
「何を言っているんだ?さっきは…」
「恋人達の邪魔をしてはいけないと思うの。可愛い息子でももう大人なんだから、私達に束縛してはいけないわ。それに、同じカルデアにいるんですもの。会えなくなる訳でもないし、あの子達を親として陰から見守りましょう」
キラキラと輝いている瞳に、森の中で何を見たのかマスターは察した。そういえば、彼女そういうの好きだったなぁと遠い目をする。
どこの家庭でも、妻に弱いのは夫の性だ。アサシン・エミヤは不本意ながらもこの場は引いた。しかし、今後息子達を泣かせた輩には容赦しないと、心に誓う。
「よっしゃああーー!エミヤだエミヤ!赤いエミヤは俺のモンだ!!」
拳を天に振り上げて、勝利宣言をするのはクー・フーリン・ランサー。よっぽど嬉しいのか、ちょっぴり涙ぐんでいる。
賞品席から赤弓を連れて行こうとすると、すぐ横にフェルグスがやってきた。影弓の手を取り、
「では、俺は彼を…」
ーーーうわぁ……。
ギャラリーから、嫌悪と侮蔑を含んだ声が上がった。あんなに赤弓に言い寄ってたのに、結局誰でもいいんだーと害虫でも見る目で冷たく見据えられて、さすがのフェルグスも居心地が悪い。
「あら、もう終わっちゃったの?残念だわ。楽しみにしてたのに」
「貴女が身支度に時間を使い過ぎたからでしょう。諦めなさい」
美女達の登場に、フェルグスのテンションが一気にMAXまで跳ね上がった。即座に移動し、
「そこなご婦人方!俺と一夜を過ごしてもらえまいか!?」
「サイッテーだな、オイ!」
マスターのツッコミもどこ吹く風。フェルグスは美女らに突撃し、ナイチンゲールの手により地に伏した。というか、地面にめり込んだ。もう1人の美女マタ・ハリは『貴方なら歓迎するわ。またいらしてね』と色好い返事を寄越したが、残念ながらフェルグスは地面の中で、彼女の返事は聞こえなかった。
繰り上がりで選択権を得たクー・フーリン・キャスターは、安堵の息を吐いて影弓を抱き締めた。近くにいるのに触れられないという、地獄を味わうところだった。手足の拘束を解いてもらい、影弓もキャスターを抱き返した。
固い結束で結ばれた恋人達の図!なんて麗しのだろう。ギャラリーも微笑ましく仲睦まじい恋人達を見守った。
その様子を見たアルトリア・オルタは、黙って踵を返す。彼女としても、影弓が幸せならばそれで良かったのだ。
やっとゴタゴタが片付いて肩の荷が降りたマスターは、クー・フーリンズとエミヤズを置いてカルデアに帰還することにした。
早く魔猪の処理をして貯蔵の準備をしないといけないし、何より、クー・フーリン ・ランサーと赤弓はもう一悶着ありそうだからだ。せっかくだから、蜜月としてしばらくここでいちゃついていればいい。2人の喧嘩でカルデアも壊されなくて、こちらも万々歳だ。
ちょっと離れた所で諍いの気配を感じたが、何も見えないし、聞こえない。マスターは逃げるようにレイシフトでカルデアに戻った。後のことは、当人達にお任せするさ。
「だ、か、ら!俺はお前が好きなんだって言ってんだろ!!」
「君のような大英雄が、私ごとき卑しい掃除屋にそんなことを言うのは間違っている。珍獣か何かと勘違いしているのだ」
「はぁ?ふざけんなよ!こちとら冬木の聖杯戦争の時からお前一筋なんだぞ!」
「冬木でもナンパ三昧していた君が、何を言っているのか。揶揄うのも大概にしてくれ」
「あれは挨拶みたいなモンだろ!本気じゃねーよ。お前は俺の顔見るだけで逃げ出してやがっただろ!おかげで俺が、どんだけ虚しくなってたと思いやがる」
「あれは、君が近づくなと言ったからだろう」
「そんなこと、俺がいつ言った?記憶にねぇぞ」
「ということは、君にとって私はその程度の存在という証明になるだろう。分ったならば、もう構わないでくれ」
「待て、アーチャー!おい!」
歩き去っていく背中に怒鳴っても、振り向きもしない。ランサーはがっくりと項垂れた。
「あいつが、俺のことを珍獣扱いしてるんだろうがよ。冬木の時から人の話を聞きやしねぇ」
「失礼な。珍獣ではなく、憧れの大英雄だ。おいそれと近づけるわけがないだろう?」
