4:デッドエンドの反省会!






「この流れで死ぬのおかしくないか……!?」



 イヌイ・リョウマはうめきながら起きた。場所はやはり自宅のベッドの上、時刻は朝八時、腹が立つぐらいの快晴なのが約束されている日付。

 四月上旬の朝である。あの衝撃的なホシノ・ミツキの襲来から、一週間の月日が経っていた。


 あれから一週間、予想に反してミツキは学校では接触してこなかった。あの押しの強い性格だと、昼休みに彼女っぽい雰囲気で現れるぐらいはやってきそうなものだったが――チャットアプリで話すぐらいで、思いのほか奥ゆかしいアプローチを取ってきていた。


 念のために実在する生徒なのか、それとなくリョウマも探ってみたが――とりあえず在籍はしているらしいと確認は取れた。

 ホシノ・ミツキは超能力者を自称しており、少なくとも人の心を読み取れるらしく、人の心を操る術も持っているらしい。


 反則である。

 こんな相手が嘘をついていたとしても、念入りに偽装工作をされたら、リョウマには判別する術がない。


 人の精神を操る超能力なんて眉唾だが、実在したらこれほど恐ろしいものはあるまい――誰かの記憶も証言も捏造し放題になるから、周囲の人間の発言がまるで信用ならないのだ。

 とはいえ学校で遠目にその姿を見かけたので、ひとまず、ミツキの実在問題については置いておく。



――仮にホシノ・ミツキが、誰かの身分を乗っ取って在籍してた場合はお手上げだしな。



 閑話休題。

 先ほど見た嫌になるほど鮮明な悪夢――何が起きたのかは詳しく覚えていない。

 ひとつわかっているのは、なんやかんやあった末に何故か、幼馴染みの手で自分の首が刎ねられたという結末だけである。


 びっくりするぐらい死の恐怖だの激痛だののフィードバックはない。強い刺激があったことはわかるのだが――けろっと都合よく、今のリョウマはそれを覚えていなかった。

 幸か不幸か、自分は思いのほか図太いようだ。



――これってあれだよな、ループものでよくあるやつ。死ぬと時間が戻ってるタイプの展開だ。



 こうなってくるとイヌイ・リョウマも現実を認めなければならない。

 死んだら記憶にある日付の朝に時間が戻っている――これはそう、いわゆる死に戻りとか、タイムリープと呼ばれるやつではないだろうか。


 意識だけが同じ時間を繰り返し、時を前に進めるため主人公が悪戦苦闘する。SFの定番ネタである。リョウマ自身、洋画でも邦画でもアニメでも、何本か似たような筋書きのを観た覚えがあった。



――マジか……くそっ、もっと真面目にループもの観ておけばよかったな……!



 よく考えなくてもフィクションの中の出来事である。それが実際の超自然現象を相手に役立つかは疑問だったが、そう思わないとやっていられなかった。



「くそっ、意味わからねぇ……俺の首が飛んでるのも、ベルカの手から触手が出てたのも……」



 いや、これはひょっとしなくても質の悪い悪夢を見ただけなのでは、と気づく。唐突で不条理な展開は悪夢の定番だし、生憎、自分のメンタルは完全な健康体だと主張するには不安があった。


 何せ多感な思春期、しかも一年前には家族が一度に亡くなるという惨事を経験した身の上である。

 高校進学によって状況が激変したことと相まって、情緒不安定になってしまった――というのも十分、考えられる。



――ファンタジーだと思ったら全部、主人公の幻覚だった映画みたいだな。



 すごい、思いのほかベルカが紹介した映画の知識が役立っている。あいつのこじらせた映画趣味も実益に叶うことがあるらしい。

 リョウマは深呼吸した。


 半分ぐらいは本気で、もう半分は気分を落ち着けるための現実逃避だった。

 携帯端末の画面を見る。日付はやはり、約束がある週末のものだった。薄く白っぽい桜の花弁――ソメイヨシノはもう散ってしまったけれど、分厚く濃い桃色の八重桜はまだまだ観られる時期である。


 今日、リョウマはお花見をすることになっていた。

 発案者はベルカ・テンレン――件の幼馴染みであり、参加者はリョウマとミツキ、そしてベルカである。


 お花見の提案にはミツキもよろこんでいた。曰く「いいですね!」と前向きな感じの返信。リョウマの女友達もやってくると追記されると、「いいですよ」と淡々と返信してきたのが印象深い。

 イヌイ・リョウマにだってわかる。

 すでに緊張感のある間合いになっていることぐらいは。




――つまりベルカのやつは、俺の彼女面することでミツキを追い払う気なんだろうな。




 よく考えるとこの時点で、リョウマも中々、面の皮が厚い振る舞いをしている気がする。

 少なくとも自分に告白してきた女の子にする仕打ちとしては、到底、褒められたものではない。平常時であればリョウマもそのように思考し、ベルカの提案を呑むことはなかっただろう。


 告白を受けるにせよ、断るにせよ、それは本来――リョウマとミツキの間で決着すべき事柄なのだ。

 しかし少年にはそれを選べない理由があった。



「洗脳と読心だもんな……」



 何でもいいが恋愛の話で出てきていい概念ではない。

 そしてふと気づく。自分はまだ一度も、これらの懸念事項についてベルカに話していない。



「ヤバいな。ベルカが洗脳されるんじゃないか、これ」



 嫌な汗が出てきた。

 しかし今さらである。すでに花見の予定はミツキもベルカも知っていて、それを前提に予定は組まれている。

 リョウマの一存で引き返せる場面は、とっくの昔にすぎていた。


 そして何よりあの悪夢、未来予知、あるいは前の周回のループ――非現実的なニュアンスのつきまとう血まみれの景色が、脳裏をよぎってしまう。

 何故か幼馴染みに斬首される末路は、理由も経緯も不明なままだった。




――解決してないし謎が増えてる!




 イヌイ・リョウマ一五歳の春は、よくわからないが死の危険に満ちていた。






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