ゆっみ弓にしてあげる☆
友人の本に寄稿したものの再録
戦車男時空での槍弓がコンセプトでアニオタ兄貴×女装癖弓という恐ろしい内容
捏造したランサーのお父さんが出てきますのでご注意を
とにかく頭の悪いお話ですので、カッコいい槍弓をご所望の方は全速力でお逃げください
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息子が興味を持ったのは海の向こうの文化。
大学の友人に教えられたというそれに、息子はとてつもない衝撃と感動を覚えたらしい。
異国の文化に興味を持つ事は大変すばらしいことだ。かねがね世界に通用する人間に育ってほしい。そう思っていただけに、息子の変化は私の歓迎するところだった。
息子はその異国の文化について猛勉強しているらしく、日々部屋に篭っては朝までインターネットを駆使しているようだった。どの国の文化なのかと尋ねたら、日本だと言う。なるほど、また面白い国に興味を持ったものだ。
歴史的にも古く、独自の文化をもった極東の島国。地図の上ではちっぽけなのに、経済の上では無視する事の出来ない先進国だ。良い国に目を付けた。息子はきっと、その日本から世界を学んで行くのだ。
その時はただ純粋にそう思い、心から喜んでいた。が、息子の変化が何か妙だと気付くのに、然程も時間はかからなかった。
ある日、何気に息子の部屋の扉を開いたら、壁一面が極彩色で埋まっていた。
私は瞬間的に扉を閉じた。このごろ仕事が立込んでいたので、目に疲れが来たのかも知れない。私は目頭を揉み解してから、もう一度扉を開けた。やはり極彩色だった。
モノトーンで統一されていたはずの息子の部屋の壁一面が、極彩色を纏った美少女達のポスターで埋め尽くされている。この目前の光景に頭の中で警鐘が鳴り響いた。
そのポスターの美少女達がハリウッド女優やモデルだったなら、きっと何も思わなかっただろう。年頃の男子だし、むしろ微笑ましく思ったはずだ。しかし、そのポスターに描かれているのは、どう見ても二次元と呼ばれる世界の美少女達で、こぼれんばかりの瞳をキラキラさせてこちらに微笑んでいる。
年頃の男子の部屋としては、そのシュールな光景に顔を引きつらせていると、不意に思い出した。そう言えば、日本と言えばアニメと漫画が有名だったなと。
よくよく見ればポスターだけではなかった。
かつて、ダークブルーの寝具でシックにまとめられていたベッドの上は、水着や制服姿の少女が描かれた抱き枕が所狭しと並べられ、黒を基調としたモダンな机には美少女アニメのBDディスクケースが山と積まれている。
ど う し よ う 。
素直にそう思った。こういう時、親としてどう対応するべきなのかと頭を抱えていると、ふと、今は亡き妻の言葉が脳裏をよぎった。〝子供には最高の教育を。そしてそれ以上に個性と自由の尊重を〟と。
彼女は大変聡明な女性だった。息子を産んですぐ病でこの世を去ってしまったが、私はいまだ、彼女を愛し、尊敬している。その彼女がそう言ったのだから間違いはない。これは息子の個性だ。そして個性は尊重し、自由に伸ばしてあげねばならない。
私は息子を黙って見守る事にした。しかし、それが間違いだったとすぐ気付く事になる。
その後、息子は大学にはちゃんと通うものの、休みの日は部屋に朝から晩まで引き篭もるようになった。
一度、心配になってそっと中を覗いて見たら、息子はパソコン画面に向かって一心不乱に腕を振り下ろしながら〝えーりん! えーりん! えーりんりん!!〟という謎の掛け声をかけていた。眩暈がした。
たまに部屋から出てきたと思えば、今まで見たこともないような地味目の友達と朝一にどこかに出かけて行き、夜遅くに満面の笑みで背負ったリュックをパンパンにして帰ってくる。
その姿に一抹の不安を覚え、息子に恐る恐るそのリュックの中身を尋ねたら、『アルティメットまどか限定版1/8スケール』という不可思議な暗号を返された。
程々、私も知識がある方だと自負していたが、アルティメットでまどかで限定版で1/8スケールなんぞ聞いた事もない。
その耳慣れない暗号に血の気が引いた私は、慌ててインターネットで〝アルティメットまどか〟なるものを検索した。理化学系の知らない単語である事を必死で祈っている私に、グーグルが導き出した答えは、魔法少女の最終形態というリリカルなものであった。
ど う し て こ う な っ た 。
まずい。たぶん大変にまずい。
自由とか個性とか、お父さんもうそんなこと言ってられない。
