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理想のからだの話/Novel by ありのつめ

理想のからだの話

2,277 character(s)4 mins

エロもなければカップリングもない士郎とアーチャーの日常。
聖杯戦争後、大方の登場人物が冬木の日常を暮してるふわふわ時空。
書いてる人間が腐っているので士弓や弓士の香りはするかもしれない。

※9/26 誤字直しました。

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 あいつ、何を食べたらあんなに大きくなるんだろう。

 いつもの鍛錬をしに土蔵へ入れば、藤ねえが置いていったがらくたが設えた棚の上部にまで整然と置かれていた。そう、今まで埃をかぶっていた一番上の棚まで。
 本当にどうしようもない物は出入り口に近いところにまとめられていて、廃品回収の日を待っている。
 一応はひとの工房だからか、未来の理想は土蔵の整理整頓の際にオレに断りを入れてから取り掛かった。
 みるみる内に片付いていく土蔵兼工房。分類も優先順位も、思考をトレースされたように置かれている。季節ものなどは上部へ、修理の必要なものは下部へ。
 今までは脚立が必要だからと軽い物しか上げられなかった棚を見上げて、その長身に感心したのか悔しさを覚えたのか。自分でも判然としない。
 なんたって自動販売機と同じくらいなのだ。今からそんなに伸びるのか我が事ながら不思議でしょうがない。しかして憧れなくもない。
 本人に漏れれば鍛え方が足りんだの何だのと小言が飛んでくること請け合いである。
 少々落ち着かないままではあったが、日課の鍛錬をこなす。神経へ痛みを伴って響く魔力が、赤い丘の剣戟を思い出させた。

 そんな昨晩のことを思い出しながら、下校中の足は生活必需品の買い出しにドラッグストアへ向かっていた。
 時たま断片的に語られるアーチャーの助言のような小言をまとめてみれば、遠坂に自殺未遂的な鍛錬を正されてから身長も魔術も伸びたらしい。未熟なのは重々承知だが、言うに事欠いて自殺未遂って。確かに失敗した時の痛みは尋常じゃないと思ってはいた。遠坂には感謝してもし足りない位だ。
 ともあれ、身長の件はそれで希望は持てた。あとは筋肉だ。マッスル。白筋赤筋。
 身近なサーヴァントでいえばランサーか。あの瞬発力は羨ましい限りだ。それでいて伝承通りのスキルで仕切り直しだなんだと長期戦も得意なんだから、流石は光の御子、細マッチョ。
 あんな英雄と渡り合うために鍛えに鍛えたアーチャーの筋肉は正直、実用性といい付き方といい格好いいと思う。言わないけど。ただあれで筋力Dは俺も泣きたい。
 
 お目当てだった特売の風呂用洗剤とゴミ袋を発見。棚を一つ移動して、ストアオリジナルブランドの安いシャンプーもかごに放り込んだ。女子たちのきらびやかな物と違って、清潔を保てればそれでいい男性陣用だ。
 最後に大物のトイレットペーパーを手に、さて会計を、とレジへ向かう途中。ふと目に入ったもの。
 それは健康食品コーナーの一角、プロテイン各種の内のひとつだった。某有名スポーツクラブの名を冠した大袋売りのそれ。の、隣の細身の缶。
 普段値引きのないそれが、商品入れ替えのため、と30パーセント引きの値札を貼られていた。
「……。たんぱく質って体づくりに必要なんだよな」

 収穫品を納戸に収めて居間に戻る。どんと置かれたバニラ味の缶は、キッチンの作業台の上で存在を主張していた。
 思わず購入してきてしまったが、冷静に考えれば補助食品に頼らずとも献立を見直せば安く済んだのでは、と若干の後悔がよぎる。鶏のささ身とか高たんぱく低カロリーっていうよな。いや低カロリーはまずい。桜には悪いが増やしたいんだ俺は。
 買ってきたからには無駄にはすまいと、味見がてら蓋を開けた。
 一成の手伝いもバイトもなく、早く帰れたからこその買い出しだった。遠坂はアーチャーとセイバーを連れて屋敷に帰っていて、夕飯まで戻らない。桜も藤ねえも部活のミーティングで遅くなると聞いていた。
 よし、とシェイカーに粉末と水を入れてよく振る。十回ほどで少しドロリとしたミルク色の液体が出来上がった。ちょっと待てよこの粘度、こんぶ茶に似て……考えないことにしよう。思い切って喉に流し込んだ。

「おい」
「……っんぐ!? ゲホッ」
 むせた。思い切り。そしてこの声は。
「な、なんだよアーチャー早かったな」
 口元をぬぐいつつ振りむけば、見慣れた仏頂面が立っていた。
「セイバーが牛タンシチューが食べたいというのでな、凛も出資するとのことで下準備に帰って来たのだが」
 肉屋の袋を下げた男の視線はキッチン台の上に注がれていた。
「涙ぐましい努力だな。結構なことだ」
 鼻で笑いやがった。いつものことだが発言と身体表現のミスマッチをどうにかしてほしい。
「そんなものに頼らずとも問題はない。それに無理やりつけたバニラ風味など食感の前には無意味だ」
 嫌いなものを目の前にしたような顔でエプロンを着けだしたアーチャーから、やけに具体的なアドバイスがきた。まるで。

「……ってことはお前だって飲んだことあるんじゃないか!」
「っち、そこに置いてあるのを見て思い出しただけだ。選ぶ味まで同じとは本当に救いがたい奴だな貴様は」
「たまたま値引いてたから試してみただけだよ悪いか」
「悪いとは言わんが、それで懲りただろう。あまり余計な出費を重ねるなよ」
 俺を押しのけて棚から圧力鍋を取り出した未来の可能性は、例の缶を投げて寄越した。

「わかってるよ。……それで、お前はこれどうしたんだ?」
 唯一の苦手なものと酷似した舌触りのそれは、再び口にするにはためらいを生んでいた。
 玉ねぎを刻みだした男はしばし空中を見つめた後、定かではないが、と前置きをして。

「一成に譲った気がする」
 と答えた。

 理想の筋肉のための缶は、翌日から約18食分、肉料理と共に生徒会室のお茶セットに添えられることと相成ったのだった。

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