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鯛のしっぽは見た/Novel by ありのつめ

鯛のしっぽは見た

1,274 character(s)2 mins

べったーからお引っ越し。
和菓子を食べに行ったときにお茶を味わいながら小話を打ちました。とても美味しかったです。鯛がなかったのでチンアナゴにて失礼します

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「おーい、お茶はいったぞ」
 イワシ曇の日暮れ前を背景に、さわさわと庭木が揺れていた。晩夏も過ぎた空気をゆっくりと割いて、衛宮士郎は屋敷の縁側を行く。盆の上には湯気の昇る緑茶と、江戸前屋のたい焼き。声を掛けて障子をあければ、彼と契約し従者となったアーチャーが書籍に埋もれるように机に向かっていた。
 冬木の管理の手伝いとやらは激務だった。いや、遠坂の手伝いだからこそなのか。教会関係の対応だとかで、言峰の蔵書をひっくり返して向こうの手を探っているらしい。知れば知らなかった頃には戻れない。身を守るにはまだ青いと、士郎に詳細は知らされなかった。
「苦い」
「おまえがガツンと濃いやつ、って言ったんだろ」
「カフェインの方だたわけ」
「そんな高級な茶葉使うわけないだろ」
「限度があるだろう、よりにもよって沸騰した湯を入れたな」
 コーヒーはめったに飲まないからこの家には常備されていないし、紅茶の淹れ方だって上手くない自信がある。何を出したところでアーチャーのお眼鏡に叶うものは現時点では無理そうだった。
「かぐや姫かおまえは」
「突然どうした。ついに頭まで沸いたのかむぐっ」
 アーチャーが振り返ったのをいいことに、士郎はたっぷりと餡子の詰まった魅惑のタラコ唇をアーチャーのよく回る口に突っ込んだ。
「疲れてる頭には糖分だろ」
 サーヴァントは魔力さえあれば問題ない、とは常の彼の言い分だ。それでも、長らく実体化していれば人に近くもなろうと、士郎は思っている。現に、朝から根を詰めっぱなしのアーチャーはどこかカリカリしているからだ。
 純粋な頭脳労働にはあまり向いていない自覚が士郎にはあるので。この先、ロボトミーの被験者になるようなことでもない限り、それほど適性が変わるとは考えづらい。
「うわ苦っ」
 アーチャーの渓谷深い眉間にそれほどだろうかと口に含めば、濃い緑の液体は渋く舌を焼いた。目は覚めるかもしれないが、次からは小言を覚悟でインスタントコーヒーでも淹れよう。
「士郎」
「なんだよ、悪かったってんぐっ」
 まろやかなつぶ餡が口中に満ちて、絶妙に味覚を塗り替えた。もごもごと何事か発言しようとする士郎の口元で鯛の尾が揺れる。
「もう少しで目処がたつ。余計な気は回さんでいいから、お前はお前の課題を優先しろ」
「……やってるさ」
 レイラインで心中でも読まれたのか、図星がすぎた。八つ時の注文も、わざわざ言い付けたのだろう。
「終わったらしごいてやるから心配するな」
「してない。してないぞ」
 アーチャーの分かりやすい優しさは士郎によくない予感を抱かせた。なにぶん、あれこれ吹っ飛ばされたり切りつけられたりの記憶がまだ新しい。
「こんな茶を淹れる腕で凛たちに振る舞われてはたまらんからな。温度管理から叩き込んでやるとも」
「そっちかよ!」
「なんだ、文句でもあるのか」
「ないけど」
 ないけれど、全くの別口で諸々ごぶさたの方もあるもので。
 半身を頂かれたたい焼きを皿に追いやって、士郎は同じ甘味の唇をアーチャーのそれに押し付けた。

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