ひょっこり現れたのは、影弓ことシャドウ。ランサーの独り言にわざわざ答えてくれたのだ。
「珍獣みたいなモンだろ。遠巻きに見られても、こっちは嬉しくねーよ」
「わからない男だな。あの男は、自分が君に釣り合わないから、離れた所からしか見れないんだ。確かに、愚鈍で、凡庸で、何も才能を持たないのを努力でどうにか誤魔化してきた男が横に並ぶには、君は眩し過ぎる」
「黙れ。いくらお前がアイツと同一英霊から派生したとしても、それ以上は許さん」
本気の殺気を放つランサーに、シャドウはニヤリと笑った。
「それをあの男に伝えればいいものを。まあ、仕方がない。今回はキャスターに免じて、仲を取り持ってやろう。君はキャスター達と、あの男を攻略する作戦でも練っていたまえ」
ひらひらと手を振って歩き去るシャドウの背中が、光り輝いて見える。思わず拝むように両手を合わせてしまった。
揃っていたキャスター達との車座に座り、今後のアーチャー攻略の作戦を立てることになった。
臨時クー・フーリン会議開催だ。
同じエミヤを攻略した、先人達の意見を聞いてみた。
キャスターはシャドウが自己否定する度に、それを肯定して褒めた。そして肯定出来ない時は、代わりにこんなに素晴らしい所があると褒めちぎった。少しずつ自信をつけさせて、愛されるのは間違っているという考えを変えさせた。
「あいつらは、嘘と世辞には拒否反応を示すからな。元々、褒められるの自体が苦手だ。それを巧く誘導して褒められるのが当然なんだと教えるのが一番骨が折れた」
「それはキャスターだから出来ることだろ。俺だったら途中でキレるわ。なぁ、オルタ。お前はどうやった?」
「……力ずく、だったか」
ーーー参考にならなかった。たとえ筋力差があっても、それはダメだと思う。
お互い思い合ってて踏ん切りがつかない状況なら、やぶさかではないと思う。だが、今の自分とアーチャーの関係だと、性欲処理に使われていると勝手に納得しそうな予感がする。
それは大変よろしくない。アーチャーのことだから、自分が役に立つならと喜んで身体を差し出してきそうだ。
「欲しいのは身体じゃねぇんだよ。アイツの心が欲しい」
「心だけ?お前、本当に俺か?身体を手に入れたらイイぞ〜。マジでエロいからな」
「嫌がっても、最後は受け入れるくらいエロい」
「分ってんじゃねぇか、オルタ。そうなんだよな、口ではイヤイヤしてても、身体はオッケーでイイ具合なんだよなぁ」
いったい何を思い出したのか。脂下がったこの顔は、他のサーヴァントには見せたくない。こんなのと同類扱いされるのはごめんだ。
結局、エミヤ攻略の先人達の意見は『心より先に身体を攻略すべし』だった。……本当にそれでいいのだろうか?
とりあえずクー・フーリン会議は解散し、アーチャーの後を追って森の奥を目指す。
ちょうどその頃、森の奥ではエミヤ会議が開かれていた。
クー・フーリンに攻略された先輩達に、今後の敵の出方と対策を講じる為にアーチャーが頼んで集まってもらった。
「それで、敵はどう仕掛けてくる?それからどう逃げればいいだろうか?」
深刻な顔で詰め寄るアーチャーは、真剣そのもの。何としても、ランサーから逃げ切らなければいけないのだ。
大英雄が己の様な者にかまけていてはいけない。だから距離を置いて、彼の気の迷いを覚まさせなければ。
その決意とは裏腹に、エミヤ・オルタとシャドウは諦めて受け容れることを勧めてきた。
「逃げようとするだけ無駄だ。大人しく捕まっておけ。あの獣共が、獲物をみすみす逃すはずがないだろう?」
「馬鹿か?クー・フーリンから逃げるなんて、幸せを自らドブに捨てる様なものだぞ。精神的にも、離れるなんて無理だ。必ず後悔する」
エミヤ・オルタとシャドウが、アーチャーの悪あがきに呆れた様に言った。
どちらの言葉にも覚えがあるだけに、より深く身を抉る。そこでふと、気がついた。
「ちょっと待て。確か君は、クー・フーリン・オルタから逃げまくっていなかったか?!」
