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温度感覚等す/Novel by yosihito

温度感覚等す

1,325 character(s)2 mins

ロンドンで暮らす士弓主従の小話です。
Twitterで流したものに若干の修正を加えたものです。
当社比甘め。
お互いに相手に無意識マウントする士弓は可愛いですよね。

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「悪い、待たせた!」
荷物を揺らしながら慌てて駆け寄る俺を一暼すると、アーチャーはベンチから立ち上がった。
読んでいた文庫本をコートのポケットにしまう。
その場で俺が近づくのを待つと、すっと手のひらを差し出した。
「……?あ、ああ」
一瞬考え、荷物を受け取ろうとしてくれているのに気づくと、手に下げたエコバッグの一つを差し出した。
と、受け取ろうとしないまま、こちらを無言で見るアーチャーに首をかしげる。
「あれ?違ったか?」
「違わん。そっちも寄越せと言っている」
「……言ってないじゃん」
「それぐらい察しろ。いいから、さっさと寄越せ」
舌打ちして続けられる言葉に一瞬むっとしかけて『いや待て俺。こいつのこれは100パー善意だ。わかり辛いだけだ』と自身に言い聞かせて苛立ちを抑え込む。
さらに、
「いや、こっちは軽いから俺が持つよ。気遣ってくれてありがとうな、アーチャー」
にこりと笑って返せば、今度は逆に相手の方が、んぐ、と固まった。
が、すぐにもぎ取るように荷物を奪うと、くるりと踵を返して歩き出した。
「ならいい」
とぶっきらぼうに投げ捨てる声が、少し上擦って聞こえるのはきっと気のせいじゃないだろう。
早足で先を行く男を、緩む顔をそのままに小走りで追いかける。
そして、荷物を分け合って空いた方の手をぎゅっと掴んでやった。
すぐに振り払われるだろうという予想は外れ、アーチャーはちらりと目線を寄越しただけで、そのまま手を握るに任せてくれるようだ。
それに密かにほっとして握る力を強める。
「ーー冷たい。結構待たせたみたいで悪かったな」
俺の言葉に小さく鼻を鳴らすと、アーチャーも強く握り返してくる。
「いいさ。お前がこうして温めてくれるんだろう」
「!」
がばりと顔を上げれば、してやったりと口の端を上げている男の横顔がそこにあった。
「な、お、お前……!」
徐々に熱くなっていく頬は傍目にも真っ赤になっているだろう。
思いがけない相棒の不意打ちに続く言葉が出て来ない。
「なんだ?」
こちらを見やるアーチャーは余裕のある澄ました顔をしていて、俺は奴との経験の差を実感する。
なんの経験かって?
人をたらし込むとか、赤面させるとかのそれ、そういう類のスキルだ。
悔しいけれど、こればっかりは一朝一夕に身につくものでもないし、そもそもどうやって磨けば良いのかさえ見当もつかない。
それでも、ことこいつに対してだけなら、少しだけ俺にも一矢報いるチャンスがあった。
「アーチャー」
繋いでいた手を強く引けば、咄嗟の挙動に一瞬だが奴の体が傾ぐ。
ぶつかりそうになる体へ、構わずこちらも身を寄せる。顔も。
そして、丸くなっているその目を見ながら、手同様冷たくなっている唇に自分のそれをそっと触れさせた。
「!!」
すぐに少し離して囁く。
「ここも冷たい。……こっちも温めていいか?」
先ほどの余裕はどこへやら、赤面して狼狽えながら男はそっと目を逸らす。
「聞くな、馬鹿が」
小さく吐き捨てるのを諾と受け取ると、今度は熱を移すためにゆっくりとくちづけた。
繋いだままの手は、そして触れ合わせる唇も、いつのまにか二人とも同じ温度になっていた。

END

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