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変身アプリ/Novel by 芦名凱子

変身アプリ

8,064 character(s)16 mins

久しぶりにお題箱からです。半年以上前に頂いたにも関わらず時間がかかってしまい申し訳ないです……。

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「何だこれ?」
大学の自習スペース。健児は授業の空き時間を利用し、だらだらと課題をやっている所だった。そんな中、彼のスマホに一件の通知が届く。
不思議そうな顔で見つめる彼の目には『変身』とシンプルな字体で書かれた見知らぬアプリが映っていた。
こんなの入れたっけ、と思いながら試しにタップしてみる。すると動物のイラストが描かれたアイコンがいくつも表示される。猫や犬だけでなく、蛇やクモまでバリエーションは相当あるようだ。適当なアイコンをタップすると、今度はカメラ機能の接続を求める画面に移動する。どうやらカメラを活用するアプリらしい。

健児は辺りを見回す。どうせなら自分ではなく、適当な誰かの写真を撮ってやろうと思ったのだ。ちょうど大学は昼休みになり、学生たちがぞろぞろと動き出す。
「あの子、写りよさそうだな……」
健児が目を付けたのは一人の女子大生。
元々趣味でカメラを触っている事もあって、健児は写真映えなどにこだわってしまうタイプだ。
本人や周りの学生に気づかれないようにレンズを向け、シャッターを切る。

パシャリ

スマホからシャッター音と共に、女子大生の移った画像が表示される。
一見普通の写真と変わりないが、唯一の違いとして左上にダチョウのアイコンが表示されていた。アプリ独自の仕様であるらしい。
「なんだこれ?」
よく意味の分からないまま健児は画像をじっと見る。
その時だった。

「きゃあっ!?」
カメラを向けた方向から悲鳴が上がる。見ると、丁度今写真を撮った女子大生が体をわなわな震わせて、その場に座り込んでいた。
「何だ!?」
「大丈夫ですか?」
周りの人も悲鳴を聞いて彼女の周囲に集まってくる。
だが、異変はそれからだった。
「いやあああああ!!!!!」
女子大生が再び悲鳴を上げる。同時に彼女の体からメキメキと、何かが蠢くような音が響く。
と同時に長ズボンのお尻の部分が勢いよく破れて、何かが飛び出した。
「「「うわぁ!!?」」」
目の前で起こった異様な光景を見せられ、人々は驚きの声を上げずにはいられなかった。
女子大生のお尻から飛び出たのは、茶色い羽毛だった。
「へぇ!?」
健児もまた、信じがたい事態に困惑し声が思わず裏返る。カメラで撮るために構えていたスマホも無意識に下ろしていた。
当の女子大生は自分の体の異常に怯えながらも、丸見えになってしまった下半身を恥じらい、咄嗟に隠そうとする。
だが既に、その下半身は羽毛に飲み込まれていた。
彼女の皮膚を覆っているだけだった羽毛が体積を増していく。やがてそれはバレリーナのチュチュのように彼女を包み込む。
「いやいやいやぁっ!!!」
あまりの出来事にパニックになったのか、彼女はじたばたと暴れ走り出そうとする。しかしバランスを崩してすぐに転倒してしまった。
「うぅ……」
何とか起き上がろうとするが、体はそれを許さなかった。
「あぁっ!」
体中を電流が駆け巡り、女子大生の体が大きくのけぞる。
再びメキメキと音が体中から鳴り、異変が次の段階へ突入した事を告げる。音の出どころは彼女の上半身だった。
女子大生のお腹から胸までが粘土のように柔らかくなる。かと思うと、何か見えない強い力によって圧縮されていくかのように、胴体が短くなっていく。骨や筋肉の組み合わせが変わり、全体的に丸っぽくなる。
胸の膨らみも、腰の曲線も、陥没した臍も、変化していく胴体の中に取り込まれていき、見えなくなった。
いつの間にか羽毛は首の辺りまで包み込んでいた。

「や…いやぁ……」
女子大生の声がか細くなり始めた。突如襲い掛かった変身への恐怖と相まって、まともに声を出す事も難しくなっているようだ。
一方で身体の変化はそれを無視して進んでいく。
ゴキゴキ メキメキ
骨が歪む音がより一層強く響く。首が伸びていくのだ。しかも数センチとかそういう次元ではない。ろくろ首のように細長く伸びて、明らかに人間としてはありえない長さにまで伸びていく。
「これは……ダチョウ……?」
健児は震えながらも、冷静に何が起きているのかを何故か理解できていた。
女子大生、といってもほとんどその面影を残していないソレは、健児の言葉通りダチョウと呼ぶべき形となっていた。
「ぁ……うあぁ……やぁ……」
女子大生の目には涙が浮かぶ。だが一方で瞳が光を失いほとんど黒目のみとなった事で、目から感情が読み取れなくなってくる。
女子大生は抵抗するように体をジタバタと動かす。羽と化した両腕を振り回し、すっかり小さくなってしまった顔を激しく横に振り、拒絶の意を示そうとする。
だが彼女の抵抗も徐々に弱まっていく。彼女の人間としての色が薄まっていく。
激しかった動きが段々と弱まり、落ち着きを見せ始める。自分がダチョウとなった事を完全に受け入れてしまったようだった。

異常は女子大生だけでは無い。

「あれ?俺たち何してたんだっけ?」
「ヤバッ!授業遅刻なんだけど!!」
つい先ほどまで女子大生の異常を呆然として見ていた周りの人達が、まるで何も起きていなかったかのようにその場を離れ始める。大学の構内にダチョウがいるという特殊すぎる状態にも関わらず、誰一人としてそれを指摘する者はいない。
「何だ?何が起きてる?」
健児は訳も分からず、その場に立ち尽くす。妖しく光るスマホの画面に気づく暇もなく、健児だけが女子大生を見ていた。

女子大生はもはや微動だにしなくなっていた。
ただじっと何もせず、周りの人々がいなくなっていくのを見ている。
気づけば野次馬は完全にいなくなり、健児とダチョウに姿を変えた女子大生だけがその空間に残されていた。

「……あの、大丈夫…ですか?」
どうすれば良いのか分からず、健児はとりあえず声をかけた。
女子大生だったダチョウはただ無言で健児を見つめる。言葉が通じないのだろうか?
おまけに自分がここにいる理由も分かっていない様子だ。自分が人間だった事なんてすっかり忘れてしまって、産まれた時からダチョウだったと思い込んでいるように見える。
唖然とする健児に見向きもせず、ダチョウは出口に向かって歩き出す。追いかけようかとも思ったが、意外と素早いダチョウは一瞬で健児を置いてけぼりにしてしまった。
ただっ広い大学のホールには、健児と女子大生の衣服だけが残されていた。
「何が…起きたんだよ……」
目の前で起きた事をかみ砕けないまま、健児は一人立ち尽くしたのであった。

Comments

  • ハム先生
    May 28, 2025
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