「オタクはつまんない」39歳が、気づいたらVチューバー沼にはまって…推し活で知ったその“魔力”、何が人をここまで突き動かすのか #推し活大国ニッポン②

Vチューバー「大神ミオ」のファン自作のネックレス=2025年9月10日、横浜市西区

 千葉県で家族と暮らす「しかたなん」(39)さんは、電気工事店で勤務している。勤続約20年のベテランだ。勤務先は10人ほどの小所帯で、みんなで飲みに行き、冬は一緒にスノーボードに行く仲という。
 「職場の仲間は友だちみたいな感じ」
 数年前まで「推し活」歴はない。それどころか、こう思っていた。
 「アイドルとかオタクってつまんない。グッズをたくさん買うなんて何考えてんの?握手会のためにCD何枚も買ってどうすんの?」
 ところが、今やVチューバー「大神ミオ」を熱烈に応援している。イベントがあれば「応援広告」やフラワースタンドを出すほどの推し活ぶり。
「なんでか分からないけれど、いつの間にか大好きになった、気づいたら沼にはまっていた」
 2Dや3Dのキャラクターモデルで動画やライブ配信をする「Vチューバー」。2016年に誕生した「KizunaAI(キズナアイ)」から始まり、今や1000億円を上回る市場規模にまで成長している。
 支えているのは、しかたなんさんのようなファンによる「推し活」の熱量だ。何が人をここまで突き動かすのか。(共同通信=宮毛篤史)

Vチューバー「大神ミオ」ファンの「しかたなん」さん=2025年9月10日、横浜市西区

 ▽コロナ禍で巣ごもり
 きっかけは新型コロナウイルス禍まっただ中の2022年。仕事は通常通り続いていたが、検温や手の消毒といった感染対策の徹底を求められ、同僚以外の人間と接する機会は職業柄限られた。
 プライベートでは不要不急の外出が控えられ、「店も開いていなくて、『酒飲みに行こうよ』みたいなのがなくなった」。
 必然的に自宅で過ごす時間が増える。パソコンで見ていたユーチューブの画面上におすすめ映像としてVチューバーがたびたび登場するようになった。
 当時、Vチューバーの中心は、撮影・編集した動画を投稿していた初期の「動画勢」から、ライブ配信でファンと密接な関係を築く「配信勢」に移っていた。
 ゲームの実況や雑談を通じ、視聴者と交流する。巣ごもり需要の高まりが追い風となってオンラインで金銭を送ってもらう「投げ銭」もこの頃広がり、「1億円プレーヤー」も生まれた。
 しかたなんさんが面白いと思ったのも配信勢。
 「アニメって誰かが考えていて、言ってしまえば全てシナリオ。楽しめるんですけど、僕は『すごく頑張っている』とかっていうのが多分好き。筋書きのないものが好きで、アイドルの成長と似ている部分だと思う」
 アイドルとの違いは何か。
「アイドルだと髪を切ったとか伸ばしているとか、内面じゃないところにもリソースを割かなきゃいけない。Vチューバーの場合、安定した外見を持っていることで内面の魅力を出せる。生で5時間、6時間配信すると演技しきれない。かなり素に近いものが出ると思うんですよ。振る舞いを超える本質が見えるのが魅力です」

Vチューバー「大神ミオ」初の単独ライブに集まったファン=2025年9月10日、横浜市西区

 ▽成長する配信者、さらに増す魅力
 最も推している大神ミオは、ケモノ耳が生えた黒髪のオオカミキャラで、愛称は「ミオしゃ」だ。
 しかたなんさんは最初に見た時の印象をよく覚えている。
 「人狼ゲームか何かで後輩のVチューバーさんからいじられてて。不憫な後輩キャラだと思ったらその逆で、なんか頑張ってるなぁっていうので気になった」。ゲーム実況をメインに配信していたが、有名曲を「歌ってみた」企画に挑戦したり、オリジナル曲をリリースしたりと、単独ライブの開催を目標に活動してきた。
 いつのまにか、アイドルオタクや推し活をする人に対する考えは180度変わっていた。
「自分が理解していないだけで、その人にとっては価値があるということが分かった」
 配信で成長する過程を見守り、応援することでさらに魅力が増すように感じる。
 「活動者が成長し続けるから底上げがされる。何でか分かんないけどいつの間にか大好きになった、気づいたら沼にはまったっていう人はたくさんいると思う」