召喚されたての頃、あらゆる手段をもって全力で逃亡していたエミヤ・オルタの姿を思い出し、アーチャーは叫んだ。
「だからこそ、体力の無駄だと言っている。捕まったら、体力が回復する間もないくらい搾り取られるぞ」
腰を押さえながら、エミヤ・オルタは小さく吐き捨てた。遅ればせながら、先程彼が森の奥に連れ込まれていたのを思い出した。
「無駄ってそっちか!身体が辛いだろうに、すまなかった。…気の毒だな」
アーチャーが言うと、黒弓・影弓共に『他人事か?』とつっこまれた。
「バーサーカーのクー・フーリン程ではないにしろ、槍兵のクー・フーリンも相当な獣だろう。覚悟しておけ」
「キャスターでも、体力がついていかないくらいだぞ。ずっとお預けくらっていた槍兵が、穏やかに済ませてくれればいいな」
ニヤつく2人の言葉が、途轍もなく重い。経験者故の説得力が、追い打ちをかける。
アーチャーは顔を両手で覆い、項垂れた。ーーー逃げよう。この醜い身体をランサーに晒すなど、絶対に無理だ。考えただけで、気分が悪くなる。
あぁ、そうだ。今回の召喚は特殊だから、逃げ切れないと思ったら自ら消滅すればいいのだ。あのマスターならばおそらく、また召喚してくれるだろう。よし、それがいい。そうしよう。
「よし!」
気合いを入れて顔をあげたアーチャーの目に飛び込んできたのは、話題の主・クー・フーリン・ランサー。視認した途端、予備動作無しで逃亡した。
「あっ!待てこら!!」
脱兎のごとく駆け出したアーチャーを、反射的に追うランサーはまさに獣の様に敏捷だ。
さっきは逃がしてやったが、今度は確実に捕まえるつもりで徐々に距離を詰める。
とはいえ木々が邪魔で、なかなか上手く追い込めない。さてどうするかと考えていると、突如森が騒ついた。
鳥が飛び立ち、動物達が森の外に向かって逃げていく。異常な光景に、ランサーは辺りを窺った。アーチャーも足を止め、木の上から様子をみている。
バキバキガサガサという騒音と共に現れたのは、巨大な魔猪。一戸建ての家に相当する大きさの魔猪は、何故かとても怒っている。
目を血走らせて、唸り声をあげているその魔猪の視線は、ランサーとアーチャーに釘付けになっている。
何かしたか?首を捻って思い至る。さっきまでやっていた、魔猪狩りのせいだ。
「アーチャー、逃げるぞ!」
この場では、さすがに形勢が悪い。広くなっている森の外に誘き出して、仕留めた方が無難だ。
ランサーの声が聞こえなかったワケでもないだろうに、アーチャーは動かない。
「何してやがる!急げ!」
「ランサー、勝負をしないか?」
「あぁ?今は、それどころじゃねぇだろ!」
バキバキと森の木々をなぎ倒し、巨大な魔猪は近づいて来る。森の中は動物達の鳴き声で阿鼻叫喚の様相だ。会話するにも、声を張り上げないと聞こえない。
パニックの現場にもかかわらず、アーチャーは落ち着いた声で提案してきた。
「あの巨大な魔猪を倒した方が、自分の思い通りにできるというのはどうだ?」
一瞬、ランサーは何を言われたかわからなかった。だが意味を理解して、ニヤリと口角を上げる。
「それでお前は納得出来るんだな?」
「こうでもしないと、君が納得出来ないだろう?」
「いいだろう。その勝負、乗った!」
こうして開催された、巨魔猪狩り大会は、多少のイザコザとアーチャーの小細工はあったものの、ランサーの勝利で幕を閉じた。
戸建て一軒分の魔猪の肉は、魔力を多大に消費するクー・フーリン・オルタの胃袋に大半が入り、みんなで残らず平らげてしまった。
近くにあった温泉も堪能して、予め用意していたねぐらに引きあげた。
それぞれがさっさとねぐらに篭った後のことは、ご想像にお任せする。
ただ、翌日の朝起きてこれた者は誰一人なく、ようやく全員が揃ったのは更に次の日の夜だったとだけ言っておく。
身体中を襲う鈍痛に眉を顰めたエミヤ達の不機嫌を、クー・フーリン達はこの上ない上機嫌で受け止めていたことを考えれば、答えは自ずと、ね。
彼らの様子はカルデアのマスターに隅々まで知られており、後日エミヤを揶揄うネタにされたのは、また別の話である。
終わり