自分で言うのも何だが、我が家は家名だけならそこそこ大きくて、古かったりする。息子はそんな家のたった一人の跡取りなのだ。このまま行けば、由緒正しき我が一族がアニメで滅ぶ。それだけは何としてでも避けねばならない。
そこで私は思いついた。そうだ、息子に身を固めさせよう! と。息子だって健全な男子だ。もしかしたら出会いの場がなくて、今は二次元の少女たちに夢中になっているだけかも知れない。
きっかけが無いなら私が作ってやれば良いのだ。自慢ではないが、我が家は資産だけならほどほどあるし、父親の贔屓目を抜きにしても息子は顔と性格が良い。これだけの優良物件なのだから、ちょっとばかり血筋の良いお嬢さんなら、息子を気に入って我が家に嫁に来てくれるのではないだろうか。
いや、この際血筋なんてどうでもいい。我が一族の家名さえ途絶えなければ、どんなお嬢さんだって構わない。
我が一族は、名前だけは神代から続いているかなり古い一族なので、何があっても息子の代で終わらせる訳には行かない。何よりも、死んだ妻に言い訳がたたないのだ。
身を固めさえすれば、息子の目も現実に向くかもしれない。
そう思い、嬉々として縁談を持ち掛けた私に対する息子の答えは、『あずにゃんと結婚するからオレ無理』だった。
あずにゃんって何だあずにゃんて……。
もしかしたらあずにゃんとは日本の実在するアイドルとかかも知れない。この際、二次元でなければ何でも良い! そんな希望的観測を持ちながら恐る恐るグーグルであずにゃんを検索してみたら、画面にはネコ耳を着けたツインテールの二次元制服美少女が、フェンダームスタングをかっ飛ばしている絵が並んでいた。
ワ シ ど こ で 育 て 方 間 違 え た !
オワタ。完全にオワタ。
二次元とは結婚できないし、そもそもお前、家はどうするんだとか、死んだ妻に何て言えばいいのかとか、その前に先祖にどう言い訳しようとか、そんな事をぐるぐる考えながら頭を抱えてウンウン唸っていると、親の気も知らない息子がひょっこりやってきて爆弾投下した。
「オレ、ちょっと明日から日本に留学して来るわ」
コンビニ行って来る的な軽いノリだが、ちょっと待て。行き先は日本。息子が毒された悪の元凶の国だ。
「待て待て待て待てちょっと待て。明日からってお父さんそんな事聞いてないよ!? ってか、オマエ大学はどーすんの!?」
「交換留学制度使うから問題ない。それに急がねえと夏が来る」
「何で夏が来るから急ぐの!?」
「コミケっつー聖地ビッグサイトの巡礼期間が来るんだ。灼熱地獄の中、他の信者を蹴散らして企業スペースにお布施に行かねえとならねぇ。それに今夏は東京にミクが降臨すんだよ」
灼熱地獄の中、お布施をしに他の信者を蹴散らすって……コミケって一体どんな恐ろしい宗教なんだ……、ってか、オマエいつ他宗教に改宗したの!? お父さん聞いてないよ!? それに東京にミク光臨って……。
「ミ……ミクと言うのはそのコミケというものの教祖か何かかね」
顔を青くさせながらそう尋ねる私に、息子は思いを馳せる様な、恍惚とした表情で答えた。
「神だよ神。初音ミクは神に決まってんだろ。ちょー女神。それが東京に光臨するんだぜ。ミクパだよミクパ。オレ、ミクに会うためにオタ芸練習しまくったんだぜ」
青ネギ持って行けるかな? などと言う息子の声は、既に私の耳に入らなかった。息子は二次元の世界に毒されていただけでなく、おかしな宗教にも傾倒していたらしい。
どうしようなどと考えている場合ではない。息子が足を踏み外す前に止めねば! 私は死んだ妻に息子を立派に育ててみせると誓ったのだ。もう家の存続とか嫁とか孫とかどうでもいい! コイツをまっとうな人間に戻さねば……!
「ちょ……チョップスティックが使えないヤツは日本に入国させて貰えないんだぞ」
もちろん嘘だ。何としてでも息子の日本行きを思い留まらせたい。
そんな思いで、ここ数日で調べ上げた日本に関するなけなしの知識で私は応戦した。嘘とは言え、生活に関する文化の違いが息子に考えを改めさせるかも知れない。そんな淡い期待は、息子の次の一言で打ち砕かれた。
「大丈夫。オレ、サイリュウム両手指全部に挟んで振れるから」
チョップスティックが使えなくてもサイリュウムが振れれば良いとか知らなかったよお父さん!
サイリュウムってコンサートなんかで振る蛍光塗料入りの棒だよな? アレを振れれば日本に行けるのか? そんなんでいいのか日本!? 何かおかしくないか日本!?
そんなことをぐるぐる考えていたら、いつの間にか私は卒倒していたらしく、気付いた時には息子は既に日本へと旅立った後だった。
「ランサー!!! 戻って来なさーーーーい!!!!!」
イギリスの澱んだ曇り空に、私の涙声だけが虚しく木霊した。