Vチューバー「大神ミオ」初の単独ライブにファンが贈ったフラワースタンド=2025年9月10日、横浜市西区

 ▽オフ会と応援広告
 もともとは人見知りだったという。だから「オフ会って憧れるけど、自分には無理だろうな」。
 それをSNSでつぶやいた。すると…
 「じゃあ実際にオフで会ってみましょう」と誘ってくれる人が現れ、仲間の輪が各地に広がっていった。自宅近くで開かれたオフ会には、青森県から車で遠征してきてくれた人もいて、得意料理のラーメンを振る舞った。
 しかたなんさんの推し活はどんどん広がっていく。
 ライブ会場近くの駅にオリジナルのポスターを掲出する応援広告や会場に提供するフラワースタンドを企画し、クラウドファンディングで賛同者を募った。「応援広告自体は推しに向けた行為なんですけど、じゃあそれを本当に見る人は誰なのかといったらファン。喜んでくれる仲間のためっていうのがやっぱり大きい」
 仲間から大事なお金を預かる以上、責任を持って最後までやり遂げなければならない。資金が集まらなかったり、予算の見積もりが甘かったりして自腹を切るケースもある。駅に掲示した応援広告には、約260人が手を挙げてくれた。責任感からプレッシャーも感じていた。

Vチューバー「大神ミオ」初の単独ライブ前に集まったファン=2025年9月10日、横浜市西区

▽2次創作でファンが交流
 2025年9月の大神ミオのライブ前。しかたなんさんらは、広場で複数のファンコミュニティの集会を開催した。
「今日は楽しみましょう」と、ステッカーやポストカードなどの自作グッズを手渡すと、「かわいー」「ありがとうございます」と言い、深々とおじきをするファンの姿があった。炎天下でグッズを無償配布する人を支援するため、ペットボトルのお茶を差し入れる人もいた。
 自作グッズは、いわゆる2次創作になるが、Vチューバー事務所の「ホロライブプロダクション」を運営するカバー社は、ガイドラインでこう説明している。
 「二次創作とは、当社のコンテンツに依拠しつつも、皆様の創意工夫・アイデアによって生み出される創作活動であると考えます。ガイドラインを遵守しているものであれば、当社より権利行使をすることはございません」
 私が取材していると、ファンの一人がホロライブ所属のVチューバーが描かれた缶ジュースをくれた。「なぜボランティアでやっているんですか?」と聞くと、笑顔でこう答えた。
 「なんとなくっす。趣味なんで」
 会場を歩いているとあちこちで声をかけられ、SNSのアカウント名が入った名刺をもらった。記念撮影では推しの法被やTシャツなどを身にまとった約600人が参加。「おめでとう!!」と書かれた垂れ幕を笑顔で揺らしていた。

Vチューバー「大神ミオ」初の単独ライブ前に集まる大勢のファン=2025年9月10日、横浜市西区(画像を一部加工しています)

 ▽ペンライトを頭上で振り、推しにアピール
 しかたなんさんはライブ直前に体調が悪化していた。後で聞いたら、頭がくらくらして大きな声を出せず、最初と最後の曲以外は座っていたが、2時間のライブを通しで観られたという。
 入り口近くにはファンが送ったフラワースタンドがずらっと並び、しかたなんさんが企画した作品もあった。ステージ上の大型モニターに映し出された大神ミオは、その空間に浮かび上がっているかのような立体感のある姿を見せてステージ上を動き回った。「この景色を見せてくれてありがとう!」。感謝の言葉を投げかけると、ファンたちは「こっちこそ感謝だよー」などと応じ、自分たちの存在をアピールするように両手に握ったペンライトを力強く振っていた。
 ライブ終了後には、近くの中華料理店で100人規模のオフ会が開かれた。しかたなんさんが登場すると、会場のあちこちから「おーっ」と歓声が上がった。
 仲間と出会う機会をくれた推し活には感謝している。「たくさんの仲間に出会わせてくれた、楽しい思いをさせてくれている、今までの人生の中で一番ハマっている趣味という感じですね」
 取材の最後に、しかたなんさんに「推しとはどういう存在ですか」と尋ねた。
 「それ、すごく難しいですね。一言で言うと、世界で一番幸せになってほしい他人だと思ってます」
 「他人」と言うと冷たい印象を受けるかもしれないが、「いくら知った気になっても他人だということを忘れてはいけない」という自戒を込めたストイックな言葉だ。
 「その子が幸せだと、それだけで自分も楽しい気持ちとか幸せになれる存在かなって。見返りを求めず、唯一愛を向けていい他人みたいな感じです」

【前編】→奇跡のような大バズリ 世界初のVチューバー「キズナアイ」は喫茶室ルノアールで生まれた …大学の同級生2人が確信していた「推される」理由 #推し活大国ニッポン① 
https://news.jp/i/1401093493555954155?c=39546741839462401

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